不完全な人達

神崎

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葬儀

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 葬儀が終わった夕方、清子は電車で町まで帰ってきた。その足でクリーニング店に寄ると、借りた服を預ける。いつでも良いと言ってくれたが、早めにあの町へ行っても服を返しておきたい。そして店を出ると、携帯電話でメッセージを送る。するとすぐに連絡がきた。
「少し会社に寄れないか。」
 史からのメッセージだった。清子はバス停に向かう足を止めて、そのまま会社へ向かった。

 いつもだったらスーツ姿だが、こんなラフな格好で来ていいのだろうか。そう思いながら夕方の会社のゲートをくぐる。そしてIT部門のオフィスへ向かった。
「お疲れさまです。」
 声をかけると、了が驚いたようにこちらをみる。
「葬儀が終わったんですか。」
「今日。無事に。」
「急でしたね。冬山さん……。」
「前から体調が悪いと言っていたので、もしかしたらとは思ってました。」
 そのとき後ろから朝倉がオフィスに戻ってきた。清子の姿を見て、少し気後れたような表情に見える。
「お疲れさまです。すいません。仕事を休んでしまって。」
「良いよ。みんなでカバーできるところはしている。それに、わからないところはちゃんと連絡を取ってくれたから、そこまで心配はない。」
「これ、みなさんで。」
 清子はそう言って包みからお菓子の箱を取り出した。それを朝倉に手渡すと、少し笑う。
「ありがとう。ありがたくいただくとしよう。……君は、これから大変だと思うけど、大丈夫か。」
「何がですか?」
 その言葉に清子は不思議そうに朝倉をみる。
「週刊誌が君を追っていた。冬山祥吾の真実を知りたいと。」
「……真実?」
「あぁ。例えば、結婚はしていなくても隠し子が居るんじゃないかとか。」
「さぁ……その辺はわかりません。私、叔父だと知ったのもここ一年くらいの話ですし。」
 確かにそうだ。清子はずっと一人で生きてきたのだ。冬山祥吾の力など借りたこともない。
「女性関係とかは?」
「わかりません。助手の方が女性だとは聞いていますが。」
「そっか……でも、週刊誌というのはどんなネタでも欲しがって、尾ひれを付けたがる。しばらくはいらないことを言わない方がいい。週刊誌の方にウェブ関係のことを頼まれていくことは?」
「あります。たまに。」
「そういう話があったら、久住に行かせる。それから親しくしている人とかは?」
「喫煙所で会うこともあります。階が同じですから。」
「しばらく近づかない方がいい。行くなら、誰かと一緒の方が良いと思う。晶とか、編集長とか。」
「そうですね……わかりました。忠告ありがとうございます。」
 そうだ。著名人だからそういうこともあるのだ。だが元々口数は少ない方だし、言葉を発しても余計なことを言ってしまうので煙たがられているのが実状だ。そんな清子にネタを集めようなど思うだろうか。
「出勤は明後日からかな。」
「明日からでも良かったのですが。」
「疲れているだろうから、明日はゆっくり休めばいい。何かあったらメッセージを送る。」
「お願いします。」
「あと「pink倶楽部」の方のページは、久住君が管理しているから気にしないでいい。」
 デスクにいた了が頬を膨らませる。
「よくこんなに管理してたなぁって思いますよ。すげぇ。」
「わからないことがあったら言ってください。」
「それにあれ、年末を思い出す。」
「年末?」
「女の裸とか男の裸ばっかみてたの。チ○コとかマ○コにモザイクかけるのうんざりする。」
 了はそういって頭をくしゃくしゃとかいた。そういう仕草は晶に良く似ている。

「pink倶楽部」のオフィスへ上がると、週刊誌の担当の人が清子に振り返った。だが違うネタを追っていたのだろう。そのままエレベーターに乗って行ってしまった。
 朝倉の言ったとおりだ。清子はそう思いながら、一番奥の「pink倶楽部」のオフィスへ向かう。
「お疲れさまです。」
 清子が声をかけると、香子がぱあっと笑顔になった。
「お疲れさん。大変だったね。喪主だったんでしょう?」
「喪主は居ませんよ。身内だけでしたけど、挨拶なんかもしませんでしたし。」
 そういって清子は史のデスクへ向かう。すると史は少し笑って清子を迎えた。
「お帰り。」
「席を外して申し訳ありませんでした。」
「かまわないよ。君の仕事は分担してしているし、久住君がうまくやっているみたいだから。」
 史はそういって席を立つ。
「話があるんだ。ちょっと来てくれるかな。」
「あ、おみやげを。」
「あぁ。気を使ってくれて悪いね。明神さん。みんなに分けてくれる?」
「はーい。」
 清子からお菓子の箱を手にすると、香子は早速そのパッケージをはがし始めた。
 そして史は清子を連れてオフィスの外にでると、隣の倉庫に清子を呼んだ。
 薄暗くて少し誇りの匂いのする部屋で、史は窓を背にすると清子にいった。
「朝倉部長から聞いてる?」
「えぇ。冬山さんの過去遍歴を、探られているとか。」
「君は身内だからきっと知っていると言われかねない。きっと追ってくると思う。中途半端な受け答えをしてはいけないよ。」
「そうですね。」
「間違っても「そうかもしれない」と言ってはいけない。かもしれないを真実のように書くのが、週刊誌だから。」
「えぇ。」
 清子はうなずくと、史は少し笑った。
「でも、君に何を聞いてもたぶん無駄だね。君は何も知らない。」
「……知らないことは答えようがありません。私が、冬山さんのところへ言ってわかったのは……父のことくらいです。」
「君の父親?」
 すると清子はバッグから手紙を取り出した。
「父から、冬山さんに手紙が送られていました。私は父の連れ子だったと。」
「父親の連れ子って言うことは、君の母親ではない人と一緒にいるってことか。」
「旅に出ているようです。会うことはありません。冬山さんのことも載っていますが、これは世に出してはいけないことでしょう。」
 だが史は口を押さえて、何か考えているようだった。
「史?」
「ん……いいや。何でもない。そうか……。その手紙以外の物はなかった?」
「取り立ててこれといった物はありませんでしたが、ほとんど処分しましたし。」
 すると史は清子を引き寄せると、その胸に抱きしめた。
「そばにいてあげたい。今日はもう少しで仕事が終わると思う。だから……その後、好きにして良いかな。」
 清子はその胸の中でうなづいた。
「そうして欲しいと思ってました。」
 史は清子の目を離すと、すっと唇を重ねた。
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