テロリストと兵士

神崎

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 今日は雨で、累はいつものように仕込みをしていた。雨の割に寒くないので、久しぶりにカレーにしてみたのだ。カレーが嫌いな人はあまりいないが、ごくまれにカレーじゃないモノが良いと言う人もいるのでルーを入れる前のモノを少し取り分けてシチューにした。
 どちらにしてもあとはサラダとスープくらいで、あまり手間はかからない。牛すじで作ったカレーはトロトロしていてタマネギはもうすでに形がない。
 それをかき混ぜていると、入り口が開いた。
「すいません。まだ開店していないんです。」
 声をかけてそちらをみる。するとそこには真の姿があった。彼はほほえんで傘を畳む。
「今日はカレー?」
「まだ出来てませんよ。」
「いいじゃん。美味しそうだ。」
「……。」
 彼は当然のようにキッチンに入り、かき混ぜているカレーをみる。ここで使っている鍋の一番大きなモノで作っているのだ。茶色のカレーは食欲をそそる。
「何か用なんですか?」
「好きな人に会いに来たいのに、理由はいるの?」
 彼女はその言葉に混ぜている木じゃくしを止めた。
「あのですね。真さん。」
「知ってる。藍だろ?藍、今忙しそうでね。ここにも来れないかもしれないし、チャンスかなって思って。」
「チャンス?」
「そ。君に手を出すチャンス。」
 そう言って彼は彼女の腰に手を伸ばそうとした。しかしそれを彼女は邪険に振り払う。
「……やめてください。まだカレーも出来てませんし。」
「出来たらいいんだ。」
「出来てもイヤです。」
 時計をちらりとみる。まだ開店まで時間がありそうだ。その間に彼女を手にしたい。「ヒューマノイド同士でセックスをすると、互いがそれしか考えられないくらい絶頂に達する」かの人はそう言っていた。最初はバカにしていた。だが気にはなる。あの死んだヒューマノイドで試しても良かったが、あいつは勝手に死んだ。
 それに好きだと思っている女とするのが理想型だ。彼女のことは嫌いじゃない。むしろ好きだろう。
 渡したくない。
 すると彼女はカレーの火を止めて、水に漬けて置いたキャベツを水から上げる。彼のことは眼中にもないようだ。それがさらに彼をかき立てる。
「藍には次にいつ会うようにしているの?」
「連絡があります。」
「ふーん。そんなモンなんだね。相変わらず藍が何をしているのかなんて何も知らないし、興味もないんだろう?」
「……彼を見るだけでいい。イヤなことも何もかも忘れられますから。」
「イヤなこと?」
「あなたには関係ない。」
 トマトを切り終わり、彼女はため息をつく。
「いつまでいるつもりですか?」
「ここでするとまた噂たつ?二階でする?」
「しません。私がしないと言っているのに、あなたが無理矢理すれば、ただの強姦ですね。」
「言える。でも一度キスをすれば、強姦にならないでしょ?」
「私には意志があります。」
「ヒューマノイドに意志ね。」
「人間です。」
 すると彼は自分のシャツをまくり上げた。そしてポケットからライトを取り出す。そしてわき腹に当てた。
「……何?」
 するとそこには000005と数字が浮かび上がってきた。
「……知ってるでしょ?コレ。」
「……製造番号ですね。」
「知ってたんだ。」
「この間、お客様が言っていました。黄の家臣が殺されたとき、ヒューマノイドを一人捕まえて調査中だと。」
「……口の軽い奴がいるものだ。」
「何?」
 するとごまかすように彼はまた笑顔になる。
「いいや。でもコレでわかったよね。僕がヒューマノイドだと。」
「そんなモノ私にはありませんよ。」
「本当に?だったら調べさせてよ。」
「あなたにその権利はありません。」
「あ。ここじゃまた噂になるか。二階で調べさせてよ。」
「聞いてましたか?イヤです。」
 すると彼女はそのライトを手で払い、彼を見上げる。
「お引き取りを。」
 その目は血の通っていないまるで機械のようだった。その雰囲気に彼は少し後ずさりをする。
「不機嫌?」
「……どうでも良いでしょう?さっさと帰ってください。」
「でも嫌がる女を言うこと聞かせるのって、大好きでね。」
「勝手に燃えててください。」
 手を捕まれる。そのとき、その手をぐっとひっくり返すと彼を投げ飛ばした。派手な音を立てて彼は地面に叩きつけられる。
「ってぇ……。」
 そんなときでも彼女の表情は変わらない。まるで表情のない機械のようだと思った。
「二度は言いません。」
 手を引き、立ち上がらせると裏口のドアを開けて彼を追い出した。
「十一時開店です。またどうぞ。」
 彼女はそう言ってドアを閉める。
「累。」
 ドアを叩いて、また開けさせようとする。しかし彼女はもうそこを開ける気はなかった。震える手で引き出しを開ける。すると薬の瓶があった。それを一粒手に取ると、口の中に入れる。
「……。」
 今日は飲んでいなかったらしい。頭が痛かった。最近薬の体勢が強くなっている気がする。彩が言ったとおり、いつか零教授にメンテナンスを捨てもらう時期なのかもしれない。
 メンテナンス。
 自分でそう思いながら、彼女はため息をついた。自分で言っていることだったが、やるせない。普通なら「健康診断」とでも言うのだろうか。
 藍は今日来ない。それはそれで都合がいい。こんな姿を見せたくなかった。髪をほどき、エプロンを取ると、彼女は入り口のドアを閉めた。まだ時間がある。少し二階で眠ってしまおう。
 裏口から外に出て、階段を上がって二階に上がっているときだった。
「累。」
 声をかけられて彼女は振り向いた。そこには、藍の姿がある。藍は彼女に近づいてきた。階段を一段下りた彼でも見上げるくらいの身長差がある。
「藍。どうしましたか。」
「時間の都合がついたが、食事は出来そうにない。だが会いたかった。」
「……私もです。」
「どうした。顔色が悪いな。」
「少し頭が痛くて。」
「休むか?」
「えぇ。少し横になろうと。さっき薬を飲みました。」
「そうか。だったらすぐ収まる。」
 彼女は彼の手を握る。
「藍。」
「何もしない。でもお前の隣にいて良いか?」
「そうして欲しいと思ってました。」
 二階に上がる。ドアが閉まる音がしてすぐに二人は体を寄せ合い、唇を重ねた。
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