不完全な人達

神崎

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葬儀

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 会社を出ようとすると、晶が玄関をくぐってきた。清子の姿に少し笑う。
「よう。大変だったな。お前。」
「すいません。葬儀にも来ていただいて。」
 史も朝倉も通夜で帰ってしまったが、晶はそのまま残って本葬にも参列してくれたのだ。本当に純粋に身内だけなら清子だけになってしまうので、晶や茂の姿はとてもありがたいと思った。
「別に俺、あっちの方に仕事もあったし、ちょうど良かったよ。」
「帰ってきてまた仕事を?」
「あぁ。モテモテで大変だよ。」
 晶は冗談っぽくそういうが、実際そうなのだろう。新聞社も晶を必要としているのだ。
「清子。今日飯行かないか。俺、今日これを納品したら帰れるから。」
「あ……今日は……。」
 史と約束をしている。それを言って良いのかわからない。
「編集長とどっか行く?」
「うん……まぁ……。」
「そっか。だったらそっちを大事にしねぇとな。何か、俺いっつもお前等の邪魔しているみたいだし。」
 史にしたら邪魔かもしれない。だが晶に頼らなければいけないところがこれまでいくつもあった。それはきっと史では理解してくれないだろう。
 だが晶に理解が出来ないことを史は理解してくれる。
「……邪魔だとは思いませんから。」
「そう?ま、いいや。明日にでも行こうか。」
 そういって晶はゲートをくぐろうとした。だが清子がその腕を引く。
「何?」
「あ……いいえ。今回はお世話になってしまいましたし、改めてお礼がしたいと思って。」
「……。」
 その様子に晶は少し笑って、少しかがんで清子の目線に降りた。
「だったら、俺のものになれよ。」
「は?」
「別れてさ。」
「やです。それとこれとは別ですから。」
 いつものへらっとした笑いを浮かべて、晶はゲートをくぐった。そしてエレベーターに乗ると、ため息を付く。
 本心だった。本気で別れて自分のところに来て欲しいと思った。しかし清子がそれを望んでいない。エレベーターが途中で止まり、何人かの人が入ったり出たりしている。それを見ながら、晶は一番奥の壁に頭をつけてため息を付いた。
 そして自分の降りる階に付くと、エレベーターを降りた。すると週刊誌担当の男が喫煙所から出てくる。
「よう。久住。」
「あぁ。お疲れさまです。あ、写真どうでした?」
「ばっちり。あれ載せるよ。」
 すると男は機嫌が良さそうに晶に近づく。
「お前さ、徳成さんと仲が良いだろ?」
「編集長ほどじゃないっすよ。」
「でもさ、幼なじみって言ってただろ?色々知りたいことがあるんだけど、正木編集長も徳成さんも口が堅くてさ。」
 あぁ。死んだ冬山祥吾のことについて聞きたいのだ。どっちが聞きたいのだろう。模倣をしていたことか、それとも女関係か。
「冬山祥吾のこと?」
「そうそう。自宅が売却されたって話聞いてさ。何で?」
「さぁ……。子供も居ないし、奥さんも居ないし、それをまとめてどっかの財団に寄付するって話聞いてるけど。」
 表向きにはそうなっているはずだ。借金があってそれを完済するためとは言わない。冬山祥吾が著作権を握る作品の印税は、出版社に渡されるため出版社自体もそれについては口を割らないのだ。そうやって少しの財産でも自分の懐に入れたいのだろう。
「財団?」
「結構書いた作品に、遊郭の話やら疫病の話があっただろ?それでそういうところの財団に寄付って言ってる。」
「なるほどね。情に流されたのかな。」
「しらね。俺、冬山祥吾が清子の叔父なんての、この間知ったし。」
「へぇ……。」
「もういい?俺、写真納めたいんだよ。」
 そう言って晶は「pink倶楽部」の部署へ足を進めた。史も清子も似たような話しか聞けない。まるで戒厳令がでているように何も口を割らないのだ。
 少し前に女関係のことでごたごたがあった。そのときはおもしろおかしく書くことが出来たが、女たちが祥吾をかばったことでその噂は消えたし、その後「ありもしないことをでっち上げる」と部署のSNSが荒れたのだ。
 そのことであまり信憑性のないことは書けないと、編集長に釘を差された。
「何かありそうなんだけどなぁ。」
 あまりやりすぎると自分の首が危ないと思う。余計なことはしない方が良いのかもしれない。

 仕事を終えると、史はバッグとコートを手にする。そして晶の方を見ると、晶もパソコンを閉じていた。
「久住。」
「何?」
 晶はぐっと延びをすると、史を見上げる。
「清子のことでだいぶ世話になったようだったな。」
「いいよ。俺もついでに地元に帰っただけだし。その中でごたごたに巻き込まれただけ。」
「……この後、飲みにでも行かないか。」
「冗談。何でデートに俺が混ざらないといけないんだよ。」
 すると史は少し笑って言う。
「気にしてないよ、俺は。幼なじみとして世話をしただけだろう?」
 その言葉に晶はかちんときたのか、立ち上がるとジャンパーを羽織る。
「やだよ。それでも行くの。」
「久住。礼がしたいだけだ。」
「本当に礼って言うんだったら、俺にくれよ。」
「何を?」
「清子。」
 その言葉に思わずその会話を聞いていた香子がバッグを落としそうになった。
「え?」
「冗談だよ。間にうけんな。」
 奥の香子にそう声をかけると、香子は頬を膨らませて言う。
「久住。冗談きつい。」
「ははっ。別にそんなつもりで言ったんじゃねぇよ。」
 だが史の目は冗談ではないと見抜いていた。きっと晶は清子とまた寝ようとしているのだ。いいやそれだけじゃない。清子の弱いところにつけ込んで支えてやり、それで気持ちを自分に向けようとしている。そう思えて仕方ない。
「明日にでも清子を借りるわ。」
「明日?」
「飯奢ってくれるって言ってたし。俺んちの近くの居酒屋、焼酎が揃ってたんだよ。そこ行こうっと。」
「あぁ。そうしてやってくれ。そこには俺も行って良いのか?」
「二人にさせてくれよ。話もあるし。」
「話?」
「んー。内緒。」
「可愛くない。」
 すると晶は携帯電話を取り出して時間をみる。そのとき、ふとジッポーがジャンパーから落ちた。
「落ちたぞ。」
 史が拾い上げると、そのジッポーをよく見た。それは見覚えのあるジッポーで、清子のものに良く似ている。
「これ……。」
 すると晶はそのジッポーを手にすると、頭を掻く。
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