夜の声

神崎

文字の大きさ
172 / 355
二年目

171

しおりを挟む
 竹彦君にいわれたとおり、青い屋根のあるテントには女性が群がっていた。その一歩手前から見ていると、なるほどそうかもしれないというくらいのイケメン店員が酒を作ったり、ちょっとしたつまみを提供している。
 その中でも葵さんの所には列が余計にある気がする。
「葵さん。写真撮っていい?」
「きゃあ。」
「かっこいいー。」
 骨抜きになってなんかぐにょぐにょになった感じ。酒を飲む前に酔っぱらってる。もちろんイケメンに。
「はーっ。」
 私はそれを見て取りあえず引き返すことにした。こんな時に葵さんに声をかけたら、さらに女性の敵が増えるだろう。
 とりあえずメッセージでも送っておこう。明日でいいか。話があります……と。
 とりあえず時間は潰せた。もう少しで柊さんのステージがあるはずだ。この酒臭いエリアから、ステージへ行くことにしよう。そう思ったときだった。
「桜。」
 そこにはビールを持った茅さんがいた。タンクトップを着ていた茅さんは、何となくチンピラ臭がしてみんな少しづつ避けている。
「茅さん。」
 ん?とりあえず葵さんに話を聞くより、茅さんに話を聞くのが先かもしれない。
「酒飲んでるのか。お前。未成年のくせに。」
「ノンアルコールですよ。シャーリーテンプル。」
「つまんねぇ奴。」
 そういって彼はビールをぐっと飲んだ。
「俺がお前くらいの時は……。」
 やばい。話が長くなりそうだ。酒飲むとめんどくさい人か。
「茅さん。」
 茅さんはふっとこちらを見る。
「何?」
「私がどうしてヒジカタコーヒーのカフェ事業に手を出すことになってるんですか。」
「ん?だって、俺が推薦したから。」
 悪びれもなく言う。
「何も聞いてないんですけど。」
「新学期早々にその話を持ち込むつもりだった。まぁ、話は余所から漏れているみたいだけどな。でも俺の所に就職するつもりだったんだろ?」
「ヒジカタコーヒーは事務方で受けるつもりだったんです。」
「事務なんかのつまんねぇ仕事、誰でもできるっつーの。俺でも出来てんだからさ。」
「でも……。」
「うるせぇ。俺が推薦してんだから、それでいいだろ?」
「……。」
 意味わかんない。柊さんも多少強引なところはあるけど、ここまで強引じゃないんだけどな。
「俺がお前に近づいたのは、お前が葵の所で働いてるからだよ。葵にはうちで講師して欲しかったんだけどな、どうしてもやだって言うんだから、お前が入れる方法を他の奴に教えればいいんだよ。」
「教えられるようなことはありません。そんなレベルでもないし。」
「過小評価しすぎなんだよ。お前は。嫌みか。え?」
 酔うとめんどくさいタイプだ。マジで。酔ってないときに言うか?イヤさらに面倒だろうな。
 今人が周りにいるから手を出さないんであって、素面だと今度は操の危機だ。
「葵さんを裏切って、ヒジカタコーヒーに肩入れをする気はありません。」
「裏切る?」
「葵さんの技術を盗んで、ヒジカタコーヒーのためにコーヒーを入れろってことですよね。」
「それがどうして裏切りだよ。職人だったらいずれ自立するだろ?それとも何か?お前ずっとあそこで葵に使われる気か?」
「……いずれは辞めますけど。」
「もったいねぇじゃん。だったらうちの会社のためにコーヒーいれろよ。」
「やです。」
「強情な奴だな。」
 そういって彼はいつの間にか飲み終わったビールのカップを握りつぶして、私の手首に手をかける。
「なんですか?」
「使えるものは何でも使う。俺の体でも何でも使ってやるよ。」
 その言葉にぞっとした。そうだ。彼には前に襲われそうになったことがあるのだ。だめだ。彼について行ってはいけない。
「イヤです。」
「いいから来い。」
 そのときその手を振り払ってくれた人がいる。それは竹彦だった。
「……誰だ。お前。」
 竹彦は何も言わずに、私の手を引き走り出した。それはステージの方向だった。
「待てよ!」
 カップを落としてしまい、茅さんに思いっきりかかってしまった。
「冷てぇ。てめぇ!」
 そして竹彦は無言のまま、私をステージ脇につれてきた。ステージには徐々に人が集まってきているし、他のDJがまだパフォーマンスをしている最中で、音がうるさい。
「ちょっと待ってて。」
 竹彦はバックヤードに顔をのぞかせて、一人の人を連れてきた。それは前にクラブで会った菊音という男の人だった。
「菊音さん。」
「桜さんだっけか。竹彦の同級生だったか。」
「はい。ちょっと事情があって、しばらくかくまって欲しいんですけど。」
「……あぁ、Syuがそろそろ出番だ。特等席で見るかい?」
 意味ありげにほほえみ、彼は私をバックヤードへ促した。
「宜しくお願いします。」
「竹彦。蓬さんの所にそろそろ戻った方がいい。」
「はい。」
 ん?菊音さんは竹彦も、蓬さんも知っているの?どんな人なんだろう。この人。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

処理中です...