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亀裂
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昔、祖母に自分の両親のことを聞いたことがある。当然だろう。普通の家は、祖母とだけ暮らしているところはない。晶の家にも昔は母親が居たし、父親も居た。居なかったのは自分の家だけだった。
すると祖母は、苦々しそうに言った。
「生まれたばかりのあんたを捨てていった両親だよ。死んだと思いなさい。そして世の中そんな人ばかりだ。信用しても裏切られるモノなんだから。」
風呂を焚きながら祖母はそう言っていた。その祖母の手にあったのはこのジッポーで、今は清子の手にある。いくつかあったジッポーのうちもう一つは祥吾が持っている。祥吾は入院したのだと晶が言っていた。もう戻ってくることはないのだろう。
そんなことを思ってももう会うこともないし、センチメンタルな気分にもならない。自分の身内と言っても最近まで知らなかった身内だから。
「清子。ここにいたのか。」
晶が喫煙所に勢いよく入ってきた。その様子に思わず煙草を落としそうになる。
「何ですか?」
「あのさ、うちの弟のことだけど。」
「あぁ。結婚式をするそうですね。おめでたいことで。」
「……あいつの家、俺は気にいらねぇけどな。」
晶はそう言って煙草を取り出して火をつける。
「どうしてですか?結婚させてあげたいって頑張って稼いでいたんでしょう?」
「そうだけどさ、結婚費用ってあっちが一銭も払わないんだから。」
「そんなものじゃないんですか?昔はもらう方が結納金を払うものでしたけど。」
「結納ね……。俺はそんなごたごたしたの嫌だな。役所に行って届けだして終わり。でも……旅行だけはしたい。」
「贅沢。」
「お前、結婚して次の日からもう仕事したいのか?」
「食べるための仕事ですから。」
「お前見てると、仕事のために生きてるように見えるわ。」
その言葉に、清子はため息を付いた。昔、我孫子にも言われた言葉だから。
「そう言えばさ、今夜だっけ?」
「何が?」
「IT部門の飲み会。」
「朝倉部長がしたいそうですよ。」
「尊ね。あいつ酒好きだからなぁ。」
そう言えばあの男と一時、一緒に行動していたのだ。きっと清子が知らない部分も良く知っているのだろう。
「久住さん……あの……。」
「その後連絡入れろよ。」
「何で?」
「俺の家に来いよ。」
またか。そう思いながら清子は煙草の火を消した。
「やです。」
「pink倶楽部」の仕事を終えて、IT部門のオフィスへ向かう。そしていつものようにオフィスで、最後の作業を終えたときだった。
「あれ?まだ居たのか。」
そこには朝倉の姿があった。手には資料が握られている。
「十九時からですよね。まだ時間がありますから。」
「急いでする仕事なんか無かっただろう?」
「今日やれることは今日しておく。明日に持ち越したら、気分も変わって違う結果になるから。」
「確かにそうだ。」
清子は作業を終えると、パソコンをシャットダウンした。そしてカップを手にすると給湯室へ向かおうとした。
「カップ洗う?」
「えぇ。洗いますか?」
「頼むよ。俺も終わるから。」
朝倉の方へ向かうと、カップを手にした。その中からは紅茶の匂いがする。コーヒーよりも紅茶が好きなのだろう。
「紅茶好きなんですね。」
「あぁ。東南アジアの方でね。本格的な紅茶にあってそれからかな。はまったの。チャイとか飲んだことがある?」
「前に飲んだことがありますね。」
カップを二つ手にして給湯室へ向かう。そしてそれを洗うと、水気を取った。
「あぁ。徳成さん。今日の場所、わかる?」
「えぇ。前、我孫子さんに連れて行ってもらったところです。焼酎が美味しかった。」
そして晶の家の近くだ。だが晶の所にいくつもりはない。行くとしても史の所だ。
「父から?」
カップをしまうと朝倉の方をみる。
「変な誤解をしないでください。ずっと飲みは誘われていたんですけど、ずっと断っていたのでこの間久しぶりに行ったんです。」
「ふーん。それで男と女にならないんだね。」
「なりませんよ。すべての男女がそうなると思ったら大間違いですから。」
まるで自分がヤリ○ンだと言われているようで、朝倉はかちんとしたように清子に言う。
「男女間に友情なんか成立しない。」
「そう思っているならそう思えばいい。私の考えを押しつける気はありません。」
そう言うと給湯室をでていこうとした。その時行こうとした清子の手首を捕まれる。
「な……。」
「無防備すぎる。外国なら即、輪姦されてるな。」
すると清子はその手をふりほどくと、朝倉を見上げた。
「ここは外国ではありませんから。」
その言葉に朝倉はすぐ笑う。そう返されると思ってなかったからだ。
「確かにそうだ。でも、君の職場では良く見ただろう?」
「何をですか?」
「たとえば……誰もいないオフィスでセックスをする。」
「ここでは無理です。監視カメラがありますから。」
「給湯室にはない。」
朝倉はそう言うと再び清子の手を引き、給湯室へ押し込むように清子を入れた。すると清子はにらみつけるように朝倉をみる。
「何……。」
狭い給湯室の壁に押しつけられて、見下ろされる。これが史か、晶なら動揺するだろう。だが相手は朝倉だ。何の感情もない。遠慮無く清子はその体を押しのけると、給湯室からでていった。そして自分のデスクへ帰ってくると、コートとバッグを持つ。
「徳成さん。」
「あとは飲み会の時にでも。」
「問題を残していきたくないと言ったのは君だ。」
「だいたい、職場で男だ女だってこだわっているのがちゃんちゃら可笑しい。」
そう言って清子は行こうとした。その時晶がオフィスに入ってくる。
「尊。」
「どうしたんだ。晶。」
「お前さ、声大きすぎ。外まで聞こえた。」
すると朝倉はちっと舌打ちをする。
「清子。お前も大変だな。こんな男尊女卑が居たら、やりにくいだろ?でも半年しか居ないんだし我慢しろよ。」
「そのつもりです。」
冷静にそう言うつもりだったが、清子の言葉にまたますます朝倉が詰め寄る。
「徳成さん。あんた、人の気持ちを考えなさすぎなんだよ。それでチームとしてやっていくつもりか。」
その言葉に晶が今度は朝倉に詰め寄る。
「居なくなるっつってんだろ。お前、どうせ父親からまた逃げてこっちに来たんだろう?だからかまってもらえるこいつが羨ましいだけなんだろうからな。」
「……。」
「さっさと使えるようになれよ。お前も対等に話が出来るくらいな。」
そう言って晶は清子の手を引いて、オフィスを出ていった。その後ろで大きな音がする。それに清子は少し振り向いたが、晶の力に引っ張られるように去っていく。
すると祖母は、苦々しそうに言った。
「生まれたばかりのあんたを捨てていった両親だよ。死んだと思いなさい。そして世の中そんな人ばかりだ。信用しても裏切られるモノなんだから。」
風呂を焚きながら祖母はそう言っていた。その祖母の手にあったのはこのジッポーで、今は清子の手にある。いくつかあったジッポーのうちもう一つは祥吾が持っている。祥吾は入院したのだと晶が言っていた。もう戻ってくることはないのだろう。
そんなことを思ってももう会うこともないし、センチメンタルな気分にもならない。自分の身内と言っても最近まで知らなかった身内だから。
「清子。ここにいたのか。」
晶が喫煙所に勢いよく入ってきた。その様子に思わず煙草を落としそうになる。
「何ですか?」
「あのさ、うちの弟のことだけど。」
「あぁ。結婚式をするそうですね。おめでたいことで。」
「……あいつの家、俺は気にいらねぇけどな。」
晶はそう言って煙草を取り出して火をつける。
「どうしてですか?結婚させてあげたいって頑張って稼いでいたんでしょう?」
「そうだけどさ、結婚費用ってあっちが一銭も払わないんだから。」
「そんなものじゃないんですか?昔はもらう方が結納金を払うものでしたけど。」
「結納ね……。俺はそんなごたごたしたの嫌だな。役所に行って届けだして終わり。でも……旅行だけはしたい。」
「贅沢。」
「お前、結婚して次の日からもう仕事したいのか?」
「食べるための仕事ですから。」
「お前見てると、仕事のために生きてるように見えるわ。」
その言葉に、清子はため息を付いた。昔、我孫子にも言われた言葉だから。
「そう言えばさ、今夜だっけ?」
「何が?」
「IT部門の飲み会。」
「朝倉部長がしたいそうですよ。」
「尊ね。あいつ酒好きだからなぁ。」
そう言えばあの男と一時、一緒に行動していたのだ。きっと清子が知らない部分も良く知っているのだろう。
「久住さん……あの……。」
「その後連絡入れろよ。」
「何で?」
「俺の家に来いよ。」
またか。そう思いながら清子は煙草の火を消した。
「やです。」
「pink倶楽部」の仕事を終えて、IT部門のオフィスへ向かう。そしていつものようにオフィスで、最後の作業を終えたときだった。
「あれ?まだ居たのか。」
そこには朝倉の姿があった。手には資料が握られている。
「十九時からですよね。まだ時間がありますから。」
「急いでする仕事なんか無かっただろう?」
「今日やれることは今日しておく。明日に持ち越したら、気分も変わって違う結果になるから。」
「確かにそうだ。」
清子は作業を終えると、パソコンをシャットダウンした。そしてカップを手にすると給湯室へ向かおうとした。
「カップ洗う?」
「えぇ。洗いますか?」
「頼むよ。俺も終わるから。」
朝倉の方へ向かうと、カップを手にした。その中からは紅茶の匂いがする。コーヒーよりも紅茶が好きなのだろう。
「紅茶好きなんですね。」
「あぁ。東南アジアの方でね。本格的な紅茶にあってそれからかな。はまったの。チャイとか飲んだことがある?」
「前に飲んだことがありますね。」
カップを二つ手にして給湯室へ向かう。そしてそれを洗うと、水気を取った。
「あぁ。徳成さん。今日の場所、わかる?」
「えぇ。前、我孫子さんに連れて行ってもらったところです。焼酎が美味しかった。」
そして晶の家の近くだ。だが晶の所にいくつもりはない。行くとしても史の所だ。
「父から?」
カップをしまうと朝倉の方をみる。
「変な誤解をしないでください。ずっと飲みは誘われていたんですけど、ずっと断っていたのでこの間久しぶりに行ったんです。」
「ふーん。それで男と女にならないんだね。」
「なりませんよ。すべての男女がそうなると思ったら大間違いですから。」
まるで自分がヤリ○ンだと言われているようで、朝倉はかちんとしたように清子に言う。
「男女間に友情なんか成立しない。」
「そう思っているならそう思えばいい。私の考えを押しつける気はありません。」
そう言うと給湯室をでていこうとした。その時行こうとした清子の手首を捕まれる。
「な……。」
「無防備すぎる。外国なら即、輪姦されてるな。」
すると清子はその手をふりほどくと、朝倉を見上げた。
「ここは外国ではありませんから。」
その言葉に朝倉はすぐ笑う。そう返されると思ってなかったからだ。
「確かにそうだ。でも、君の職場では良く見ただろう?」
「何をですか?」
「たとえば……誰もいないオフィスでセックスをする。」
「ここでは無理です。監視カメラがありますから。」
「給湯室にはない。」
朝倉はそう言うと再び清子の手を引き、給湯室へ押し込むように清子を入れた。すると清子はにらみつけるように朝倉をみる。
「何……。」
狭い給湯室の壁に押しつけられて、見下ろされる。これが史か、晶なら動揺するだろう。だが相手は朝倉だ。何の感情もない。遠慮無く清子はその体を押しのけると、給湯室からでていった。そして自分のデスクへ帰ってくると、コートとバッグを持つ。
「徳成さん。」
「あとは飲み会の時にでも。」
「問題を残していきたくないと言ったのは君だ。」
「だいたい、職場で男だ女だってこだわっているのがちゃんちゃら可笑しい。」
そう言って清子は行こうとした。その時晶がオフィスに入ってくる。
「尊。」
「どうしたんだ。晶。」
「お前さ、声大きすぎ。外まで聞こえた。」
すると朝倉はちっと舌打ちをする。
「清子。お前も大変だな。こんな男尊女卑が居たら、やりにくいだろ?でも半年しか居ないんだし我慢しろよ。」
「そのつもりです。」
冷静にそう言うつもりだったが、清子の言葉にまたますます朝倉が詰め寄る。
「徳成さん。あんた、人の気持ちを考えなさすぎなんだよ。それでチームとしてやっていくつもりか。」
その言葉に晶が今度は朝倉に詰め寄る。
「居なくなるっつってんだろ。お前、どうせ父親からまた逃げてこっちに来たんだろう?だからかまってもらえるこいつが羨ましいだけなんだろうからな。」
「……。」
「さっさと使えるようになれよ。お前も対等に話が出来るくらいな。」
そう言って晶は清子の手を引いて、オフィスを出ていった。その後ろで大きな音がする。それに清子は少し振り向いたが、晶の力に引っ張られるように去っていく。
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