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別離の条件
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ホテルへ行く道すがら、史に連絡を入れる。史はもう自宅に戻っていた。
「えぇ……なぜか解放されました。」
どうして解放されたのかはわからない。だが今は晶が本当に無事なのかを確かめたい。
「素直に行って良いのかとは思いますが……えぇ、一緒に?」
ここからであれば、史の家からも近い。何があるかわからないのだから、一緒に行くというのだ。
「……そうですね。それが良いかもしれません。」
相手はヤクザだ。自分のためなら嘘だって平気でつくだろうし、騙しているという事も十分考えられるのだ。
「ホテルのロビーで待ってます。」
駐車場を降りて、周りをみる。駅はもう既に閉まっていて、シャッターが降りていた。行き交う人も少ない。たまに酔っぱらったサラリーマンも見るが、昼間に比べれば相当人は少ない。
鍵を見て、ホテルを確認する。そして中に入ると、暖かい空気紙を包んだ。ビジネスホテルのロビーは狭い。だが喫煙所はあるので、そこへ行こうとしたときだった。
「清子。」
声をかけられて、振り返る。そこにはまだスーツ姿の史がいた。おそらく外に出ることを想定していたのだろう。まだシャワーも浴びていなかった。
「すいません。お手間をかけさせました。」
「いいんだ。それより何もなかったの?」
「えぇ。詳しいことはあとで話しますが、何かがあったみたいです。」
そう言って清子はエレベーターへ向かっていった。鍵についている部屋番号は一〇三二。あまり広いビジネスホテルではなさそうなのに、部屋数はあるのだろう。その分、壁が薄そうだ。
エレベーターに乗り込むと。十階を押す。
「一人で来なくて良かったよ。」
「どうしてですか?」
「ここのホテルは、デリヘルを呼ぶ人が多いからね。君一人だったら、店員に呼び止められてたかもしれない。」
そんなものなのか。ラブホテルよりも格安なこのホテルでは、そういう使われ方も多いのかもしれない。安く済ませようという男たちが多いのだ。
エレベーターが閉じようとしたとき、一人の男が入ってきた。ベージュのトレンチコートを着ているが、どう見てもビジネスマンに見えない。どちらかというとホストのような容姿だ。
男は閉じたエレベーターの中でもせわしなく携帯電話をいじっていた。そして七階につくと降りていく。
「あれは、出張ホストだね。」
「あぁ。聞いたことがあります。」
「壁が薄いから、あまり派手なことは出来ないと思うんだけどね。」
中にはきっとデリヘルや出張ホストだけではなく、ウリセンなんかもいるのだろう。そういうことに、ホテルマンたちは慣れている。だから売りとしているものがこのホテルにはない。
駅前のホテルであれば大手のビジネスホテルが主流を占めて、あとは何かしらの売りがないとやっていけない。朝食が美味しいとか、大浴場があるとか、アメニティーが充実しているなど色々あるようだが、ここにはそんな工夫が見えなかった。
安くしているのだから売れるとは限らないのに。だからこういうグレーゾーンの商売を相手にしているのだ。
「着いたよ。」
十階にたどり着いて、二人は老化に降り立った。絨毯のようにふわふわした廊下を行って、ドアの号数をみる。一〇三二の部屋はそこにあった。
鍵を差し込むと、ドアを開ける。すると晶がいすに座ってカメラをチェックしているようだった。
「よう。悪かったな。」
「久住。お前……。」
「編集長も来たんだ。」
「来たんだじゃないだろう。どれだけ心配したと思ってるんだ。」
晶の頬が赤く腫れている。思いっきり殴られたあとのようだった。
「殴られました?」
「あぁ。抵抗したら、なんかプロレスラーみたいな奴に一発食らったよ。ったく、馬鹿力なんだから。」
頬をさすりながら、晶は手に持っているカメラをテーブルに置いた。
「携帯電話です。」
清子はそういって晶にそれを手渡す。すると晶はにやっと笑ってそれを受け取ろうとした。だがその清子の手が震えているのに、やっと気がつく。
「清子。」
すると清子は堪えきれないようにその眼鏡の奥から涙をこぼした。
「どうしたんだ。」
その様子に史が清子をのぞき見た。
「良かった……無事で……。」
人の死を多く見てきたからだろう。そしてこのまま晶を失ったらと思っていたのだ。その様子に史が清子の肩に触れようとした。だが先に晶がその頭に触れる。
「お前、俺が死ぬって思ったの何回目だよ。トラックにつっこまれても無事だったんだぞ。ここまで来ると自分でも不死身かと思うよ。な?編集長。」
その言葉に清子が泣きながら少し笑った。史は少しため息をついて、晶にいう。
「悪運が強いというか。」
「宝くじでも買うか。夏に発売するヤツがあるだろ?」
冗談のように晶が言うが、清子の涙が止まらない。思わず晶の手が清子の背中に触れて引き寄せた。まるで抱きしめているようだ。
「よしよし。」
さすがにやりすぎだと思う。だが清子がそれに気がついて、ばっと体を離す。
「どさくさに紛れて、何してるんですか。」
「ほら。涙が止まっただろ?落ち着けよ。」
そのための行動か。史は少しため息をつくと、清子を立ち上がらせる。
「清子。聞きたいことがあるんだが。」
ベッドに座らせて、史も隣に座った。すると晶はテーブルに置いてあった灰皿を引き寄せる。
「あっちは取引を持ちかけたと思う。ただ君が行っただけで久住を解放したとは思えない。何をされた?」
すると清子はため息をついていう。
「当初は、体を求めてきました。」
その言葉に晶は思わず煙草がむせたように、せき込んだ。
「げほっ……体?」
「こんな鶏ガラをどうして抱きたいと思ったのかはわかりませんが……。」
「たぶん体じゃないね。抱いたあとに何かしらの利用をするはずだ。」
「お前、AVデビューでもする気か?」
晶はそういうが、清子は首を横に振る。
「そんな気はありませんし、風俗に就職する気もありません。」
抱けばわかるだろうが、清子は見た目よりも抱き心地がいい。それに相性が合えば、夢中になれる。それは晶も史もよく知っていることだった。だから二人とも離れられない。
「ですが、あの……村上圭吾という人は、私に条件を出しました。」
「それは?」
「父親を捜すこと。」
「は?」
意外な言葉だった。それほど重要な男なのだろうか。
「何の目的なのかはわかりませんが、父親を一ヶ月以内に探さないと今度こそ好きにすると。」
「清子の父親ねぇ。」
煙草の灰を落として、晶は口をとがらせた。
「大学は芸術大学だと言っていたね。バイオリンを専攻していたとか。」
「はい。ですがそれ以降のことは……。」
雲をつかむようだ。確かに似ている男が隣の国でアーティストとして活躍しているようだが、それは別人だった。若いときに清子を作ったとしても、大学まで行っているのだからそれは考えにくい。
「オーケストラ関係だったら、亜矢子がそういう仕事してっからな。噂くらいはわかるかもしれねぇけど。」
「今でもしているとは限らないね。音楽関係の大学へ行ったからと行ってプロになれる人は少ない。一般職についている人が精一杯だ。」
「……とりあえず、戸籍謄本をもらってきます。それで何かわかるかもしれないし。」
もしも行方不明だったら、失踪届が出されている。それも年数がたてば「死亡」扱いになるのだ。
だが圭吾は探せと言っていた。と言うことは生きてはいるのだろう。
「清子。何かあったら俺は何でもするから。」
晶がそういうと、清子は少し笑う。
「わー。頼もしい。」
「感情入ってねぇな。くそ。」
「そもそも身から出た錆だろう。久住。いい加減大人しくしていろよ。」
「へー。そうですね。」
こっちも感情は入っていないし、聞いていることは半分だろう。大人しくする気は全くないのだ。そのたびに清子が手を尽くしていたら、どちらが恋人なのかわからない。やはりその前に、清子を自分の元に置いておきたい。「子供」という鎖を使ってでも。
「えぇ……なぜか解放されました。」
どうして解放されたのかはわからない。だが今は晶が本当に無事なのかを確かめたい。
「素直に行って良いのかとは思いますが……えぇ、一緒に?」
ここからであれば、史の家からも近い。何があるかわからないのだから、一緒に行くというのだ。
「……そうですね。それが良いかもしれません。」
相手はヤクザだ。自分のためなら嘘だって平気でつくだろうし、騙しているという事も十分考えられるのだ。
「ホテルのロビーで待ってます。」
駐車場を降りて、周りをみる。駅はもう既に閉まっていて、シャッターが降りていた。行き交う人も少ない。たまに酔っぱらったサラリーマンも見るが、昼間に比べれば相当人は少ない。
鍵を見て、ホテルを確認する。そして中に入ると、暖かい空気紙を包んだ。ビジネスホテルのロビーは狭い。だが喫煙所はあるので、そこへ行こうとしたときだった。
「清子。」
声をかけられて、振り返る。そこにはまだスーツ姿の史がいた。おそらく外に出ることを想定していたのだろう。まだシャワーも浴びていなかった。
「すいません。お手間をかけさせました。」
「いいんだ。それより何もなかったの?」
「えぇ。詳しいことはあとで話しますが、何かがあったみたいです。」
そう言って清子はエレベーターへ向かっていった。鍵についている部屋番号は一〇三二。あまり広いビジネスホテルではなさそうなのに、部屋数はあるのだろう。その分、壁が薄そうだ。
エレベーターに乗り込むと。十階を押す。
「一人で来なくて良かったよ。」
「どうしてですか?」
「ここのホテルは、デリヘルを呼ぶ人が多いからね。君一人だったら、店員に呼び止められてたかもしれない。」
そんなものなのか。ラブホテルよりも格安なこのホテルでは、そういう使われ方も多いのかもしれない。安く済ませようという男たちが多いのだ。
エレベーターが閉じようとしたとき、一人の男が入ってきた。ベージュのトレンチコートを着ているが、どう見てもビジネスマンに見えない。どちらかというとホストのような容姿だ。
男は閉じたエレベーターの中でもせわしなく携帯電話をいじっていた。そして七階につくと降りていく。
「あれは、出張ホストだね。」
「あぁ。聞いたことがあります。」
「壁が薄いから、あまり派手なことは出来ないと思うんだけどね。」
中にはきっとデリヘルや出張ホストだけではなく、ウリセンなんかもいるのだろう。そういうことに、ホテルマンたちは慣れている。だから売りとしているものがこのホテルにはない。
駅前のホテルであれば大手のビジネスホテルが主流を占めて、あとは何かしらの売りがないとやっていけない。朝食が美味しいとか、大浴場があるとか、アメニティーが充実しているなど色々あるようだが、ここにはそんな工夫が見えなかった。
安くしているのだから売れるとは限らないのに。だからこういうグレーゾーンの商売を相手にしているのだ。
「着いたよ。」
十階にたどり着いて、二人は老化に降り立った。絨毯のようにふわふわした廊下を行って、ドアの号数をみる。一〇三二の部屋はそこにあった。
鍵を差し込むと、ドアを開ける。すると晶がいすに座ってカメラをチェックしているようだった。
「よう。悪かったな。」
「久住。お前……。」
「編集長も来たんだ。」
「来たんだじゃないだろう。どれだけ心配したと思ってるんだ。」
晶の頬が赤く腫れている。思いっきり殴られたあとのようだった。
「殴られました?」
「あぁ。抵抗したら、なんかプロレスラーみたいな奴に一発食らったよ。ったく、馬鹿力なんだから。」
頬をさすりながら、晶は手に持っているカメラをテーブルに置いた。
「携帯電話です。」
清子はそういって晶にそれを手渡す。すると晶はにやっと笑ってそれを受け取ろうとした。だがその清子の手が震えているのに、やっと気がつく。
「清子。」
すると清子は堪えきれないようにその眼鏡の奥から涙をこぼした。
「どうしたんだ。」
その様子に史が清子をのぞき見た。
「良かった……無事で……。」
人の死を多く見てきたからだろう。そしてこのまま晶を失ったらと思っていたのだ。その様子に史が清子の肩に触れようとした。だが先に晶がその頭に触れる。
「お前、俺が死ぬって思ったの何回目だよ。トラックにつっこまれても無事だったんだぞ。ここまで来ると自分でも不死身かと思うよ。な?編集長。」
その言葉に清子が泣きながら少し笑った。史は少しため息をついて、晶にいう。
「悪運が強いというか。」
「宝くじでも買うか。夏に発売するヤツがあるだろ?」
冗談のように晶が言うが、清子の涙が止まらない。思わず晶の手が清子の背中に触れて引き寄せた。まるで抱きしめているようだ。
「よしよし。」
さすがにやりすぎだと思う。だが清子がそれに気がついて、ばっと体を離す。
「どさくさに紛れて、何してるんですか。」
「ほら。涙が止まっただろ?落ち着けよ。」
そのための行動か。史は少しため息をつくと、清子を立ち上がらせる。
「清子。聞きたいことがあるんだが。」
ベッドに座らせて、史も隣に座った。すると晶はテーブルに置いてあった灰皿を引き寄せる。
「あっちは取引を持ちかけたと思う。ただ君が行っただけで久住を解放したとは思えない。何をされた?」
すると清子はため息をついていう。
「当初は、体を求めてきました。」
その言葉に晶は思わず煙草がむせたように、せき込んだ。
「げほっ……体?」
「こんな鶏ガラをどうして抱きたいと思ったのかはわかりませんが……。」
「たぶん体じゃないね。抱いたあとに何かしらの利用をするはずだ。」
「お前、AVデビューでもする気か?」
晶はそういうが、清子は首を横に振る。
「そんな気はありませんし、風俗に就職する気もありません。」
抱けばわかるだろうが、清子は見た目よりも抱き心地がいい。それに相性が合えば、夢中になれる。それは晶も史もよく知っていることだった。だから二人とも離れられない。
「ですが、あの……村上圭吾という人は、私に条件を出しました。」
「それは?」
「父親を捜すこと。」
「は?」
意外な言葉だった。それほど重要な男なのだろうか。
「何の目的なのかはわかりませんが、父親を一ヶ月以内に探さないと今度こそ好きにすると。」
「清子の父親ねぇ。」
煙草の灰を落として、晶は口をとがらせた。
「大学は芸術大学だと言っていたね。バイオリンを専攻していたとか。」
「はい。ですがそれ以降のことは……。」
雲をつかむようだ。確かに似ている男が隣の国でアーティストとして活躍しているようだが、それは別人だった。若いときに清子を作ったとしても、大学まで行っているのだからそれは考えにくい。
「オーケストラ関係だったら、亜矢子がそういう仕事してっからな。噂くらいはわかるかもしれねぇけど。」
「今でもしているとは限らないね。音楽関係の大学へ行ったからと行ってプロになれる人は少ない。一般職についている人が精一杯だ。」
「……とりあえず、戸籍謄本をもらってきます。それで何かわかるかもしれないし。」
もしも行方不明だったら、失踪届が出されている。それも年数がたてば「死亡」扱いになるのだ。
だが圭吾は探せと言っていた。と言うことは生きてはいるのだろう。
「清子。何かあったら俺は何でもするから。」
晶がそういうと、清子は少し笑う。
「わー。頼もしい。」
「感情入ってねぇな。くそ。」
「そもそも身から出た錆だろう。久住。いい加減大人しくしていろよ。」
「へー。そうですね。」
こっちも感情は入っていないし、聞いていることは半分だろう。大人しくする気は全くないのだ。そのたびに清子が手を尽くしていたら、どちらが恋人なのかわからない。やはりその前に、清子を自分の元に置いておきたい。「子供」という鎖を使ってでも。
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