153 / 283
152
しおりを挟む
甘くない炭酸水のレモン割りは、渇いた喉にちょうどいい。涼しくなってきたとはいえ、キッチンの中は真冬は寒く、夏場は地獄のように暑いからだ。
涼しい風が吹き抜けて、累の髪が風に舞った。それを後ろで見ていた藍と隆は少し笑いながらいう。
「可愛いな。」
その言葉に隆は違和感を感じた。
「ロリコンじゃないんでしょ?」
「二十五がロリコンの訳ないだろう?成人済みだ。」
「それはそうですけどね。」
「……隆。あんたいくつだ。」
「三十ですよ。累とは五つ違いです。」
「……生まれは?」
「ほら。見えますよね?あの島。」
そういって彼は指さした。その先にはいい思い出のない島があった。あの島で累と藍は互いの正体を知り、絶望したのだ。
「あぁ。」
「あの島です。といっても生まれたばかりであの島にやってきたから、本当の出身は違うんですけど。」
「……本当の出身ね……。」
累は話し込んでいる二人を不思議そうに見ながら、それでも何か話すことがあるのだろうと、わざと距離をとった。
「紅花殿……。」
「ここでは藍でいい。」
「藍さんは?」
「俺はそこの花街でね。母親は最下層の売春婦だ。」
「……え?」
あまり思い出したくないことだった。だから累にもあまりいいたくなかったのだ。
「ご立派な身分だったようだが、人間は転がり落ちるのはあっという間だろう?信用と身分を失うのに時間は必要ない。」
「確かにそうだ。」
隆はそういって累の方へ近づいていく。
「累。何が見えるんだ。」
「魚が居ますね。釣り上げられそうです。今度釣り針を持ってきたい。」
「新鮮だったら生でも食べれるだろう?」
「そうですね。」
自分の時には累はそんな会話をしたんだろうか。彼女が何かを話そうとしていた。だが自分はそれを遮っていたのだ。ただ彼女が欲しいと、彼女の体ばかりを求めていたように思える。
隆と居る方が彼女は自然体でいれるのではないかとさえ思えてしまう。
「累。話なんだが。」
彼女は立ち上がり、藍の方をみる。それにならい隆も立ち上がった。
「彩は「かの方」という表現で自分の上のものが居るといっていたのだろう?」
「はい。」
「かの方というのはおそらく自分よりも身分の高いものに使う言葉だ。俺にとってのかの方は王やその側近だけになるが……。彩となると違ってくるだろう。あいつは、おそらく由教授の忘れ形見だし。」
「由教授?」
「あぁ。研究者だ。晩年はヒューマノイドの制作をしていたようだが。」
「もしかして……私を作ったのは……。」
「可能性は高い。人に聞けば、由教授の妻に似せたヒューマノイドを作ったというし。成功したという話は聞いていないが。」
「……。」
「研究者や宗教家というのは、王でもあまり手の出せない分野ではある。そこに目を付けたのが鼠だという可能性もあるがな。」
「ということは……穴は研究者か、宗教家……。」
宗教家という言葉に彼女は心が引っかかっていた。
それは鈴が殺されたときのことだった。紫の色の来いベールをかぶった高いヒールを鳴らした女性。
それから銘が輪姦されたときのことだった。紫のベールをかぶった女性がやはり訪れていた。
やはりあの女性が黒幕なのだろうか。彼女が指示を出して、累に殺しをさせているのだろうか。違う。彼女はもっと何か……。
「累。どうした。顔色が悪い。」
「……あ……。」
彼女は青い顔のまま、立ちすくんでいた。それを心配して隆が声をかけたのだ。
「薬は?」
「あります。ありがとうございます。心配かけてしまって……。」
炭酸水を持ってあげているあいだ、累は財布の中から見覚えのある薬を取り出して口に含む。そして炭酸水を口に含むと、それを飲み込んだ。
「最近飲んでなかったのにな。」
「いろいろあったので……。」
「そうだったな。」
まるでカップルを通り越して、夫婦のようだ。いいや。もしかしてわざとそう見せているのだろうか。近づかないようにと、彼が嫉妬して?
「……藍さん。すいません。累が調子が悪いみたいだから……。」
「そうだな。顔色が悪い。」
「座れば直ります。隆。お願いです。もう少し話をさせてください。」
「累。」
その言葉に隆は驚いたように彼女をみた。
「たぶん……藍さんとこうして話せるときはもうあまりないと思うんです。彩にも気づかれてはいけないのであれば、そうするしかないから……。だから……。」
「わかった。累。わかったから、いったん落ち着こう。ますます顔色が悪くなるから。呼吸をして……そう。」
肩を抱く彼の手。そして彼は彼女をベンチに座らせた。その隣には隆が座っている。
惨めだと思った。彼女のことを思えていなかったその付けが、ここで来るとは思ってなかったから。
「藍さん。」
「どうした。」
「王に一番近い人物は誰でしょうか。」
「それは……おそらく京だろう。」
「京?」
「王のお抱えの医師で、研究者だ。だが彼女は、城から出ない。何でも昔城下で、強姦されたらしい。」
「……。」
その言葉で彼女の顔色が悪くなった。銘のことを思いだしたのだろう。
「あ……悪い。変なことを思い出させた。」
「いいえ。私が望んだんです。気になさらないでください。では……紫練殿に一番近いのは?」
「紫練殿は帯殿が一番近いだろう。」
「帯様ですか……。」
帯もあまり信用がおける人物ではないのは確かだ。どちらかに話を聞きたいと思っているのだろう。
「……累。俺がおそらくどちらかにお前と話をさせることはおそらく可能だ。だがお前はもっと他の人と話をするべきだと思わないか。」
「……他の?」
「俺は紫練殿に一番近いのは帯殿だと思ったが、もしかしたら……信が言っていたように、紫練殿の愛人がいるかもしれないだろう?」
「紫練殿の愛人なんて……。」
そうだ。心当たりがある。彼女はわざとその人のことを思い出さないようにしていたのかもしれない。
「彩……ですか。」
「あぁ。俺に言わせてみれば、あいつが一番臭い。紫練殿はあいつをお気に入りといっていたんだ。だから鼠として捕らえることはない。」
「……なるほど……。」
「そのときは、隆。あんたがついてやってくれ。」
「……あぁ。」
もうその役目は自分ではないのだ。累の隣にいる彼を見ながら、藍は自分にわき上がるくらい気持ちを抑えていた。
涼しい風が吹き抜けて、累の髪が風に舞った。それを後ろで見ていた藍と隆は少し笑いながらいう。
「可愛いな。」
その言葉に隆は違和感を感じた。
「ロリコンじゃないんでしょ?」
「二十五がロリコンの訳ないだろう?成人済みだ。」
「それはそうですけどね。」
「……隆。あんたいくつだ。」
「三十ですよ。累とは五つ違いです。」
「……生まれは?」
「ほら。見えますよね?あの島。」
そういって彼は指さした。その先にはいい思い出のない島があった。あの島で累と藍は互いの正体を知り、絶望したのだ。
「あぁ。」
「あの島です。といっても生まれたばかりであの島にやってきたから、本当の出身は違うんですけど。」
「……本当の出身ね……。」
累は話し込んでいる二人を不思議そうに見ながら、それでも何か話すことがあるのだろうと、わざと距離をとった。
「紅花殿……。」
「ここでは藍でいい。」
「藍さんは?」
「俺はそこの花街でね。母親は最下層の売春婦だ。」
「……え?」
あまり思い出したくないことだった。だから累にもあまりいいたくなかったのだ。
「ご立派な身分だったようだが、人間は転がり落ちるのはあっという間だろう?信用と身分を失うのに時間は必要ない。」
「確かにそうだ。」
隆はそういって累の方へ近づいていく。
「累。何が見えるんだ。」
「魚が居ますね。釣り上げられそうです。今度釣り針を持ってきたい。」
「新鮮だったら生でも食べれるだろう?」
「そうですね。」
自分の時には累はそんな会話をしたんだろうか。彼女が何かを話そうとしていた。だが自分はそれを遮っていたのだ。ただ彼女が欲しいと、彼女の体ばかりを求めていたように思える。
隆と居る方が彼女は自然体でいれるのではないかとさえ思えてしまう。
「累。話なんだが。」
彼女は立ち上がり、藍の方をみる。それにならい隆も立ち上がった。
「彩は「かの方」という表現で自分の上のものが居るといっていたのだろう?」
「はい。」
「かの方というのはおそらく自分よりも身分の高いものに使う言葉だ。俺にとってのかの方は王やその側近だけになるが……。彩となると違ってくるだろう。あいつは、おそらく由教授の忘れ形見だし。」
「由教授?」
「あぁ。研究者だ。晩年はヒューマノイドの制作をしていたようだが。」
「もしかして……私を作ったのは……。」
「可能性は高い。人に聞けば、由教授の妻に似せたヒューマノイドを作ったというし。成功したという話は聞いていないが。」
「……。」
「研究者や宗教家というのは、王でもあまり手の出せない分野ではある。そこに目を付けたのが鼠だという可能性もあるがな。」
「ということは……穴は研究者か、宗教家……。」
宗教家という言葉に彼女は心が引っかかっていた。
それは鈴が殺されたときのことだった。紫の色の来いベールをかぶった高いヒールを鳴らした女性。
それから銘が輪姦されたときのことだった。紫のベールをかぶった女性がやはり訪れていた。
やはりあの女性が黒幕なのだろうか。彼女が指示を出して、累に殺しをさせているのだろうか。違う。彼女はもっと何か……。
「累。どうした。顔色が悪い。」
「……あ……。」
彼女は青い顔のまま、立ちすくんでいた。それを心配して隆が声をかけたのだ。
「薬は?」
「あります。ありがとうございます。心配かけてしまって……。」
炭酸水を持ってあげているあいだ、累は財布の中から見覚えのある薬を取り出して口に含む。そして炭酸水を口に含むと、それを飲み込んだ。
「最近飲んでなかったのにな。」
「いろいろあったので……。」
「そうだったな。」
まるでカップルを通り越して、夫婦のようだ。いいや。もしかしてわざとそう見せているのだろうか。近づかないようにと、彼が嫉妬して?
「……藍さん。すいません。累が調子が悪いみたいだから……。」
「そうだな。顔色が悪い。」
「座れば直ります。隆。お願いです。もう少し話をさせてください。」
「累。」
その言葉に隆は驚いたように彼女をみた。
「たぶん……藍さんとこうして話せるときはもうあまりないと思うんです。彩にも気づかれてはいけないのであれば、そうするしかないから……。だから……。」
「わかった。累。わかったから、いったん落ち着こう。ますます顔色が悪くなるから。呼吸をして……そう。」
肩を抱く彼の手。そして彼は彼女をベンチに座らせた。その隣には隆が座っている。
惨めだと思った。彼女のことを思えていなかったその付けが、ここで来るとは思ってなかったから。
「藍さん。」
「どうした。」
「王に一番近い人物は誰でしょうか。」
「それは……おそらく京だろう。」
「京?」
「王のお抱えの医師で、研究者だ。だが彼女は、城から出ない。何でも昔城下で、強姦されたらしい。」
「……。」
その言葉で彼女の顔色が悪くなった。銘のことを思いだしたのだろう。
「あ……悪い。変なことを思い出させた。」
「いいえ。私が望んだんです。気になさらないでください。では……紫練殿に一番近いのは?」
「紫練殿は帯殿が一番近いだろう。」
「帯様ですか……。」
帯もあまり信用がおける人物ではないのは確かだ。どちらかに話を聞きたいと思っているのだろう。
「……累。俺がおそらくどちらかにお前と話をさせることはおそらく可能だ。だがお前はもっと他の人と話をするべきだと思わないか。」
「……他の?」
「俺は紫練殿に一番近いのは帯殿だと思ったが、もしかしたら……信が言っていたように、紫練殿の愛人がいるかもしれないだろう?」
「紫練殿の愛人なんて……。」
そうだ。心当たりがある。彼女はわざとその人のことを思い出さないようにしていたのかもしれない。
「彩……ですか。」
「あぁ。俺に言わせてみれば、あいつが一番臭い。紫練殿はあいつをお気に入りといっていたんだ。だから鼠として捕らえることはない。」
「……なるほど……。」
「そのときは、隆。あんたがついてやってくれ。」
「……あぁ。」
もうその役目は自分ではないのだ。累の隣にいる彼を見ながら、藍は自分にわき上がるくらい気持ちを抑えていた。
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜
桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。
上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。
「私も……私も交配したい」
太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる