テロリストと兵士

神崎

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 鼠が殺されるのは、王家の中でもあまり評判の良くない人に限られる。黄の家臣は王家の金を横領していたし、その前の緑の家臣は他の国から密輸をして私腹を肥やしていた。自分は違う。何もしていない。金を使い込んでもいないし、私腹も肥やしていない。
 紫の家臣である男はそう思いこんでいた。
 だが彼もまた罪を犯している。紫のベールを脱いだ彼は、部屋で瞑想をしながらもある人物を待っていた。
 そっとふすまを開けるのは、少女と言えるくらいの女だった。雪がまだ降る山の中で、薄く白いワンピースを着ている。
「僧正様。」
 位の高いその人に彼女はそう声をかける。すると彼はニヤリと笑い、少女を迎え入れた。
「これも修行だ。わかるな。笑。」
 笑うと書いて、笑。だがその表情は名前とは裏腹だった。
「僧正様。これは大僧正様もしてきたことなんですか。」
「そう疑問に思うことが罪なのだよ。さぁ。私に全てをゆだねなさい。」
 彼はそう言って彼女の体に触れる。
 ワンピースを脱がせると下着一枚つけていない彼女。膨らみかけた胸に触れると、彼女は吐息を漏らした。
 そしてその下にも指を触れると、みだらな音が部屋に響いた。まだ生えていないそこの部分は、しっかりと感じていて、寒いと思っていたその体は熱くなる。
「下には入れない。その後ろに入れる。下に入れると大僧正様にばれてしまうからな。」
 排泄しかしないところに無理矢理入れ込む。
 そうやって彼は溜まった精を放出させていたのだ。

「鬼畜なロリコンだな。」
 身も蓋ももない言葉を藍は言う。そして紫練からもらった書を火に投げた。
”彼の罪は償わせます。なので命だけは助けてやってください。”
 そう書いていたような気がする。こんな奴、助ける気も起きないが王の名に背くわけにもいかない。
「紅花殿。」
 寺から少し離れたところで、兵を待機させていた藍に緑称が声をかける。彼の手には最新型の銃が握られていた。
「どうしたんだ。」
「鼠が来るという噂だが、本当だろうか。」
「鼠にでも食わせてやりたい奴だが、あいつがおとりになるのだったら喜んで手を貸そうと言っている。まぁ。立場的にも助けないといけない相手だがな。」
「一応紫の家臣だ。そう冷たいことを言うな。それより、この武器は使える奴はいるか?」
 そう言って彼は銃を彼に渡す。
「見た限りでは使いこなせるのは三人くらいだ。」
「三十はいるような兵に、三人か。そんなもので大丈夫か?」
「鼠一匹に三十も使うとは思ってもなかったな。」
「銃より剣や弓の方が使い勝手が良いという奴が多い。まぁ、俺が仕込んだから仕方ないのかもしれないが。」
 夕べから藍はとても機嫌が良い。おそらくあの食堂の女と何かあったのだろう。単純な奴だ。肩の力が抜けて、軽口を叩くこともある。
「紫練殿はこっちに来ないと聞いているが。」
「あっちはあっちで忙しいらしい。無駄な金を使った寺院が忙しいのだろう。」
 まぁ、毒舌は変わらないか。少し笑いながら緑称は彼からまた銃を受け取った。
 あの街に帰ったら、また「旬食」へ行こう。累の食事を食べて、そして累を抱いて、思うだけでゾクゾクする。
 今になって緑称の気持ちが分かると思っても見なかった。愛するモノがいれば、帰ってくると思うこともあるだろうと彼はいつも言っていた。甘い奴だと鼻で笑ったが、帰ってくれば累の顔を見ることができる。そして彼女の甘い声を聞くことができる。彼女の温もりを感じ、彼女の腕が自分を包むことができる。
 あくまで自分が二番目だと自覚しても。
「累は、良い女だったか?」
「あぁ。」
「素直だな。」
 藍の言葉が意外だった。誤魔化すと思ったのに。
「単純にそう思うからか。隠す必要もないだろう。さて、そろそろだな。」
 月が雲に隠れた。出てくるとしたらそろそだろう。そのときを狙うのだ。

 風が月を隠した。壁を上り庭に降り立った黒い影がいる。黒い頭巾をかぶり目元だけを出した累だった。黒ずくめの服に身を包み、腰にはナイフと銃がある。そしてもう片側には小さな爆薬がある。今回はこの建物自体をつぶす気だからだ。
 縁側に足を乗せて、足を進める。深夜だ。見回りの僧がいるかもしれないが、そんな奴が騒がれ絵は面倒だと思う。誰か来ればさっと隠れる。
 そしてあらかじめ下調べをしておいた障子の前に立つ。下の方にしゃがめば影は映らないだろう。
 そしてそっとそこを開ける。気が付いていないようだ。高いびきが声が聞こえる。呑気な奴だ。
 ナイフを柄から取り出して構えた。そして布団に向かってそろそろと足を進めた。ナイフを構えて、上等なふかふかの布団をはいだ。
「!」
 違う。
 そこで寝ていたのは、女だけだった。
「きゃ……。」
 甲高い声が響きそうになって、累はその口をふさぐようにナイフを首に突き立てた。血が噴水のように吹き出て彼女の黒い服に飛び散る。畳やふすまに血が飛び散った。
「くそ。」
 わずかに声を上げて、まだ痙攣している女の上に布団を掛ける。どこにいるんだ。顔はわからない。着ているモノは紫の法衣。だが寝ているときも僧とは限らないだろう。
「何だ。この臭いは。」
 影に身を潜めていると、男の声がした。そちらを見ると恰幅のいい男がその部屋に入ってくる。おそらくこいつだ。
 有無も言わずに彼女は後ろ手でふすまを閉めると、ナイフでその男を背中から刺す。
「……!」
 そのナイフを抜くと、こちらを見た男の首を狙ってナイフを切りつけた。気道や声帯まで達したそいつは声を上げずに倒れていった。奇しくも、布団の上には倒れずに畳の上に倒れ込んでいく。
 どすんという音がして、思わず彼女は焦った。
「何の音だ。」
「誰か倒れたのか。」
 町中とは違う静かなところだ。少しの音でも見回りの僧が気が付くのだろう。
 素早く指を切り取り、廊下ではなく隣の続き間に足を踏み入れた。
「誰だ?」
 男が眠っていた。そいつも恰幅のいい男だ。見られてはいけない。彼女はそのナイフをまた取り出して、そいつの首をかっ切る。もう手袋は血でべとべとしていた。
「死んでるぞ!」
「紫の家臣様は無事か。」
「隣だ!」
 くそ。こいつがターゲットだったのか。彼女は急いで指を切り取り、白い布にくるんだ。そしてそのままふすまに入っていった。そこからなら天井裏に踏み入れることができるはずだ。
 そしてその予想は当たっていた。天井裏につながるそこに手を置くと、うまくはずれた。その前に、ふすまを開けてその爆弾を投げ入れる。天井裏にやってくると外へ向かって走っていった。中腰の状態で走るのはすあまり早くはないだろう。それでも爆弾が爆発する前にはいけるはずだ。
 そしてやっと屋根の板をはずすと、瓦を外して外に出ることができた。そのときドン!という振動が足下に響いた。

「ぎゃああああ!」

 静かな山に絶叫が響いた。
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