テロリストと兵士

神崎

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 目を覚ますと、身動きがとれなかった。どうやら縛られているらしい。手足に紐のような感覚がある。目の前には炎のような明かりが見えた。そのそばには数人の男がいる。
「へへっ。こんなんでいいのかよ。」
「楽な仕事だったな。」
 男に見覚えはない。だがその側にいる女には見覚えがあった。やたら細い体だったから。
「ねぇ。言うとおりにしたんだから、頂戴よ。」
「わかってるよって。ほら。」
 小さな何かを投げた。それを女は地を這うように暗い中を探り、それを確かめた。
「中毒だな。ほら。お前それ使ったらすげぇ今夜燃えるだろ?」
「一晩中あんあん言って、気絶するくらいまでやるんだからよ。」
 話の流れからして、女を女性浴場に泳がせて累をさらったらしい。
「あの女もやるのか?」
「やっても面白くねぇぜ。一日中寝るような薬をかがせたんだから。秀。どうすんだ。」
 すると奥にいた男が立ち上がる。
「やってもかまわない。そうした方が面白いかもな。紅花……いや、藍が卒倒する姿が目に浮かぶ。」
「でも鶏ガラだぜ。」
「そう言う奴の方が締まりが良いかもなぁ。」
 そう言って男がこちらに近づく。そしてライトで累を照らした。
「お……何だ?」
 目が開いている。そう思った瞬間だった。彼女の姿がなくなる。
「……!」
 叫び声すらあげれなかった。代わりに鈍い音が小屋に響く。
「何だ?今の音は!」
 ライトが床に落ちる音。そして体が床に倒れ込んだ音。慌てたようにライトで周りを照らす。するとそこには眠っていたはずの累が立っていた。しっかり意識もあるし、手足を縛っていたロープも外されている。
「馬鹿な。ぐるぐるに巻いてたはずだぜ。」
 そんな巻き方で逃げられないと本気で思っていたのだろうか。彼女はそう思いながら、彼らに近づく。
「うわっ。こいつ死んでるぜ。」
「女がそんなこと出来るわけねぇだろ?」
 どんな男よりも弱い。そう思いながら近づく。おびえている男たちの中で緑秀だけはニヤリと笑いながら彼女に近づいた。
「帯殿の教え子だったな。」
「えぇ。秀さん。あなたもそうでしょう?」
「だがおかしいな。その女に持たせた薬は、一日昏々と眠るような薬だったのだが。」
「……耐性が出来ているのです。死にたくなければさっさと自首したらどうですか。」
「何だと。」
 女をちらりとみる。女は早速薔薇を使おうとしているようだ。妙な匂いが部屋に立ちこめている。
「誘拐と危険薬物の売買、及び所持。どれほどの罪が課せられるでしょう。」
 脅したつもりだった。だが緑秀は表情を変えない。
「俺がなんだか知っていて言っているのか。」
「……社会的なバックがついていても、おそらく無理でしょう。最近は、この薬物に取り締まりが入っているそうですから。マスコミはセンセーショナルにあなたを叩き上げますよ。」
「そんなモノもみ消してやる。」
 すると彼女は、軽くため息をついて彼をみる。
「それに……いくら強くても、大の男を相手に勝てると思っているのか。」
 累はその男たちを見上げる。確かに藍よりも高よりも背も高いし、体も大きい。細くて小さい彼女は不利のような気がする。
「秀。こいつヤっていいのか?」
「あぁ。好きにすればいい。そのあと死んでももみ消すことは出来るから。」
 すると男たちはなめた目で彼女を見る。
「こんな細い子供みてぇな女、抱いても大したことねぇよ。」
「兄貴のでけぇからな。奥まで届くぜ。」
 下品な言い回しだ。それだけ自信はあるのだろう。彼女に近づいてくる。しかし彼女は後ろに下がり、彼らを見上げる。
「これ以上近づかないでください。手加減できませんから。」
「手加減しねぇのは俺らの方だよ。」
 そう言って彼らは彼女に近づき、その胸元に手をかける。するとシャツもセーターも一気に破られて、彼女の白い肌が見えた。わずかに残る布が、彼女の胸を隠しているだけ。それでも彼女は表情一つ変えない。
「良いおっぱいしてんな。ちいせえけどもう乳首立ってんじゃねぇの?」
 すると彼女は表情を変えずに彼らを見上げる。はぎ取ろうとしたわずかな布に伸ばす手。それが急に関節と逆向きになった。
「ぎゃあ!」
 何が起こったかわからなかったに違いない。ひるんだ男の顎に跳び蹴りで、顎を狙った。それはヒットし、男は倒れ込んだ。
「ああああ……。」
 顎の骨が一瞬で砕けたのだ。もう言葉にもならない。
「ナイフが無くても素手で殺せる。」
 倒れた男に近づくと、頭を蹴り上げた。すると首が今度はあらぬ方向に曲がる。
「この女!」
 ナイフを取り出して、彼女に向かっていく。しかしそんなもので彼女は殺せない。すっと交わすと、今度は腕を折る。
 淡々とそれは繰り返され、気がついたときには、大柄な男が泡を吹いて床に寝ていた。
「……次、ヤりますか?」
 そう言って彼女は秀をみる。すると彼はひきつったように彼女をみた。
「そんな……女がそんなに強いわけがない。」
「ただの女じゃないんですよ。」
 彼女はそう言って、彼に近づく。そして彼の首に手を置こうとした。しかしそれは彼女もためらうものが彼の手にある。
「だけど、これに勝つわけがない。」
 ひんやりした堅い感触。それが腹に突きつけられた。だが彼女は冷静にそれを見ているような気がする。銃を突きつけられても怖いとは思わないのだろうか。
「何者なんだ。」
 あり得ない。銃を突きつけられて冷静でいられる女。いいや男でも冷静でいられるはずはない。兵士でもない限り。
「知らない方が幸せなこともあります。幸せなまま死にますか。」
 彼女はそう言って手を伸ばす。銃口を握り、その手を捻りあげた。
「痛い!」
 女の力ではない。いいや、人間に捻りあげられたような感じもしない。むしろ何か違う生き物に睨みあげられている感じもする。
 そのとき彼は藍の言葉を思い出した。
「ヒューマノイドを製造に成功している。」
 まさか。まさかこの女が。
「まさか!」
 ヒューマノイドであれば勝てるはずはない。だが銃は握っている。まだ勝てる。
 バン!
 耳をつんざくような音がした。しかしそれは彼女の体からはずれ、頬をかすめただけだった。そして彼女は手を彼女に伸ばす。首もとに手が伸ばされたのだ。
 殺される。
 本気で思った。そう思ったからだろう。彼女の腕をふりほどくと、彼女に銃口を向けて、それを放つ。
 バン!
 しかしそれを避けると、彼の後ろ手に立つ。そして首を肘で絞めた。
「ぐ……。」
 吐息とともにうめき声が漏れる。首が徐々に締まっていくのだ。すると彼は肘で彼女の腹に打ち付けた。しかし何も変わらない。
「軽いです。」
 一瞬軽くなった。しかし気のせいだった。また彼女はぐっと力を入れていく。殺される。本気でそう思った。手で後ろを探る。さらっとした温かな感触が伝わってきた。人間と何も変わらない。この女が彼を殺すというのか。恐怖で手足が震えてきた。
 だが首に掛かる力は徐々に強くなる。もうだめだ。そう思ったときだった。
「そこまでだ。」
 入り口から声が聞こえた。ふとそちらを見ると、そこには一人の男が立っていた。オールバックの背の高い男だった。彼は緑秀と彼女に向けている。
「首をはなせ。ヒューマノイド。」
 銃を向けられても冷静だった。おそらくあの銃口の銃なら、二人いっぺんに打ち抜くことができるだろう。ためらったが、彼女は首から腕を放す。
「……。」
 腕を放され、緑称は倒れ込んで派手にせき込んだ。そして二人を見上げる。彼女は手を挙げていた。
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