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予想通り男ばかりの飲み会は、女のあれこれの話ばかりだ。中には累のことを聞く奴もいる。累は正直に言えばいいと言っていたが、そんなことを正直に言う気にはなれない。
適当に相づちをしていたら面倒になってきた。だが気になるのは彩だ。彩は店の中でもあまり評判のいい方ではない。人付き合いが苦手というわけでもないし、最低限のことを話しているように見えるし、印象は悪くないとは思うが、どうしても女をとっかえひっかえしているという噂がある事でマイナスイメージがつきやすい。
というか事実だ。なんせ彼の相手には紫の側近である紫練の姿もあるのだから。心の中でそれを思いながら彼は酒を飲んでいた。
「隆。」
ふと声をかけられると、そこには彩がいた。彼の手にはワイングラスが握られている。
「何を飲んでいるんだ。」
「この辺の元々の地酒だな。山の方では作っているところもあるらしい。そっちは?」
「ワイン。飲まないか?」
「まぁ、今は酒だから。」
向こうの方で他の男たちはこのあと売春宿へ行くと、店を品定めするようにチラシを見ていた。それを見て彼はため息をつく。
「元気だな。」
「累がいるから特にいらないか。」
その言葉に嫌みを感じる。だが相手にしたくなかった。
「そうだな。」
一言言って、また酒に口を付けた。
「累はどう?」
「どうって?」
「案外マグロじゃないか?」
マグロという言葉に真っ先に浮かんだのは魚のマグロだったが、この場合はそう言う意味ではないだろう。
「マグロにしていたのは男のせいだろう。」
その言葉に彩は驚いたように彼を見る。
「何?あいつがそんなに積極的に動くことがあるのか?」
「知らないだけだろう?」
フェラも入れ込むのも、しろと言われたからしているだけ。そんな風に見えていた。だが違うらしい。彩は心の中で舌打ちをする。それにそんなことを言われたら、彼女を味わいたくなった。だが今は出来ない。隆が見張っているからだ。
「今は一人にしているの?」
「別に一緒に住んでいるわけじゃない。でも部屋にはいると思う。」
「結婚でもするの?」
「わからないな。今は将来が見えない。」
「まぁ、さすがに結婚はないか。」
そう言って彩は煙草に火をつける。彼もそれに習うように煙草に火をつけた。
「まぁ、今は出来なくてもいい。けどまぁ、ずっとこのままというのも悪いだろうが。累は……あまりここにいることはないだろうし。」
「そうだね。あくまで自分の店をしたいらしいから。」
そのときは自分もいれないだろうか。あの小さな店では窮屈かもしれない。どこか別の場所で二人で……。全てが終わったらそうしたい。
「夢物語に終わらなきゃいいけど。」
ワインをくっと飲み干して、彩はまたワインをグラスに注ぐ。
「どういう意味だ。」
「累は夏頃に失恋したんだ。でも同じ町にいる相手だし、お互い、別に嫌いになって別れた訳じゃない。いつよりを戻してもおかしくないよ。」
それが一番の不安要素だ。隆と累で仕事をするように、藍と累の中でしかわからない話もある。
そのとき二人組の女性が二人に声をかけてきた。
「あのー。コンバンワ。これってなんかの集まりですかぁ?」
隆は面倒くさそうに煙草を吹かしていたが、彩はほほえんで彼女らにいう。
「職場の集まりでね。君たちは?」
「明日休みなんで、飲みに来たんですよぉ。ほら。あっちにみんないてぇ。よかったらみんなで飲みませんか?」
男同士だから来たのに、さらに面倒だ。
だが彩はその辺の抜かりはない。
「みんなに聞いてみるよ。」
結局女たちと飲むことになった。こっちは六人。女は五人。こっちの方が多くて良かった。隆に女は回ってこないだろうと思っていたから。
だが一人の女が声をかけてくる。
「いい体してるね。」
そう言って長い茶色の髪を持った女が、近づいてくる。
「別に普通だろう。」
その様子を見ていたほかの女が、芦に話しかける。
「輝ってば、また声かけてる。」
「がたいいい人好きだもんね。」
芦も正直もう帰りたいと思っていた。男同士で飲むならかまわない。だが女が入るとうっとうしい。
「あれ?指輪してんの?」
「あぁ。帰れば恋人がいる。」
こんな香水の匂いや化粧の匂いのしない女。その人が好きだった。
「奥さんってわけじゃないんでしょ?」
「まだな。」
素っ気ない会話に彼女はつまらなくなったのか、今度は芦の方へ近づいている。やれやれ。これで静かに飲めるはずだ。
「すごい。彩さん。その目は天然なの?」
女が大げさに驚いている。それは彩の目の色、髪の色に驚いているようだった。
「そうだよ。ほら。よく見て。」
そう言って彼は女に近づく。まるでキスをするくらいに。すると女たちの黄色い悲鳴が店内をこだました。
「……。」
悪いが、あんな事までは出来ない。累が隣にいてもみんなの前では出来ないだろう。
彩だから出来るのだ。
ここを出たらすぐに帰ろう。累がきっと待っている。そうだ。何かみやげでも買っていこう。彼はそう思いながら、窓の外を見た。
「……。」
だが気の利いたものが思い浮かばない。だいたい彼女は何が好きなのだろう。料理のことには目がないようだが、それ以外は何がいいのだろうか。
彼女の荷物は少ないし、たまに本を読んでいるようだがそれもジャンルはバラバラだった。
「……。」
悩んでいると、芦が隆に声をかけてきた。芦も女から振り切れたようでため息をついていた。
「隆。」
「大変だったな。」
「彼氏がいるっていったら、みんなさっといなくなるんだよ。なかなか便利だな。」
「そんなことで?」
少し笑うと、彼は酒に口を付けた。
「そうだったな。あんた偏見がなかったっけ。」
「あぁ。お前の彼氏のことか?」
「大抵、ドン引きされるから。」
「恥ずかしがることでもないだろうに。」
そう言う隆の指を見る。右手の薬指に指輪があった。それは累とお揃いなのだという。
「芦。」
「何だよ。」
「女は手みやげに何を持って行ったら喜ぶんだ?」
「しらね。俺に聞くなよ。でもまぁ、身一つで早く帰れば、あいつなら喜ぶだろ?」
あいつというのが累だとわかっている。
「二次会行かないんだろう?」
「お前行くのか?」
「ホールは人間同士の付き合いが大事でね。キッチンだったらその中だけでいいかもしれないけど。」
芦はそう言って酒をまた口に運んだ。もうだいぶ顔色が赤い。すでに酔っているのだろう。
「ね、彼氏ってさ。」
女たちがそう言って噂をする。
「違う。」
誤解された芦はへらっと笑い、隆はますます機嫌が悪くなった。
適当に相づちをしていたら面倒になってきた。だが気になるのは彩だ。彩は店の中でもあまり評判のいい方ではない。人付き合いが苦手というわけでもないし、最低限のことを話しているように見えるし、印象は悪くないとは思うが、どうしても女をとっかえひっかえしているという噂がある事でマイナスイメージがつきやすい。
というか事実だ。なんせ彼の相手には紫の側近である紫練の姿もあるのだから。心の中でそれを思いながら彼は酒を飲んでいた。
「隆。」
ふと声をかけられると、そこには彩がいた。彼の手にはワイングラスが握られている。
「何を飲んでいるんだ。」
「この辺の元々の地酒だな。山の方では作っているところもあるらしい。そっちは?」
「ワイン。飲まないか?」
「まぁ、今は酒だから。」
向こうの方で他の男たちはこのあと売春宿へ行くと、店を品定めするようにチラシを見ていた。それを見て彼はため息をつく。
「元気だな。」
「累がいるから特にいらないか。」
その言葉に嫌みを感じる。だが相手にしたくなかった。
「そうだな。」
一言言って、また酒に口を付けた。
「累はどう?」
「どうって?」
「案外マグロじゃないか?」
マグロという言葉に真っ先に浮かんだのは魚のマグロだったが、この場合はそう言う意味ではないだろう。
「マグロにしていたのは男のせいだろう。」
その言葉に彩は驚いたように彼を見る。
「何?あいつがそんなに積極的に動くことがあるのか?」
「知らないだけだろう?」
フェラも入れ込むのも、しろと言われたからしているだけ。そんな風に見えていた。だが違うらしい。彩は心の中で舌打ちをする。それにそんなことを言われたら、彼女を味わいたくなった。だが今は出来ない。隆が見張っているからだ。
「今は一人にしているの?」
「別に一緒に住んでいるわけじゃない。でも部屋にはいると思う。」
「結婚でもするの?」
「わからないな。今は将来が見えない。」
「まぁ、さすがに結婚はないか。」
そう言って彩は煙草に火をつける。彼もそれに習うように煙草に火をつけた。
「まぁ、今は出来なくてもいい。けどまぁ、ずっとこのままというのも悪いだろうが。累は……あまりここにいることはないだろうし。」
「そうだね。あくまで自分の店をしたいらしいから。」
そのときは自分もいれないだろうか。あの小さな店では窮屈かもしれない。どこか別の場所で二人で……。全てが終わったらそうしたい。
「夢物語に終わらなきゃいいけど。」
ワインをくっと飲み干して、彩はまたワインをグラスに注ぐ。
「どういう意味だ。」
「累は夏頃に失恋したんだ。でも同じ町にいる相手だし、お互い、別に嫌いになって別れた訳じゃない。いつよりを戻してもおかしくないよ。」
それが一番の不安要素だ。隆と累で仕事をするように、藍と累の中でしかわからない話もある。
そのとき二人組の女性が二人に声をかけてきた。
「あのー。コンバンワ。これってなんかの集まりですかぁ?」
隆は面倒くさそうに煙草を吹かしていたが、彩はほほえんで彼女らにいう。
「職場の集まりでね。君たちは?」
「明日休みなんで、飲みに来たんですよぉ。ほら。あっちにみんないてぇ。よかったらみんなで飲みませんか?」
男同士だから来たのに、さらに面倒だ。
だが彩はその辺の抜かりはない。
「みんなに聞いてみるよ。」
結局女たちと飲むことになった。こっちは六人。女は五人。こっちの方が多くて良かった。隆に女は回ってこないだろうと思っていたから。
だが一人の女が声をかけてくる。
「いい体してるね。」
そう言って長い茶色の髪を持った女が、近づいてくる。
「別に普通だろう。」
その様子を見ていたほかの女が、芦に話しかける。
「輝ってば、また声かけてる。」
「がたいいい人好きだもんね。」
芦も正直もう帰りたいと思っていた。男同士で飲むならかまわない。だが女が入るとうっとうしい。
「あれ?指輪してんの?」
「あぁ。帰れば恋人がいる。」
こんな香水の匂いや化粧の匂いのしない女。その人が好きだった。
「奥さんってわけじゃないんでしょ?」
「まだな。」
素っ気ない会話に彼女はつまらなくなったのか、今度は芦の方へ近づいている。やれやれ。これで静かに飲めるはずだ。
「すごい。彩さん。その目は天然なの?」
女が大げさに驚いている。それは彩の目の色、髪の色に驚いているようだった。
「そうだよ。ほら。よく見て。」
そう言って彼は女に近づく。まるでキスをするくらいに。すると女たちの黄色い悲鳴が店内をこだました。
「……。」
悪いが、あんな事までは出来ない。累が隣にいてもみんなの前では出来ないだろう。
彩だから出来るのだ。
ここを出たらすぐに帰ろう。累がきっと待っている。そうだ。何かみやげでも買っていこう。彼はそう思いながら、窓の外を見た。
「……。」
だが気の利いたものが思い浮かばない。だいたい彼女は何が好きなのだろう。料理のことには目がないようだが、それ以外は何がいいのだろうか。
彼女の荷物は少ないし、たまに本を読んでいるようだがそれもジャンルはバラバラだった。
「……。」
悩んでいると、芦が隆に声をかけてきた。芦も女から振り切れたようでため息をついていた。
「隆。」
「大変だったな。」
「彼氏がいるっていったら、みんなさっといなくなるんだよ。なかなか便利だな。」
「そんなことで?」
少し笑うと、彼は酒に口を付けた。
「そうだったな。あんた偏見がなかったっけ。」
「あぁ。お前の彼氏のことか?」
「大抵、ドン引きされるから。」
「恥ずかしがることでもないだろうに。」
そう言う隆の指を見る。右手の薬指に指輪があった。それは累とお揃いなのだという。
「芦。」
「何だよ。」
「女は手みやげに何を持って行ったら喜ぶんだ?」
「しらね。俺に聞くなよ。でもまぁ、身一つで早く帰れば、あいつなら喜ぶだろ?」
あいつというのが累だとわかっている。
「二次会行かないんだろう?」
「お前行くのか?」
「ホールは人間同士の付き合いが大事でね。キッチンだったらその中だけでいいかもしれないけど。」
芦はそう言って酒をまた口に運んだ。もうだいぶ顔色が赤い。すでに酔っているのだろう。
「ね、彼氏ってさ。」
女たちがそう言って噂をする。
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