不完全な人達

神崎

文字の大きさ
260 / 289
別離の条件

259

しおりを挟む
 屋台を離れて、駅へ向かう。そして清子はそのまま自分たちの最寄り駅にたどり着くと、そのまま二人と別れた。
 村上圭吾がいうには、晶を連れ去ったのは兄である村上省吾だという。村上組は母胎である坂本組のやり方を真似ていた。ヤクザの資金源は、みかじめ料として夜の町や風俗店、ギャンブル店からせしめるやり方、詐欺行為で一般人から金を巻き上げるやり方、そして女を風俗に沈めるなり裏ビデオに出演させたりして、最後には発展途上国で体を売らせるやり方などがある。
 村上組は、女をよく売っていた。だからAVが売れれば、資金になる。そのためには晶の力が必要だったのだ。
「清子。何があっても俺に連絡をしてくれ。」
 圭吾は、晶を知らない。おそらく女を売ったりして派手に稼いでいたのは、兄である省吾なのだろう。どれだけ上納金があげられるかで、自分の地位が決まる。今、村上組は揺れているところもあり、金が必要な時期だった。それを利用するのには、晶の力がどうしても必要なのだ。
 その晶を助けに行くと清子が言ったとき、正直、行かせたくなかった。だがついて行くと言えば、自分の身も晶も、何より清子の身が危ないだろう。そんなリスクを犯してまで、清子について行かないと行けないことはない。
 清子は指定された駐車場へはいる。立体の駐車場は、二十四時間あいていて駅の近くであるため、日数計算で料金が発生する。五階建ての駐車場の五階。平日であることもあって、車は閑散としている。その中に一台の黒い車を見つけた。その車なのだろう。
 パンプスのヒールをならして、清子はそこへ近づいた。するとその車から数人の男が降りてくる。
「徳成清子だな。」
 金髪やスキンヘッドの男は、がたいがいい。清子が少し護身術をかじっているとは言っても、そんな相手に通用するとは思えない。
「はい。」
 すると男は後部座席を開けた。そこから出てきたのは、年末に会った男だった。オールバックの髪、薄いサングラスと細面の顔はとても整っていて、細身に見えるが背が高く女にモテそうだと思った。おそらく普通の格好をしていたら普通のどこにでもいるような男に見えるだろう。
「そう身構えなくてもいい。兄に話はしておいた。」
「兄?」
「久住晶をさらったのはうちの兄だ。今、うちは少しごたごたしていてな、兄はずっと力を付けようと躍起になっている。」
 力とは金のことだろう。裏のAVを購入したりダウンロードをするだけでどれだけの金が入るのかはわからないが、おそらくそれだけではないのだ。搾り取れるところからは徹底的に搾り取るのが、ヤクザのやり方なのだから。
「久住さんは解放されたのですか。」
「無事だ。そこの向かいのホテルにいる。」
 駐車場から見えるビジネスホテルのことだろう。今すぐにでも行って無事を確かめたい。
「……怪我は?」
「抵抗すればどんな目に遭うかわからなかっただろうが、案外素直だったという。こんな世界に首を突っ込んでしまったのだから仕方がないだろう。」
 だとしたら怪我はないのかもしれない。おそらく晶も世界を回って、こういう目に何度も遭ってきたのだ。抵抗すれば自分が危ないことなどわかっていたのだろう。だがほっとする。
「お手間をかけました。見返りを要求したいと聞きましたが、私に何か出来ますでしょうか。」
 すると圭吾はポケットから煙草を取り出す。見た目は細くて、色気のかけらもない。だがその黒縁の眼鏡の奥の顔はとても美人だと思う。ヤクザを相手にしても冷静で、表情一つ変えない。こんな女がベッドの上でどれだけ乱れるのかというのは、興味がないわけではないのだ。むしろどれだけ乱れるか気になる。
「一晩つきあうか。」
 やはりそうきたか。清子は心の中でため息をつく。史が一番恐れていたことだ。ヤクザを相手にすれば、薬を打たれたり、何人も相手にさせられたりするのかもしれないのだ。
「あなたとですか?」
「そうだ。」
「こんな鶏ガラを抱いても何も感じませんよ。時間の無駄です。」
 強気だ。ますます面白いと思う。
「抱いて悪いか良いかは俺が決める。体には相性というものがあるだろう。もっとも……俺が相手をして、相性が悪いと女が思ったことはないが。」
「自信満々ですね。」
「そうではないとこの仕事はやっていけないだろう。」
 すると後ろにいた男たちが下品な笑いを浮かべる。
「兄貴のは体に似合わずでけぇからな。一晩でもひいひい言うぜ。」
「兄貴。ヤクを用意しますか。」
「いいや。」
 圭吾はそう言って、清子に近づく。このまま逃げ出したい。だが逃げるのは許されない。晶のためにも。
 自分の身を犠牲にしてまでも、守りたいものがある。それを教えてくれたのは晶だった。
 人は裏切る。尽くしても結局逃げるものなのだ。
 祖母が言っていた言葉だ。だがそんな人が全てではない。晶は自分を守ってくれた。ずっとそばにいた。だから自分が今度は守る番だ。
 圭吾は清子に近づくと、その眼鏡を取る。そしてその顔をじっと見た。その時ふと圭吾の表情が変わる。
「お前……。」
「え?」
 そして首もとに手を伸ばされて、結んでいる髪をほどいた。すると圭吾は清子を見下ろすと少し笑った。
「こんなところで会うとはな。」
「え?」
 手に持っている眼鏡とゴムを清子に返すと、圭吾は後ろの男たちに言う。
「この女に手を出すな。」
「どうしてですか。兄貴。」
「俺たちだってやりてぇよ。」
 すると圭吾は、清子を見下ろして言う。
「お前、両親は?」
「居ません。物心が付く前に、祖母に預けられたので。」
「……だろうな。表には出られないことをしているのだろう。」
「は?」
 両親のことを知っているのだろうか。違和感を持ちながら、また眼鏡をかけて髪を結び直す。
「見返りはお前だと言いたいところだが、もっといい条件がある。」
「何を?」
「父親の所在をはっきりさせろ。それで話を終わりにする。兄にも話を付けておいてやる。」
「父の?」
 驚いた。探さないでくれといっていた父親をどうしてヤクザが探しているのだろう。
「もし見つけられなければ、その時は俺の好きにする。」
「期間は?」
「一ヶ月だ。それ以上は待たない。」
 そう言って圭吾はスーツの胸ポケットから、鍵を取り出した。そして清子に手渡した。それはホテルの部屋の鍵のようだった。
「もし見つけられなかったら?」
「好きにする。俺無しではいられないようにすることも出来るだろう。」
 そう言って圭吾は車へ戻っていく。
「行くぞ。」
「は……はい。」
 鶏ガラだろうと何だろうと女だ。そろそろソープでは飽きてきていた下っ端たちは、清子を苦々しく見るとまた車に戻っていった。
 そして派手な排気ガスをまき散らすと、清子はそのテールランプを見ながら手に握られている鍵を握りしめた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

処理中です...