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大きな手だ。そしてごつごつしている。それは戦士の手。いずれ藍は累を殺すだろう。用心棒としてだけではない。指示とはいえ、彼の親友でもあった緑称を殺したから。
その手が彼女の手を握る。離したくなかった。そして誰にも渡したくなかった。彩にも真にも渡したくない。誰がなんと言おうと知らない。ただ今日は彼女と居たかった。
藍に連れられたのは、港だった。まだ人が多く、その多くが楽しく酔っぱらっている。桜が咲いていて、花見をするためにいるのかもしれない。
そして二人は酔っぱらいたちが居るところを避けて、その横の通りに足を進めた。そこには数件のモーテルがある。きらきらと光る建物が建ち並んでいるが、どこも満室らしい。その中の一件の前で彼は足を止めた。
ぐっと手を握る力を強めて、彼は彼女とともにその建物の中に入っていった。一軒一軒独立したモーテルになっていて、その前には車が止まっていたり光が漏れている。
その中の一軒の建物に足を進めた。すると中は少し暖かく、灯油の匂いがする。ストーブを焚いているらしい。そして奥のカウンター席に一人の女性が座っていた。
「いらっしゃい。」
老人ともいえる女性で、その割には化粧が濃い。しわの中に化粧が入っている。
「いらっしゃい。」
「部屋が空いているか?」
「あぁ。あんたか。やっと女を連れてきたんだねぇ。」
「からかうな。」
彼女は立ち上がると後ろに掛けられている壁から、一つ鍵を取り外すと彼に渡す。
「八千ね。前金。」
「あぁ。」
「それからその裏は藪になっているけど、そこでセックスしないでね。近所から苦情がきてんだよ。」
「わかってる。そんな趣味はない。」
財布をとりだして彼は金を払うと、禿げかけたマニキュアのついた手の上に金を置く。
「チェックアウトは十時ね。」
「わかった。」
累は何も言わずに立ち去るときに、一礼しただけだった。美人だが表情のない女だ。あんな女を藍は選んだのだろうか。彼女はため息を付いて、手の側にあったお茶に手を伸ばす。
お互いに家はあるだろう。なのにこんな場末のモーテルに来ないといけない理由がわからない。あの女に訳ありなのだろうか。未成年には見えなかったが、まるで人形のような女だと思った。
部屋は一番奥。階段を上がり、ドアを開けると暗い部屋で電気を手探りで藍は付ける。ぱっと明るくなると、部屋の様子がわかった。
「……大きいですね。」
部屋のほとんどをベッドが占領している。あとはクローゼットや小さなテーブル、いす、小さな冷蔵庫があるだけだった。冷蔵庫の中には水しか入っていない。
「風呂に先にはいるか?」
ドアの先にあるバスルームを累は見ていたのだ。風呂も普通よりは大きい。二人で入れるようにしているのだろう。そして不思議そうにその片隅にあった不思議な形のいすに首を傾げていた。
「……色々と話したいこともあります。お湯を溜めますね。」
そう言って蛇口をひねった。するとすぐにお湯が出る。その様子を見て藍は手元にあった小さな袋を破り、その液体を湯船の中にいれた。
「え?」
「泡風呂になるらしい。入ったことがあるか?」
「無いです。」
きっと彩はあの部屋で累を抱くだけ抱いているだけだ。彼女が何も望まないのをいいことに、好きにしていたに違いない。そう思うと、急に抱きしめたくなる。いや。もう抱きしめていいのだ。誰にも遠慮することはない。
藍はその後ろから累を抱きしめようと、手を伸ばした。びくっと反応する彼女。
「累。」
「……今日は心配させてしまいましたね。」
「真のことか?」
「今朝、市場で見かけました。酔っていたみたいで、地面に座り込んでました。」
「……。」
「それでここにいても迷惑になると思って、家に連れて帰りました。それから閉店まで眠っていたようです。」
「それから何かあったのか?」
彼女はその問いに首を横に振った。
「何も。彼は何も話しませんでしたし。ただ手を出そうとばかりしていたので、その元気があるなら帰れといって促したんです。」
「……あいつ……。」
「彩には二階には銘と彩しか入れてはいけないとは言われていましたが知らない顔ではありませんし、それに……あなたの弟のようなものだと言ってました。」
「でもお前に手を出した。俺のものだと知っていて。」
「……セックスを促してきます。きっと体格の差を言っているのだと思いますが……その……私が、いろんなパーツが小さいので、藍を満足させられているのかといつも聞かれます。」
「累。そんなことを思っていたのか。」
「……思っていたのは事実です。」
今日彼の隣にいたのは累ではなく、幻だった。よく似合っていた。そう言う女の方が彼も満足するのではないかと思ったくらいだ。
「累。そんなことを思う必要はない。俺はお前の体が良くてしているんじゃない。お前の事が好きだからだ。」
「私も好きです。藍。お願いです。打ち消して下さい。」
彼女は彼の方を向いて言う。
「何を?」
「……あなたがキスをしない間、私の唇に触れた感触を消して欲しいのです。」
その言葉に彼は彼女の手を引いて、後ろ頭を支えた。そして唇を重ねる。馴染みのある唇の感触が、唇に触れる。唇が割られて、舌が差し込まれた。その口内を優しく嘗めあげると、彼女は吐息を漏らした。
「……んっ……。」
吐息は甘い声に変わる。
そして唇を離されると、彼はその上着に手をかけた。
「まだ……お風呂に入って……。」
「コレ以上お預け食うのか?耐えられない。」
上着が床に落ちる。すると妙な音がするのに気が付いた。
「あっ!上着が!」
湯船はとっくにあふれていて、流れていくお湯に上着が浸かってしまったのだ。彼女はそれを拾い上げて、恨めしそうに彼を見る。
「あぁ。濡れてしまいましたね。」
「朝には乾くだろう?干しておけ。」
「……やっぱりよく似てますね。」
「何がだ。」
彼女は濡れた上着を持って部屋に戻る。
「真さんによく似てます。強引なところとか。だから衝突するのでしょうね。」
頭をかいて、彼はため息を付いた。
「キスをされたのは嫌でした。でもそれであなたと真さんがいがみ合うのはもっと嫌です。」
「……累。」
「抵抗しますから。」
「わかった。でも累。今日はあいつのことを消すから。それくらい激しく抱いていいか?」
そのとき累はわずかに笑った。
その手が彼女の手を握る。離したくなかった。そして誰にも渡したくなかった。彩にも真にも渡したくない。誰がなんと言おうと知らない。ただ今日は彼女と居たかった。
藍に連れられたのは、港だった。まだ人が多く、その多くが楽しく酔っぱらっている。桜が咲いていて、花見をするためにいるのかもしれない。
そして二人は酔っぱらいたちが居るところを避けて、その横の通りに足を進めた。そこには数件のモーテルがある。きらきらと光る建物が建ち並んでいるが、どこも満室らしい。その中の一件の前で彼は足を止めた。
ぐっと手を握る力を強めて、彼は彼女とともにその建物の中に入っていった。一軒一軒独立したモーテルになっていて、その前には車が止まっていたり光が漏れている。
その中の一軒の建物に足を進めた。すると中は少し暖かく、灯油の匂いがする。ストーブを焚いているらしい。そして奥のカウンター席に一人の女性が座っていた。
「いらっしゃい。」
老人ともいえる女性で、その割には化粧が濃い。しわの中に化粧が入っている。
「いらっしゃい。」
「部屋が空いているか?」
「あぁ。あんたか。やっと女を連れてきたんだねぇ。」
「からかうな。」
彼女は立ち上がると後ろに掛けられている壁から、一つ鍵を取り外すと彼に渡す。
「八千ね。前金。」
「あぁ。」
「それからその裏は藪になっているけど、そこでセックスしないでね。近所から苦情がきてんだよ。」
「わかってる。そんな趣味はない。」
財布をとりだして彼は金を払うと、禿げかけたマニキュアのついた手の上に金を置く。
「チェックアウトは十時ね。」
「わかった。」
累は何も言わずに立ち去るときに、一礼しただけだった。美人だが表情のない女だ。あんな女を藍は選んだのだろうか。彼女はため息を付いて、手の側にあったお茶に手を伸ばす。
お互いに家はあるだろう。なのにこんな場末のモーテルに来ないといけない理由がわからない。あの女に訳ありなのだろうか。未成年には見えなかったが、まるで人形のような女だと思った。
部屋は一番奥。階段を上がり、ドアを開けると暗い部屋で電気を手探りで藍は付ける。ぱっと明るくなると、部屋の様子がわかった。
「……大きいですね。」
部屋のほとんどをベッドが占領している。あとはクローゼットや小さなテーブル、いす、小さな冷蔵庫があるだけだった。冷蔵庫の中には水しか入っていない。
「風呂に先にはいるか?」
ドアの先にあるバスルームを累は見ていたのだ。風呂も普通よりは大きい。二人で入れるようにしているのだろう。そして不思議そうにその片隅にあった不思議な形のいすに首を傾げていた。
「……色々と話したいこともあります。お湯を溜めますね。」
そう言って蛇口をひねった。するとすぐにお湯が出る。その様子を見て藍は手元にあった小さな袋を破り、その液体を湯船の中にいれた。
「え?」
「泡風呂になるらしい。入ったことがあるか?」
「無いです。」
きっと彩はあの部屋で累を抱くだけ抱いているだけだ。彼女が何も望まないのをいいことに、好きにしていたに違いない。そう思うと、急に抱きしめたくなる。いや。もう抱きしめていいのだ。誰にも遠慮することはない。
藍はその後ろから累を抱きしめようと、手を伸ばした。びくっと反応する彼女。
「累。」
「……今日は心配させてしまいましたね。」
「真のことか?」
「今朝、市場で見かけました。酔っていたみたいで、地面に座り込んでました。」
「……。」
「それでここにいても迷惑になると思って、家に連れて帰りました。それから閉店まで眠っていたようです。」
「それから何かあったのか?」
彼女はその問いに首を横に振った。
「何も。彼は何も話しませんでしたし。ただ手を出そうとばかりしていたので、その元気があるなら帰れといって促したんです。」
「……あいつ……。」
「彩には二階には銘と彩しか入れてはいけないとは言われていましたが知らない顔ではありませんし、それに……あなたの弟のようなものだと言ってました。」
「でもお前に手を出した。俺のものだと知っていて。」
「……セックスを促してきます。きっと体格の差を言っているのだと思いますが……その……私が、いろんなパーツが小さいので、藍を満足させられているのかといつも聞かれます。」
「累。そんなことを思っていたのか。」
「……思っていたのは事実です。」
今日彼の隣にいたのは累ではなく、幻だった。よく似合っていた。そう言う女の方が彼も満足するのではないかと思ったくらいだ。
「累。そんなことを思う必要はない。俺はお前の体が良くてしているんじゃない。お前の事が好きだからだ。」
「私も好きです。藍。お願いです。打ち消して下さい。」
彼女は彼の方を向いて言う。
「何を?」
「……あなたがキスをしない間、私の唇に触れた感触を消して欲しいのです。」
その言葉に彼は彼女の手を引いて、後ろ頭を支えた。そして唇を重ねる。馴染みのある唇の感触が、唇に触れる。唇が割られて、舌が差し込まれた。その口内を優しく嘗めあげると、彼女は吐息を漏らした。
「……んっ……。」
吐息は甘い声に変わる。
そして唇を離されると、彼はその上着に手をかけた。
「まだ……お風呂に入って……。」
「コレ以上お預け食うのか?耐えられない。」
上着が床に落ちる。すると妙な音がするのに気が付いた。
「あっ!上着が!」
湯船はとっくにあふれていて、流れていくお湯に上着が浸かってしまったのだ。彼女はそれを拾い上げて、恨めしそうに彼を見る。
「あぁ。濡れてしまいましたね。」
「朝には乾くだろう?干しておけ。」
「……やっぱりよく似てますね。」
「何がだ。」
彼女は濡れた上着を持って部屋に戻る。
「真さんによく似てます。強引なところとか。だから衝突するのでしょうね。」
頭をかいて、彼はため息を付いた。
「キスをされたのは嫌でした。でもそれであなたと真さんがいがみ合うのはもっと嫌です。」
「……累。」
「抵抗しますから。」
「わかった。でも累。今日はあいつのことを消すから。それくらい激しく抱いていいか?」
そのとき累はわずかに笑った。
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