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行方
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温かいレモネードがマグカップに注がれて置かれた。そして店員がテラスをあとにすると、もう邪魔をする人はいないだろう。清子はそう思いながら、レモネードに口を付ける。甘さは控えめにしていて、レモンの香りがする。
「さっきも思ったけど、この店、結構高いよな。でも理由がわかるよ。」
「どうしてだ。」
社長が聞くと、晶はそのレモネードを口にして言う。
「レモン。国産だろ?国産のレモンはまだ数が少ないし、砂糖だって色が付いてんのは黒糖だろうな。」
こだわっているわけではないが、自然としたが肥えたのだろう。きっとあの土地で育った清子も同じことを思っているはずだ。
「徳成清吾も同じことを言っていた。」
清吾の名前に清子が社長の方をみる。まさかそっちから切り出すとは思ってなかったからだ。
「父をご存じですか。」
「私の父の代からだ。」
この社長は末の子供だった。しかも本妻の子供ではなく、社長の愛人の子供だった。本妻との会いだには女性しか生まれなかったためだ。
「澤村は本来私の弟になる。」
だからこんなに気心が知れているだろう。だが澤村の表情は全く変わらないし、弟だからといって嫉妬することもないようだ。そもそも澤村には社長の器どころか、仕事があまり出来ないのだから仕方がない。
「私の上には本妻の間に数人の女子がいる。その一番上が、英子という。」
英子の名前に、聞き覚えがあった。
そうだ。自分の戸籍謄本を見たとき、自分の父親の欄には清吾。そして母親の欄には英子とかかれていたのだ。と言うことは、この社長とは親戚になるのかもしれない。ただ、戸籍上の繋がりはない。あるのは血の繋がりだけだ。
「母親は何してんだよ。まさか、別に家庭を持ってのうのうと暮らしてんじゃねぇだろうな。」
晶はそういうと、車掌は少し咳払いをして言う。
「声楽をしている。たまにはこちらに帰ってくることもあるが、拠点はヨーロッパの方だ。そこである男と夫婦になっている。」
「別に家庭を持っていたんですね。」
そんなところだろう。きっと清子は居なかったものとして祖母に預けられたのだ。
「姉が徳成を生んだのは、十三の時だ。」
「じゅっ……。」
若すぎる。その言葉に清子は驚いたように社長を見た。晶すら絶句していたように思える。
「私はまだ五歳ほどだったか。澤村もそんなに歳は離れていない。」
「……。」
「だが、よく覚えている。夜中にメイドたちが騒いでいてな。ずっと妊娠をしていたことを隠していたらしい。臨月まで隠し通せたのだから、相当だろう?」
関心がなかったのか、それとも臨月の腹が目立たなかったのかはわからない。夜中にメイドが騒いでいる声で起きたのだ。そして父親の怒号する声が聞こえた。
「こんな娘に育てた覚えはない。誰だ。父親は!」
歌が好きだった英子によかれとして歌のレッスンをつけた。その講師の知り合いとして紹介されたのが清吾で、二人は隠れるように逢瀬を重ねていたのだという。
「……そのころなら、父はまだ大学生だったはずですね。」
「その通りだ。だが大学でも飛び抜けて成績が良かったらしい。だが姉をそんな目に遭わせて、将来があるとは思えるか。」
無いだろうな。だから隠れるように影武者などをしていたのだろうか。
「だから影武者なんかしてたのか。」
すると社長はコーヒーを口に入れると、少し笑った。
「そうか。安西多恵子が持っていた手紙にはそんなことを書いていたのか。」
「……読んでいないのですか。」
「あぁ。蝋で封をしていた。そんなモノを破れば開封したあとがわかるだろう。」
「……。」
案外律儀な人だな。しかしこうではないと社長など務められないのかもしれない。
「徳成清吾に私はほとんど会ったことはない。だが父はずっと憎んでいる。英子が子供が出来なくなったのは、それがきっかけなのだから。」
「私が生まれたからですか?」
「その通りだ。」
十三くらいで、どうしてそんな選択をしたのだろう。もっと他に好きな人が出来ることを考えていなかったのだろうか。それくらい強烈に好きになったのだろうか。
「徳成。お前は父親の情報を集めていた。そこからみる父親像はどうだろうか。」
すると清子はいらいらしたようにテーブルを指で突き始めた。いらいらしているときにはよくある行動だ。
「落ち着けよ。清子。」
「……。」
「落ち着かないなら、一度一服すると良い。」
その言葉に澤村の方をみる。だが澤村は清子を一別しただけで何も言わなかった。
「澤村の言葉は気にしなくても良い。」
「社長。徳成さんに甘すぎますよ。」
ついに澤村が口を開いた。おそらく澤村は、清子を三島家のモノではなく一介の社員としか見ていないからだ。しかもまだ社員でもないのだ。
「かまわない。だから灰皿を置いているんだろう。久住も一服したければすればいい。」
そういって社長も煙草を取り出した。冷静に見えるが、社長もあまり落ち着いてはいないようだった。
清子は自分のバッグから煙草を取り出すと、それを口にくわえる。そして晶もまた煙草を取り出してジッポーで火をつけた。そのジッポーに澤村が少し視線を止める。
「調べてみれば見るほど、ろくな人ではないことがわかりました。」
清子は煙を吐いて言う。
「影武者をしているという噂が立った人たちは、その二、三年後に自殺をしている。祖母の葬儀にもくることはなかった。何より、「子供」と言っていながらも、一度たりとも顔を見ることはなかった。それだけで非人道的だと思います。」
「もしくはサディストだよ。」
「久住さん。」
晶も煙を吐き出すと、社長の方をみる。
「清子に編集長を近づけたのって、あんたの指示じゃねぇだろ?」
「……。」
「徳成清吾の指示だ。」
その言葉に清子は少しうなづいた。やはり晶もそれくらいは想像していたのだろう。
「清子が全くそういったことに興味を示さないから、無理矢理にでも示してやろうって思ったんだろうな。」
「……。」
「そっから、清子がうろたえて戸惑っているのを見たい。そう思ってんじゃねぇの?」
「……人の感情をなんだと思ってるんでしょうね。」
「そういう奴なんだよ。」
二人でそういいあうと、澤村が首を振った。
「そんな人ではありませんよ。」
「だったら何だよ。」
「徳成さんは……。」
すると社長が、焦ったように澤村に言う。
「澤村。それ以上は言うな。」
しかし晶が澤村の方を向いて言う。
「澤村さん。あんた、知ってんだったら全部言えよ。俺らだって言ってんだから。」
その言葉に社長の奥歯がきしむような音がした。やはりこの久住晶という男は危険だと。
「さっきも思ったけど、この店、結構高いよな。でも理由がわかるよ。」
「どうしてだ。」
社長が聞くと、晶はそのレモネードを口にして言う。
「レモン。国産だろ?国産のレモンはまだ数が少ないし、砂糖だって色が付いてんのは黒糖だろうな。」
こだわっているわけではないが、自然としたが肥えたのだろう。きっとあの土地で育った清子も同じことを思っているはずだ。
「徳成清吾も同じことを言っていた。」
清吾の名前に清子が社長の方をみる。まさかそっちから切り出すとは思ってなかったからだ。
「父をご存じですか。」
「私の父の代からだ。」
この社長は末の子供だった。しかも本妻の子供ではなく、社長の愛人の子供だった。本妻との会いだには女性しか生まれなかったためだ。
「澤村は本来私の弟になる。」
だからこんなに気心が知れているだろう。だが澤村の表情は全く変わらないし、弟だからといって嫉妬することもないようだ。そもそも澤村には社長の器どころか、仕事があまり出来ないのだから仕方がない。
「私の上には本妻の間に数人の女子がいる。その一番上が、英子という。」
英子の名前に、聞き覚えがあった。
そうだ。自分の戸籍謄本を見たとき、自分の父親の欄には清吾。そして母親の欄には英子とかかれていたのだ。と言うことは、この社長とは親戚になるのかもしれない。ただ、戸籍上の繋がりはない。あるのは血の繋がりだけだ。
「母親は何してんだよ。まさか、別に家庭を持ってのうのうと暮らしてんじゃねぇだろうな。」
晶はそういうと、車掌は少し咳払いをして言う。
「声楽をしている。たまにはこちらに帰ってくることもあるが、拠点はヨーロッパの方だ。そこである男と夫婦になっている。」
「別に家庭を持っていたんですね。」
そんなところだろう。きっと清子は居なかったものとして祖母に預けられたのだ。
「姉が徳成を生んだのは、十三の時だ。」
「じゅっ……。」
若すぎる。その言葉に清子は驚いたように社長を見た。晶すら絶句していたように思える。
「私はまだ五歳ほどだったか。澤村もそんなに歳は離れていない。」
「……。」
「だが、よく覚えている。夜中にメイドたちが騒いでいてな。ずっと妊娠をしていたことを隠していたらしい。臨月まで隠し通せたのだから、相当だろう?」
関心がなかったのか、それとも臨月の腹が目立たなかったのかはわからない。夜中にメイドが騒いでいる声で起きたのだ。そして父親の怒号する声が聞こえた。
「こんな娘に育てた覚えはない。誰だ。父親は!」
歌が好きだった英子によかれとして歌のレッスンをつけた。その講師の知り合いとして紹介されたのが清吾で、二人は隠れるように逢瀬を重ねていたのだという。
「……そのころなら、父はまだ大学生だったはずですね。」
「その通りだ。だが大学でも飛び抜けて成績が良かったらしい。だが姉をそんな目に遭わせて、将来があるとは思えるか。」
無いだろうな。だから隠れるように影武者などをしていたのだろうか。
「だから影武者なんかしてたのか。」
すると社長はコーヒーを口に入れると、少し笑った。
「そうか。安西多恵子が持っていた手紙にはそんなことを書いていたのか。」
「……読んでいないのですか。」
「あぁ。蝋で封をしていた。そんなモノを破れば開封したあとがわかるだろう。」
「……。」
案外律儀な人だな。しかしこうではないと社長など務められないのかもしれない。
「徳成清吾に私はほとんど会ったことはない。だが父はずっと憎んでいる。英子が子供が出来なくなったのは、それがきっかけなのだから。」
「私が生まれたからですか?」
「その通りだ。」
十三くらいで、どうしてそんな選択をしたのだろう。もっと他に好きな人が出来ることを考えていなかったのだろうか。それくらい強烈に好きになったのだろうか。
「徳成。お前は父親の情報を集めていた。そこからみる父親像はどうだろうか。」
すると清子はいらいらしたようにテーブルを指で突き始めた。いらいらしているときにはよくある行動だ。
「落ち着けよ。清子。」
「……。」
「落ち着かないなら、一度一服すると良い。」
その言葉に澤村の方をみる。だが澤村は清子を一別しただけで何も言わなかった。
「澤村の言葉は気にしなくても良い。」
「社長。徳成さんに甘すぎますよ。」
ついに澤村が口を開いた。おそらく澤村は、清子を三島家のモノではなく一介の社員としか見ていないからだ。しかもまだ社員でもないのだ。
「かまわない。だから灰皿を置いているんだろう。久住も一服したければすればいい。」
そういって社長も煙草を取り出した。冷静に見えるが、社長もあまり落ち着いてはいないようだった。
清子は自分のバッグから煙草を取り出すと、それを口にくわえる。そして晶もまた煙草を取り出してジッポーで火をつけた。そのジッポーに澤村が少し視線を止める。
「調べてみれば見るほど、ろくな人ではないことがわかりました。」
清子は煙を吐いて言う。
「影武者をしているという噂が立った人たちは、その二、三年後に自殺をしている。祖母の葬儀にもくることはなかった。何より、「子供」と言っていながらも、一度たりとも顔を見ることはなかった。それだけで非人道的だと思います。」
「もしくはサディストだよ。」
「久住さん。」
晶も煙を吐き出すと、社長の方をみる。
「清子に編集長を近づけたのって、あんたの指示じゃねぇだろ?」
「……。」
「徳成清吾の指示だ。」
その言葉に清子は少しうなづいた。やはり晶もそれくらいは想像していたのだろう。
「清子が全くそういったことに興味を示さないから、無理矢理にでも示してやろうって思ったんだろうな。」
「……。」
「そっから、清子がうろたえて戸惑っているのを見たい。そう思ってんじゃねぇの?」
「……人の感情をなんだと思ってるんでしょうね。」
「そういう奴なんだよ。」
二人でそういいあうと、澤村が首を振った。
「そんな人ではありませんよ。」
「だったら何だよ。」
「徳成さんは……。」
すると社長が、焦ったように澤村に言う。
「澤村。それ以上は言うな。」
しかし晶が澤村の方を向いて言う。
「澤村さん。あんた、知ってんだったら全部言えよ。俺らだって言ってんだから。」
その言葉に社長の奥歯がきしむような音がした。やはりこの久住晶という男は危険だと。
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