不完全な人達

神崎

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プロポーズ

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 我孫子が言うだけあり、焼き物も和え物の一手間も店でしか食べれないようなものばかりだ。それに見た目がとてもいい店で、それなのにあまり高くはない。
「ここ、行きつけにしたいな。」
 晶はそういって少し笑っていた。久しぶりの酒だから気分が良いのだろう。
「俺、タクシーで帰るわ。徳成はどうする?」
 腕時計で時間を確認する。それも史から貰ったもので、クリスマスに用意していたようなのだが貰ったのは最近の話だ。
「まだ時間はありそうなので、今日は電車で帰ります。」
「お前全然酔わないな。ちょっとは酔ったふりなんかした方が可愛げがあるのに。」
「必要ありませんよ。」
 そう言いながら大通りにでる。そしてやってきたタクシーに我孫子は乗り込もうとした。そのとき清子にふと視線を送る。
「徳成。気をつけてな。」
 晶が清子を想っているのはばればれだ。何かあれば連れ込もうとしているのだろう。だから注意をした。二股は絶対ばれる。だから我孫子も今の妻と結婚してから女遊びはしない。史のことが本気なら、浮気は清子の本意ではないと思う。強引に言い寄っているだけだ。
 去っていくタクシーを見て、清子も晶の方を向いた。
「じゃあ、私も帰ります。パソコンは来ているのでしょう?」
「あぁ。でも軌道はさせてない。前のアカウントのパスワードを忘れてて、パソコン上のデーターをもって来れないから。」
「オフィスでも出来ますよ。それでデーターが壊れてないかチェックしてください。ファイル上は普通でも壊れてて開けないこともありますから。」
「それを復元することは?」
「出来ないことはないですけど……。」
「例のデーターが壊れてたら困る。」
 そこまでして大事にしたいものとは何なのだろう。
「何なんですか。そのデーターって。」
 その言葉に清子は驚いて晶を見た。そして言葉に詰まる。

 いつか来たときは、史と一緒だった。だから気が楽だったのかもしれない。だが今は二人きりだ。気を抜かないようにしないと。
 清子はそう思いながらテーブルの上にあるパソコンにコードを繋げると起動させた。真新しいパソコンは、以前に見た晶のパソコンの後継機で、画像もかなりクリアになっている。その分、あまり見ていると目が疲れるだろう。ブルーライトが遮断できる眼鏡でもあればいいと思う。
 アカウントのパスワードを忘れたという事で、本社に問い合わせる。するとすぐに個人情報を入れるサイトに飛んだ。
「住所なんかは一緒ですか?」
「違うな。前に借りてたぼろ屋の住所だ。」
 ここよりもぼろかったのか。そう思いながら、その席を譲ると晶に住所を打ち込ませた。それから電話番号などを入れると、晶の携帯電話にメッセージが届いた。それをチェックすると、晶は少し笑った。
「そうだったわ。パスこれにしてたんだっけ。」
 最初の画面に戻り、そのパスワードを打ち込むと無事に起動した。前に見た画像のままだ。
 そしてそのパソコンに、コピーしたハードディスクを繋げる。するとすぐにハードディスクは起動して、無数のファイルが映し出された。
「例のファイルはどれですか?」
「一番前だ。」
 一番上にあるファイルを開く。そこには二枚の写真があった。一枚目は、祖母と知らない男の写真。若い頃のようで、祖母が見たこと無いような女の表情をしている。
「……始めて見ました。こんな写真。」
「うちの祖母さんが死んだとき、遺品整理してたら出てきたんだよ。スキャンして取り込んでおいて良かった。」
 男は祖母よりも若く見える。丸刈りにしていて、くわえ煙草をしていた。意志の強そうな顔をしている。何かの職人だろうか。
 清子はその手元を拡大してみた。するとその手元には昔の煙草のパッケージとジッポーが握られている。
「……誰なんでしょうね。」
「さぁな。これ以外に何も情報はないしわかんね。」
 そしてもう一枚の写真を出す。そこには三人の男が写っていた。真ん中の男だけ見覚えがある。史の実家へ行ったときに見せてくれた卒業アルバム。その中の省吾の姿だった。と言うことはこの両側の男二人がそれぞれ、長男と三男だろう。長男は体が大きいが、少し太っているように見える。そして三男は、省吾のような軟派さはなく真面目に見えるがその分冷たく感じる。だが顔立ちは悪くないし、今だったらモデルにでもなりそうなくらいすらっとしている。
 そうか。この三男が、一枚目の男に一番似ていたのだ。
「……こいつが父親か?」
「たぶん。」
「似てるな。お前に。」
「そうですか?この人、相当男前ですよ。」
「お前も相当美人だって。」
「それはどうも。」
 普通の女ならここで顔を赤らませるのだろうが、清子は全く相手にしていないように見える。それよりも初めて見る父親の顔に戸惑いを隠せないようだった。
「調べられないか。」
「顔写真だけではさすがに……それに、これ三十年以上前ですよ。」
「さすがに顔立ちも変わってるな。」
 この省吾は、おそらく学生服を着ているところを見ると中学生くらいだろう。父親はその下だとしたら、十歳かそれ以上くらいだ。それにしても相当大人びている。
「それにしても役者っぽい顔立ちしているな。子役とかアイドルとかにいそうな感じ。」
「そんなものですかね。」
 やはり写真だけではわからない。清子はあきらめて、パソコンをシャットダウンしようとした。それを晶が止める。
「何?」
 すると晶は閉じたファイルをまた起動させる。そして一つのファイルを起動させる。
「良かった。こっちも壊れてなかったな。」
 世界を回っていたときの写真だろう。
 どこまでも続く砂漠、珊瑚礁の海、すべてが氷で覆われた街。そしてその中に住む人たち。
 ふと晶は一つのファイルをクリックする。そこには見事な刺繍の服を着た女性が写っていた。
「ここら変の奴らは写真に写るのも嫌がるんだ。髪を写されたくないって。」
「どうしてですか?」
「髪は、旦那とか子供くらいしか見せないのがマナーなんだよ。顔を映さないところもあった。刺繍を撮させてほしいと言ったら、やっと撮させてくれた。」
 きっと手縫いなのだろう。一針一針その模様に意味がある。
「刺繍の模様に意味があるんですか。」
「子供は特にな。大人になれるのも相当少ない。だから刺繍をすれば、魔除けになるんだと。」
「そんなものなんですね。」
「でも最近は、ここの地域もインターネットが繋がる。だから尊がやってきてたんだ。ブログにあげるんだと。」
「ブログ?」
「人気あったみたいだな。」
 それだけの収入で世界を回れたのだ。確かに腕はあったのだろう。
「俺さ……辞めたいって言ったんだ。編集長に。」
「え?」
「今度は人を撮したいと思った。もっと日常のさ、生活をしている人たちの記録を撮りたい。そう思ってたんだけどな。」
 事故をして身にしみた。保証がないと言うのは、厳しいものがある。もし今フリーでこんな事故をしていたら、一気に収入がゼロになる。そうなれば、清子を嫁に貰いたいとも言えない。
「歳を取れば臆病になるよな。それから……守りたいものがあれば尚更だ。」
 そういって晶は清子をみる。その視線に心を揺らがされてはいけない。清子はそう思いながら、視線を逸らした。
「そうですか。」
 もう我慢できない。その指にはめられた指輪も、時計も、すべて外して自分のものにしたい。
「清子。俺と一緒にならないか。」
 パソコンから手を離して、清子の手に手を重ねる。
「……駄目です。私には……。」
「編集長と居てもお前がお前じゃなくなる。そんなの望んでたのか。お前はお前の道を歩くんじゃないのか。」
 清子はその手を振り払い、晶をみる。
「私は……。」
「あいつがお前を想っているんじゃない。俺……。」
 いつか史が言っていた。これを言うのは卑怯だと思う。だが、言わないといけない。
「お前を手に入れたのは、社長に言われたからだ。AV男優だったから、それくらい出来るだろうって。お前は全く男になれてない。だから、編集長くらいなら……。」
「違う!」
 認めたくなかった。だが晶はその手をまた握ると、清子の体を抱き寄せた。だがその不安が、徐々にまた大きくなる。そしてその不安が、晶の手を振り払えなかった。
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