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二年目
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茅さんはそのあとしばらくして帰って行く。私はそのまま部屋に残って柊さんを待ったけれど、結局柊さんは来なかった。
時間ぎりぎりまで待って、「窓」へバイトへ向かう。何があっても仕方ないのだ。何があってもお客さんに関係ないのだ。私はそう言い聞かせながら、窓のドアを開けようとした。しかし開かない。
あれ?今日休みだったかな。そんな話聞いてないけど。クローズになってる。うーん。何でだ?
とりあえず葵さんに聞いてみよう。携帯電話を取り出して、電話をしてみる。
数回コールしたけれど、すぐに留守番電話になった。
んー。どういうことだろう。何かあったのかな。そう言えば向こう側に入り口がもう一つあったな。あっちは開いてるかも。そう思いながら向こうのドアの方に向かっていく。
日が当たらない玄関だ。そのドアのチャイムを鳴らすと、軽やかな音がした。しかしやっぱり出ない。
んー。どうしたらいいだろう。そのまま帰っていいのか。それともいた方がいいのだろうか。そのときだった。
「お邪魔したわ。」
ドアが急に開いた。そこにはサングラスをかけたリリーがいた。
「ん?女の子?」
「あ……。」
するとリリーは後ろにいた葵さんに笑いながら声をかけた。
「やーだ。葵ったら、彼女?」
すると彼女の奥から葵さんが苦笑いをして出てきた。
「彼女にしたい人ですよ。菖蒲さん。」
「でも見たことある人。誰だったかしら。」
「……こんにちは。」
「あぁ。Syuの!あぁ……思い出した。」
昨日会ったばかりだと思うけど。
「あの人にも話し聞きたかったんだけど、Syu、今どこにいるかわかる?」
「すいません。夕べから連絡がなくて。」
「ふーん。大変ねぇ。あ、ごめん。時間無いわ。また来るね。」
「はい。いつでもどうぞ。」
嵐のようにリリーは行ってしまった。んー。どういうことなんだろう。
「葵さん。今日店はクローズですか。」
「あぁ。連絡をするのを忘れてました。リリーから店とか自宅を見せて欲しいといきなり来たんで。」
何でだろう。言ってはいけないかもしれないけど、こんな奥まった普通の喫茶店にどうしてリリーが用事があるんだろう。
「ここは茅もそうですが、リリーたちが一時住んでいたんですよ。」
「え?」
「懐かしいところをみたいとね。」
彼はため息を付くと、リリーを見ていたようだった。
「じゃあ、今日はクローズなんですね。」
「はい。すいませんね。ご足労かけて。コーヒーでも飲みますか?」
「いいえ。もう帰ります。」
柊さんが来るかもしれない。部屋で待っていたい。そう思っていた。
「柊は来なかったんですか。」
「……。」
「そうですか。」
「待ちますから。」
「……まぁ、それがあなたのペースなら止めませんよ。でも、もっと頼っていいんですよ。私が怖いなら、別の人でもいい。」
「そうですね。」
私はそう言ってその場を歩いて、去っていく。
まだ明るい道路には子供の姿もある。手にはアイスキャンディが握られている。まだ暑いからなぁ。
昔は、旦那が浮気をしても罪にならなかったらしい。でも奥さんが浮気をしたら、罪になる。だから旦那が遊び歩いていても、奥さんはずっとそれを堪え忍ぶのが美徳とされていた。
そんな女のどこがいいのだろう。と多分二年ぐらい前の自分は思っていた。だけど、自分がそうなっている。
きっとリリーと一緒にいたんじゃない。だけど女といたのか、男といたのかわからない。だけどそれを問いつめることは出来ない。関係を壊したくないから。
アパートの前にたどり着くと、電話が鳴りチェックするとメッセージが入っていた。相手は茅さんだった。
「……。」
私はアパートの中に入り、階段を上らずに一階を行く。そして一番奥の部屋のドアのチャイムを鳴らした。
「よう。」
茅さんは少し寝ていたようだった。目が腫れている。
「何ですか。」
「……話があんだよ。入れ。」
「ここで、済ませてください。」
すると彼は頭をかく。
「菖蒲姉さんから連絡あったわ。今からこの町を出ると。」
「はい。聞きました。」
「なんで?」
「葵さんところにいました。それからきっと柊さんには会っていないようでした。」
「何で?」
「会って話がしたいと言ってましたし。」
「……葵の家か。確かにあそこに住んでた時期があったから、見たいというのもわかるな。」
「……。」
私は目をそらしていた。
柊さんがどこにいるのか。もう見当が付かなかったから。リリーと一緒にいたと言った方が、まだましだったかもしれない。
「桜?」
「……どこにいるんでしょう。茅さん。彼は……私……何でそんなに彼のことを知らないんでしょう。どうして連絡をしてくれないんでしょう。わからない。私……彼のことがわからない。」
そのとき、茅さんは私の手を引いた。そしてドアを閉めると、私の体を抱きしめる。
中肉の体。きっと柊さんほどがっちりしていないけれど、葵さんほど細くもない。そんな体の持ち主だった。でも温かさは一緒だった。
「何でかな。俺がお前をこんなに抱きしめたいと思ったのは。」
「や……。離してください。」
「離したくない。桜。忘れろよ。あいつなんか。俺にしろよ。」
「駄目です。」
体を押す。でもその力は抜けていき、抵抗できなかった。そして彼は私の体を少し離すと、顔を近づけてくる。その唇は震えていた。
何度かキスをした。だけど大抵ふざけていた。こんなに震えていることはない。ゆっくりと唇を重ね、そして口を開ける。
強引だけど、優しいキスだった。
時間ぎりぎりまで待って、「窓」へバイトへ向かう。何があっても仕方ないのだ。何があってもお客さんに関係ないのだ。私はそう言い聞かせながら、窓のドアを開けようとした。しかし開かない。
あれ?今日休みだったかな。そんな話聞いてないけど。クローズになってる。うーん。何でだ?
とりあえず葵さんに聞いてみよう。携帯電話を取り出して、電話をしてみる。
数回コールしたけれど、すぐに留守番電話になった。
んー。どういうことだろう。何かあったのかな。そう言えば向こう側に入り口がもう一つあったな。あっちは開いてるかも。そう思いながら向こうのドアの方に向かっていく。
日が当たらない玄関だ。そのドアのチャイムを鳴らすと、軽やかな音がした。しかしやっぱり出ない。
んー。どうしたらいいだろう。そのまま帰っていいのか。それともいた方がいいのだろうか。そのときだった。
「お邪魔したわ。」
ドアが急に開いた。そこにはサングラスをかけたリリーがいた。
「ん?女の子?」
「あ……。」
するとリリーは後ろにいた葵さんに笑いながら声をかけた。
「やーだ。葵ったら、彼女?」
すると彼女の奥から葵さんが苦笑いをして出てきた。
「彼女にしたい人ですよ。菖蒲さん。」
「でも見たことある人。誰だったかしら。」
「……こんにちは。」
「あぁ。Syuの!あぁ……思い出した。」
昨日会ったばかりだと思うけど。
「あの人にも話し聞きたかったんだけど、Syu、今どこにいるかわかる?」
「すいません。夕べから連絡がなくて。」
「ふーん。大変ねぇ。あ、ごめん。時間無いわ。また来るね。」
「はい。いつでもどうぞ。」
嵐のようにリリーは行ってしまった。んー。どういうことなんだろう。
「葵さん。今日店はクローズですか。」
「あぁ。連絡をするのを忘れてました。リリーから店とか自宅を見せて欲しいといきなり来たんで。」
何でだろう。言ってはいけないかもしれないけど、こんな奥まった普通の喫茶店にどうしてリリーが用事があるんだろう。
「ここは茅もそうですが、リリーたちが一時住んでいたんですよ。」
「え?」
「懐かしいところをみたいとね。」
彼はため息を付くと、リリーを見ていたようだった。
「じゃあ、今日はクローズなんですね。」
「はい。すいませんね。ご足労かけて。コーヒーでも飲みますか?」
「いいえ。もう帰ります。」
柊さんが来るかもしれない。部屋で待っていたい。そう思っていた。
「柊は来なかったんですか。」
「……。」
「そうですか。」
「待ちますから。」
「……まぁ、それがあなたのペースなら止めませんよ。でも、もっと頼っていいんですよ。私が怖いなら、別の人でもいい。」
「そうですね。」
私はそう言ってその場を歩いて、去っていく。
まだ明るい道路には子供の姿もある。手にはアイスキャンディが握られている。まだ暑いからなぁ。
昔は、旦那が浮気をしても罪にならなかったらしい。でも奥さんが浮気をしたら、罪になる。だから旦那が遊び歩いていても、奥さんはずっとそれを堪え忍ぶのが美徳とされていた。
そんな女のどこがいいのだろう。と多分二年ぐらい前の自分は思っていた。だけど、自分がそうなっている。
きっとリリーと一緒にいたんじゃない。だけど女といたのか、男といたのかわからない。だけどそれを問いつめることは出来ない。関係を壊したくないから。
アパートの前にたどり着くと、電話が鳴りチェックするとメッセージが入っていた。相手は茅さんだった。
「……。」
私はアパートの中に入り、階段を上らずに一階を行く。そして一番奥の部屋のドアのチャイムを鳴らした。
「よう。」
茅さんは少し寝ていたようだった。目が腫れている。
「何ですか。」
「……話があんだよ。入れ。」
「ここで、済ませてください。」
すると彼は頭をかく。
「菖蒲姉さんから連絡あったわ。今からこの町を出ると。」
「はい。聞きました。」
「なんで?」
「葵さんところにいました。それからきっと柊さんには会っていないようでした。」
「何で?」
「会って話がしたいと言ってましたし。」
「……葵の家か。確かにあそこに住んでた時期があったから、見たいというのもわかるな。」
「……。」
私は目をそらしていた。
柊さんがどこにいるのか。もう見当が付かなかったから。リリーと一緒にいたと言った方が、まだましだったかもしれない。
「桜?」
「……どこにいるんでしょう。茅さん。彼は……私……何でそんなに彼のことを知らないんでしょう。どうして連絡をしてくれないんでしょう。わからない。私……彼のことがわからない。」
そのとき、茅さんは私の手を引いた。そしてドアを閉めると、私の体を抱きしめる。
中肉の体。きっと柊さんほどがっちりしていないけれど、葵さんほど細くもない。そんな体の持ち主だった。でも温かさは一緒だった。
「何でかな。俺がお前をこんなに抱きしめたいと思ったのは。」
「や……。離してください。」
「離したくない。桜。忘れろよ。あいつなんか。俺にしろよ。」
「駄目です。」
体を押す。でもその力は抜けていき、抵抗できなかった。そして彼は私の体を少し離すと、顔を近づけてくる。その唇は震えていた。
何度かキスをした。だけど大抵ふざけていた。こんなに震えていることはない。ゆっくりと唇を重ね、そして口を開ける。
強引だけど、優しいキスだった。
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