テロリストと兵士

神崎

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 音香へ行く前、累は藍と一緒に病院へ向かった。彼らの共通の医師である精神科医の史医師に会うためだという。そして隆も一人部屋を出た。
 革ジャンを羽織り、曇ってきた空を見上げる。革ジャンの懐には小型の銃がある。それは累からもらったモノだった。
「どうしてその銃に仕掛けがあるとわかったのですか?」
 小さな部品は、おそらく彼女でも藍でもわからない。だがその仕掛けがあると、おそらく発砲すれば自分の手が飛ぶようなモノだった。そしてもう電池は切れているが、位置情報がわかるような機械も取り付けられている。
 累は仕事へ行くときこの銃を持って行ったらしい。だがこの銃を使うことはなかった。あくまで彼女の武器はナイフであり、銃はいざというときのためのモノだったのだ。
 隆が向かったのは、花街だった。まだ昼間と言っていいくらいの明るさのここは、相変わらず閑散としている。
 夕べの飲み会に彩もやってきていたが、彼は途中で女と消えた。どこに行ったのか、いや、どこのホテルに行ったのかはわからないし、まだこの辺にいるとは限らない。だが仕事が始まる前であればあまり話すことは出来ないだろう。誰かに聞いてもいい。そう想いながら彼は彩を探した。
 そのときだった。特徴的な金色の長髪が見えた。彩だ。隆はあくまで自然に、彩の元へ向かう。すると彩も隆に気がついたようだった。
「隆。」
 彩は驚いたように彼を見ていた。
「こんなところで会うなんてね。」
「あぁ。家もわからなかったから虱潰しだ。」
「え?僕に何か用事があったの?どうせ今日も仕事だから、そこで話せると思ったんだけど。」
「店じゃちょっとな。」
「ふーん。意味深だね。累と何かあった?」
「別に。店は順調に改装が終わりそうだ。」
「へぇ。まぁ、累からはもうあそこを立ち上げたお金も返してもらったし、鼠として暗躍することはないといっていたから君の好きにしていいのにね。」
 へらっと笑い、彼は隆を見上げた。
「どこに行く?」
「港がいい。あまり人に聞かれたくないことだ。」
 隆はそういって、彩に着いてくるようにいった。だが彩は内心、穏やかではなかった。何か掴んだのだろうか。かの方に何と説明すればいいのだろう。
 隆を殺してはいけない。その理由は、王家の血筋である彼を殺したくないだけだろうと思っていたがそうではないらしい。彼にはまだやってもらわなければいけないことがある。
 だから彼をせっかく捕まえたのに、彼はすぐに返された。
 その理由も彩にはわからない。
 全く面白くない男だ。あれだけのことを言ったのだから、殴りかかってあの店を出ていき、累とも繋がりが無くなればいいのにと本気で思っていた。
「彩。」
 港にはほとんど人がいない。深夜や早朝なら、漁師でにぎわうのかもしれないが、昼間はただの港で珍しいモノがあるわけ無い。
 だから隆はここを選んだのだろう。
「まどろっこしいことは嫌いだ。単刀直入に言う。」
 隆はそう言って革ジャンの懐から、小型の銃を取り出した。その銃に見覚えがある。そうだ。累に手渡したものだ。小型だが威力はあるため、ほとんどの人が打ったとたん肩が外れると言っていた。
 累はそれを使いこなせるだろうが、使ったことはないらしい。そしてその銃を隆に渡したということは、隆ならば使いこなせるだろうと累は思ったのかもしれない。
「これは……。」
「弾丸は二発しか入らない。おそらく連発は出来ないのだろう。もっともそうしなくても殺傷能力は十分だろう。」
「あぁ。累に渡したものだ。どうして隆が持っているの?」
「俺もあまり気は進まないが、身を守るために持っていればいいと言われた。」
「そうかもしれないね。累はいい判断をしたと思うよ。」
 それにその銃には仕掛けがしてある。隆が使えば面白いことになりそうだ。累がまた罪の意識で悩まされるだろう。心の中でニヤリと笑う。
「この銃……なぜ仕掛けをしてあったんだ。」
 その言葉に彼は驚いて隆と銃を代わる代わるみる。
「仕掛け?」
 あくまでしらばっくれるつもりだ。そうなれば実際に見せるしかない。
 隆は銃の玉を抜き、弾倉を降る。すると小さな白いモノが手のひらに落ちてきた。
「位置情報を報せるものだな。電池は切れているようだが。」
 彩は薄く笑い、それを見ていた。どうしてそんなことがわかるのだろう。あの機械は小さく、おそらく累でも気がつかなかっただろう。隆ならなおさらだ。ただの料理人。そうとしか見ていなかったらだ。
 笑顔の裏で彩は焦っていた。もしかしてたかは何か掴んでいるのだろうか。ということは累も掴んでいるのだろうか。
「累は実行役だ。どこにいるか把握して、あいつが危ないときには助けに行く。そのためにそれをつけられているのは、ごく自然だよ。」
 そうとしか言えない。付け焼き刃のごまかしだったが、うまくいったような気がする。隆は納得したようにまた銃を見ているのだから。
「つけるのはかまわない。」
 はっと彼をみる。銃に弾を込めて、また懐にいれた。
「弾倉に仕掛けがあれば、どうなるかくらいはわかっているんじゃないのか?」
「……。」
 やはり納得していない。そして何かを掴んでいる。
「暴発させて、累を殺したいのか?」
「僕が?どうして?累を殺して何のメリットもない。
「メリットならある。」
 彩に詰め寄る。すると彩は後ろに下がっていった。だが後ろは海で、よく考えればここは真を突き落としたところだ。こんなところで死ぬわけにはいかない。
「お前が累を殺したいなら、それはお前の思惑通りだろう。」
「僕が累を殺したい?どうして?累はいつも僕の言うとおりに動いていたし、あっちの方だって……。」
 下品な言い回しだ。とは思うモノの、夕べの自分たちの行動の方がよっぽど下品だったかもしれないが。
「あ……悪かったね。そんなことを言って。」
「……別に気にしていない。」
 失言だったと口を塞ぐが、内心はそう思っていないはずだ。そんな男なのだから仕方ない。
「……で、どうして僕が累を殺そうと思っていると思うの?」
 銃をしまい、煙草を口にする。そして火をつけた。すると煙の向こうで隆の表情が笑ったような気がした。
「さぁな。だが累が死ねば、お前が鼠だったという証拠もなくなる。それはメリットだろう。」
「……本当にそれだけだと思っているの?」
「さぁな。他に理由があるだろうが、一介の料理人には想像つかなくてな。何せ一般人だ。」
「ただの一般人じゃないよね?」
「……。」
 曇っていて海の向こうにある島はおぼろげにしか見えない。それを見て、彩は言う。
「あの島には血の繋がりのない家族がいるんだって言っていたね。」
「あぁ。」
「元気にしている?」
「妹はこの間結婚した。それがどうした。」
 すると彩はその島から視線をはずし、彼を見上げた。
「さぁね。君の言う一般人が余計なことに首を突っ込んだら、どうなるかと思っただけだよ。」
「……。」
 思わず拳を握る。累のことも大事だが、あの島に住む家族も大事なのだ。特に父親は彼に目立たないようにと釘を打たれていたのに。
「隆。僕は君に言ったはずだ。累を恋人にすると君の方が壊れるかもしれないって。」
「……。」
「累は一般人になんてなれないよ。ヒューマノイドだということを除いても、どれだけの人を殺したと思っているんだ。」
 すると彼はぐっと唇をかんだ。しかし負けられない。累だけでなく家族も侮辱するような男だ。
「過去はそうかもしれないが、大事なのはこれからだ。多くの道が切り開かれて、その一つを選んで進んでいけばいい。その道に苦労が沢山あっても、それは自分の選んだ道なのだから後悔しないように進めばいいだけだ。」
「運命は決まっているよ。累は特にヒューマノイドなんだから。道具の行き先はスクラップだ。」
 思わず手を出しそうになった。しかし彩は腕時計を見ると、少し微笑んだ。
「時間だね。」
 そう言って彩は、その場から離れる。人の神経を逆撫でる男だ。
 煙草を消して、彼もその後を歩いていく。もう音香へ行く時間だった。
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