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行方
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外に出るとまた雪が降ってきたようだ。厚い雲が昼間になっても気温を上げてくれないらしい。だが夕べ降っていた雪は、シャーベット状になり清子のパンプスを汚していく。
「パンプスって洗えんの?」
晶はそう聞くと、清子は首を横に振る。
「クリーニング屋さんとかに持って行ったりすることも出来るみたいですけど、汚れたら布で拭くくらいしか。というか、久住さんはもう仕事が終わったんですか。」
「んー。ほら、結局スキージャンプの大会自体が中止になったし、あとは前にあった祭りの雪像とかを撮るくらいで良かったから。あれも結構凝っていてさ。昨日、撮ってきたのでも事足りるってさ。」
「そうでしたか。」
支社長に勧めてもらったラーメン屋に向かおうとしたときだった。清子の携帯電話がなる。バッグからそれを取り出して見てみると、それは社長からだった。
「はい……。駅の方ですか?わかりました。」
清子が電話を切ると、駅の方をみる。
「どこにいるって?」
「駅の方に、レストランとか食堂ばかりが入ったようなビルがあるそうです。その中の屋上にあるカフェにいるそうです。」
「カフェ?レストランとかじゃなくて?」
「どちらにしても食事をのんびりしてする話ではありませんから。」
清子には確信があった。おそらく自分の想像は当たっている。社長がここまでやってきたのがいい証拠だ。そして社長もずっと清子に黙っていることがあるのだろう。
「久住さんはどうしますか。」
「俺も行くって言ってんだろ。」
「でも……。」
「文句言われたら、言われたときでいいんだよ。あとのことは考えんなって。あっちに帰っても同じだろ?」
自分でけじめを付けると言ったのだ。史にはきっと残酷なことを言わないといけないだろう。
駅前にある食事どころばかりを集めたビルは、案外広いし階数もあるようだ。さらに十階立ての屋上には、人工芝を敷き詰めたオープンカフェがあるらしい。
「この寒いのにオープンカフェにいるのか。」
「野外だとは限りません。」
一階は、スーパーのようになっているように見えるが、この土地の物産モノ、焼きたてのパンや弁当など、持って帰れるモノが中心らしい。
清子はそれを後目にエレベーターへ向かう。すると、晶は遅れてエレベーターに乗り込んだ。
「何か買ったんですか?」
「メロンパン。」
そういって袋の中身を見せた。甘い香りと香ばしい香りがする。
「美味しそう。」
「あとで食おうぜ。」
晶のこういうところが好きだ。きっと一人なら緊張して言葉も出なかっただろう。
一人で生きていける。そう思っていたのに、どうしてこんなに人に頼ってしまうようになったのだろう。手を差し伸べられたからと、それを掴むことはしなかったのに。
それが好きということなのかもしれない。清子はそう思いながら、晶の方を見上げた。
「どうした?」
「社長から何か言われたら、私が居て欲しいと頼みましたと言いますから。」
その言葉に晶は思わず清子の手を握った。凍っているように冷たい手だった。
やがて十階の屋上にやってくると、外に出た。相変わらず曇っていて、今にも雪が降りそうだと思う。そのオープンカフェはすぐに見つかった。チェーン化されているカフェだがオーガニックを唱っているカフェで、話だけは聞いているが入ったことはなかった。
「ここか。あー。ここ、愛が好きだったんだよな。」
「あぁ。そんな感じがしますね。」
体が資本のモデルだ。だから体に入れるモノは、こだわっているようだった。だからしっかり原材料が見えるものが好きなのだろう。
店の中に入ると、ギャルソンエプロンをつけた金髪の男が近寄ってくる。
「いらっしゃいませ。お二人様でしょうか。」
「待ち合わせ。三島って奴いねぇ?」
すると男はカウンター内にはいると、ファイルをチェックする。すると笑顔でうなづいた。
「こちらです。」
そういって案内したのは、入り口とは逆のテラス席だった。野外になっていて、街の風景が一望できる。だが吹きっさらしで寒いだろう。案の定、そこには社長と秘書の二人しかいない。
「……お待たせいたしました。」
ドアを開けられて、テラス席へ近づく。だが寒い。晶は忌々しそうに、ドアを閉めた男をみる。
「久住もやってきたというのか。」
「私が居て欲しいと頼みました。」
「まぁ。こちらにも澤村がいる。別にかまわない。」
すると晶は文句があるように社長に言う。
「社長さんよ。どうでも良いけど、寒くねぇか?こんな日が当たらない日に、テラス席で茶を飲んでる奴なんか居ねぇよ。」
その言葉に清子は驚いたように晶をみる。確かに晶は誰に対しても口が悪いが、社長に対してもこんな態度とは思ってもなかったからだ。
「寒ければ足下に電気ストーブを用意しよう。中では話せないことだ。」
だが社長は全く動じていない。そういう輩には慣れているのだろう。
「好きなモノを頼むといい。ここのコーヒー豆は国産のモノもある。」
コーヒーが好きなことも把握済みか。どこまでこの社長は知っているのだろう。
食事の時間くらいなのに、食事をするわけでもないのは清子が普段昼食を食べないから。食事をしてもほとんど食事ではなく酒を飲むこと。喫煙者であること。寒さに強いこと。飾りたてた高級なレストランを好まないこと。
全てが把握されているようで怖い。
社長の手元には灰皿があり、数本の吸い殻がある。待っていたのかもしれない。それくらいの話があることも全部把握しているのだ。
先ほどの店員が小型の電気ストーブを持ってきて、スイッチを入れる。そして清子と晶に赤いチェックの膝掛けを手渡してくれた。コレで割と温かくなるだろう。
そしてメニューを二人に手渡す。食事のメニューもあるが、ハンバーガー一つもサラダもオーガニックのモノで、ウサギの餌のようだ。
「飯を食って良い?」
「あぁ。徳成も食べてもかまわない。」
「そうですか……でもこのあと、味噌ラーメンでも食べようかと。」
その言葉に晶はふっと笑った。覚えててくれたのだ。
「支社長の言ってたラーメン屋、何時まで開いてるかな。」
「チェーン店のようでしたよ。空港にも支店があるそうです。」
「じゃあ、そこで良いか。ここは茶だけにしとこう。」
チェーン店の割には、コーヒーも紅茶もこだわっている。
「すいません。温かいレモネードを二つ。」
先ほどの店員にそういうと、店員は笑顔のままテラス席をあとにした。ドアを閉められると、スピーカーからピアノの曲だけが聞こえる。
「あちらにも支店はあるが、この風景はあっちでは見られない。」
「ビルばっかじゃん。」
晶はそういってポケットから煙草を取り出す。すると澤村という秘書が口を開いた。
「久住さん。あなたは社長の部下でしょう。上司の前でも喫煙をする気ですか。」
その言葉に晶は煙草をしまった。すると社長が少し笑う。
「澤村。この国ではそんなに厳しくはない。好きにさせておけばいい。そもそもそれが出来ない人間ではないのだろうし。」
「……何でそう思うの?」
「国によってはマナーが厳しいところもあっただろう。道ばたに唾を吐くだけで、罰金を取る国もある。」
「そういう国もあったよ。」
「久住はまたそっちの方へ行きたいと思っているのか。」
「いいや。今は特に。」
世界に憧れた時期もあった。一般的に知られていない国の、自然を撮ってきたこともある。今でもそこへ行きたいとは思うこともあるのだ。だが今は清子の側にいたい。自分が撮りたいのは清子の笑顔だったから。
「徳成はどうだ。」
「興味がないことはないです。」
ただ、二人でいればどこでも良いと思う。あの田舎の町でも、都会の片隅でもかまわない。
「パンプスって洗えんの?」
晶はそう聞くと、清子は首を横に振る。
「クリーニング屋さんとかに持って行ったりすることも出来るみたいですけど、汚れたら布で拭くくらいしか。というか、久住さんはもう仕事が終わったんですか。」
「んー。ほら、結局スキージャンプの大会自体が中止になったし、あとは前にあった祭りの雪像とかを撮るくらいで良かったから。あれも結構凝っていてさ。昨日、撮ってきたのでも事足りるってさ。」
「そうでしたか。」
支社長に勧めてもらったラーメン屋に向かおうとしたときだった。清子の携帯電話がなる。バッグからそれを取り出して見てみると、それは社長からだった。
「はい……。駅の方ですか?わかりました。」
清子が電話を切ると、駅の方をみる。
「どこにいるって?」
「駅の方に、レストランとか食堂ばかりが入ったようなビルがあるそうです。その中の屋上にあるカフェにいるそうです。」
「カフェ?レストランとかじゃなくて?」
「どちらにしても食事をのんびりしてする話ではありませんから。」
清子には確信があった。おそらく自分の想像は当たっている。社長がここまでやってきたのがいい証拠だ。そして社長もずっと清子に黙っていることがあるのだろう。
「久住さんはどうしますか。」
「俺も行くって言ってんだろ。」
「でも……。」
「文句言われたら、言われたときでいいんだよ。あとのことは考えんなって。あっちに帰っても同じだろ?」
自分でけじめを付けると言ったのだ。史にはきっと残酷なことを言わないといけないだろう。
駅前にある食事どころばかりを集めたビルは、案外広いし階数もあるようだ。さらに十階立ての屋上には、人工芝を敷き詰めたオープンカフェがあるらしい。
「この寒いのにオープンカフェにいるのか。」
「野外だとは限りません。」
一階は、スーパーのようになっているように見えるが、この土地の物産モノ、焼きたてのパンや弁当など、持って帰れるモノが中心らしい。
清子はそれを後目にエレベーターへ向かう。すると、晶は遅れてエレベーターに乗り込んだ。
「何か買ったんですか?」
「メロンパン。」
そういって袋の中身を見せた。甘い香りと香ばしい香りがする。
「美味しそう。」
「あとで食おうぜ。」
晶のこういうところが好きだ。きっと一人なら緊張して言葉も出なかっただろう。
一人で生きていける。そう思っていたのに、どうしてこんなに人に頼ってしまうようになったのだろう。手を差し伸べられたからと、それを掴むことはしなかったのに。
それが好きということなのかもしれない。清子はそう思いながら、晶の方を見上げた。
「どうした?」
「社長から何か言われたら、私が居て欲しいと頼みましたと言いますから。」
その言葉に晶は思わず清子の手を握った。凍っているように冷たい手だった。
やがて十階の屋上にやってくると、外に出た。相変わらず曇っていて、今にも雪が降りそうだと思う。そのオープンカフェはすぐに見つかった。チェーン化されているカフェだがオーガニックを唱っているカフェで、話だけは聞いているが入ったことはなかった。
「ここか。あー。ここ、愛が好きだったんだよな。」
「あぁ。そんな感じがしますね。」
体が資本のモデルだ。だから体に入れるモノは、こだわっているようだった。だからしっかり原材料が見えるものが好きなのだろう。
店の中に入ると、ギャルソンエプロンをつけた金髪の男が近寄ってくる。
「いらっしゃいませ。お二人様でしょうか。」
「待ち合わせ。三島って奴いねぇ?」
すると男はカウンター内にはいると、ファイルをチェックする。すると笑顔でうなづいた。
「こちらです。」
そういって案内したのは、入り口とは逆のテラス席だった。野外になっていて、街の風景が一望できる。だが吹きっさらしで寒いだろう。案の定、そこには社長と秘書の二人しかいない。
「……お待たせいたしました。」
ドアを開けられて、テラス席へ近づく。だが寒い。晶は忌々しそうに、ドアを閉めた男をみる。
「久住もやってきたというのか。」
「私が居て欲しいと頼みました。」
「まぁ。こちらにも澤村がいる。別にかまわない。」
すると晶は文句があるように社長に言う。
「社長さんよ。どうでも良いけど、寒くねぇか?こんな日が当たらない日に、テラス席で茶を飲んでる奴なんか居ねぇよ。」
その言葉に清子は驚いたように晶をみる。確かに晶は誰に対しても口が悪いが、社長に対してもこんな態度とは思ってもなかったからだ。
「寒ければ足下に電気ストーブを用意しよう。中では話せないことだ。」
だが社長は全く動じていない。そういう輩には慣れているのだろう。
「好きなモノを頼むといい。ここのコーヒー豆は国産のモノもある。」
コーヒーが好きなことも把握済みか。どこまでこの社長は知っているのだろう。
食事の時間くらいなのに、食事をするわけでもないのは清子が普段昼食を食べないから。食事をしてもほとんど食事ではなく酒を飲むこと。喫煙者であること。寒さに強いこと。飾りたてた高級なレストランを好まないこと。
全てが把握されているようで怖い。
社長の手元には灰皿があり、数本の吸い殻がある。待っていたのかもしれない。それくらいの話があることも全部把握しているのだ。
先ほどの店員が小型の電気ストーブを持ってきて、スイッチを入れる。そして清子と晶に赤いチェックの膝掛けを手渡してくれた。コレで割と温かくなるだろう。
そしてメニューを二人に手渡す。食事のメニューもあるが、ハンバーガー一つもサラダもオーガニックのモノで、ウサギの餌のようだ。
「飯を食って良い?」
「あぁ。徳成も食べてもかまわない。」
「そうですか……でもこのあと、味噌ラーメンでも食べようかと。」
その言葉に晶はふっと笑った。覚えててくれたのだ。
「支社長の言ってたラーメン屋、何時まで開いてるかな。」
「チェーン店のようでしたよ。空港にも支店があるそうです。」
「じゃあ、そこで良いか。ここは茶だけにしとこう。」
チェーン店の割には、コーヒーも紅茶もこだわっている。
「すいません。温かいレモネードを二つ。」
先ほどの店員にそういうと、店員は笑顔のままテラス席をあとにした。ドアを閉められると、スピーカーからピアノの曲だけが聞こえる。
「あちらにも支店はあるが、この風景はあっちでは見られない。」
「ビルばっかじゃん。」
晶はそういってポケットから煙草を取り出す。すると澤村という秘書が口を開いた。
「久住さん。あなたは社長の部下でしょう。上司の前でも喫煙をする気ですか。」
その言葉に晶は煙草をしまった。すると社長が少し笑う。
「澤村。この国ではそんなに厳しくはない。好きにさせておけばいい。そもそもそれが出来ない人間ではないのだろうし。」
「……何でそう思うの?」
「国によってはマナーが厳しいところもあっただろう。道ばたに唾を吐くだけで、罰金を取る国もある。」
「そういう国もあったよ。」
「久住はまたそっちの方へ行きたいと思っているのか。」
「いいや。今は特に。」
世界に憧れた時期もあった。一般的に知られていない国の、自然を撮ってきたこともある。今でもそこへ行きたいとは思うこともあるのだ。だが今は清子の側にいたい。自分が撮りたいのは清子の笑顔だったから。
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