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仕事を終えて、累は隆と一緒に店を出る。隆はそのまま花街の方へ、累は家に帰る。そのくらいしか時間はない。二人で住んでいるのに、彼女らは話も出来ないほど最近は忙しかったのだ。
海風が冷たく、氷でも入っているのではないかと思うくらいで隆は身震いをした。
「寒いですか?」
「あぁ。今日は風が強いな。こんな時に飲み会か……。」
「お酒を飲むと、体が温かくなるそうですよ。」
「まぁ……確かに温かくはなるが、それは適度な場合だ。飲み会というのはあまり適度とは言えないからな。」
煙草を取り出して口にくわえようとした隆の腕に累は手を伸ばす。そんなことをしたことがない彼女の行動に、彼は煙草をしまう。嬉しい反面、何か目的があるのだろうと思う自分が嫌だった。
「累……。」
「このまま聞いてください。」
やはりそうか。彼はため息を付いて、声のトーンを落とした彼女の話を聞く。
「穂さんの遺体が爆発したそうです。」
「……その遺体が持っていたとは思えないのか。またはそれを埋め込まれていたとか。」
「ヒューマノイドと違って、クローンはその人のコピーなので意志があります。つまりヒューマノイドは「死ね」といわれれば何の疑いもなく死ぬことはありますが、クローンはそれが出来ない。つまり何事があったから、死になさいと言うことは出来ないんです。」
「なるほどな。ということは誰かが遺体になる前、または遺体になったあとに仕掛けたという可能性が高い。」
「藍さんもそう言っていました。あのアパートにいた人が怪しいと。」
「裏切り者というわけだ。」
確かにそんな人がいれば、公にこんなところで話が出来ないだろう。彼はため息を付く。
「窮屈だな。」
「え?あぁ、力が強かったですか?」
そう言って彼女はその絡めた手の力を緩めた。すると彼はその手を避けて、彼女の肩を抱いた。
「隆……。」
「ただでさえ一緒に住んでいるのに会うことがなくなってきているのに……。」
彼女はほぼ寝ていない。今日こそゆっくり寝かせたいと思っていた。だがそんな日は来ないかもしれないのだ。
「ん?そう言えばシャンプーの匂いが違うな。」
「あぁ。藍さんのところで借りました。」
「ということは服も?」
「はい。舞さんから。普段はあまりこういう服は着ないんですけどね。」
「似合ってる。だが……足をホールの男たちが舐めるように見ていたな。」
その視線に何度か手を出しかけた。だがそんなことを彼女は気にしていないだろう。
「欲情しませんよ。私は鶏ガラのようだと言われましたから。」
「累。俺はそう思わないけどな。」
「……。」
「それから藍さんもそう思ってない。」
「……。」
「今日は何もされなかったのか?」
「……隆。あの……。」
言えない。もう少しでセックスをしてしまうところだったなど、彼に言えるわけがない。きっとそれを言ったら隆は藍を責めるだろう。そして返り討ちにあう。そんな目にあって欲しくない。
「髪には触れましたが……それ以外は……。」
「あぁ。焦げていたんだろう。自分では厳しいもんな。」
「髪が食品に落ちるのは避けたいと思っていたので、切っていただきました。そして私も藍さんの髪を切りましたが。」
「あの人の方がひどかったんじゃないのか?」
「そうですね。」
「少し短くなったのか。わからなかったな。」
「まだ手触りが微妙なのっで、明日きちんと美容室にでも行ってこようと。」
「そうすればいい。」
やがて別れ道にたつ。高原委の肩から手を離し、頬に触れた。そして周りをみる。夜遅い時間だ。誰もいない。それを見計らうと軽くキスをする。
「早く帰る。」
「隆。」
「ん?」
「いつか買ってきた葡萄のジュース。」
「あぁ。ノンアルコールワインか?」
「あれ美味しかったです。」
「そうか。だったら帰るときまた買ってくる。」
「待ってます。」
帰れば累が待っている。その温かい彼女の体を抱いて眠りたい。彼はそう思っていた。
罪の意識で気持ちが悪くなりそうだ。累は丘を上がりながらそう思っていた。
隆に嘘を付いた。だがあのまま真実をいってしまったら彼はきっと死んでしまうだろう。隆を好きだと思うし、生きていて欲しいと思えばそれは正しいことだと思う。だが言えない。
頭が痛い。帰ったら薬を飲もう。累はそう思いながら旬食の前にたどり着き、階段を上がっていった。するとそのドアの前に人が行るのに気が付く。それは藍だった。
「藍……。」
「隆は?」
「食事会に行きました。」
「そうか。累。中に入れてくれないか。」
「……はい。」
あのあと彼が何かを掴んだかもしれない。彼女はそう思い、玄関のドアを開けた。
藍はその中にはいると、ドアに鍵を閉めた。
累はリビングにあるストーブに火をつけると、キッチンへ向かいやかんに水を入れてそのストーブの上に置いた。
「すぐ暖かくなりますから。」
「あぁ。寒かった。今日は風が強いな。」
彼女はそう言ってハンガーにパーカーを掛けると、キッチンに向かい薬を取り出した。白い薬と、青い薬。頭痛は収まらなかったから。
「累。一つ言っておかないといけないことがある。」
「どうしました?」
彼はストーブの側のソファに座ると、ため息を付いた。
「以前、お前が姫と会ったとき、お前の模倣が出たんだ。」
「私の?」
「注意を引かせるために、赤の兵の一人を気絶させたつもりだったんだが真っ先に、お前が疑われた。」
「確かにそうでしょうね。あの役場にいたときも私は怪しいと言われていたようですし。」
「そうなると俺もお前を知っていて、城に得体の知れないものをつれてきたという疑いをかけられたのかもしれない。」
「……。」
「だがお前が姫に会っている間、お前を模倣したものが城に入ってきた。お前と俺をかばうようにな。」
彼女は藍の隣に座ると、ため息を付く。」
「もしかしたら……その人は……。」
「あぁ。太刀筋でわかった。あいつは真だ。」
「真さん……。」
思い浮かんだのは金色の癖毛の髪を持った、天真爛漫な彼の姿だった。彼は彼女が好きだと言っていた。だが当初は藍に惚れていたのだという。
「あいつは俺らを助けるためにそうしたのだろうか。」
「違うと思います。」
何かが違う。彼女はそう思いながらストーブの火を見つめていた。
海風が冷たく、氷でも入っているのではないかと思うくらいで隆は身震いをした。
「寒いですか?」
「あぁ。今日は風が強いな。こんな時に飲み会か……。」
「お酒を飲むと、体が温かくなるそうですよ。」
「まぁ……確かに温かくはなるが、それは適度な場合だ。飲み会というのはあまり適度とは言えないからな。」
煙草を取り出して口にくわえようとした隆の腕に累は手を伸ばす。そんなことをしたことがない彼女の行動に、彼は煙草をしまう。嬉しい反面、何か目的があるのだろうと思う自分が嫌だった。
「累……。」
「このまま聞いてください。」
やはりそうか。彼はため息を付いて、声のトーンを落とした彼女の話を聞く。
「穂さんの遺体が爆発したそうです。」
「……その遺体が持っていたとは思えないのか。またはそれを埋め込まれていたとか。」
「ヒューマノイドと違って、クローンはその人のコピーなので意志があります。つまりヒューマノイドは「死ね」といわれれば何の疑いもなく死ぬことはありますが、クローンはそれが出来ない。つまり何事があったから、死になさいと言うことは出来ないんです。」
「なるほどな。ということは誰かが遺体になる前、または遺体になったあとに仕掛けたという可能性が高い。」
「藍さんもそう言っていました。あのアパートにいた人が怪しいと。」
「裏切り者というわけだ。」
確かにそんな人がいれば、公にこんなところで話が出来ないだろう。彼はため息を付く。
「窮屈だな。」
「え?あぁ、力が強かったですか?」
そう言って彼女はその絡めた手の力を緩めた。すると彼はその手を避けて、彼女の肩を抱いた。
「隆……。」
「ただでさえ一緒に住んでいるのに会うことがなくなってきているのに……。」
彼女はほぼ寝ていない。今日こそゆっくり寝かせたいと思っていた。だがそんな日は来ないかもしれないのだ。
「ん?そう言えばシャンプーの匂いが違うな。」
「あぁ。藍さんのところで借りました。」
「ということは服も?」
「はい。舞さんから。普段はあまりこういう服は着ないんですけどね。」
「似合ってる。だが……足をホールの男たちが舐めるように見ていたな。」
その視線に何度か手を出しかけた。だがそんなことを彼女は気にしていないだろう。
「欲情しませんよ。私は鶏ガラのようだと言われましたから。」
「累。俺はそう思わないけどな。」
「……。」
「それから藍さんもそう思ってない。」
「……。」
「今日は何もされなかったのか?」
「……隆。あの……。」
言えない。もう少しでセックスをしてしまうところだったなど、彼に言えるわけがない。きっとそれを言ったら隆は藍を責めるだろう。そして返り討ちにあう。そんな目にあって欲しくない。
「髪には触れましたが……それ以外は……。」
「あぁ。焦げていたんだろう。自分では厳しいもんな。」
「髪が食品に落ちるのは避けたいと思っていたので、切っていただきました。そして私も藍さんの髪を切りましたが。」
「あの人の方がひどかったんじゃないのか?」
「そうですね。」
「少し短くなったのか。わからなかったな。」
「まだ手触りが微妙なのっで、明日きちんと美容室にでも行ってこようと。」
「そうすればいい。」
やがて別れ道にたつ。高原委の肩から手を離し、頬に触れた。そして周りをみる。夜遅い時間だ。誰もいない。それを見計らうと軽くキスをする。
「早く帰る。」
「隆。」
「ん?」
「いつか買ってきた葡萄のジュース。」
「あぁ。ノンアルコールワインか?」
「あれ美味しかったです。」
「そうか。だったら帰るときまた買ってくる。」
「待ってます。」
帰れば累が待っている。その温かい彼女の体を抱いて眠りたい。彼はそう思っていた。
罪の意識で気持ちが悪くなりそうだ。累は丘を上がりながらそう思っていた。
隆に嘘を付いた。だがあのまま真実をいってしまったら彼はきっと死んでしまうだろう。隆を好きだと思うし、生きていて欲しいと思えばそれは正しいことだと思う。だが言えない。
頭が痛い。帰ったら薬を飲もう。累はそう思いながら旬食の前にたどり着き、階段を上がっていった。するとそのドアの前に人が行るのに気が付く。それは藍だった。
「藍……。」
「隆は?」
「食事会に行きました。」
「そうか。累。中に入れてくれないか。」
「……はい。」
あのあと彼が何かを掴んだかもしれない。彼女はそう思い、玄関のドアを開けた。
藍はその中にはいると、ドアに鍵を閉めた。
累はリビングにあるストーブに火をつけると、キッチンへ向かいやかんに水を入れてそのストーブの上に置いた。
「すぐ暖かくなりますから。」
「あぁ。寒かった。今日は風が強いな。」
彼女はそう言ってハンガーにパーカーを掛けると、キッチンに向かい薬を取り出した。白い薬と、青い薬。頭痛は収まらなかったから。
「累。一つ言っておかないといけないことがある。」
「どうしました?」
彼はストーブの側のソファに座ると、ため息を付いた。
「以前、お前が姫と会ったとき、お前の模倣が出たんだ。」
「私の?」
「注意を引かせるために、赤の兵の一人を気絶させたつもりだったんだが真っ先に、お前が疑われた。」
「確かにそうでしょうね。あの役場にいたときも私は怪しいと言われていたようですし。」
「そうなると俺もお前を知っていて、城に得体の知れないものをつれてきたという疑いをかけられたのかもしれない。」
「……。」
「だがお前が姫に会っている間、お前を模倣したものが城に入ってきた。お前と俺をかばうようにな。」
彼女は藍の隣に座ると、ため息を付く。」
「もしかしたら……その人は……。」
「あぁ。太刀筋でわかった。あいつは真だ。」
「真さん……。」
思い浮かんだのは金色の癖毛の髪を持った、天真爛漫な彼の姿だった。彼は彼女が好きだと言っていた。だが当初は藍に惚れていたのだという。
「あいつは俺らを助けるためにそうしたのだろうか。」
「違うと思います。」
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