彷徨いたどり着いた先

神崎

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 シャワーを浴びてリビングに戻る。そして携帯電話を手にするとメッセージが数件入っていた。その中の一つをタップする。
 そこには夏子からのメッセージが入っていた。
「都合の良いときで良いから、もう一度会いたい。」
 そのメッセージを削除する。連絡先自体を削除したかったが、変にそこまでやると響子も不自然に思うかもしれない。流されたとはいってもセックスをしてしまったのだ。新品のコンドームの箱は開封されていて、数が減っている。それは夏子に使ったものだ。
 挑発されてそれに乗ってしまった自分も悪いし、自分にそんな部分があったことに正直戸惑っていた。
 気のない女と寝るくらいなら、自己処理をした方がましだ。それくらい思っていた時期もあって、それでも一度だけで良いから寝て欲しいという女と寝たこともあるのは不本意以外の何者でもない。
 響子が聞いたらどう思うだろう。こんな所でも姉妹になってしまったのだ。最低と罵るだろうか。
 圭太はそう思いながら、ソファにもたれ掛かる。

 そのころ真二郎は客と別れて、家へ帰っていた。今日の客は真二郎の好みのタイプで、プライベートでもお近づきになりたいと正直思っていたのだ。だがこういう世界で客との繋がりは御法度だ。噂が噂を呼んで、指名が減っても困る。
 付き合うなら真っ当に知り合わないといけないのだ。
 そのとき真二郎の圭太が鳴る。それに反応して、真二郎は携帯電話を取り出すとその相手を見た。それは夏子だった。
「もしもし?うん。まだ外だけど。どうしたの?」
 夏子は今日、撮影が終わって打ち上げという形でこの町に来ているのだという。だがスタッフの中には明日も早いという人が居て、早々に解散したらしい。だが飲み足りないと、ふと思い出したのが真二郎だったのだ。
「いいよ。軽く飲むだけならね。」
 なんだかんだで響子の妹なのだ。大事にはしてやりたいと思う。響子と仲が良いように、夏子もまた真二郎が幼い頃から知っているのだから。
 圭太や響子が行きつけのライブバーである「flipper」とは違って、普通のダイニングバーのようなところに呼び出された。黒を基調にしたお洒落な店内は、外の雑踏すら無縁に感じる。
 個室ではないが、薄いベールで仕切られたテーブル席に夏子は居た。いつもとは違ってスカートを履いている。しかも相当短いもので、少ししゃがめばパンツがすぐに見えそうだ。それに着ているシャツもだいぶ胸元が広く開いている。それも屈んだらすぐに胸元が見えそうだ。
「お疲れ。仕事だったの?」
「うん。食事だけのプランでね。」
「だったら軽く摘めるもので良いか。あたしもお腹は一杯なの。」
 腹は満たされているが、酒は足りていないらしい。響子と同じく、夏子もザルなようだ。だがそれだけではないだろう。何か相談したいか、言いたいことがあるのか。女性はグチで出来ていると思うから、真二郎がこういう女性を苦手にしているらしい。
 酒とつまみを頼み、オーダーがくるまで夏子は他愛のない話をしていた。今日、こういう格好をしているのは、撮影で四人の女性が一人の男を襲うモノだったらしい。男にしては夢のようなネタかもしれないが、実際は相当体力や精力が必要なのだ。
「真二郎も男優は出来そうだけどね。」
「ゲイ男優で良い?」
「でも知ってるよ。女の子もいけるんでしょ?姉さんに手を出せなくて残念だよね。」
「響子は響子で幸せそうだ。オーナーとは相性がいいのかな。それに……昔のことも忘れさせてくれる。俺は無理だったから。」
「……オーナーね。」
 生ハムとチーズの盛り合わせ。それからグラスワインが運ばれる。チーズはともかく、ワインは香りが良い。それに飲みやすくてするすると喉を通っていく。
「あのオーナーってくせ者よね。」
「え?」
「真二郎が良い人じゃないって言ってたのわかったわ。」
 ワインを口に淹れて、夏子は頬杖を付いた。
「何かあった?」
「凄いサディスト。しかも自分本位で相手のことなんか考えてないセックスするのよ。姉さん、いつもあんな事をされてるの?」
 色んな事が耳に入り、真二郎の動きが止まる。そしてワインを口に入れると、少し落ち着かせるように頭の中で整理した。
「え?オーナーとした?」
「うん。あたしから誘っただけなんだけどさ。あー姉さんには内緒ね。」
「言えるわけないよ。何言ってんだ。オーナーがのこのこ君と?」
「まぁ……頼まれたんだけどね。」
「誰に?」
「それは秘密。」
 少し笑って夏子はチーズを手にする。
「秘密は良いよ。聞いたら君が危ない目に遭うだろうし、俺もそんなリスクを負ってまでやろうとは思わないけどさ。……そんなに酷いセックスをする?」
「うん。あたしさ、ほらサディストとか淫乱とか言われててさ。まぁ、否定はしないよ?でもさ、相手のことを考えてからのSMなわけじゃん。本気で女をオナ○ール見たいに扱うのなんか、AVの世界だけでさ。」
「ふーん。男はそういう扱いされても文句を言わないのに、女は文句を言うんだ。」
「え?」
「前にも言ったことがあると思うよ。俺を誘ってくる女って、俺のことを生きたディルドくらいにしか思ってないって。」
「それは……。」
 真二郎と寝たことはない。だが寝たという女に話を聞けば、真二郎を味わえば離れられなくなると言う。それくらい中毒性があるのか、立派なモノを持っているのか、それともマメなのかはわからない。
「それにしてもあのオーナーがねぇ。」
 それを聞いて真二郎は心の中で笑う。もしかしたら、根に持っているのではないかと思ったのだ。それは気を使い合うだけなら、残っているのは破滅だけだと言うこと。
 だから圭太は夏子でうっぷんを晴らしたのだろうか。
「あ、でもさ。姉さんには言わないでね。」
「言わない方が良い?」
「姉さんに恨みがあるとか、そういうことで寝たんじゃないの。それにさ。ばれたらもうオーナーさんに近づけないじゃない?」
 サディストとマゾヒストは表裏一体。普段はサディストな夏子なのに、圭太とセックスをして開発されてしまったのだろうか。
「夏子さ。応援しようか?」
「え?」
 少し予定は狂った。だが夏子を利用しない手はない。真二郎は少し笑って、夏子にその話を持ちかける。

 響子もシャワーを浴び終わると、寝室へやってきた。そして携帯電話を手にすると、メッセージが入っていた。
「明日帰る。」
 一馬からのメッセージだ。響子はそれに返信をするとベッドに横になった。一馬はレコーディングで、他県へ行っている。そこは雪が積もっていて、静かなところだ。だからレコーディングなんかにはちょうど良いらしい。
 しばらくすると電話の着信が鳴る。体を起こしてその着信の主を見た。それは一馬だった。
「はい。うん……。明後日でしょ?わかってる。コーヒーを淹れて待ってるから。」
 ちらっと寝室の入り口をみる。まだ真二郎が帰ってこないようだが、いつ帰るかわからないのでいつでも電話は切れるようにしないといけないだろう。
「え?何を言ってるの?ちょっと……バカじゃない?そんなこと……したことあるわけがないわ。それにあなたの方が厳しいんじゃないの?……え?……もうっ。」
 一馬の言葉に響子の顔が赤くなる。そして言い負かされるように響子は電話をしたまま電気を消すと、ベッドの布団に潜り込んだ。
 そして暗闇の中、一馬の姿を想像する。そしてそれは電話の向こうの一馬も響子を想像していた。
 いつ会えるかわからない。だがこういう方法で繋がれることもあるのだ。
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