不完全な人達

神崎

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告白

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 御影には悪いが、慣れるまではここに来た方が良いかもしれない。清子はそう思いながら、御影にソフトの説明をしていた。一生懸命覚えようとしているのはわかるが、聞き逃すことが多い。理由は何となくわかる。画像の問題だろう。若ければ若いほど若い女の裸に目がいくものだ。それでいちいち興奮していればきりがない。
「桜井さん。聞いてますか?」
 何度清子がそう言っただろう。
「水着越しに透けてるものはいいんですか。」
「形なら結構です。白だと透けていればアウトです。」
 自宅で慣れてもらうしかない。そう思いながら、ふと晶の居たデスクをみる。晶は、新しく来たカメラマンと外にでてしまった。メーカーに顔を売るためだろう。史の隣にいる男も、引継のために史にいろいろ聞いているようだ。
「コラムは向こうに行っても書いてもらえるんですか。」
「えぇ。可能な限り。」
「いずれは対談など載せたいですね。」
「男優仲間とは今でも親交があります。名前を出してOKしてくれればそれで進めて下さい。こちらのタウン誌の方も宣伝になりますから。」
 とは言ったものの、タウン誌の方はまだ企画として真っ白だ。春にはここを去り、別の部屋に仮のオフィスを構える。同じ建物であるから不明なところは聞きに行けるメリットがあるだろう。
「それから、女性向けのページは強化した方が良いと思います。」
 その言葉に男が怪訝そうな顔をする。
「女性向けというと、エ○メンですか。」
「えぇ。うちは女性読者も少なくないですし、今は女性だからと言ってこういったことを隠す世の中ではありませんし。」
「そうですかね……。いや……話には聞いてるんですよ。たとえば、男性向けの風俗店があるように、女性向けの風俗店があるとか。」
「固定した店もありますが、出張もあります。」
「デリヘルの、女性版ですね。……ただ、かなりグレーゾーンだと思ってます。」
 男はそう言って腕を組む。
「どうしてですか?」
「うちもそういう店を紹介することがあったんです。だが、女性の方がどちらかというと欲望に忠実と言うか。トラブルが多いのもそっちの方が、後を立たない。」
「……昔からあったものではありませんからね。ルールが女性も把握できないまま利用するのでしょう。」
「あくまで風俗は、本番なしだ。なのに、金を積んでさせようとする。それはルール違反ですから。」
「それは男性も同じことですよ。デリヘルに本番行為をしようと、力付くで押さえつける人も多い。ただ、女性の場合は少し違う。」
 女性は非力で、男性に力ずくで迫られたら抵抗は出来ないだろう。しかしそれはあくまで世の中が思う女性像だ。
「女性が主権を握り、男性をレイプすることもあります。すると世の中的には、「男が襲われたなど、だらしない」というのが一般的です。」
「確かにそうですね。」
「だからあえて、女性にそう言ったことを進めない方向で進めたい。」
「しかし、女性に性欲がないと言うのは違いますよ。」
「そうは言っていない。ただむやみやたらに、そう言ったことをかき立てるような記事は載せない方が良い。もし何かがあったら責められるのはこちらの方だ。」
 史と男の言い合いに、思わず新しく来た女性に説明をしていた香子も振り返った。
「何?」
「んー。澤村さんの言うこともわからないでもないけどねぇ。」
 そのとき清子が画面を変えて、御影に説明をする。
「これは?」
「メンズストリップだそうですよ。」
「へぇ……。全部脱ぐんですか?」
「いいえ。性器は隠しています。その辺は女性のストリップと変わりません。」
「客は女性ばかりですか?」
「いいえ。男性もいらっしゃるそうですよ。」
「男のあれを見て何が楽しんだか。」
 思わず御影はそう言う。すると清子は口元だけで笑う。
「あれを見て楽しい男性もいらっしゃいますよ。」
「あぁ……なるほど。」
 その言葉に史の隣にいた男がこちらをみる。
「ゲイ向け……。」
「えぇ。そうですね。男性向け、女性向けと分けていたのは、性趣向のこともあります。」
 色んな性趣向があって良い。史は常にそうやって動いていたのだ。
 それをこの男が出来るかどうかは、この男次第なのかもしれない。

 結局、定時までその男たちは居て、いろいろと指導を受けていた。御影は詰め込みすぎたのか、メモを見ながらぶつぶつと何はつぶやいている。それを見ながら、清子は少しでも力になれたのだったら、それで良いとまたパソコンの画面を見た。そして史の引継を確認していた男が、帰ろうとしていた男たちに声をかける。
「最初ですし、これから飲みに行きませんか。」
 すると男たちは顔を見合わせる。史はあまり積極的に飲み会などをするタイプではなかったので、それが異質だったのだろう。
「本格的にここに移動してからでも良いですよ。どうせ、歓迎会しますから。」
 あっさりしたものだ。声をかけた男も悪かったのかもしれない。男はまだ子供が小さいので、早く家に帰りたかったのだろう。
「徳成さん。IT部門へ行かないの?」
 帰り支度をしていた史が声をかけると、清子は首を横に振る。
「仕事が進んでなかったので。」
「徳成さんは残業を減らせって言われてる。キリの良いところで切り上げて。」
「わかりました。」
 引継をしていたのであまり進んでいなかったが、そう言われれば仕方がない。そのとき晶とカメラマンの男が戻ってきた。
「良かったよ。あんたが顔見知りで。」
「同級生でね。まさかストリップ劇場の支配人になってるとは思ってなかったな。」
 こちらは関係が良好なようだ。香子の所も悪く無さそうで、女同士で食事にいくと張り切っている。
 さて、御影がどれだけ出来るのか、これからが勝負なのかもしれない。そのとき御影の携帯電話がなる。
「はい。あぁ……そうです。ん……ちょっと待って下さい。」
 そう言って御影は帰ろうとしていた足を止めて、清子の所へいく。
「徳成さん。我孫子さんが話をしたいと。」
「あ、はい。」
 携帯が鳴っていたのだろうか。清子はそう思いながら、携帯電話を受け取る。
「はい。変わりました。えぇ……はい。春からですね。えぇ……。それは本人が興味あればの話ですけど。」
 清子も携帯電話を取り出して、何かチェックをしている。
「話だけはします。」
 そう言って電話を切ると、清子は御影を見上げた。
「今度の日曜日に講習会があるんですが、桜井さんもきますか?」
「講習会?」
「我孫子さんの講習ですけど、O区であります。会費は三千円で、九時から十二時の講習ですね。内容は、新種のウィルス対策です。」
「出たんですか?また新しいの。」
「まだこの国には入ってきてないみたいですが、興味があるのだったら申し込みが必要です。」
「大学で聞いてないですよ。」
「大学生にはレベルが高いのかもしれませんね。」
 その言葉に御影はむっとしたように清子に言う。清子に悪気はない。だがストレートに伝えすぎるのだ。それが御影のプライドを傷つけるなどと言うことは考えないらしい。
「行きます。」
「でしたら、応募のサイトのリンク先を教えておきますので、それに入力を。明日の十五時までです。」
「わかりました。」
 そう言って清子は御影の携帯電話を受け取ると、そのサイトにアクセスした。
「受講料は振り込みです。これは明後日の十五時まで。」
「はい。」
 清子は高校すらまともに出ていない。中卒で、職業訓練校へ行った。その後は独学や、講習会、勉強会に足繁く通って、今までやってきた。
 大学を出る予定だった御影と一緒ではないのだと言われているようで、悔しい。
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