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行方
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昨日も来たオフィスに清子がやってくると、智也が驚いたように清子をみていた。
「どうしました。」
「ホテルで食中毒無かったんですか。」
「え?」
その話に清子は驚いたように智也をみる。
「食中毒があったホテルに泊まってたんじゃないんですか。すぐそこだし。」
「あ……私、違うホテルに泊まってて。」
「違うホテル?」
昨日みた男と一緒に違うホテルに泊まっていたのか。だったらやはりあの男が恋人なのだろうか。こんなに隙がなさそうで、色気のかけらも見えない女に、あんな軽薄そうな男が付くのだろうかと智也は驚いてみていた。
「会社が用意してくれたホテルもあったんですけど、せっかくだから温泉がついているところが良いと取ってくれたんです。」
「あぁ。そう言うことですか。」
温泉は智也にとって身近なものだ。だが都会から来た清子たちには珍しいのかもしれない。だったら納得する。
「有名ですよね。ここの温泉は。」
「えぇ。」
清子はそう言ってまた智也に席を譲られて、パソコンの画面を見る。夕べ仕込んでおいたソフトがうまく作動しているかチェックするためだった。
「うまく動いてますね。これで作業が進みやすくなると思います。」
「良かった。」
「でもやっぱりパソコン自体のスペックが古いので、変えてもらうようにこちらから言っておきますね。」
そのとき入り口からわっと言う声が聞こえた。何だろうと思ってパソコンから思わず目を離す。するとそこにはペコペコと頭を下げる支社長や、その周りのモノが居る。何の騒ぎだと思っていたら、見覚えのある人がオフィスに入ってきた。それは、社長の姿だった。黒のトレンチコートと濃紺のマフラーをつけて寒さには十分対策をとっているらしい。
「今朝来るって言ってたけど、本当に来たんだ。」
立っていた智也はすぐに社長が目に付いたのだろう。そちらの方へ向かう。こんな支社に社長が来ることは滅多にないからだ。だが清子にとっては今会う人ではない。そう思いながらパソコンに目を移した。
「徳成。」
だが清子に社長は声をかける。一介の社員に声をかけられる何ということはほとんどない。名前すら覚えていない社員がほとんどだろう。それだけ特別だと思われたくなかった。だから清子は否応なしにそちらを向く。
「お疲れさまです。」
「わざわざここまで来てもらって良かった。どうだろうか。ここのITは。」
社長のスタンスも、ただウェブ管理をするために来た清子の様子を見に来ただけだという形だ。それに対して、清子も声を発する。
「しっかり管理しています。特に問題はありませんが、パソコン自体のスペックが古いため、やや作業がしにくいだろうと思います。」
「スペック?」
「要は、パソコンが古いです。業務内容にパソコンが追いついていない。古いから劣化もしますし一応メモリーの増設はしましたが、誤魔化し程度です。」
「パソコン自体を変えないといけないか。」
「出来れば。しかし、このパソコンがウェブの全体をまとめているパソコンになりますが、コレだけ変えても意味はありません。出来れは全体のパソコンを変えた方が良いですね。液晶を変える必要はありませんが、本体を変えた方が良いですね。」
その言葉に社長は、少し笑顔を見せた。圭吾が笑っているように見えて、いたたまれない。圭吾の笑いは心の底からの笑いではなく、どちらかというと皮肉めいている。その笑いとかぶった。
「いい値段になりそうだが、総務と話をしてみよう。こういうモノは必要経費だろうし。」
社長とこんな話をするのは初めてかもしれない。だが動揺してはいけない。
「社長。」
社長の後ろから、秘書の男がやってきた。社長よりも背が高いが、年上に見えるその男はよく覚えている。目立つ人だからだ。
「そろそろお時間です。」
「わかった。あぁ。徳成。仕事はどれくらいで終わるだろうか。」
「飛行機を夕方の便で取っています。それまでには。」
「ではパソコンについて、詳しい話を聞きたい。澤村に連絡を入れさせる。」
「わかりました。」
そう言って社長は行ってしまった。表面上は穏やかに仕事の話しかしていないように見えるだろう。
だが清子は緊張していた。手のひらがじっとりと汗をかいている。社長が行ってしまったあと、清子はバッグからハンカチを取り出すとそれを拭った。
「徳成さん。社長とも付き合いが?」
見送りから帰ってきた智也が、清子にそう聞く。ハンカチをしまうと、清子は首を横に振った。
「別に付き合いはないですよ。去年の謝恩会で、話はしましたけど。」
「でも社員の名前と顔が一致しているなんて。本社って相当人が居るんでしょう?」
「IT部門は十人ほどしか居ませんよ。なのに電子書籍や、ウェブの管理までさせようとしてるのですから、イヤでも覚えているんじゃないんですか。」
「そんなものですか。」
仕事は山のようにある。清子は少しため息を付いて、またパソコンの画面を見た。
仕事が一段落ついて、清子は一度オフィスの外に出る。そしてアクリル版に囲まれている喫煙所に入っていった。ここもとってつけたような喫煙所で、片隅にある空気清浄機が音を立てて煙を吸い込んでいた。
休憩でもない時間にここに来る人は少ない。だが清子の仕事は、少し時間がたたないとわからないこともあり、ここへやってきたのだ。
誰も居ない喫煙室で煙草を取り出すと火をつけて、携帯電話を取り出す。史からの連絡があり、史たちは昼前に宿を出発するらしい。おみやげを買っているというのんびりしたメッセージに返信をすると、清子は晶に連絡を入れる。
「もしもし……そう……こっちに来てるみたい。後で連絡をするといってきたわ。ねぇ……もしかして、あの人って私たちがしていることを知っているんじゃないの。」
安西の所へ行き、話を聞いた。手紙を渡されて、清吾のしていることがわかっていた。
「晶。そっちは仕事がまだある?……そう。」
時計を見ると、昼までには一時間ほど時間があるだろう。それまでに調べておきたいことがある。
「こちらで見てみる。え?……でもあなたが来ておかしいとは思わないかしら。」
表面上はパソコンのことについて話を聞きたいのだから、清子に会いたいと言っているのだ。なのに晶が付いてきたらそれはそれでおかしいだろう。
「そう……。だったら、秘書の人から連絡が来たときに話をしてみる。」
きっと秘書からは連絡がない。直接何度も連絡してきたからだ。表だって一社員と、社長が繋がっているなどばれてはいけないことだからだ。
それに変な噂も立てられたくはない。
女として生きていなかったのに、ここに来て「女であること」をイヤでも自覚させられるとは思ってもなかった。
「どうしました。」
「ホテルで食中毒無かったんですか。」
「え?」
その話に清子は驚いたように智也をみる。
「食中毒があったホテルに泊まってたんじゃないんですか。すぐそこだし。」
「あ……私、違うホテルに泊まってて。」
「違うホテル?」
昨日みた男と一緒に違うホテルに泊まっていたのか。だったらやはりあの男が恋人なのだろうか。こんなに隙がなさそうで、色気のかけらも見えない女に、あんな軽薄そうな男が付くのだろうかと智也は驚いてみていた。
「会社が用意してくれたホテルもあったんですけど、せっかくだから温泉がついているところが良いと取ってくれたんです。」
「あぁ。そう言うことですか。」
温泉は智也にとって身近なものだ。だが都会から来た清子たちには珍しいのかもしれない。だったら納得する。
「有名ですよね。ここの温泉は。」
「えぇ。」
清子はそう言ってまた智也に席を譲られて、パソコンの画面を見る。夕べ仕込んでおいたソフトがうまく作動しているかチェックするためだった。
「うまく動いてますね。これで作業が進みやすくなると思います。」
「良かった。」
「でもやっぱりパソコン自体のスペックが古いので、変えてもらうようにこちらから言っておきますね。」
そのとき入り口からわっと言う声が聞こえた。何だろうと思ってパソコンから思わず目を離す。するとそこにはペコペコと頭を下げる支社長や、その周りのモノが居る。何の騒ぎだと思っていたら、見覚えのある人がオフィスに入ってきた。それは、社長の姿だった。黒のトレンチコートと濃紺のマフラーをつけて寒さには十分対策をとっているらしい。
「今朝来るって言ってたけど、本当に来たんだ。」
立っていた智也はすぐに社長が目に付いたのだろう。そちらの方へ向かう。こんな支社に社長が来ることは滅多にないからだ。だが清子にとっては今会う人ではない。そう思いながらパソコンに目を移した。
「徳成。」
だが清子に社長は声をかける。一介の社員に声をかけられる何ということはほとんどない。名前すら覚えていない社員がほとんどだろう。それだけ特別だと思われたくなかった。だから清子は否応なしにそちらを向く。
「お疲れさまです。」
「わざわざここまで来てもらって良かった。どうだろうか。ここのITは。」
社長のスタンスも、ただウェブ管理をするために来た清子の様子を見に来ただけだという形だ。それに対して、清子も声を発する。
「しっかり管理しています。特に問題はありませんが、パソコン自体のスペックが古いため、やや作業がしにくいだろうと思います。」
「スペック?」
「要は、パソコンが古いです。業務内容にパソコンが追いついていない。古いから劣化もしますし一応メモリーの増設はしましたが、誤魔化し程度です。」
「パソコン自体を変えないといけないか。」
「出来れば。しかし、このパソコンがウェブの全体をまとめているパソコンになりますが、コレだけ変えても意味はありません。出来れは全体のパソコンを変えた方が良いですね。液晶を変える必要はありませんが、本体を変えた方が良いですね。」
その言葉に社長は、少し笑顔を見せた。圭吾が笑っているように見えて、いたたまれない。圭吾の笑いは心の底からの笑いではなく、どちらかというと皮肉めいている。その笑いとかぶった。
「いい値段になりそうだが、総務と話をしてみよう。こういうモノは必要経費だろうし。」
社長とこんな話をするのは初めてかもしれない。だが動揺してはいけない。
「社長。」
社長の後ろから、秘書の男がやってきた。社長よりも背が高いが、年上に見えるその男はよく覚えている。目立つ人だからだ。
「そろそろお時間です。」
「わかった。あぁ。徳成。仕事はどれくらいで終わるだろうか。」
「飛行機を夕方の便で取っています。それまでには。」
「ではパソコンについて、詳しい話を聞きたい。澤村に連絡を入れさせる。」
「わかりました。」
そう言って社長は行ってしまった。表面上は穏やかに仕事の話しかしていないように見えるだろう。
だが清子は緊張していた。手のひらがじっとりと汗をかいている。社長が行ってしまったあと、清子はバッグからハンカチを取り出すとそれを拭った。
「徳成さん。社長とも付き合いが?」
見送りから帰ってきた智也が、清子にそう聞く。ハンカチをしまうと、清子は首を横に振った。
「別に付き合いはないですよ。去年の謝恩会で、話はしましたけど。」
「でも社員の名前と顔が一致しているなんて。本社って相当人が居るんでしょう?」
「IT部門は十人ほどしか居ませんよ。なのに電子書籍や、ウェブの管理までさせようとしてるのですから、イヤでも覚えているんじゃないんですか。」
「そんなものですか。」
仕事は山のようにある。清子は少しため息を付いて、またパソコンの画面を見た。
仕事が一段落ついて、清子は一度オフィスの外に出る。そしてアクリル版に囲まれている喫煙所に入っていった。ここもとってつけたような喫煙所で、片隅にある空気清浄機が音を立てて煙を吸い込んでいた。
休憩でもない時間にここに来る人は少ない。だが清子の仕事は、少し時間がたたないとわからないこともあり、ここへやってきたのだ。
誰も居ない喫煙室で煙草を取り出すと火をつけて、携帯電話を取り出す。史からの連絡があり、史たちは昼前に宿を出発するらしい。おみやげを買っているというのんびりしたメッセージに返信をすると、清子は晶に連絡を入れる。
「もしもし……そう……こっちに来てるみたい。後で連絡をするといってきたわ。ねぇ……もしかして、あの人って私たちがしていることを知っているんじゃないの。」
安西の所へ行き、話を聞いた。手紙を渡されて、清吾のしていることがわかっていた。
「晶。そっちは仕事がまだある?……そう。」
時計を見ると、昼までには一時間ほど時間があるだろう。それまでに調べておきたいことがある。
「こちらで見てみる。え?……でもあなたが来ておかしいとは思わないかしら。」
表面上はパソコンのことについて話を聞きたいのだから、清子に会いたいと言っているのだ。なのに晶が付いてきたらそれはそれでおかしいだろう。
「そう……。だったら、秘書の人から連絡が来たときに話をしてみる。」
きっと秘書からは連絡がない。直接何度も連絡してきたからだ。表だって一社員と、社長が繋がっているなどばれてはいけないことだからだ。
それに変な噂も立てられたくはない。
女として生きていなかったのに、ここに来て「女であること」をイヤでも自覚させられるとは思ってもなかった。
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