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別居
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未成年の性の奔放さは、呆れるほどだった。確かに雑誌で女子高生に扮した女優のグラビアを載せることもあるが、コレが本当に女子高生なら立派な風俗嬢かAV女優になりそうだと北川は心の中でため息をつく。
それくらい春川が書いたコラムは生々しかった。つわりが始まった北川にとってそれは気分のいいものではない。そのときだった。
「北川さん。お客様ですよ。」
後輩の男の子が、彼女に声をかけてきた。彼女は立ち上がり、ふと後ろを見る。そこにはジャンパーを脱いで汗だくになっている春川の姿があった。
「どうしたんですか?そんな汗かいて。」
「エレベーター来ないから、階段で来た。すげぇ暑いの。ジャンパーなんか着てられるかってくらい。」
「え?一階から?マジで?」
「だって負けてられないじゃん。」
「誰に?」
「桂さんもついてきたから。」
「桂さん?ここいるんですか?」
「一緒に階段駆け上がってきたんです。」
一階から七階まで駆け上がってきたのだ。確かに汗だくになるかもしれない。
「プロット出来たんで、コレを渡して欲しいんですよ。」
彼女はそういって封筒を渡した。
「もう出来たんですか?」
「ショートショートだからいらないかと思ったけれど、ちょうど面白い店をこの近くで見つけてそこで書いてしまいました。これでOKなら書き始めます。」
「マジで?ちょっと私読んでいいですか?」
「えぇ。でも他の部屋で読んでください。」
「じゃあ、缶詰部屋で。」
北川は朝までいた缶詰部屋に彼女を案内して、そして自分も入る。
封筒を開けて、それに目を通した。
「……。」
プロットを見られているときが一番緊張する。何せ今回のは、十八禁要素が全くないものだ。と言うことは純粋に文章と発想を評価されるだろう。今までになく緊張してたかもしれない。
「いいですね。と言うか……十八禁要素無くても書けるんですね。驚いた。」
「良かった。」
「老夫婦がやってる喫茶店の話ですね。すごいほんわかしてて、今までの作風と全く違うし。たぶんこのラストの見せ方で読者の見方まで変わりますよ。」
「さぁ。どうでしょうね。好きなものを寄せ集めて書いたので、下調べをもう少ししないといけませんが。」
しかし彼女は心配そうにいう。
「春川さん。クマ出来てますよ。」
「あら?本当に?」
「寝てないですからね。少し寝ます?仮眠室あるし。」
「うーん……帰ろうかな。」
「駄目です。帰るって言って資料集めとかするでしょう?無理するんだから。」
その言葉に春川は少し笑う。
「ばれたか。」
「今の時間なら誰もいないと思うんで、案内しますよ。コレ、渡しに行くから。一緒に行きましょう?」
本当は体が悲鳴を上げているのに、おそらく寝れないだろうと思った。だから仕事をして気を紛らわせたかったのだ。
「やっぱ、帰ります。」
「駄目です。桂さん呼びますよ。あっちの仕事が終わり次第来てくださいって伝言しておきます。」
「……なんで?」
「無理するからです。うちの仕事も、「読本」の仕事も焦ってする事じゃなかったのに。」
焦って仕事をしないと、何かをしないと、全てに押しつぶされそうだった。だから仕事をしていたのだ。
北川に案内された仮眠室は、校了の前など帰れない人が少しだけ仮眠をする場だった。だから置いているのもあまりふかふかのベッドというわけでもない。二段ベッドが二つ。四人まで寝れるらしい。
「どこで眠ってもいいです。あとでシーツをはがしておいてください。」
シーツを持ってきて、彼女は春川に渡す。すると春川は不安そうに彼女に言う。
「マジで呼ぶんですか?」
「桂さん?本当に呼びましょうか?でもここでされてもねぇ。」
「あぁ。セックス?わかんないな。彼は所かまわない人だから。」
それはあんたもだろう。そう北川は思いながら、遮光カーテンを引いた。
「寝てなかったら、マジで呼びますから。」
「やーね。妊婦さんってイライラしてて。」
「イライラさせてるんでしょ?」
そういって、北川は仮眠室を出て行った。そして表の札をひっくり返す。女性が使用中の時は、赤い札を下げるのだ。
「あれ?誰か使ってる?校了のとこがこのフロアであったっけ?」
青木が向こうからやってきた。
「ちょっと無理をさせたんで。」
「秋野さん?夕べ寝てないって言ってたもんね。で。修正か何かで呼んだの?」
「いいえ。ちょっと別件で。」
「ライターに無理させちゃいけないよ。でもあのライターって、うち専属じゃないんでしょ?」
「まぁ、そうですよ。」
「帰らせればいいのに。」
「帰っても寝ない人だから。」
「北川さんも寝れてる?」
「最近すぐ眠くなっちゃって。」
「つわりだよ。無理しない方がいいよ。妊婦さんなんだから。」
イヤに紳士だ。彼も彼女が好きだとか何だとか、言ってきた割にはそういうことを言うのだ。
「まぁ、そうですね。」
「旦那さん帰ってきてる?」
「今地方に行ってて、明日帰ってきますけど。」
「地方で撮ったりするんだね。AVって。」
「まぁ。公で出来る仕事じゃないから。」
それに達哉は最近、帰ってきてもパソコンの前にいることが多い。AVのメーカーから監督をしてみないかという誘いがあるらしい。二十代にしては異例だろう。だから張り切っているように思える。
おそらく将来は男優ではなく、こういう仕事をしてみたいと思っているのかもしれない。だったら一生こういう仕事に携われるかもしれない。
桂はどうなんだろう。達哉よりも年上で、まだ現役だ。だが一生出来る仕事ではない。このままタレントのような、または役者としてやっていってもかまわないのかもしれない。
だがAV男優だったというのは、結局足かせになるのだ。犯罪者でもないのについて回ることだ。昔ならそれで良かったのかもしれないし、そういう経歴の役者もいる。だが今は時代が違う。
それを含めて彼女とつきあっているのだろうか。そして彼女もそれをわかっているのだろうか。将来を考えないでつきあっているとは思えないのに。
いや考えていないか。そうだ。何にしても不倫の関係だ。不倫の関係が後先を考えているわけがない。父がそうしたように。
それくらい春川が書いたコラムは生々しかった。つわりが始まった北川にとってそれは気分のいいものではない。そのときだった。
「北川さん。お客様ですよ。」
後輩の男の子が、彼女に声をかけてきた。彼女は立ち上がり、ふと後ろを見る。そこにはジャンパーを脱いで汗だくになっている春川の姿があった。
「どうしたんですか?そんな汗かいて。」
「エレベーター来ないから、階段で来た。すげぇ暑いの。ジャンパーなんか着てられるかってくらい。」
「え?一階から?マジで?」
「だって負けてられないじゃん。」
「誰に?」
「桂さんもついてきたから。」
「桂さん?ここいるんですか?」
「一緒に階段駆け上がってきたんです。」
一階から七階まで駆け上がってきたのだ。確かに汗だくになるかもしれない。
「プロット出来たんで、コレを渡して欲しいんですよ。」
彼女はそういって封筒を渡した。
「もう出来たんですか?」
「ショートショートだからいらないかと思ったけれど、ちょうど面白い店をこの近くで見つけてそこで書いてしまいました。これでOKなら書き始めます。」
「マジで?ちょっと私読んでいいですか?」
「えぇ。でも他の部屋で読んでください。」
「じゃあ、缶詰部屋で。」
北川は朝までいた缶詰部屋に彼女を案内して、そして自分も入る。
封筒を開けて、それに目を通した。
「……。」
プロットを見られているときが一番緊張する。何せ今回のは、十八禁要素が全くないものだ。と言うことは純粋に文章と発想を評価されるだろう。今までになく緊張してたかもしれない。
「いいですね。と言うか……十八禁要素無くても書けるんですね。驚いた。」
「良かった。」
「老夫婦がやってる喫茶店の話ですね。すごいほんわかしてて、今までの作風と全く違うし。たぶんこのラストの見せ方で読者の見方まで変わりますよ。」
「さぁ。どうでしょうね。好きなものを寄せ集めて書いたので、下調べをもう少ししないといけませんが。」
しかし彼女は心配そうにいう。
「春川さん。クマ出来てますよ。」
「あら?本当に?」
「寝てないですからね。少し寝ます?仮眠室あるし。」
「うーん……帰ろうかな。」
「駄目です。帰るって言って資料集めとかするでしょう?無理するんだから。」
その言葉に春川は少し笑う。
「ばれたか。」
「今の時間なら誰もいないと思うんで、案内しますよ。コレ、渡しに行くから。一緒に行きましょう?」
本当は体が悲鳴を上げているのに、おそらく寝れないだろうと思った。だから仕事をして気を紛らわせたかったのだ。
「やっぱ、帰ります。」
「駄目です。桂さん呼びますよ。あっちの仕事が終わり次第来てくださいって伝言しておきます。」
「……なんで?」
「無理するからです。うちの仕事も、「読本」の仕事も焦ってする事じゃなかったのに。」
焦って仕事をしないと、何かをしないと、全てに押しつぶされそうだった。だから仕事をしていたのだ。
北川に案内された仮眠室は、校了の前など帰れない人が少しだけ仮眠をする場だった。だから置いているのもあまりふかふかのベッドというわけでもない。二段ベッドが二つ。四人まで寝れるらしい。
「どこで眠ってもいいです。あとでシーツをはがしておいてください。」
シーツを持ってきて、彼女は春川に渡す。すると春川は不安そうに彼女に言う。
「マジで呼ぶんですか?」
「桂さん?本当に呼びましょうか?でもここでされてもねぇ。」
「あぁ。セックス?わかんないな。彼は所かまわない人だから。」
それはあんたもだろう。そう北川は思いながら、遮光カーテンを引いた。
「寝てなかったら、マジで呼びますから。」
「やーね。妊婦さんってイライラしてて。」
「イライラさせてるんでしょ?」
そういって、北川は仮眠室を出て行った。そして表の札をひっくり返す。女性が使用中の時は、赤い札を下げるのだ。
「あれ?誰か使ってる?校了のとこがこのフロアであったっけ?」
青木が向こうからやってきた。
「ちょっと無理をさせたんで。」
「秋野さん?夕べ寝てないって言ってたもんね。で。修正か何かで呼んだの?」
「いいえ。ちょっと別件で。」
「ライターに無理させちゃいけないよ。でもあのライターって、うち専属じゃないんでしょ?」
「まぁ、そうですよ。」
「帰らせればいいのに。」
「帰っても寝ない人だから。」
「北川さんも寝れてる?」
「最近すぐ眠くなっちゃって。」
「つわりだよ。無理しない方がいいよ。妊婦さんなんだから。」
イヤに紳士だ。彼も彼女が好きだとか何だとか、言ってきた割にはそういうことを言うのだ。
「まぁ、そうですね。」
「旦那さん帰ってきてる?」
「今地方に行ってて、明日帰ってきますけど。」
「地方で撮ったりするんだね。AVって。」
「まぁ。公で出来る仕事じゃないから。」
それに達哉は最近、帰ってきてもパソコンの前にいることが多い。AVのメーカーから監督をしてみないかという誘いがあるらしい。二十代にしては異例だろう。だから張り切っているように思える。
おそらく将来は男優ではなく、こういう仕事をしてみたいと思っているのかもしれない。だったら一生こういう仕事に携われるかもしれない。
桂はどうなんだろう。達哉よりも年上で、まだ現役だ。だが一生出来る仕事ではない。このままタレントのような、または役者としてやっていってもかまわないのかもしれない。
だがAV男優だったというのは、結局足かせになるのだ。犯罪者でもないのについて回ることだ。昔ならそれで良かったのかもしれないし、そういう経歴の役者もいる。だが今は時代が違う。
それを含めて彼女とつきあっているのだろうか。そして彼女もそれをわかっているのだろうか。将来を考えないでつきあっているとは思えないのに。
いや考えていないか。そうだ。何にしても不倫の関係だ。不倫の関係が後先を考えているわけがない。父がそうしたように。
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