164 / 355
二年目
163
しおりを挟む
いつもの店にでるようなワンピースではなく、母さんの格好は案外ラフな格好だった。ジーパンなんて持ってたんだ。この人。でもシャツは肩が見えてて、その色は透き通るような白だった。
「柊さんにはなるべく早く来るように言っておいたわ。」
「ありがとう。」
多分いつもだったら「余計なことをして!」とか何とか言ってたのかもしれない。だけど今日はその母さんの優しさに甘えよう。
「じゃあ、行ってくるわね。」
そう言って玄関ドアを開けたときだった。
「……!」
母さんの動きが一瞬止まった。何?
「あんた……。」
母さんの向こうにいたのは茅さんだった。茅さんは母さんを見てふっと笑う。そして私の方を一瞬見て、すっといなくなった。
母さんは何も言わなかった。そして部屋を出ていく。何だったんだろう。あれは。
一人で食事をして、明日の朝食の準備をすると部屋に戻ってきた。そしてラジオをつける。でもラジオはどこのチャンネルも台風情報だった。同じような内容ばかりが繰り返され、私は結局ラジオのスイッチを切る。多分テレビも同じようなものだろう。
静かな部屋だな。音がなければ何もない部屋だ。机の上にある問題集に触れてみる。もう開くことはないのかもしれない。公務員は無理だったかもしれないけど、やって出来ないことはないのかもしれない。ううん。もう考えない。私は普通に就職できるのだから。
そっとその問題集を手にすると、本棚にしまう。そして外を見る。雨風はどんどんと強くなり、嵐のようだった。
そのときチャイムが鳴った。誰だろう。こんなときに。
玄関へ向かうと、そこには茅さんの姿があった。
「茅さん。」
「一人か?」
「えぇ。」
「平気か?」
「いつも一人ですよ。」
「怖がってねぇかと思ってな。」
彼は少し笑い、私をみる。
「もう少ししたら柊さんがきます。」
「何か忙しそうだな。あいつ。何してんの?」
「知りません。」
その答えに彼は呆れたようだった。
「知らねぇって、そんなんでいいのか。」
「えぇ。それでちょっと今日一悶着あったんですけどね。解決しました。」
「解決したのか。そうか……。」
良かったなとは言わない。呆れているから。
「お前さ、葵には気をつけろよ。」
「葵さん?どうして?」
「あいつ昔から考えは読めない奴だけど、久しぶりに会ったらさらに読めねぇ。何考えてんのかな。」
「……何を考えているかなんて、その人しかわかりませんよ。」
「それもそれでいいのか。」
「えぇ。」
「……危ない奴。騙されそうだな。」
「葵さんには騙されても技術は盗んでますから。」
「まぁな。柊に騙されてるとは思わないのか。」
「……柊さんは騙してませんよ。信じてますから。」
「お得意の信用か。まぁいい。それでお前がいいなら。」
ふと私は思いだしたことがあった。それはさっきの母の態度。茅さんを知っているような感じだった。
「茅さん。」
「何だよ。」
「母さんを知ってるんですか。」
「……大人のつきあいをしたことがある。それだけだな。」
大人のつきあいって……。ん?あれ?
「元彼ってことですか。」
「違う。まぁ、いずれわかるけど一つ言えるのは、母親の店の子を俺が一度連れて行った。」
「売ったってことですか。」
「人聞き悪いな。あのな、借金こさえて返さない奴らが悪いんだよ。本当だったら首根っこ捕まえて、ソープでも海外でも売りてぇんだ。そんなことをしないで、あくまで人的に船に乗せようってんだから、ある程度人間らしいだろ?」
う……ん。まぁ。そう言うことなのかな。
「あんたの恋人はそれが出来なかった。潔癖だったからな。百合以外知らなかっただろう?あんたとヤるまで。」
「……経験豊富だと思ってました。」
すると彼は私の肩に手をかける。
「あんた、悪いこといわねぇから、一度違う奴でもやってみればいい。俺が相手しても良いけど。」
「結構です。」
「あれが本当だと思ったら、大間違い。」
私は手を振り払って、彼を拒否した。すると彼はふっと笑う。
「まぁいいや。とりあえず、無事ならそれでいい。」
「……。」
「じゃあ帰るわ。会社も気になるしな。」
「そうですか。ありがとうございます。わざわざ。」
「別に。構わんよ。ついでだし。」
玄関ドアを閉めた。そして自分の部屋に戻り、再びラジオをつけた。相変わらず台風情報ばかりだ。でももう峠は過ぎたようで、これから風も雨も弱まっていくという。
そのときだった。ラジオの音がやみ、部屋の電気が消えた。
「え?」
停電?私は机の上を手探りで探し、携帯電話を手にした。そしてぱっと明るくなるように、携帯電話のライトをつける。そして窓の外を見た。
主たる家はどうやらみんな真っ暗になってる。街灯も消えている所を見ると、どうやらこの辺が全体的に停電になっているらしい。
困ったなぁ。
そのとき家のチャイムが再び鳴った。柊さんかな?私はそう思いライトで足下を照らしながら、玄関へ向かった。
そしてドアを開けると風が勢いよく吹き込んできた。
「柊さんにはなるべく早く来るように言っておいたわ。」
「ありがとう。」
多分いつもだったら「余計なことをして!」とか何とか言ってたのかもしれない。だけど今日はその母さんの優しさに甘えよう。
「じゃあ、行ってくるわね。」
そう言って玄関ドアを開けたときだった。
「……!」
母さんの動きが一瞬止まった。何?
「あんた……。」
母さんの向こうにいたのは茅さんだった。茅さんは母さんを見てふっと笑う。そして私の方を一瞬見て、すっといなくなった。
母さんは何も言わなかった。そして部屋を出ていく。何だったんだろう。あれは。
一人で食事をして、明日の朝食の準備をすると部屋に戻ってきた。そしてラジオをつける。でもラジオはどこのチャンネルも台風情報だった。同じような内容ばかりが繰り返され、私は結局ラジオのスイッチを切る。多分テレビも同じようなものだろう。
静かな部屋だな。音がなければ何もない部屋だ。机の上にある問題集に触れてみる。もう開くことはないのかもしれない。公務員は無理だったかもしれないけど、やって出来ないことはないのかもしれない。ううん。もう考えない。私は普通に就職できるのだから。
そっとその問題集を手にすると、本棚にしまう。そして外を見る。雨風はどんどんと強くなり、嵐のようだった。
そのときチャイムが鳴った。誰だろう。こんなときに。
玄関へ向かうと、そこには茅さんの姿があった。
「茅さん。」
「一人か?」
「えぇ。」
「平気か?」
「いつも一人ですよ。」
「怖がってねぇかと思ってな。」
彼は少し笑い、私をみる。
「もう少ししたら柊さんがきます。」
「何か忙しそうだな。あいつ。何してんの?」
「知りません。」
その答えに彼は呆れたようだった。
「知らねぇって、そんなんでいいのか。」
「えぇ。それでちょっと今日一悶着あったんですけどね。解決しました。」
「解決したのか。そうか……。」
良かったなとは言わない。呆れているから。
「お前さ、葵には気をつけろよ。」
「葵さん?どうして?」
「あいつ昔から考えは読めない奴だけど、久しぶりに会ったらさらに読めねぇ。何考えてんのかな。」
「……何を考えているかなんて、その人しかわかりませんよ。」
「それもそれでいいのか。」
「えぇ。」
「……危ない奴。騙されそうだな。」
「葵さんには騙されても技術は盗んでますから。」
「まぁな。柊に騙されてるとは思わないのか。」
「……柊さんは騙してませんよ。信じてますから。」
「お得意の信用か。まぁいい。それでお前がいいなら。」
ふと私は思いだしたことがあった。それはさっきの母の態度。茅さんを知っているような感じだった。
「茅さん。」
「何だよ。」
「母さんを知ってるんですか。」
「……大人のつきあいをしたことがある。それだけだな。」
大人のつきあいって……。ん?あれ?
「元彼ってことですか。」
「違う。まぁ、いずれわかるけど一つ言えるのは、母親の店の子を俺が一度連れて行った。」
「売ったってことですか。」
「人聞き悪いな。あのな、借金こさえて返さない奴らが悪いんだよ。本当だったら首根っこ捕まえて、ソープでも海外でも売りてぇんだ。そんなことをしないで、あくまで人的に船に乗せようってんだから、ある程度人間らしいだろ?」
う……ん。まぁ。そう言うことなのかな。
「あんたの恋人はそれが出来なかった。潔癖だったからな。百合以外知らなかっただろう?あんたとヤるまで。」
「……経験豊富だと思ってました。」
すると彼は私の肩に手をかける。
「あんた、悪いこといわねぇから、一度違う奴でもやってみればいい。俺が相手しても良いけど。」
「結構です。」
「あれが本当だと思ったら、大間違い。」
私は手を振り払って、彼を拒否した。すると彼はふっと笑う。
「まぁいいや。とりあえず、無事ならそれでいい。」
「……。」
「じゃあ帰るわ。会社も気になるしな。」
「そうですか。ありがとうございます。わざわざ。」
「別に。構わんよ。ついでだし。」
玄関ドアを閉めた。そして自分の部屋に戻り、再びラジオをつけた。相変わらず台風情報ばかりだ。でももう峠は過ぎたようで、これから風も雨も弱まっていくという。
そのときだった。ラジオの音がやみ、部屋の電気が消えた。
「え?」
停電?私は机の上を手探りで探し、携帯電話を手にした。そしてぱっと明るくなるように、携帯電話のライトをつける。そして窓の外を見た。
主たる家はどうやらみんな真っ暗になってる。街灯も消えている所を見ると、どうやらこの辺が全体的に停電になっているらしい。
困ったなぁ。
そのとき家のチャイムが再び鳴った。柊さんかな?私はそう思いライトで足下を照らしながら、玄関へ向かった。
そしてドアを開けると風が勢いよく吹き込んできた。
0
あなたにおすすめの小説
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
肉食御曹司の独占愛で極甘懐妊しそうです
沖田弥子
恋愛
過去のトラウマから恋愛と結婚を避けて生きている、二十六歳のさやか。そんなある日、飲み会の帰り際、イケメン上司で会社の御曹司でもある久我凌河に二人きりの二次会に誘われる。ホテルの最上階にある豪華なバーで呑むことになったさやか。お酒の勢いもあって、さやかが強く抱いている『とある願望』を彼に話したところ、なんと彼と一夜を過ごすことになり、しかも恋人になってしまった!? 彼は自分を女除けとして使っているだけだ、と考えるさやかだったが、少しずつ彼に恋心を覚えるようになっていき……。肉食でイケメンな彼にとろとろに蕩かされる、極甘濃密ラブ・ロマンス!
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる