夜の声

神崎

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二年目

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 「窓」へ帰ってくると、ずぶ濡れになっている私たちに葵さんは再びタオルを手渡し、もう今日は帰った方が良いと言ってくれた。どちらにしてももうこの台風ではお客は来ないと、閉めてしまうらしい。
「うまくいったみたいですね。」
 笑顔でそう言ってくれるが、きっと内心は表情と裏腹だろう。
 乾いた制服を着ても下着まで濡れているので、私はそのまま帰った。傘を一本貸してもらい、柊さんと歩いて帰る。もう傘は意味がないと思うくらいお互い濡れているが、仕方ない。
「桜。」
「何?」
「多分、お前の不満は予想が出来る。」
「……わかってるの?」
「あぁ。連絡が付かないことがあるのだろう。そこに不安を感じているのではないのか。」
「そうね。でも話せないのでしょう?」
「どうしてそう思う?」
「葵さんが言ってた。あなたが夜に連絡が付かないのは、理由があるけれど契約でそれを話すことは出来ないって。」
「そうだ。」
「……でも一つ聞かせて欲しいことがあるの。」
「……何だ。」
「それは蓬さんに関係があることなの?」
 すると彼は私の方を見て笑う。
「ない。あの人と話にも関係がないことだ。」
 契約って何なんだろう。わからない。だけど話してはいけないことを無理矢理聞くことは出来ない。
「いつか母さんが言ってた。蓬さんとあなたがまだ繋がりがあるのだったら、私と有無も言わずに離れさせるって。私、それが怖かった。」
 コンビニを過ぎて、もうすぐ家に着いてしまう。もう離れていく時間が刻々と過ぎていくのだ。
「確かに関わったら骨の髄まで吸い上げるのが奴らのやり方だが、関わってくれば突き放すやり方ならいくらでもある。ただ、お前は守ってやれないかもしれない。」
「……守ってくれないの?」
「突き放せよ。そのときは葵や、茅の力を借りてもいい。お前には人が集まっているから。」
「……そうね。でも彼らはみんな下心で近寄ってくるわ。」
「そのときは噛み切れ。」
 その言葉に少し笑った。
「契約の話も、いずれ出来る。それまで待てるか。」
「話してくれるのを待つわ。」
 アパートの前にたどり着いてしまった。
「夜は少し用事がある。その前に着替えないとな。」
「風邪ひくわ。」
「温かくして寝ろよ。」
「この暑いのに?」
 少し笑い、アパートの壁を背にした。そして傘で隠すように彼はその前に立つ。自然と私は上を向いた。そして目を閉じる。ふわっとした唇が重なる。そこだけが温かいようだった。
「感覚的に、今夜部屋に行きたい。」
「寝てるかもしれないわ。」
「じゃあ、添い寝をするか。」
 少し笑い、私たちはその場から離れた。後ろ髪を引かれるように。

 家に帰ってくると、母さんが食事を作って待っていた。美味しそうな匂いがする。
「肉じゃが?」
「わっ。あんた傘持ってなかったの?ずいぶん濡れてるわね。早くシャワーでも浴びてきなさい。」
「うん。」
 部屋へ行くと着替えを持って、風呂場へ行く。服を脱ぐと、その服をすべて洗濯機の中に入れた。ついでにほかの洗濯物も入れておこう。
 ぬるいシャワーが体を温めてくれる。そしてシャワーから上がると、姿見の鏡で体を見た。細い。まるで針のようだ。でも確かに胸に肉は付いたのかもしれない。前よりも大きくなった気がする。
「……もう少しあればなぁ。」
 あと身長ももう少しあればいいのに。そしたら柊さんと並んで歩いても、親子とかには見られないのになぁ。
 考えない。考えない。まぁいいや。私が良いっていう柊さんを信じよう。
 服を着ると、私は風呂場をでた。
「肉じゃが作り過ぎちゃった。今日柊さん来ないの?」
「どうだろう。用事があるっていってたからすぐ行くのかな。」
「じゃあ、朝持って帰るようにいって。」
「わかった。」
 横目で私をみる母さんは、ふっと笑った。
「何?」
「何かずいぶん体の線が丸くなったなって思って。」
「え?」
「女らしくなったってこと。柊さんのお陰かしら。」
「そうかな。」
 私はそう思いながら、首を傾げた。
「胸大きくなった?下着買いに行く?」
「うーん。わかんない。ま、必要なら自分で買いに行くわ。」
「まぁ、大きくなったっていっても微々たるものよねぇ。もうちょっと頑張ってもらいなさいよ。」
「……あのさ、母さん。孫でも早く欲しいの?」
 その言葉に母さんはふっと笑った。
「欲しいわねぇ。そしたら私の子供と、孫が同じくらいの歳っていうのもあり得る話だし。」
「母さん妊娠してるの?」
「まだしてないわよ。でも……あんたが自立したら、結婚しても良いなとは思ってるのよ。」
「それは……急ね。」
「別に急じゃないわよ。前々から言ってたことだし。」
 するとキッチンの側に置いてあった携帯電話が鳴る。それは母さんのものだ。
「あら。今日は台風だから店閉めるって言ってたのに。」
 菜箸を置いて、携帯をみる。
「どうしたの……うん。そうね。でもこの天気で?……そう。わかったわ。」
 携帯電話を置いて、彼女はエプロンをとった。
「どうしたの?」
「迎えにくるからって。今日柊さん夜は遅いの?」
「だって言ってたけど。でも待ってるから。」
「一人で平気?」
「今更何よ。ずっと一人だったじゃない。」
「可愛くなーい。柊さんに言いつけてやる。」
 子供のように自分の部屋へ言った母の姿を、私は笑いながら見ていた。そしてコンロの火を消す。ふたを開けると、肉じゃがのいい匂いがした。
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