テロリストと兵士

神崎

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 白い肌にふっと赤みが差した。その様子をみて京はほっとする。
「良かった……。命はとりとめましたね。」
 だが障害が残らないとは限らない。意識は戻っても話が聞けるとは限らないのだ。
「京さん。」
「はい?」
「今晩、ここに私は居ることができませんか。」
「居るって……泊まると言うことですか?」
 言うと思った。隆はその言葉を想像はしていたが、本当に言うとは思ってなかった。
「……もう穂さんも眠ってしまっていると思うし……。」
「ソファでもかまわないんです。」
「……累さん。それは出来ないです。」
 そういった京の手が震えていた。そうだ。彼女は人間が苦手で、特に男性を苦手としている。それを知っていて、自分のためにそれを口にしてしまったのだ。
「あ……。」
「いいんです。私の都合ですから。意識が戻ったら必ずあなたに伝えます。」
「お願いします。」
 本当はここにいたかったかもしれない。だが三人は後ろ髪を引かれるように部屋を出ていった。リビングはもうすでに真っ暗で足下を明るくするために、京は電気をつけた。
「お気をつけて。」
 車の運転席には隆が乗っている。そして助手席には、藍が、後部座席には累が乗っている。
 車はゆっくりと発進し、去っていくのをみて京は家に戻っていった。
 部屋に戻ると、ますます人間らしく顔に赤みがかった信が居る。もうこのベッドに寝かせていることはないだろう。簡易ベッドを組み立てて、その上にマットレスを敷いた。そしてシーツをその上から被せると、ふと信をみる。しまった。せめてベッドに移してから藍達を帰らせれば良かった。
 後悔しても仕方ない。ベッドの高さを変えて、彼を転がせば何とかなるだろう。そう思いながら、彼女はベッドの位置を変えた。
「……よし。」
 一度点滴を抜いて、彼を転がす。するとまるで死体のように彼はベッドに転がっていった。ところが少し勢いがつきすぎたのだろう。ベッドの縁に体をぶつけ、その衝撃でベッドごと壁にぶつけてしまったのだ。
「あっ……やばっ……。」
 口には出したものの、彼はそのままの体勢のままだった。ちょっと手間取ったが、無事ベッドに寝かせることは出来た。
「よし。」
 そのままベッドに寝かせると、その上から布団を掛ける。するとわずかに彼の口が動いた。
「てぇ……。」
「え?」
「いてぇな。もっと優しく運べよ。」
 薄く目を開けた信。その様子に思わず京に笑みがこぼれた。

 歩くのと車で移動するのは雲泥の差だ。あっという間に旬食の前にたどり着いた。累が車を降り、そして隆も運転席を降りた。助手席から藍が降りてくると、隆は彼をみて言う。
「藍さん。ちょっと良いですか?」
 藍は不思議そうな顔をして、隆に連れられるように累から少し離れる。だが少し声が聞こえた。真夜中で雑音のない街だ。少しの物音でも聞こえるのだろう。
「何……。お前……。」
「考えておいてください。俺もそんなことはしたことありませんし。」
 驚いている藍の表情。そして隆は累のところに戻ってきた。
「明日の昼に、お前一度京さんのところへいくのだろう?」
「はい。」
「藍さんと一緒に行ってもらえ。」
「え?」
 その言葉に彼女は驚いた。彼がそんなことを言うとは思ってなかったから。
「じゃあ、藍さん。また。」
「あ……あぁ……。累。また明日来るから。」
「その前に港に行きたいので、そのあとでも良いですか。」
「かまわない。都合はつける。」
 そうは言ったものの、黄の側近と外交をしたばかりだ。仕事はまだ山積みになっているだろう。
 だが今日は寝よう。さすがに二日間もろくに寝てなければ、疲れも溜まっている。

 部屋に戻ってきた隆は、上着を脱ぎながら時計をみた。もうすでに三時を過ぎている。累はここ二日ほどほとんど寝ていないのだろう。今日はゆっくり寝かせてあげたい。
「風呂。どうする?シャワーでも……。」
「隆。」
 彼女はマフラーをとり、彼の目を見ずに言う。
「藍さんに何を言ったんですか。」
「別に。お前のことだから、信さんの意識がはっきりするまであそこに行こうとするんだろうなと思っただけだ。そのときはついて行ってやってくれって言っただけ。」
「それだけで?」
 彼はその言葉に少し黙る。それだけではなかったからだ。
「隆。」
 すると彼は彼女に近づいて、後ろから抱きしめた。そして首の後ろについている跡に指を這わせる。
「どうしてこんな跡を付けたのかって聞いた。」
「なんて言いました?」
「無意識だって……。あの人、いつもそんなことを言うのか。」
「……。」
「無意識なら何もかも許されるわけじゃないだろう?お前も、勘違いしていたかもしれないが、その薬とやらを信さんに飲ませた罪の意識から、京さんのところへ行った。」
「はい。」
「藍さんは……まだお前に気があるんだろうな。」
「でも……お互いに忘れようと。」
「忘れられないだろう?ずっとお前をみていた視線は変わらない。」
「……。」
 すると彼は彼女の体を後ろから抱きしめる。
「渡したくない。」
「私も離れたくありません。だから……。」
「累。」
 そのまま彼女は後ろを振り向き、彼も彼女をのぞき込むように顔を近づける。
「累……。」
 激しく舌を絡ませて、彼女を強く抱きしめる。唇が離れるのが惜しいように、何度も唇を重ねた。
「シャワー。浴びようか。」
「はい……。」
 いつの間にか結んでいる髪のゴムをとられた。頬にその髪が落ちる。足下に上着が落ちて、そのまま組み敷かれそうだと思った。
 だが彼はあくまで優しいのだ。
 そのままベッドへ行くのではなく、シャワーを浴びにバスルームへ向かった。
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