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何度占っても姫の夢見の結果は同じだった。
二体の機械は一体は壊れ、雲に隠れた一体の機械は人形によって暴かれる。
一体の機械は意識を持ち、すべてを知るものに刃を向ける。
賛美歌の響く小屋で信頼していた者に裏切られ、赤い使いに魂を売る。
赤目の人形は最も信頼している者の手を取り、解放される。
二体の機械は灰音のことだろう。確かに灰音として情報収集に当たっていた男は真によって殺された。灰音の子飼いになっていたはずで、邪魔な奴らを次々に潰していったはずだ。それを鼠の罪に擦り付けて、それで何もかもうまくいくはずだと思っていた。
紫練は紙を握りつぶし、燃やしてしまおうと暖炉の中に紙をくべようとした。そのときだった。
「紫練殿。」
彼女の自室に帯がやってきた。
「帯……。」
「……。」
彼は紫練が持っているその紙を目にして、薄く笑った。
「姫様の夢見か。」
「えぇ。最近は変な占いばかり……やはり人間ではないからかしら。」
帯はその握りつぶされた紙を広げて、その書いている文字を読むと笑顔が消える。
「……刃を向ける……。」
「えぇ。機械はおそらく灰音のことでしょう?一人は殺されたけれど、もう一人はまだあの中にいる。テロリスト気取りのあの子達の中に。その子が意識を持ち、すべてを知るものに刃を向ける。つまり……あたしか、あなたか……または王なのか。」
紙を置いて帯は紫練の方を見下ろす。
「あなたに刃を向けるのであれば、どこの誰だろうと斬り殺します。」
「相変わらず頼もしいこと。」
彼女はそういってやっと笑顔を取り戻した。
紫練は王の最初の子供だった。といっても正妻の連れ子だったので、血の繋がりはない。紫練がまだ三つの頃だった。
自分の母の輿入れの時、彼女の身の回りをする世話役としてあてがわれたのが帯だった。帯は十個近くも離れていたが彼女のことをよく理解している。
だからこそ、彼女がどうして王の座を狙っているのか、それもよくわかって彼女に協力していた。腑に落ちないと思っていても。
「灰音に伝言を。」
だがその言葉にはさすがに帯も聞き返してしまった。
「何を……。」
「一つ、一つ、すべてが崩れるのであれば、諸共崩してやるわ。その芽を全て摘み取ってね。」
人形を解放などさせない。愛する人とともに解放されるなど、人形のくせにあり得ないことなのだから。
その日の昼。累は店の前に看板を出す。今日の日替わりは、豚肉の生姜焼き、または白身魚のフライだった。どちらにも新タマネギを使っている。豚肉と一緒にタマネギを、魚フライに添えられたタルタルソースにもタマネギを入れ込んだのだ。
「いらっしゃいませ。」
再開した旬食には待っていたかのように、近所の人や仕事の休憩中の人たちがやってきた。
「そうそう。この味なんだよな。累の生姜焼きの味。」
「タルタルも美味いんだよ。」
どこにでもある味だと思っていたのに、それがいいのだと人々は口にしている。
「累。夜も働いてんのか?」
「えぇ。お世話になったところが、まだ人手が足りないようでまだ抜けれなくて。」
「体壊さないように頑張れや。」
作業着の男はここを改装してくれた頭領だった。部下を引き連れてやってきてくれている。ありがたいと、彼女はせめてもとご飯だけはおかわりの値段を取らなかった。
こうしているとふらりと銘がやってくるようだ。情報を仕入れると、聞き耳を立てながら食事をする。彼女はそういう人だった。
「……黄の家臣の会社がアブねぇらしいな。」
黄の家臣というと黄林という男だっただろうか。確か彼の娘は史医師の奥さんだったはずで、あまり人の話を聞かないタイプだと言っていた。
「なんでもよ。手を伸ばしていた立春荘の経営が良くねぇんだろ?」
「薔薇が表立って禁止になったからな。それの代わりのヤツもまた取り締まっているらしいし。」
その言葉に彼女はため息をつく。そうか。立春荘の経営元は黄林だったのかと。だから彼が受け口になり、あの木箱を受け取っていたのだろう。
だが黄の国から来ていたというあの薬は、実は黄の国ではなく隆の住んでいた島で製造されていたモノだった。おそらく、あの遺体の爆破で、草は生えているがそれを生成する方法はなくなってしまったはずだ。
コレで薔薇は闇に葬られるだろう。だから黄林の会社も傾きかけているのだ。
そうなると危惧するのは、史医師かもしれない。彼はまだ医師で働けれいるらしいが、相変わらず夫婦関係は表面上いい夫婦を演じているだけらしい。
「……うまくいきませんね。」
ぽつりと彼女は口こぼすと、カウンターに座っていたスーツの男が笑いながら言った。
「うまいよ。生姜焼き。」
「あぁ。ありがとうございます。でも……違う話なので……。」
「あー。そういえば累は結婚するんだって言ってたな。」
「あ、はい。」
顔色一つ変えずに彼女はそれに答えた。普通なら「恥ずかしい」と顔を赤らめるのに。
「どんな男なの?」
「料理人です。いずれここで働くと。」
「だから改装したのか。良いじゃねぇか。腕はいいんだろう?」
「えぇ。私も働いていて、とてもやりやすい相手です。」
「何だよ。熱いなぁ。」
その言葉に彼女は目を丸くした。
「外はまだ寒いですよね。暖房を強くしすぎたでしょうか。」
「あーそういう意味じゃねぇよ。」
そのとき外のドアが開いた。そこにはジャンパーを着た隆が中に入ってきた。
「あー寒いなぁ。寒さがぶり返してるみたいだ。」
「隆。もう終わったんですか?」
「まぁな。最近は一点集中でくるから、結構楽だ。累。何が残ってる?」
「二つとも残してます。どちらでも。」
「二つ?」
二つあるメニューのうち一つは隆が食事をして、残ったモノはどうするのだろう。彼は首を傾げながら、魚のフライと告げると彼女は手際よく魚をフライヤーに入れた。
「そういえば、累の恋人って前に良く閉店ぎりぎりに来てたよな。」
「……。」
藍のことだ。彼女はそれでも表情を変えずに言う。
「その方ではありませんよ。」
「何だよ。つまんねぇな。」
男はそういって味噌汁を飲んだ。
二体の機械は一体は壊れ、雲に隠れた一体の機械は人形によって暴かれる。
一体の機械は意識を持ち、すべてを知るものに刃を向ける。
賛美歌の響く小屋で信頼していた者に裏切られ、赤い使いに魂を売る。
赤目の人形は最も信頼している者の手を取り、解放される。
二体の機械は灰音のことだろう。確かに灰音として情報収集に当たっていた男は真によって殺された。灰音の子飼いになっていたはずで、邪魔な奴らを次々に潰していったはずだ。それを鼠の罪に擦り付けて、それで何もかもうまくいくはずだと思っていた。
紫練は紙を握りつぶし、燃やしてしまおうと暖炉の中に紙をくべようとした。そのときだった。
「紫練殿。」
彼女の自室に帯がやってきた。
「帯……。」
「……。」
彼は紫練が持っているその紙を目にして、薄く笑った。
「姫様の夢見か。」
「えぇ。最近は変な占いばかり……やはり人間ではないからかしら。」
帯はその握りつぶされた紙を広げて、その書いている文字を読むと笑顔が消える。
「……刃を向ける……。」
「えぇ。機械はおそらく灰音のことでしょう?一人は殺されたけれど、もう一人はまだあの中にいる。テロリスト気取りのあの子達の中に。その子が意識を持ち、すべてを知るものに刃を向ける。つまり……あたしか、あなたか……または王なのか。」
紙を置いて帯は紫練の方を見下ろす。
「あなたに刃を向けるのであれば、どこの誰だろうと斬り殺します。」
「相変わらず頼もしいこと。」
彼女はそういってやっと笑顔を取り戻した。
紫練は王の最初の子供だった。といっても正妻の連れ子だったので、血の繋がりはない。紫練がまだ三つの頃だった。
自分の母の輿入れの時、彼女の身の回りをする世話役としてあてがわれたのが帯だった。帯は十個近くも離れていたが彼女のことをよく理解している。
だからこそ、彼女がどうして王の座を狙っているのか、それもよくわかって彼女に協力していた。腑に落ちないと思っていても。
「灰音に伝言を。」
だがその言葉にはさすがに帯も聞き返してしまった。
「何を……。」
「一つ、一つ、すべてが崩れるのであれば、諸共崩してやるわ。その芽を全て摘み取ってね。」
人形を解放などさせない。愛する人とともに解放されるなど、人形のくせにあり得ないことなのだから。
その日の昼。累は店の前に看板を出す。今日の日替わりは、豚肉の生姜焼き、または白身魚のフライだった。どちらにも新タマネギを使っている。豚肉と一緒にタマネギを、魚フライに添えられたタルタルソースにもタマネギを入れ込んだのだ。
「いらっしゃいませ。」
再開した旬食には待っていたかのように、近所の人や仕事の休憩中の人たちがやってきた。
「そうそう。この味なんだよな。累の生姜焼きの味。」
「タルタルも美味いんだよ。」
どこにでもある味だと思っていたのに、それがいいのだと人々は口にしている。
「累。夜も働いてんのか?」
「えぇ。お世話になったところが、まだ人手が足りないようでまだ抜けれなくて。」
「体壊さないように頑張れや。」
作業着の男はここを改装してくれた頭領だった。部下を引き連れてやってきてくれている。ありがたいと、彼女はせめてもとご飯だけはおかわりの値段を取らなかった。
こうしているとふらりと銘がやってくるようだ。情報を仕入れると、聞き耳を立てながら食事をする。彼女はそういう人だった。
「……黄の家臣の会社がアブねぇらしいな。」
黄の家臣というと黄林という男だっただろうか。確か彼の娘は史医師の奥さんだったはずで、あまり人の話を聞かないタイプだと言っていた。
「なんでもよ。手を伸ばしていた立春荘の経営が良くねぇんだろ?」
「薔薇が表立って禁止になったからな。それの代わりのヤツもまた取り締まっているらしいし。」
その言葉に彼女はため息をつく。そうか。立春荘の経営元は黄林だったのかと。だから彼が受け口になり、あの木箱を受け取っていたのだろう。
だが黄の国から来ていたというあの薬は、実は黄の国ではなく隆の住んでいた島で製造されていたモノだった。おそらく、あの遺体の爆破で、草は生えているがそれを生成する方法はなくなってしまったはずだ。
コレで薔薇は闇に葬られるだろう。だから黄林の会社も傾きかけているのだ。
そうなると危惧するのは、史医師かもしれない。彼はまだ医師で働けれいるらしいが、相変わらず夫婦関係は表面上いい夫婦を演じているだけらしい。
「……うまくいきませんね。」
ぽつりと彼女は口こぼすと、カウンターに座っていたスーツの男が笑いながら言った。
「うまいよ。生姜焼き。」
「あぁ。ありがとうございます。でも……違う話なので……。」
「あー。そういえば累は結婚するんだって言ってたな。」
「あ、はい。」
顔色一つ変えずに彼女はそれに答えた。普通なら「恥ずかしい」と顔を赤らめるのに。
「どんな男なの?」
「料理人です。いずれここで働くと。」
「だから改装したのか。良いじゃねぇか。腕はいいんだろう?」
「えぇ。私も働いていて、とてもやりやすい相手です。」
「何だよ。熱いなぁ。」
その言葉に彼女は目を丸くした。
「外はまだ寒いですよね。暖房を強くしすぎたでしょうか。」
「あーそういう意味じゃねぇよ。」
そのとき外のドアが開いた。そこにはジャンパーを着た隆が中に入ってきた。
「あー寒いなぁ。寒さがぶり返してるみたいだ。」
「隆。もう終わったんですか?」
「まぁな。最近は一点集中でくるから、結構楽だ。累。何が残ってる?」
「二つとも残してます。どちらでも。」
「二つ?」
二つあるメニューのうち一つは隆が食事をして、残ったモノはどうするのだろう。彼は首を傾げながら、魚のフライと告げると彼女は手際よく魚をフライヤーに入れた。
「そういえば、累の恋人って前に良く閉店ぎりぎりに来てたよな。」
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藍のことだ。彼女はそれでも表情を変えずに言う。
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