夜の声

神崎

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一年目

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 数日して、レンタルしてきたユニフォームがヒジカタコーヒーから送られてきた。ワイシャツやブラウスは自分たちで買うとして、送られてきたのはスカート、ズボン、エプロン、ベストだった。
 サイズが合わない人は補正をするらしく、そういうのが得意な人たちに任せる。
 私は同時に送られてきたコーヒーメーカーを組み立てて、コーヒー豆を入れ、コーヒーの試飲をするためにコーヒーとをとりあえず入れてみた。
 一パックが十杯分。すぐ無くなりそうな気がするけど、作り置きをすると味も落ちちゃうしな。こまめに作っていれば大丈夫だろう。
 スイッチをオンにすると、コーヒーメーカーが「ゴゴッ」っという音を立てる。なんか壊れそうな音だな。大丈夫かなぁ。
「アハハ。すげぇ。オカマみてぇ。」
「化粧をしてないからでしょ。ウィッグかぶればそうでもないよ。」
 向日葵の声がする。自分で着てみて、自分で笑っている匠は脳天気だと思った。
「とりあえずみんな着てみて。」
 熱が引いている竹彦がそうみんなに言っているようだった。
 ようだったというのは私が最近竹彦を避けているからだ。竹彦はやってはいけないことをした。熱のせいだったと言えばそうだったかもしれない。だけど彼は理解していたはずだ。私には恋人がいて、その人しか見ていないこと。
 なのに彼は私にキスをした。一瞬だけ触れたその感触は、今でも忘れられない。そして嫌悪感から彼を避けている。
「桜。みんなサイズあわせたよ。後、桜だけ。」
「え?本当?」
 出遅れてしまった。うーん。まぁしかたない。まだコーヒー時間かかりそうだしな。
 ズボンとバリスタエプロン、そしてベストを手に、私はトイレに向かった。
 個室で制服を脱ぎ、それらを身につける。サイズは悪くない。
「着たよ。」
 個室から出ると、向日葵たちがため息をついた。
「そのままでもやっぱり様になってるね。ずっとしているからかな。」
「そうでもないよ。髪どうしようか。」
「ウィッグつける?でもそのままでもいいよね。髪が長い男のバリスタもいるよ。ほら、駅前のカフェとか。」
「行かないからなぁ。」
 葵さんの髪は少し茶色だけど、短く切られていて清潔感がある。だから誰からでも好かれる。たぶん、嫌いな人なんかいないんじゃないのかなって思うくらい。
「あと蝶ネクタイ?」
「うん。そうね。」
「男子のエプロンみた?超ふりふり。笑っちゃったよ。」
「腰回りが女子と違うから、ちょっと布を継ぎ足さないといけないわね。私たちは逆だけど。」
「ベルトで締める?」
「それしかないか。」
 向日葵は少し笑いながら、私の髪に触れた。
「でも桜、髪が長くなったね。何で?彼氏が長いの好きなの?」
「ううん。別に。何でもいいと思う。」
「桜の外見を好きになったんじゃないの?」
「そういう訳じゃないと思う。だいたい、外見を好きになったんだったらもっと大人の人を選ぶわ。きっと。」
 あー。なんか自分で自分を誉めているようでイヤだ。
「着替えてくる。」
「え?皆の前に出なくていいの?」
「代わり映えしないと思わない?胸もつぶさない、髪もそのままだったら男装している感じがしないもの。」
「化粧はするよ。」
「男装で必要なの?」
 とは言ったものの、そういえば「虹」では男装の人も化粧をしていたな。
「変わると思うよ。」
「そんなものなのね。」
 制服にまた着替えて、教室に戻ると竹彦がこちらに近づいてきた。
「コーヒー沸いたみたいだ。」
 教室中にコーヒーのいい匂いがした。
「ありがとう。だったら味を見ようね。」
 逃げるようにコーヒーマシンの前へ行き、サーバーを取り出した。思った以上にいい匂いがする。

 昼休み。弁当を食べ終わり、私は向日葵たちといつものように座談会をしていた。向日葵はついに彼氏と別れたと愚痴を言っている。
「何で別れたの?イケメンだったじゃん。」
「だってさぁ。浮気してたんだよ。商業の子とさ。メッセージ無視したり、電話も出ないことがあってさ。問いつめたら浮気発覚。」
「きっついね。」
「でもやっぱりかって思うよ。」
「浮気相手は三年だって言ってたね。」
「やっぱ年上の方がいいのかな。」
 どうだろう。向日葵を振るなんて、その男もたいしたものだと思うけど。背が高くてすらっとしている。ショートボブの髪はよく似合っていて、向日葵を狙っている人も多いはずなのにな。
 年上ねぇ。
「ってことで新しい出会いを求めたいからさ、合コンしない?」
 切り替え早いな。もう新しい男か。
「桜も行かない?」
「あー。ごめん、ほとんど今バイト入っているんだよね。休みの日は少し早めに行ってるし……。それに……。」
「彼氏に悪い?」
「まぁね。」
「年上彼氏もいいなぁ。でも社会人でしょ?浮気とかしない?」
「ある程度は大目に見ないと。」
 向日葵たちは顔を見合わせて、大人だねぇーと言ってくれた。
 だけど不安がないわけじゃない。でも柊さんには柊さんの世界があるし、私には私の世界がある。それを一から十まで話す必要はない。多分、長くつきあっていたり、熟年夫婦でもお互いに話せないこともあるだろう。
 ある程度の隠し事は、関係にスパイスを与えてくれる。
 それに束縛はしたくない。いいわけかもしれないけれど。
「桜。ちょっといい?」
 そのとき向こうから匠が話しかけてきた。夏の前に丸刈りになった髪は、ずいぶん伸びて見える。それに背が高くなった。そのせいでほかのクラスの人たちから「あの人かっこいい」といわれることもしばしばらしい。
 どこがいいんだか。こんなヤンキー。
「何?」
「話があるんだけど。」
「ここじゃ言えないの?」
「まぁな。」
「わかった。ちょっと行ってくるね。」
 友達にそういうと、私は席を立って匠のあとをついて行った。
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