セックスの価値

神崎

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人体改造の男

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 向かい合って二人で食事をしていても、互いの携帯電話がせわしく鳴りゆっくりと会話を楽しむことはない。
 幸は食事を作ると帰って行った。後かたづけはするからと、春川が帰してしまったのだ。
 幸の食事は味が少し濃い。それが彼女の好みなのかもしれないが、あまり量は食べられない。卵焼きを一つ口に入れると甘かった。そこへ電話が終わり戻ってきた祥吾が彼女に声をかける。
「進んでないね。どうしたの?」
「……いいえ。」
「幸さんの食事は少し濃いからね。どうしても口に合わないのかな。」
「前にも言ったと思うんですけどね。」
「君は若いから濃い味の方が好きなのだろうと、彼女はずっと思っているみたいだね。」
「施設の食事に慣れてたのかもしれませんね。」
 十四の時、児童福祉施設に入った。両親がいなくなり、姉も行方不明になったからだ。そこでは同じような境遇の人が沢山いたが、さすがに彼女のように両親が殺し合ったなんて言う人はいなかったように思える。
 だから彼女は施設の職員からも、「可愛そうな子」という扱いを受ける。それは不服だったが、そうしていた方が円滑に回るならそれでいいと十八までそこにいることにした。
 おそらくそこで笑顔の仮面と、表面上の明るさを手に入れたのだ。同時に、世渡りするための人間関係を円滑にする為の処世術も手に入れたのだろう。それが彼には出来ない。
「夕べはAVの世界の飲み会とやらに出ていたのだろう?どうだったかな。」
「普通の企業と何も変わらない感じがしましたね。以前に北川さんに誘われて、出版社の打ち上げというものに出たことがありましたけどそれと何も変わりませんよ。」
「そうだね。」
「AVといっても若い人だけじゃないし、男性だけではないですね。AV男優も大変だけどおそらくあの場の一番の功労者は、女優についているメイクさんやスタッフの女性だと思います。あぁいう人をモデルに書いてみたいなぁ。」
 その言葉に彼は少し笑う。
「どうしました?」
「やはり君は、小説の話をしているときが一番いい顔をしている。どんな文章でも書ければいいといっていたけれど、自分で組み立てて、自分で作った話を、文章にするのが好きなんだろうね。」
「……そうでしょうか。」
「だからといって彼らとあまり深く関わってはいけないよ。」
「え?」
 ドキリとして、向かいに座っている彼をみる。
「いずれ君も出演しないかとか、そんなことを言い出すに決まっている。」
「色気不足ですよ。出演できるほど……。」
「それこそ、女性の手でどうにでも変わるんじゃないのかな。」
 彼はそういって味噌汁を口に運ぶと、彼女をみる。
「しかし君のその体を他の人に見せたくはない。」
「……。」
「春。今日こそ、お風呂に入ったら私の部屋に来なさい。」
「……あの……。」
「どうした?何か仕事があるのか?」
「いいえ。急いでしないといけない仕事はないのですが……。その……来てしまって……。」
 少し赤くなって彼女はいう。すると彼はため息を付いて、横を向いた。
「仕方ないね。またにしよう。」
「すいません。」
「こればかりは女性の体だ。かまわないよ。」

 お風呂に入り、体を洗っているとまだ性器が濡れている感じがした。泡とともに赤い血が混じり、それと何か違うものが濡れている感じがする。
「今日は撮影の仕事がないから。」
 桂はそういって彼女を何度も何度も抱いた。その後にタイミング良く生理が来たのだ。正直、来て良かったと思う。
 一番最初にしたとき彼を感じたいと思って生でしてみたが、よくよく考えれば自分だって子供が出来ない体じゃないんだと思う。
 今子供が出来れば、どう見てもおかしいだろう。祥吾とは全くしていないのだ。
 お風呂からあがり、自分の部屋へ向かおうとしたときだった。祥吾が部屋に入っていくのを見る。彼女がこちらに来るのを見て、彼は少し笑った。
「いい香りだね。」
「そうですか?同じシャンプーですよ。」
「春。少し中に入りなさい。」
 セックスは出来ないといっているのに、何の用事があるのだろう。彼女は少し不思議に思いながら、彼の部屋に入っていった。
 すると彼はベッドに腰掛けると、彼女にも腰掛けるようにいう。
「あの……何……。」
 春は彼を見上げて、戸惑ったように聞く。
「春。夕べは本当に誰もいなかったのか?」
「え?」
「どうも最近、君の周りに男性がいるような気がするんだ。それも……手練れた人だ。」
「誰がいるんですか。祥吾さん。」
 彼女は少し笑い、彼を見上げる。
「たとえば……あの桂という男とか。」
 桂の名前が出て、少し戸惑った。だが悟られてはいけないと、彼女は誤魔化すように彼の体に身を寄せる。
「やめてくださいよ。そんなことを言うの。」
「疑えばきりがない。君は外にでるが私は外には滅多に出ないから、疑ってしまうのかもしれないな。」
 彼は彼女の肩を抱きそして少し力を入れて、彼女を離す。
「無理矢理したくなる。君のその血が出ているところに突っ込みたくなるからやめてくれないか。」
「……そうでしたか。すいません。」
 彼女もすっと彼のそばから離れる。すると彼は彼女の右手を握り、自分の太股に触れさせた。それは何をさせたいのか彼女でもわかる。彼の視線が降りてきた。
 目を瞑り、彼女はそれを甘んじて受けた。頬に触れる手、髭の感触、すべてが馴染んでいたのに今は複雑で、思わず拒否したくなりそうになる。
「……。」
 言葉はなかった。浴衣の帯に手を伸ばしそれをはずす。出てきた下着を取ると、もうそれは僅かに堅くなっている。昼におそらく女性に突っ込んだはずなのに歳の割に元気なことだ。
 それは桂も一緒かもしれない。僅かに歳が下の彼だ。
 彼女はそれに手を伸ばして、舌を伸ばす。
「んっ……。春。こっちを見て。」
 頬が赤くなる。こんなに上手だったか。イヤ。彼女のことだ。調べたとか、そんなところだろう。そうではなければ、あの男に仕込まれたのか。
「春……。」
 卑猥な音が部屋に響く。彼は耐えきれないように、彼女の体に手を伸ばした。乳房に触れると、彼女の口からも吐息が漏れる。
「んっ……。」
 手のひらで大きくなる。そして口に含む。たまに吸い込み、舌で刺激をして、彼の頬が赤くなる。
「あっ……春。出るっ。」
 彼女の口の中にそれを出す。すると彼女はそれを口で受け止めた。
 久しぶりに彼女を味わった気がする。祥吾は肩で息をして、彼女を抱きしめようと手を伸ばした。しかし彼女はすっと離れて、ティッシュの中にそれを吐き出す。
「気持ち悪かったか。」
「思ったよりも美味しくはないものですね。それに今は、体が普通じゃないので。」
 桂だったら。彼だったらためらい無く飲んでいる。それが愛している人との違いなのかもしれない。
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