セックスの価値

神崎

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海に叫ぶ

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 インタビューをされるという事で、この部屋を使っていいと言われていた。ソファに竜と桂が並んで座り、その前のソファに芹沢が座った。
 彼はバッグから小さな録音機器を取り出して、録音ボタンを押す。
「最近女作ってます?」
「俺は奥さんが居るからな。子供もいるし。」
「いくつですっけ?」
「もう二十歳になるんだよ。今度、成人式。」
「若いときの子供ですねぇ。独身の桂さんの子供でもおかしくないわけだ。」
「まぁ。俺は昔貧乏だったし、自分で食うだけで精一杯だったな。」
「でもそのときからモテてたでしょ?」
「どうだったかな。確かに女は居た気がするけど、あんまり長続きしなかった。割とそのときからワーカーホリックでね。」
「お前のワーカーホリックは病気だよ。」
 竜はそう言って笑っていた。
「女も必要ないって言ってたっけ。その日だけって奴ばっか。」
「やめてくださいよ。尻軽みたいな。」
「その通りじゃん。」
 その言葉に芹沢も笑う。
「どうやって口説いてたんですか?」
「忘れましたよ。もうずっと女も作ってないし……。」
 女。その単語でまた彼女を思い出す。笑顔の印象的な女。ころころと表情が変わり、明るく笑う。でも彼女は……。
「どうしたんだよ。暗い顔をして。」
「何でもないですよ。」
「お前さ、最近おかしいよ。あ、悪いけど芹沢さん。その録音機器切ってくれる?」
 竜はそう言って芹沢にその録音機器のスイッチを切らせた。
「女は居ねぇかもしれねぇけど、好きな女でも出来たのか?」
 その言葉に彼の頬が少し赤くなる。それを誤魔化すために、頬に手を当てた。
「何だよ。中学生かお前は。」
「誰ですか?女優?やってるうちに感情でもわいてきたんですか?」
「違う。仕事でヤった女なんかすぐ忘れるし。」
 証拠に、さっきヤった女の顔をも忘れている。綺麗だったとしか言いようがない。胸ばかり大きな印象の薄い女だ。
「だったら何だよ。いや。別にこの際相手なんかどうでもいいわ。何で行かないんだよ。お前に言い寄られて悪い気する女なんか居ねぇと思うけどな。」
「拒否されてばかりですよ。」
「何で?桂さんに言い寄られて断るなんてすげぇ女だな。」
「人のものだから。」
 その言葉におもわず二人は黙ってしまった。まさか人妻と言う言葉が出てくるとは思わなかったから。
 一瞬沈黙する。そして芹沢が口を開く。
「人妻はダメっすね。」
「芹沢。」
 その言葉に竜が言葉を挟む。しかし止める気はない。
「俺一度不倫したことあるんですよ。誘われて、言われるがまま寝て、でもさ、結局女は子供なり旦那なりしか見てない。だんだん俺って何だろうって思えてきましたよ。」
「どれくらい続いたんだ?」
「それでも一年くらいかな。セックスが良かったから。あっちもずっとレスだったみたいだし。でも、セックスの時の「好き」とか、「愛してる」とかあっちには全部嘘ですよ。」
 芹沢の手が震えている。あのころは幸せだったかもしれないが、今思い出せば空しかった。いい思い出とも思えない。
「どんな女だった?」
「普通の主婦みたいな。俺、母親居なかったからあぁいう女が好きだったのかもしれないけど。」
「そう言うのは考えられるな。桂は両親居るんだっけ?」
「居ますよ。元気です。」
「だったら母親を追ってるってのは少なくとも無いな。」
 追っているのは少なくとも自分じゃない。彼女の方だ。父親の影を追って、きっとあの男の側にいるのだ。
「でもつき合ってる訳じゃねぇんだろ?」
「まぁね。相手にもされてない。だから俺は女の口説き方なんかわからない。悪いな。」
「でも遊んでたじゃん。」
「昔の話ですよ。」
「その方法でいいですよ。教えてくださいよ。」
 そう言って彼はまた録音機器にスイッチを入れる。

 ハウススタジオを出ると、別のスタジオへ向かう。次の仕事は初めてAVに出る女らしい。どうやら初めてだからと、キャリアがそれなりに長く顔のいい彼がいいと言われたらしい。
 そして別のハウススタジオに着いた。約束の時間より少し遅れてしまった。芹沢のインタビューが少し長くなってしまったからだ。余談が過ぎたと彼は少し思いながら、そのドアを開けた。
「あ、桂さん。」
「遅くなった。悪いな。」
「いいえ。女性の方もまだ決心が付かないって言ってたんで。」
 そう言うことは多い。気持ちよくしてもらって、自分が主役になれ、一本出ると破格のお金がもらえる仕事だ。それで飛びつく女性も多いが、いざとなると後込みする人もそれなりにいる。
「どこの部屋使えばいい?」
「あ、奥です。案内します。」
 スタッフは荷物を持ったまま、彼を案内する。そして使われない部屋に案内されると、かかっている衣装に目を移した。普通の格好だ。自分が今日着てきた服とそんなに変わらない。
 彼はブレスレットと腕時計をはずす。それをテーブルの上に置くと、台本を手にした。あってもなくてもいいようなものだが一応目を通すのだ。そしてその側にあるプロットに目を通す。
「……。」
 やはり初めて出る相手だと言うことで、ノーマルなモノばかりだ。それになんだか自分にもスポットが当たっている気がする。
 監督の名前を見てみると、女性だった。この業界では女性の監督は珍しい。
 そのとき彼の部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「どうぞ。」
 やってきたのは小柄な女性だった。ショートカットで、ジーパン。まるで男の子のようにも見える。
「あ、初めまして。監督の東です。」
「東さん?」
 聞いたことのある名字だと思った。彼女は少し気後れたように口を開く。
「嵐の娘なんです。」
「あぁ。だから。初めてですか?」
「えぇ。今までずっと女性向けのAVの会社にいたんですけど、お前も撮ってみないかって言われて。」
 まぁ親の七光りと言うところもあるのだろう。それが面白くない人もいるだろうに。
「ということは、これ、女性向けですか?」
「えぇ。今日の相手役の早紀ちゃん初めてなんで、優しくお願いしますね。」
「わかりました。」
「出来れば恋人にするようにしてみてください。」
「……。」
 もし春川とセックスすることがあれば、彼は優しくできる自信はない。一晩中続くかもしれないし、何度も達してしまうだろう。気が狂うようなセックスをしたいと思っている。
 なのにそれが恋人にするようにというのは滑稽だと思う。
「どうしました?」
 東はそう言って彼を心配そうにみる。
「やりますよ。優しくね。」
 一瞬暗い表情になった。だが次の瞬間はいつも通りになる。
 東は部屋を出て、ふっとため息を付いた。初めてだらけのことに、彼のような慣れている人が居て良かった。
 それに最近彼は評判がいい。彼女は気合いを入れると、また女性の部屋の方へ向かった。
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