彷徨いたどり着いた先

神崎

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ライバル

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 この辺の界隈の人は響子のことは知っているから、声をかけるにしても店に誘ったりしない。何も知らない新人が声をかけることもあるが、そういうときも顔なじみが注意して引き離してくれる。
 それは当然、この辺で育っている一馬も同じだった。それに一馬は「flower children」の時に、あまり進まないがCMに出たこともある。トランペットの男が主流で写っていたのであまり印象に残らないだろうが、ポスターにはしっかり一馬の姿も確認できたりする。もうほとんど撤去されているが、田舎の方へ行けばまだ張られていることもあるのでうかつなことは出来ない。
 だから一緒に歩いていても、手を繋ぐことも親しく会話をすることもない。ただ、二人で歩く。いつものランニングコースだった。
 繁華街をでると、大通りにでる。そこをわたり奥まった方へ向かうとラブホテルが数件ある。繁華街の中のラブホテルは綺麗だが、その分盗聴なんかをされることも多い。それに対してこういうラブホテルは、あまり日が当たるところではないのでゲイカップルや不倫のカップルが多い。それを考えると、自分たちもしていることは同じかもしれない。
 圭太を裏切っているのだ。響子はそう思いながら、ホテルの前に来ると一馬のシャツの裾を握る。するとその感触に一馬も気がついて、足を止めると響子の頭をなでた。
「辞めておくか?」
「辞めるって……。」
「やっぱり、昨日の今日では体力も持たないだろうし……それに、どうしても重ねてしまうだろう?」
 どうしてこの男は響子の考えていることがわかるのだろう。響子は少しうなづくが、すぐに首を横に振る。
「あなたもそれを覚悟できたのでしょう。」
「……。」
「覚悟は揺るぐこともある。今日、あなたが覚悟を決めたのだったら……今日しかないのだったら……明日には会えないのだったら……私も後悔はしたくないんです。」
「オーナーに対しての後悔はあるかもしれないのに?」
「それは……。」
「……それは俺も同じだ。本音を言うとな。」
 一馬は少しため息をついて、響子の腕を手にする。その手首には跡がまだ少し残っていた。
「こんな跡を残されると、酷いセックスしかしていないのではないかと思う。お前のことを思うと、それは腹が立つことだ。好きだと思うから。もっと大事にされた方がいい。」
「大事にされているんです。もったいないくらい。」
「響子さん。」
「自分が怖い。」
 圭太のことが好きだ。なのにこんなにこの男にも惹かれている。
 どこかで昔の男の言葉が耳に残る。つまりそれは「淫乱」だということ。
「俺の欲望だけで連れてきてしまったし……今日はやはり辞めておくか。」
 すると響子は首を横に振る。その行動に、一馬は響子にいった。
「響子さん。」
「今日しかないと思うんです。」
 すると一馬はそのまま手を握り、そのホテルの中に響子とともに入っていく。

 部屋に入ると、古い内装の壁が見える。白いベッドは大きくて、部屋のほとんどを占領されているようだ。
「一馬さんは……こういうところは慣れていると思ってましたけどね。」
「慣れているわけがない。」
 背中に背負っているベースをおろし、一馬は風呂などの場所を見ていた。
「実家暮らしだったらこういうことってホテルくらいしか……。」
「指で数えるくらいしか経験はない。しかもあっちの家ばかりだ。」
「……あぁ。」
 だからホテルにも来たことがないのだろう。だが噂は立っているはずだ。それは有佐が言っていたことで、それは真実なのかわからない。
「だったら何であんな噂が……。」
「絶倫って言ってたことか?」
「はい。」
 一馬は湯船を溜めるのに、バスルームへ行く。そして戻ってくるとベッドに腰掛けた。
「「flower children」が解散した決定的なことだ。元々音楽性のずれはあったが、お互いに譲歩しているように見えた。だが……女がすべてを崩した。」
 サックスの男に女がいることは知っていた。だがサックスの男にはいつも女が居て、どれが本当の彼女なのかわからなかった。
 そのとき、一馬に近づいてきた女が居た。前の彼女と別れて、だいぶたっている。少し女日照りだったが、他のメンバーとの薦めもあってその女と寝てみたのだ。
「こんなモノかって感じだった。」
 やはり愛情のないセックスは何も感じない。ただの肉だ。だが女の方は十分感じていたらしく、また会いたいと言ってきた。セフレとかをつくるほど器用ではない。そう思って連絡を絶った。
 だがそれから数日して、サックスの男が一馬に殺しそうな勢いで攻め寄ってきた。
「人の女を取りやがって。」
 寝た女は、サックスの男の女だった。そしてそれを薦めてきたのは、同じメンバーだった。つまり一馬は利用されたのだ。そしてそのあとについて来るのは、「絶倫」という言葉と「バンドを組んでも女に手を出す最低な男」と言うことだった。
「だからバンドを組むのも抵抗していたんですか。」
「あぁ。二度は同じことをしたくない。人は裏切るから。」
 すると響子は隣に座って、一馬の手を握る。
「私も裏切っていますよ。オーナー……いいえ。圭太を。」
「……。」
「裏切りです。最低ですよね。」
「わかっていてやるんだったら罪深い。」
「……。」
「これからするのは俺の欲望のままだ。響子さん。嘘で良い。せめてこの部屋にいるときだけでも嘘を言ってくれないだろうか。」
 その言葉に響子は少しうつむく。だがすぐに顔を上げると、一馬をのぞき込んだ。
「好きです。」
 その言葉を言って響子は涙をこぼした。その頬に指をはわせ、涙を拭う。
「俺も好きだ。」
 頬に手を当てて、その唇にキスをする。一馬は少し屈み、響子は少し背伸びをする。一馬の手が響子の後ろ頭を支え、そして響子はその太い首に手を回す。
 どちらかとも無く舌が絡み合い、激しくキスを重ねる。
 顔を離すと、額を合わせた。
「息が出来ない。」
 すると一馬は少し笑う。そしてその体を抱きしめる。
「小さいな。それに細い。」
「私の方が年上ですけど。」
「そうだった。だったら……その口調を辞めてくれないか。」
「え?」
「それからさん付けもいらないから。」
 一馬はそういってベッドから立ち上がると、風呂場の方へ向かった。湯が沸いているか確かめに行ったのだろう。
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