テロリストと兵士

神崎

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 手袋と幻の体液を調べた結果、「同じ成分ではあるが、全く別のヒューマノイドである」事が判明した。つまりヒューマノイドは少なくとも二体はいたことになる。イヤ。三体。そのうち二体はもう死んでいる。野放しになっているのは鼠が保有するヒューマノイド。
 一度対峙したヒューマノイドだろう。藍はそう思いながら、港へ向かっていた。幻の代わりの検疫は男で、見るからに屈強そうに見える。藍の出番はないだろう。
 彼はそのまま丘の上を目指す。その途中にある「旬食」へ寄って、それから城へ向かう。閉店する時間ほどになるかもしれない。だったら満月にはまだ早いが、彼女と一緒に過ごす時間くらいはあるかもしれないのだ。
 下心が入れ混じる。そして何度も抱いているその体を抱きたいだけではないが、一緒にいれればいい。そう思っていた。
「……そうでしたか。ではお好きなように。」
 「旬食」の前で、累は店の前にたって誰かと話しているようだった。それは兵士のようにみえる。簡易的な鎧と槍がそれを表している。
「店主。悪く思うなよ。」
「悪い話じゃないっすよ。移動したらもっといいところに店構えられるかもしれねぇから。」
 二人組の兵士の言葉遣いがバラバラで、少しおかしかった。だが彼女は大人しく礼をして、彼らと離れた。そして看板を下げようと藍の方を振り向く。
「藍……。」
「何かあったのか?」
 すると彼女は少し戸惑ったように看板を下ろした。
「この建物が無くなるそうです。」
「何だって?」
「今度戦争が起きるかもしれないと。」
「あぁ。そんなことを言っていた。」
 それは確実だった。以前から黄の国との外交は最悪だったが、それは表立ってきたのだ。
「そのために戦火に巻き込まれたくなければ、この建物から撤退した方がいいと。忠告になりますか。」
「彩は何か言っているのか。」
「……彩は……他の国でしたらどうだと。」
「何だと?」
 表向きには平和な国だが、戦争の可能性がないわけではなかった。女が一人で食堂をしているとなれば、守れるのは一人しかいない。
「そろそろ彼に借りていたお金も返済が終わるところですから、繋がりはなくなります。」
 最近彼女の周りに彩の姿が見えなくなったのは、そのせいだったのか。
「累。それでいいのか?」
 彼女は戸惑ったように視線を逸らした。そのときドアから一人の男が出てきた。
「累。代金、カウンターに置いてるから。」
「あ、すいません。ありがとうございます。」
 彼女は再び看板を手にすると、藍の方を見上げた。
「食事されますか。残していますけれど。」
「あぁ。そのために来たんだ。」
 藍はそう言って、店の中に入っていった。

 雨が降っていて客足が鈍いらしい。それでも累はせめて気分だけでも明るくなって欲しいと、鳥の唐揚げを藍の前に出してくれた。もう一つのメニューもシラスとタマネギのかき揚げだった。
「累。勘定して。」
 スーツ姿の三人組の男が料金を払い出ていくと、店内には二人しかいなくなる。彼女はトレーを片づけると、藍の前に立つ。
「藍。」
「戦争になれば俺も駆り出されるだろうな。」
 城だけの兵士だけでは足りないかもしれない。黄の国は大国だ。兵の数も多く、多くの血を流すだろう。
「戦争へは行ったことが?」
「昔な。まだ二十代くらいの時か。」
 すると彼女は少しため息を付いていった。
「私が移民だと言うことは知ってますか。」
「あぁ。どこの国だ。」
「内戦が酷い国でした。今は鎮圧していますが事実上トップがいなくなり、今はインフラも酷く子供たちが病気になり道ばたで死ぬこともあると聞いています。」
「……そんな国だったのか。」
「……両親はさらに移民でしたから、私の本当の出身はどこだかわかりません。」
 全て作られた話だ。本や画像で得た知識。全てを誤魔化して彼に話す。
「だからどこかの国でまた食堂を始めないかと言われても、特に何も思いません。「また移動か」と思うくらいでしょう。ですが……離れたくない思いはあります。」
「……累。」
「あなたとは離れたくありません。しかしここで待っていても、あなたが戦争へ行けば戻ってこない可能性がないわけではありません。」
 それだけはイヤだった。彼よりも先に死ぬかもしれないが、彼が先に死ぬのはイヤだった。残されたくない。
「累。俺は戻ってくるから。」
「父はそう言って帰ってきませんでした。」
「累。」
 誰よりも争いを嫌っている。だから表情は変わらなくても、呼気が荒い。
 そのときだった。彼女が頭を押さえて座り込んでしまった。
「どうした。累。」
「……。」
 カウンターの中で座り込んでいる。その中に彼は入っていき、彼女を抱き起こした。真っ青な顔色をしている。
「医者へ行くか。」
「大丈夫……。」
 だがその様子は大丈夫とは言い難い。彼女はゆっくり体を起こすと、息を整えた。
「累。二階で横になれ。」
 しかし彼女は首を横に振る。感情がつい高ぶってしまった。
「……薬を飲みます。それで収まるから。」
 彼女はふらふらしている足でキッチンの引き出しにある瓶を取り出した。そしてその中の青い薬を一粒取りだし、口に含んだ。
「どこか悪いのか?」
「いいえ。たまにこうして頭が痛くなることがあって。病気ではないので、おそらく精神的なものだと思います。」
 その言葉に、藍は彼女の体を後ろから抱きしめた。
「俺は死なないから。」
「藍……。」
「言っただろう?一緒になろうと。累。今俺はな、ちょっとした仕事を任されてる。それが終われば自由になれるから、そのときは俺と来ないか。」
「藍と?」
「世界というのを称から聞いてな。羨ましかった。俺はここの国から出たことはないし、お前と一緒ならもっと楽しいと思うんだが。」
「……楽しいですか。」
「俺は嬉しいと思うが。」
「楽しい女とは言えませんよ。ジョークの一つも言えないし。」
「そんなことを求めてない。」
「それに……。」
「累。俺が聞きたいのは一つだけだ。俺に付いてきたいのか、そうではないのか。」
 そのときはヒューマノイドであることを伝えなければいけないだろう。彼は許してくれるのだろうか。自分がたくさんの人を殺し、その握られている手は血塗れだという事を。
「何があっても……ついて行きます。」
 すると彼は彼女の体をぎゅっと抱きしめた。そして彼は彼女を自分の方に向けると口づけをする。
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