テロリストと兵士

神崎

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 鼠が元黄の家臣を殺した。それだけじゃない。家臣の妻、そしてメイドと三人の命を奪ったのだ。
「殺された廼様はプールしていた金がありますし、これもやはり国家の蛆を潰すためでしょうか。」
 藍は第二兵隊隊長である、陸と自室でその話をしていた。藍は以前よりも城にいることが多くなったので、捕まりやすくなったと若い兵隊長は内心ほっとしていたのだ。
 だが殺されたのは第二兵隊の落ち度ともいえる。今回は花街の犯行でも何でもない。自室なのだからだ。
「だとしても国家に逆らっている。容赦なくなったな。」
 彩が鼠であることも明らかだ。意識の無くなった累を抱えていったのは彼なのだし、町で見つけた彩を捕まえることも可能だろうが、なぜかそれは出来ないのだという。
 陸が言うのには証拠が全くないのだという。あの戦地で鼠である累と彩を見たのは、藍と一部の兵士だけ。もっとも二人とも頭巾をかぶっていたので、誰だかわからないと言うのが実状で、知っているのは藍くらいなのだろう。
 それに彩を捕まえるのを止めているのは、証拠だけではなく紫練が止めているのだという。
「彼は私の身内なの。捕まえないで頂戴ね。」
 そんな呑気なことを言っていていいのだろうか。ぼやぼやしていれば鼠がまた犯行を重ねる。
「鼠を捕まえるのは不可能かもしれないな。」
「そんな……困りますよ。紅花殿。民間人だって、次は自分の番かもしれないって怯えているんですから。」
「それは自分に何かしらの罪の意識があるからだろう。」
 罪なのは自分だ。鼠と知らずに惹かれ合い、結局全てを誤魔化している。そして自分の知らない男がもう彼女にはいるのだ。
「……紅花殿。もう一つ報告があるのですが。」
 ため息を付いた彼は目だけで陸を見る。彼は正義感のある男で、悦よりも融通が聞かない。だがこれくらいないと民間人は守れないのかもしれない。
「薔薇を知ってますか。」
「花か?」
「ではありません。隠語ですが、用は覚醒剤です。」
「なるほど。薔薇には刺があるからな。それで薔薇か。」
「えぇ。昔から花街には蔓延していたそうですが、最近は港や城下町にもバイヤーが居ます。」
「そんなモノが蔓延していたら、国家として成り立たないだろう。バイヤーを捕まえて、即刻吐かせろ。」
「何ですけどね……。」
 彼は頭をかいて、複雑そうな表情になる。
「何だ。」
「バイヤーは歯に毒を含んでいます。捕まったら何も言わずに死ねと言うことでしょう。」
「歯に毒?」
 どこかで見た手法だ。それは初めてヒューマノイドを見たときだろうか。あの少女が採った方法だ。
「もしかして鼠が送り込んでいるって事はないんですかね。」
「いいや。お前には言ってなかったかもしれないが、実は鼠の模倣がいる。」
「もう一つの鼠ですか。」
「鼠がする殺しは首や胸を一突きという方法が多いが、模倣をしている奴はいたぶるように殺す。まるで子供がしているように楽しんで、それから殺すんだ。」
「なんということ……そいつ等の方が鼠よりも酷いじゃないですか。」
「命を奪うのに酷い酷くないはないが、それでもやりにくいだろうな。」
 累は知っているのだろうか。鼠の模倣が居ることを。それが彼女たちの足を引っ張っていることを。
 会って話したい。だがそれは叶わない。立場だけじゃない。彼女には隣に男がいる。背が高い特徴的な男。きっと恋人なのだ。暑い時期が終わり、秋になろうとしているその日。彼女はきっと別の人を選んだのだ。

 ばきっという何かを殴る音がして、累は手に洗剤を持ったままホールに出てきた。するとそこには倒れ込んでいる彩と、立ち尽くしている隆が居る。どうやら隆が彩を殴ったらしく、それをホールにいた人たちは遠巻きに見ている。
「……何……。」
 その様子にあとからやってきたオーナーが駆け足で近づき、彩を起こした。
「夜の開店前に騒ぎを起こすな。」
「……すいません。」
 絞り出すように言った隆は視線を逸らせた。そして累の方に視線を送る。
「累。何でもないから、仕込みの続きをしてくれ。」
「はい……。」
 すると埃をはたいてる彩は、隆を見上げる。
「何でもない……か。累には関係大ありなのにな。」
 挑発するような口調だった。その言葉に大人しくしていようと思っていた隆は大人しくしていようと言う考えを払拭させて、また彩に詰め寄ろうとする。
 その様子に累は洗剤を置いて、隆の方に近づいた。
「隆さん。開店前ですから。」
 手を引き、彩の方へ近づけないようにしている。
「……まるで恋人を心配しているようだね。累。」
「彩……。」
 その言葉に周りの人たちの様子が変わる。隆には一緒に住んでいる恋人が居るのに、累が奪ったのだろうか。そんな風に噂を始めた。
「変なことを言わないでください。」
 そうだ。彼が倫のことを言わない限り、彼女は自分の立場を言うわけにはいかないのだ。
 だがオーナーはため息を付いた。その様子をくみ取ったのかもしれない。男と女が密室で居るのだ。ただの職場の同僚のままずっと居るはずはない。もしそれが出来るのだったら、どちらかに欠陥があるのだろうから。
「隆。酒は作れるか。」
「一通りと言ったくらいです。」
「そんなに難しい酒は作ることはない。いざとなればほかのものに聞け。それから彩は、裏に行って顔を冷やしていろ。引いたら隆と代わればいい。それまで累。一人で出来るか。」
 いつもは二人で料理をしていた。だが普段一人でしていたことだ。出来ないことはないが、二人でしていたのに慣れてしまっていたかもしれない。少し不安になる。
「……料理のスピードが落ちるかもしれませんが。」
「いいよ。今日は平日だ。そんなに早くあげろとは言わないだろう。いざとなれば、芦を付かせるから。」
「芦さん……。」
 金色の髪を持つ芦は、元々キッチンをしていたが隆の厳しい要求に耐えられなくなってホールに回されたのだ。だから出来ないことはないだろう。
「よろしくお願いします。」
 彼女はそういって素直に頭を下げた。だが肝心の芦は、ため息を付く。
 彼女は知らないだろうが、こんな状況になったのは彼女が原因なのだから。
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