テロリストと兵士

神崎

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 夕暮れ近くまで藍は累の体を抱き、彼女の話を聞くことはなかった。こうなってくると彼女自身もわからなくなってきた。本当に藍は累のことを好きなのだろうかと。
 彼女の話を聞くことはなくただ体を貪るだけであれば、やっていることは彩と変わらないのだ。ただその間に「好き」という言葉があるかないかだけの話で。
 だがシャワーを浴びた累は、裸の自分の体を鏡に映した。体のあらゆる所に内出血の跡がある。それは藍が付けたものだった。これも彼女が望んでいたことなのだろうか。少し彼女は迷いながら、下着を身につける。そして服を身につけると、リビングに出てきた。するとそこには彩の姿があった。
「彩。」
「シャワーを浴びてたのか。ちょうど良かったよ。」
 いつもよりもゆったりとした服を着ている累。それはもう眠るようだった。こんな早い時間に眠るのだろうか。
「あ、少し待って下さい。」
 ソファに座りかけて、彼女はキッチンにある引き出しから薬を取り出した。それを一粒飲むと、またリビングに戻ってきた。
「頭痛?」
「最近ひどくて。零先生は何でもないとおっしゃってましたが。」
 本来戦闘用のヒューマノイドだ。それに勘定を付けた彼女には、きっと無理がたたっているのだろう。無理をしているのはきっと藍が原因だ。彩はそれを知っている。だから何も言わない。
「銘が城に捕らえられたのはわかっているだろう。」
「はい。」
「銘が何かを話すとは思えない。だが銘を城から連れ出すのは、実質不可能だ。」
「だと思います。」
「君はどうしてそう思う?」
「今まで殺してきた人たちは城の外にいる人ばかりで、中の人には指示が出ませんでした。ということは城の中の警備は厳しいものだと言うことだと思います。」
「その通りだ。君が捕らえられるとは思えない。だが万が一捕らえられ君のことが公になれば、大変なことになるだろう。」
 だったらどうして生み出したのだろう。彼女にとってそれが一番解せないことだった。
「ですが、このままだと銘は……何も語らずに殺されるでしょう。それもあらゆる拷問を受けた後に。」
「……累。君はどうしたい。」
「え?」
 彼女の意志など聞いたことがない彩だ。彼女は道具であり、彼女の意志などは二の次だと思っていたのだろうに。もしかして何か試しているのだろうか。それとも不要だと思っているのだろうか。どちらにしても道具としてしかみていない。藍とは違うのだ。
「そうですね……。銘は賢い人だと思うので、そう簡単に真実を語ることはないと思います。ただ、彼女がいなければできない仕事は確かにあった。この間の仕事も彼女が気を引いてくれたのでできたものです。」
 それだけじゃない。彼女には恩がある。藍との逢瀬にも協力してくれたのだ。
「もし私が城で捕らえられることがあれば、自爆でも何でもします。」
「いい覚悟だ。」
 それによって藍に会えなくなるかもしれない。そうならないためにも生きて帰らないといけないのだ。情があれば強くなる。いつか誰かが言っていたのを思いだした。誰なのかは忘れてしまったが。
「とりあえず銘が今どういう状態なのか知りたい。場合によっては連れて帰ってもかまわないが、たぶんそれは出来ないと思う。様子だけを見に行ってくれないか。」
「どうしますか。」
「変装をする。僕が気を引くから、その隙に中に入ってくれ。これが城の見取り図だ。」
 彩は懐から折り畳んだ紙を取り出した。見取り図は迷路のように入り組んでいる。おそらく戦になれば、兵が迷子になるように作られているのかもしれない。
「……銘は地下牢にいるかもしれませんね。」
「あぁ。その可能性が高い。それから……服を少し変えて欲しい。」
「どうしてですか。」
「今夜は城に花街の売春婦が行くことになっている。僕はそれに紛れるつもりなんだけど、いざとなったときは君もその一人に見せかけたいんだ。用意しているから着てくれる?」
 紙袋を彼女の前に置く。彼女はそれを受け取ると、隣のベッドルームへ向かう。
 ベッドの上に紙袋を置いて洋服を取り出すとき、シーツが乱れているのに気が付いた。所々濡れているのは、彼女のものなのか藍のものなのかの体液だろう。
 さっきまでこの上で乱れ放題乱れていたのだ。彩がここにこなくて良かったと思う。服を取り出すと、着ていた服を脱ぎ始めた。

 どこをどうみても女性にしか見えない彩。その側で、銀色のウィッグを付けた累は全く色気がない。
 言われたとおりに、胸にパッドを入れたがそれでも醸し出す色気というものは全くない。黒い細身のズボンと、ゆったりしたレースの付いた上着。化粧をしたが年相応に見えないようだ。
 売春婦を城に送るのは、精の溜まった下級兵士に分け与えるわけではなく、その上である今度戦争へ向かう兵士のためだ。それにしても兵士の数と売春婦の数が合わない。おそらく売春婦は一晩に何人もの男を相手にしないといけないのだろう。
 それでも行きたがる売春婦が多いのは、一晩で一ヶ月は働かなくても良いくらいの報酬が得れるのだ。
 二十人ほどの売春婦や男娼に紛れて、彩と累が城に向かう。彩は「慣れているから」といって、そのまま相手をするのかもしれない。だが累はさせない。指一本でも触れればその場で斬り殺してやると公言していた。
 まるでナイトだ。だがそんなことをされなくても自分の身は自分で守れる。
 車で荷物のように運ばれながら、累はそのゆったりした上着の中に潜ませている道具たちに触れた。
「累。」
 化粧をした彩は心配そうに彼女をみた。しかし累は何も反応しない。銘のことを考えているのだったらそれでいい。だが違うのだろう。
 レースから見えた肌。彼女の肌に付いた無数の内出血の跡。ごく最近藍がきたという証拠だ。その跡をみて、彼は悔しそうに奥歯をならす。
 いつ藍が来たんだ。藍はどんな風に君を抱いたんだ。何度その性器の中に射精したんだ。そしてどんな風に君は藍を求めたんだ。
 すべてを聞きたいのに、何も聞けなかった。
「着いたわ。さぁ。稼ぎましょ。」
 どこかの女がそう言って、彼女らを促す。売春婦は望んで売春婦になったのはごく一部だ。そのほとんどが借金や生活の困窮のためにしている。どちらにしても金目当てだ。
 破格の報酬がもらえる城の仕事は、多少きつくても我慢できるのかもしれない。リアルな愛玩用ヒューマノイドだと彩は心の中で悪態を付く。
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