不完全な人達

神崎

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亀裂

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 朝の仕事が終わり、清子は席を立つ。これから「pink倶楽部」のオフィスへ行くのだ。コートとバッグを持って席を離れようとしたときだった。了が清子に近づいてきた。
「徳成さん。ちょっと話があるんですけど。」
 珍しいな。了が清子に話があると思ってなかった。
「どうしました?」
「ここではちょっと……。あの、昼は食べないと言ってたんですけど、外に一緒に出てもらっても良いですか。」
「はい。どうぞ。」
 そう言って清子は了と一緒にオフィスを出ようとする。その時後ろから朝倉がやってきた。
「二人で食事にでも行くの?」
「ちょっと話があって。」
 了は誤魔化すように朝倉に言う。まだ公にしたくはない話だし、清子のことも色々聞かれたくないだろう。しかし朝倉は引き下がらない。
「情報の場だ。どんなところから漏れるかわからないだろう?」
 だから二人で行かせられない。そう言っているようだった。清子はその様子に少しため息をつく。
「プライベートまで関わりたくないですね。」
「え?」
「仕事の場ですから、ここでは話したくないこともあるでしょう。だから外へ行くんです。」
「ウェブ関係のことではないと?」
 すると了は首を横に振る。
「違います。徳成さんは小さい頃からの知り合いです。だから、そのことで話があるだけです。」
 その言葉に朝倉は少し笑った。
「少しからかっただけだよ。どこへ行くの?」
「屋台へ。」
「あぁ。公園の。寒いのに良くやるな。」
 嫌みか。そう思いながら、清子は了と一緒にオフィスを出た。

「結婚式を?」
 清子はコーヒーを飲みながら了の話を聞いていた。了は年末に食べたカレーが美味しかったのだろう。それを食べながら話をしていた。
 場所は東屋の下。影になって少し寒いが、それでも日が当たると気持ちが良い。
「そう。秋頃に決まりそうだから。」
「良い日になると良いですね。」
「だから……徳成さんにも来て欲しいって思って。」
「私が?」
「晶兄貴の彼女だろう?」
 すると清子は首を横に振った。その反応に了のスプーンを持つ手が止まる。
「え?」
「違いますよ。私は……。」
「編集長なの?」
 その言葉に清子は首を縦に振った。すると了はため息をつく。
「だって……晶兄貴が……。」
「久住さんが何か言いましたか?」
「……別に何も言ってないけど……兄貴が、好きそうだからって思って。」
「ずっと言われてたことです。でも答えられない。久住さんではないから。」
「……俺さ……何度か、あんたと兄貴がキスしてるの見たよ。」
「本意ではないです。」
「だったら……。」
「違うって言ってる。無理矢理……。」
「嫌なら避ければいいじゃん。何で抵抗しないの?」
 またスプーンでカレーをすくう。
「出来るんでしょ?俺、ヤクザ相手にも立ち向かうあんたを見たし、度胸もあるのにどうして晶兄貴には何もしないんだろうって思ってた。気があるんだろうなって。」
「無いです。」
「だったら……。」
 すると清子はコーヒーを飲むと、了に言う。
「女の力なんてそんなものですよ。それに……初めての人だったから。」
「あぁ……いつだったっけ。兄貴が朝帰りして、茂兄貴に超怒られてたのを見た。」
「……ただ……それだけです。何の他意もない。」
「……まぁそれで良いなら良いけど。でもどっちにしてもあんたには出席して欲しいと思う。亜矢子もあんたを知っているみたいだし。」
「えぇ。前の職場で一緒でしたから。」
「変わったなぁって言ってた。あぁ……それから、亜矢子から預かってたモノがあってさ。」
 了はスプーンを置くと、自分のバッグからCDを取り出した。クラシックのCDだろう。バイオリンの写真が載っている。
「これは?」
「例の男のCD。中身見て。」
 CDを手渡されて、中にある歌詞カードを手にする。バイオリンのCDだから歌詞はないのだが、代わりにインタビューやプロフィールが載っていた。
「帰化?」
「そう。元々こっちの国の奴らしい。出身は、あの町だ。」
 その言葉に清子は驚いてまたその写真を見る。以前、晶から見せてもらった写真の男に面影があった気がする。写真の男は幼くても大人びた感じではあったが、そのまま大きくしたような感じで綺麗な顔立ちは全く変わっていない。
「歳は……。」
 清子は首を横に振る。そしてCDを置いた。
「どうした?」
「若すぎますよ。私の父だったら、この方は十三歳で私を作ったことになります。」
「三十九ね。でも精通って、十三か四くらいだろ?」
「それくらいにどうして作ったといえるのでしょう。」
「……出来ないことはないだろ?俺の知り合いだって十四の時に、義理の母親から性的虐待を受けて、子供が出来たって奴いるし。」
 そんな非人道的なことをするのだろうか。それが普通なのだろうか。
「たぶん違います。」
「どうして?」
「久住さんに写真を見せてもらいました。」
 あの写真は古かった。祥吾がまだ中学生くらいの写真だろうか。その下が自分の父だ。幼さが残るくらいの父親だった。年齢差は、おそらく三つか四つ。
「冬山さんは今五十歳だと言ってました。だったら……父はおそらく生きていれば四十代後半だろうと思います。だからこの人ではあり得ない。」
 そこまで知っているのだ。どうして探さないのだろう。一度も会ったことのない両親だからどうでも良いと思っているのだろうか。
「だったら違うんだろうな。でもさ……あんただっていずれ結婚するんだろ?」
「……いずれ。」
「身元がはっきりしない相手と結婚したいと思うかな。俺だって相当苦労しているんだし。」
「茂さんのことで?」
「当たり前だろ?普通の親ならいやがるよ。犯罪者の、しかも殺人犯の身内がいるなんて。」
 コーヒーを飲むと、清子はため息を付いた。
「だからお金を?」
「稼げるような収入があって、苦労させないとわからないと亜矢子は渡せないって言われた。」
 その言葉に清子は少し首を傾げた。金だけの問題で娘を任せられるモノなのだろうか。
「あとの結婚の条件ってありましたか。」
「研究所にいるのは辞めて欲しいと言われたな。あれって結局、学生の延長みたいなものでさ。給料がすごい少なくて。大学の助教授だったらいいんだろうけど。今考えると、沢木さんが大学に居るような器じゃなかったから、自分で研究所を立ち上げてたんだよな。だから大学勤めじゃなかったんだ。」
「……あれ。何かおかしいですね。」
「何が?」
「結婚するのに家柄とか金銭面とか職種とかやたら気にするんですね。」
「当たり前だろ。俺の知り合いだって、結婚してみてすぐに借金の保証人になって苦労してる奴いるんだから。」
 そんなモノなのか。清子はそう思いながら、自分のことを振り返る。やはり自分の身元くらいはしっかりさせておかないと、いけないだろうか。史の父親はそんなことを気にしないと言いそうだが、両親の身元くらいは知っておいた方が良い。
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