夜の声

神崎

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二年目

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 破れたジーパンと肩の出たシャツ。ピアスは唇にもあって、どこのパンクロッカーに話しかけられたかと思った。でも紛れもなく竹彦だった。
「竹彦君。」
「変わらないね。桜さんは。」
 細身の体だったけど、腕とか肩とかがとても筋肉質のようで、ずいぶん変わった気がする。
「パンクでもするの?」
「フフ。音楽は出来ないよ。でも、今度やれっていわれた。そう言う仕事らしいよ。」
「……聞いた。仕事を始めたって。」
「うん。」
「大丈夫なの?」
「余計な感情がない方がやりやすい。そう思ったよ。周りの人たちが辞めていくのを見て、ますますそう思えた。」
「……人に興味がないって言ってたわね。」
「あぁ。だからいいのかもしれない。」
 一度、この唇にキスをされた。椿になるということは、好きでもない人とそういうことをしないといけないということだ。きっと私の後、誰か違う人とキスをしたのだろう。
「ヒジカタコーヒーに行ってここに来たの?」
「いいえ。今日は呼ばれなかったから。」
「カフェ事業の主要メンバーにしては、結構雑な扱いをするんだね。」
「……その話、みんな知っているの?」
「……一応蓬さんの所に挨拶にきたからね。きっと君もメンバーに入っていると思った。」
「私は何も知らないのに?」
「そうなの?」
「今日初めて知ったわ。」
 なんだろう。この置いてけぼり感は。自分のことなのに全て置いてかれてる感じ。
「藤堂茅さんって言ってたっけ。」
「そうね。」
「元、椿だって聞いた。でもいたのはそんなに長くないらしい。」
「……。」
「優秀だったって。柊さんのような鉄砲玉のようなことも出来るし、葵さんのように女性を口説くことも出来るって。」
「そう。」
「大丈夫?捕まえられてない?」
「大丈夫よ。私みたいな子供は本気で相手にしないでしょ。」
 本気で相手にしないと言う言葉に、おそらく何かあったことはわかったかもしれない。だけど竹彦はそれ以上聞かなかった。
「でも、君このままヒジカタコーヒー行くの厳しくなったんじゃない?」
「……そうね。そうかもしれないわ。きっと私は葵さんを利用して、ヒジカタコーヒーの片棒を担ぐろくでもない女って思われるでしょうね。」
「その通りだと思う。ううん。もうそういう噂はあるよ。」
「やだ。そうなの?」
「君が「窓」で働く時間を見て、入るお客さんが増えたんじゃない?」
「そうね。なんか「きゃあ」って言われる。」
「「きゃあ」?」
「男装の麗人って。」
「そういう意味か。」
 彼は苦笑いをする。
「女性には転ばないでよ。」
「頼まれてもしないわ。それに私は一人しか見てないの。」
「……でも……彼はそばにいてくれる?」
「えぇ。」
「もし、どうにもならないことがあったら聞くから。」
「ありがとう。」
 すでに私を見下ろすくらいの身長になっている。彼は私を見ていると、周りの女の子たちがこちらを見ていたのに気が付いた。
「あの人、超かっこよくない?」
「やばい。でも女連れだよ。」
 そんな声が聞こえる。
「匠君が今度連絡して欲しいって言ってたわ。」
「また殴られるのかな。」
「今だったら殴り返すでしょ?」
「……そうだね。でも……。」
 竹彦は少し苦しそうだった。何か悩みでもあるんだろうか。
「桜さん。」
「何?」
「今度でいいから、柊さんと話がしたいことがあるんだ。」
「椿には戻らないわよ。」
「……そういうことじゃないんだ。なんなら君と一緒でもいい。」
「私と?」
「うん。」
「わかった。連絡してみる。」
「じゃあ、また。」
「あ。竹彦君。」
「何?」
 行こうとした竹彦が私の方を振り返った。
「「blue rose」の屋台はどこかしら。」
「あぁ。向こうだよ。あの青い屋根の所。でも近づけないんじゃない?」
「……なんで?」
「女の人ばかりだったよ。葵さんの所はマジで多かったから。」
 だろうな。
 想像はできる。だけど行かないわけにはいかない。私は薄くなったシャーリーテンプルを手にして、その屋台へ向かった。
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