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プロポーズ
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地下鉄に乗ることはあまりないが、この線を使った方が早く着く。清子と晶はその大学前という駅で降りると、地上へ上がっていった。結局、朝倉には「プライベートのことだから」と言って、着いてこないで欲しいといった。
ハードディスクの内容は、清子にも関係がある。清子には見て欲しい。だが見て欲しくないとも思う。そしてほんの少しの期待もあった。
史の元へ返したくない。
「ここですね。」
普通の大学のように見えた。もう周りは暗いが、時間ではそこまで遅い時間ではない。研究室に入っている大学院生、卒業論文に追われている大学生、その他はサークルの人たちだろうか。割と人が多い気がする。男性だけではなく女性も多いのは、科が細分化されていて、特殊な科ではなければあるからだろう。
その中で力を入れているのは工学科。卒業生の中には、有名な企業へ就職する人も多い。
清子たちの年齢だったら、大学院生もまだいる。清子たちがそこにいてもあまり違和感はないようだ。だが構内案内の看板を見ながら、清子は首をひねった。
「迷路みたい。」
「工学部だろ。その研究室なら、こっちの方だ。あの角を曲がって並木通りを行き、二つ目の角を右。その四つ目の建物だな。」
「よくわかりますよね。」
「結構な。こういう建物ばっかの所とかも行ったし。アジアの方ではさ、同じようなアパートがずーっと連なってるところもあった。マジで目印がないから、数を数えながら行ったこともある。」
そんなものなのか。清子はそう思いながら、足を進める。
「朝倉部長とは一緒に世界を回っていたんですか。」
「あぁ。尊な。ちょっとだけだったか。中央アジアの方へ行ったときに一緒になった。嵐が来てさ、進めないし戻れないからってテントにずっと泊まってた。そのときに一緒のテントにいたんだ。」
「二人で?」
「んなわけねぇだろ。他にも何人かいて外国人ばっか入れられたテントだったな。」
同じ国の人と会うと思っていなかった。朝倉はずっとモバイルバッテリーを使ってパソコンをいじっていたように思える。そして晶もずっと周りを巡って歩いて写真ばかり撮っていたりしていたので人の事は言えないが。
「お、ここかな。」
高校の校舎とあまり変わらない建物だ。外観から見ると、明かりのついている部屋は数部屋あるようだ。
中に入ると、廊下には明かりがあり暗いということはない。その近くの階段を上がり、三階に上がっていく。その一室のドアを開けると、空調の利いた室内に整然と並べられたパソコンと数人の学生の中で、我孫子の姿があった。
「徳成。早かったな。」
「すいません。ご無理を言ったようで。」
「いいんだよ。ん?えっと……久住さんって言ったっけ。」
「ご無沙汰してます。」
「事故にあったって言ってたけど、元気そうじゃん。」
「体はね。でもノートパソコンとか、携帯とか、車とか全部ぱぁですよ。」
「命があっただけましだよ。」
前向きな発言に、清子は少し笑った。
「プラッタ見せて。」
清子はガーゼにくるんで、ジッパー付きの袋に入れたそれを見せる。中身を取り出すと慎重にそれを取り出した。
「確かに傷は入ってるけど、これくらいならメモリーは残ってるかもしれない。だけど、衝撃に弱いってわかってるか。」
「はい。そこは少し不安ですね。」
「衝撃でデーターは飛ぶことがある。久住さん。あんた、それ覚悟しておいてよ。」
「無くなったら無くなったで仕方ねぇと思うんですけど、どうしてもっていう写真があればいいと思うから。」
そこまで残したい写真ってのは何なのだろう。我孫子はそう思いながら、自分のパソコンがあるデスクに案内した。そこはその部屋の一番奥で、ごちゃごちゃしたものであふれている。本や機材、CDもケースに入っていないまま放置してあった。
「ちょっとは片づけたら?」
「るせーな。どこに何があるか自分がわかってればいいんだよ。」
清子はそれも気にせずに、そのごちゃごちゃしたデスクから機材を取り出してパソコンに繋げた。
「我孫子教授。ちょっと見てもらって良いですか?」
男子生徒から我孫子が呼ばれ、我孫子はそのデスクを離れる。その間にも清子は手際よく機材を繋げていった。
「これでよしと。」
ハードディスクの蓋を開けて、その中にその円盤状のものをセットする。蓋をして起動させると、少し異音がした気がした。
「……んー……駄目かなぁ……。」
見える傷は少ないとは言え、本来傷がないのが大前提だ。やはり無理だったのだろうか。だが異音はすぐにやみ、パソコンの中に読み込めたようだ。
「やった。生きてた。」
「データーは?」
清子は新しいハードディスクをセットして、それをまた読み込ませる。そして古い方のデーターを開いた。そこにはおびただしいファイルがあった。
「全部ありますか?」
その中を確認するのに、晶は清子に近づいてマウスを動かす。
「飛んでるのあるな。でも必要な分は残ってた。」
「ファイルは残っていても壊れていることはあります。一応、全部コピーしますけど、あとで自分で確認してください。」
すると我孫子は生徒に指導を終えて、清子たちの方へ近づいていった。
「データー読み込めたか?」
「えぇ。でもやっぱり少し飛んでるデーターもあるみたいなんですよ。」
「でも必要な奴はほとんど残ってた。良かった。」
晶はほっとしながらその画面を見ていた。すると我孫子は、少し笑って晶に聞く。
「そこまでしてさ、何の写真のデーターが必要だったんだ。」
我孫子はそう聞くと晶は、首を横に振った。
「つまらない画像ですよ。昔のやつ。」
そういって晶はまだコピーの終わっていない画面を見る。
「昔って、お前世界を放浪していたんだろ?あーそうだ。徳成。お前の上司に俺の息子が来ただろ?」
「朝倉部長ですね。今日知りました。」
「悪いやつじゃない。口は悪いけどな。」
たぶんこの口の悪さは我孫子に似たのだろう。そう思えば特に気にならない。
「あぁ、はっきり言わないと外国では嫌われるからな。久住さんもそうだっただろ?」
その言葉に晶は少し笑っていった。
「そうですね。でも俺の性格は昔っからで、変える気はありませんから。」
「ははっ。そうか。でもこの国ではそんなに自分を持つと嫌われることがある。文句を言わせないくらい力を付けろ。おっ。そうだ。これが終わったら飲み行くか?」
本来なら「結構です」と言うところだが、無理を言って機材を使わせてもらったのだ。それにずっと飲みは断っている。
「わかりました。私、この辺は全く知らないんですけど。」
「久住さんも行くだろ?あぁ。でも酒を断ってるか?」
「何で?」
「怪我人だろ?病院は行っているのか?」
「どっか痛いところがあったら来いって言われているけど、今のところ痛みは和らいでるから。」
「薬は?」
「今日は飲んでないです。」
「だったらいいのか。良いところがあるんだよ。」
すると生徒の一人が我孫子を呼ぶ。
「教授。ちょっと良いですか?」
その言葉に我孫子は席を離れる。あまりゆっくり自分の仕事が出来ていないのかもしれない。時間はないのに、飲みに誘う。それが我孫子なりの気遣いだった。
朝倉は就任しても同じ部内の人と飲みに行くわけでもなく、昼休憩にどこかへ行くわけでもない。その辺が違うと思った。
ハードディスクの内容は、清子にも関係がある。清子には見て欲しい。だが見て欲しくないとも思う。そしてほんの少しの期待もあった。
史の元へ返したくない。
「ここですね。」
普通の大学のように見えた。もう周りは暗いが、時間ではそこまで遅い時間ではない。研究室に入っている大学院生、卒業論文に追われている大学生、その他はサークルの人たちだろうか。割と人が多い気がする。男性だけではなく女性も多いのは、科が細分化されていて、特殊な科ではなければあるからだろう。
その中で力を入れているのは工学科。卒業生の中には、有名な企業へ就職する人も多い。
清子たちの年齢だったら、大学院生もまだいる。清子たちがそこにいてもあまり違和感はないようだ。だが構内案内の看板を見ながら、清子は首をひねった。
「迷路みたい。」
「工学部だろ。その研究室なら、こっちの方だ。あの角を曲がって並木通りを行き、二つ目の角を右。その四つ目の建物だな。」
「よくわかりますよね。」
「結構な。こういう建物ばっかの所とかも行ったし。アジアの方ではさ、同じようなアパートがずーっと連なってるところもあった。マジで目印がないから、数を数えながら行ったこともある。」
そんなものなのか。清子はそう思いながら、足を進める。
「朝倉部長とは一緒に世界を回っていたんですか。」
「あぁ。尊な。ちょっとだけだったか。中央アジアの方へ行ったときに一緒になった。嵐が来てさ、進めないし戻れないからってテントにずっと泊まってた。そのときに一緒のテントにいたんだ。」
「二人で?」
「んなわけねぇだろ。他にも何人かいて外国人ばっか入れられたテントだったな。」
同じ国の人と会うと思っていなかった。朝倉はずっとモバイルバッテリーを使ってパソコンをいじっていたように思える。そして晶もずっと周りを巡って歩いて写真ばかり撮っていたりしていたので人の事は言えないが。
「お、ここかな。」
高校の校舎とあまり変わらない建物だ。外観から見ると、明かりのついている部屋は数部屋あるようだ。
中に入ると、廊下には明かりがあり暗いということはない。その近くの階段を上がり、三階に上がっていく。その一室のドアを開けると、空調の利いた室内に整然と並べられたパソコンと数人の学生の中で、我孫子の姿があった。
「徳成。早かったな。」
「すいません。ご無理を言ったようで。」
「いいんだよ。ん?えっと……久住さんって言ったっけ。」
「ご無沙汰してます。」
「事故にあったって言ってたけど、元気そうじゃん。」
「体はね。でもノートパソコンとか、携帯とか、車とか全部ぱぁですよ。」
「命があっただけましだよ。」
前向きな発言に、清子は少し笑った。
「プラッタ見せて。」
清子はガーゼにくるんで、ジッパー付きの袋に入れたそれを見せる。中身を取り出すと慎重にそれを取り出した。
「確かに傷は入ってるけど、これくらいならメモリーは残ってるかもしれない。だけど、衝撃に弱いってわかってるか。」
「はい。そこは少し不安ですね。」
「衝撃でデーターは飛ぶことがある。久住さん。あんた、それ覚悟しておいてよ。」
「無くなったら無くなったで仕方ねぇと思うんですけど、どうしてもっていう写真があればいいと思うから。」
そこまで残したい写真ってのは何なのだろう。我孫子はそう思いながら、自分のパソコンがあるデスクに案内した。そこはその部屋の一番奥で、ごちゃごちゃしたものであふれている。本や機材、CDもケースに入っていないまま放置してあった。
「ちょっとは片づけたら?」
「るせーな。どこに何があるか自分がわかってればいいんだよ。」
清子はそれも気にせずに、そのごちゃごちゃしたデスクから機材を取り出してパソコンに繋げた。
「我孫子教授。ちょっと見てもらって良いですか?」
男子生徒から我孫子が呼ばれ、我孫子はそのデスクを離れる。その間にも清子は手際よく機材を繋げていった。
「これでよしと。」
ハードディスクの蓋を開けて、その中にその円盤状のものをセットする。蓋をして起動させると、少し異音がした気がした。
「……んー……駄目かなぁ……。」
見える傷は少ないとは言え、本来傷がないのが大前提だ。やはり無理だったのだろうか。だが異音はすぐにやみ、パソコンの中に読み込めたようだ。
「やった。生きてた。」
「データーは?」
清子は新しいハードディスクをセットして、それをまた読み込ませる。そして古い方のデーターを開いた。そこにはおびただしいファイルがあった。
「全部ありますか?」
その中を確認するのに、晶は清子に近づいてマウスを動かす。
「飛んでるのあるな。でも必要な分は残ってた。」
「ファイルは残っていても壊れていることはあります。一応、全部コピーしますけど、あとで自分で確認してください。」
すると我孫子は生徒に指導を終えて、清子たちの方へ近づいていった。
「データー読み込めたか?」
「えぇ。でもやっぱり少し飛んでるデーターもあるみたいなんですよ。」
「でも必要な奴はほとんど残ってた。良かった。」
晶はほっとしながらその画面を見ていた。すると我孫子は、少し笑って晶に聞く。
「そこまでしてさ、何の写真のデーターが必要だったんだ。」
我孫子はそう聞くと晶は、首を横に振った。
「つまらない画像ですよ。昔のやつ。」
そういって晶はまだコピーの終わっていない画面を見る。
「昔って、お前世界を放浪していたんだろ?あーそうだ。徳成。お前の上司に俺の息子が来ただろ?」
「朝倉部長ですね。今日知りました。」
「悪いやつじゃない。口は悪いけどな。」
たぶんこの口の悪さは我孫子に似たのだろう。そう思えば特に気にならない。
「あぁ、はっきり言わないと外国では嫌われるからな。久住さんもそうだっただろ?」
その言葉に晶は少し笑っていった。
「そうですね。でも俺の性格は昔っからで、変える気はありませんから。」
「ははっ。そうか。でもこの国ではそんなに自分を持つと嫌われることがある。文句を言わせないくらい力を付けろ。おっ。そうだ。これが終わったら飲み行くか?」
本来なら「結構です」と言うところだが、無理を言って機材を使わせてもらったのだ。それにずっと飲みは断っている。
「わかりました。私、この辺は全く知らないんですけど。」
「久住さんも行くだろ?あぁ。でも酒を断ってるか?」
「何で?」
「怪我人だろ?病院は行っているのか?」
「どっか痛いところがあったら来いって言われているけど、今のところ痛みは和らいでるから。」
「薬は?」
「今日は飲んでないです。」
「だったらいいのか。良いところがあるんだよ。」
すると生徒の一人が我孫子を呼ぶ。
「教授。ちょっと良いですか?」
その言葉に我孫子は席を離れる。あまりゆっくり自分の仕事が出来ていないのかもしれない。時間はないのに、飲みに誘う。それが我孫子なりの気遣いだった。
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