不完全な人達

神崎

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プロポーズ

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 ハードディスクのコピーが終わり、清子はその新品のハードディスクを晶に手渡す。
「ケースに入っていたから良かったみたいですね。」
「あぁ。なんだかんだ言っても機械だしな。電気がなきゃ、ただの箱だろ?」
 専用のケースはまだない。だから晶はそれをタオルにくるむと、バッグにしまった。その中身は、カメラや他の機材がある。まだカメラは届いていないようで、その他の機材も前に使っていた古いものだった。
「よし。この辺にしておくか。」
 我孫子はそういうと、周りの生徒たちもそれぞれに帰り支度をしていた。その中に一人女性がいる。ショートカットで背が低かったので、男の子のように見えたが男と混ざっているだけなので女性に見えなかっただけだ。
「教授。明日なんですけど、こっちのプログラムの解析したいんですよ。」
 女性はそういって資料を我孫子に見せる。すると我孫子は少し笑っていった。
「あーのーなぁ。鹿島。それはまだ早すぎるって言ってんだろ。解析するのにメーカーに許可がいる。そのときの使用料とかかかるから、もし出来なかったら無駄金になるだろ?」
「あたしが出来ないって事ですか?」
「出来ねぇな。」
 そんなにきっぱりものを言わなくても良いのに。清子はそう思いながらコートを羽織っていた。
「せめて、こっちの解析が終わってから言えって。」
「これ、終わってますけど。」
「不十分。もう一回考えろ。そんなんでエンジニアなんかなれるか。」
 鹿島と呼ばれた女性は、ちらっと清子の方をみる。大学院生の鹿島は、清子とはそこまで歳が離れているわけではない。だが清子が持って来たデーターをコピーしている間も、我孫子は清子になんだかんだと意見を言っていて、清子もそれに応えていた。それは対等な関係に見える。
「そちらの方は、大学の卒業生なんですか?」
「いいや。でも俺の昔の教え子。」
「どこの大学の卒業で、どこの会社のエンジニアをしているんですか?」
 すると清子は首を横に振る。
「ただの派遣です。大学は……大学どころか高校も卒業してませんけど。」
 その言葉に周りの人たちがざわめいた。高校も出ていないような女性が、どうして我孫子と対等に話をしているのだろうと。
「あのなぁ、言っとくけど徳成は大学なんか出てなくても自力で資格も取ったし、今でも勉強をしている。だから俺もわかんねぇことを、徳成に相談することもあるんだ。」
「我孫子さん。言い過ぎです。」
 そういって清子は袖を引っ張る。
「だったら何で大学行かなかったんですか?だから派遣なんか……。」
「別に必要なかったから。」
「高校出てなかったら、大検って手もあったのに。」
「だから、必要ないんです。」
 大学生というのはこんなものなのだろうか。清子はそう思いながらバッグを持つ。
「清子。あまり噛みつくな。お前もバカって思われるぞ。」
 どうして自分が思っていることを素直に言ってしまうのだろう。気を使って言わなかっただけなのに。

 大学から地下鉄に乗り、清子たちの会社のある街へ戻ってきた。大学のある街にも居酒屋はあるがそこには同じ大学生が多く、話を切かれてそれが変に広まるのがイヤなのだ。
 我孫子が連れてきたのは、晶のアパートからすぐの所にある居酒屋だった。最近出来たらしく、テーブル席やカウンター席があるがあまり大きな店ではない。
「うちのと来てさ、すごい美味かったんだよ。特にほら、この卵焼き。」
「明太とマヨネーズですか。何かすごいカロリー高そう。」
「お前、もっとカロリー取った方が良いよ。酒で動いてるって思われるぞ。」
 その言葉に晶が少し笑う。「pink倶楽部」の職場内では清子はそう言われているのだから。本人が知らなくても、普段の飲みっぷりを見ればそう思われても仕方がない。
「日本酒よりも焼酎が多いですね。」
「泡盛飲んだことある?」
「ありますね。美味しかった。」
 きっとこの瓶でも空になるくらい飲むのだろう。そう思いながら、好きなものを注文してメニューから目を離した。
 清子は恋人が出来たのだという。いつか喫茶店で会ったことがあるエロ雑誌の編集長だ。だがこうして晶と一緒にいると、史よりも晶といた方が自然に感じる。どう見ても史の方が条件は良い。仕事や収入だけではなく、AV男優をしていたという史は爽やかで歳は取っていても清潔感があり、中年と言うにはほど遠い感じがする。対して、晶は背は低くないが猫背で髪ももっさりしていて、清潔感と言うにはほど遠い気がする。自分の息子が帰ってきたときも似たような感じだったから、世界を回っていると自分の身なりなどどうでも良くなるものなのだろうか。
「そういえば、久住さんは彼女が居たって言ってなかったか。」
「別れましたよ。年末くらいかな。それより前に同居は解消してたけど。」
「一緒に暮らしてたのか。なのに別れるってのはよっぽどだな。」
「我孫子さんは?」
「俺?昔と違うよ。もう妻一筋だから。」
 信じられない。昔は相当遊んでいて、清子が職業訓練校にいたときも、知らない女が怒鳴り込んでくることもあったのに。
「浮気でもしたのか。」
「してないっすよ。向こうはモデルしてたし、その生活に合わせるのが窮屈になったから。」
「ふーん。」
 煙草を取り出そうとしたら、生ビールが三つ運ばれてきた。それとともにお通しとして、きんぴらゴボウが運ばれた。
「徳成は順調か?」
「えぇ。」
 それ以上は何も言わない。時間が無さ過ぎて引っ越しもままならないなど、晶の前で言えるわけがないのだから。
「結婚するときは言えよ。式には顔を出してやるから。」
「そうですね。」
 ビールに口を付ける。寒い外から暖かい店内に入り、冷えたビールを口にするのはとても心地いい。
「それにしても、うちの息子は結婚どころか彼女の気配もない。あいつ、ゲイなのかね。」
「ロリコンかもよ。」
 晶はそういってきんぴらに箸を延ばした。
「へ?」
「言ったじゃないですか。あの人と一緒のテントにいたことがあるって。中央アジアにいた時かな。十歳くらいの女の子に、「うちに婿に来て欲しい」って言われて、まんざらでもなさそうでしたし。」
「は?」
「貧乳好きでしたね。」
 その言葉に思わず我孫子も笑った。
「ロリか。そういえばこっちにいたときも、あいつ年下ばっかだったな。でも女のおっぱいなんて、大きさとか形じゃないだろ?」
「何ですか?」
「感度。」
 その言葉に晶は更に笑った。感度なら清子は誰にも負けないだろう。胸を少しいじっただけで絶頂に達するのだから。その言葉には同感だ。
「「pink倶楽部」の雑誌を読んでてさ、人気が出て来たのわかるよ。」
「どうしてですか?」
「ほら。例えば、男向け、女向けの雑誌があるけど、どっちかって言うと男が優位なもの、女が優位なものって分かれてる。でも「pink倶楽部」の根底は「セックスは、男女ともに対等であるべきだ」と言う感じが見える。昔はそういうのが当たり前だった。例えば、夜這いなんて風習がある。」
「俺の地元では最近までありましたよ。」
「へぇ……古いとこだな。まぁいいけど、それだって男性優位だろ?女の所に男が行って、女を抱くわけだ。」
「……。」
「この国はどっちにしても男性優位の所がある。性欲があるのは男だけじゃないんだし。セックスなんてものは、対等でなければただの苦行だからな。」
 清子はその言葉に、少しうつむいた。史との行為は、対等ではないと思っていたから。確かに経験値では明らかに差がある。だからすべてを任せたいと思っていた。
 しかしそれが史にとって重荷になっていないだろうか。そう思い始めていた。
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