夜の声

神崎

文字の大きさ
205 / 355
二年目

204

しおりを挟む
 顔が近づいてきて、私はその顔を避けるように下を向く。だけど顔が火照る。なんだろう。熱があるみたいだ。
「薬を飲ませてそんな抵抗が出来るんだな。」
「薬?」
 変な薬でも飲ませたの?
「でもそれも出来ないはずだ。ほら。ここが立ってる。」
 そういって彼は手を胸に持ってくる。するとびりっとしたような感触があった。まるで電流でも流されているような。
「あっ!」
「服越しなのに。やらしい奴。」
 服越しに、手が私の胸に触れてくる。その手つきはとてもイヤらしくて、下着越しなのにそこが痛いほど立っているのがわかる。
「直接触ったらどんな反応をするんだろうな。」
 薄い明かりの中でも、笑っているのがわかる。好きだとか、そんな感情じゃない。ただ単純に女を楽しみたい。そんな風にも見える。
「やだ。やだ。怖い。やめて。」
 抵抗したいのに、抵抗できない。首をただ振るだけ。それも顎を捕まれて、唇を重ねて舌を差し込まれるとそれも出来ない。
「んっ……。」
 舌の先がびりびりと痺れるようだ。いつものキスなのに、胸の奥から熱くなる。ワンピースの背中のチャックを下ろされる音がして、そしてそのまま下着のホックがはずされる。ふっと軽くなり、下着が乳首に軽く触れる。
「んっ……んっ……。」
 このまましてしまうの?茅さんとセックスしてしまうの?数時間前まであんなに幸せの中にいたのに。私は……。
「やだ。」
 唇を離されて、彼の体を押しのけようと手を伸ばした。だけど彼の体は全く避けようとしない。
「ここ、すごい立ってるな。ビンビン。それに小さいけど柔らかい。」
 そのときだった。
 茅さんの体がすっと離れた。正確には離されたというのだろうか。
「茅。」
 柊さん?ううん。違う。それは葵さんだった。
「葵か。」
「精が溜まっているなら、自分で処理でもしたらどうだ。そういう方法はいくつか知っているだろう。」
 首根っこを捕まれ、葵さんは彼を床に放り投げた。
 どすん。と言う音がして、彼は床に倒れ込む。そして私を背にして、葵さんは茅さんを見下ろしている。こちらからは表情は見えない。
「ふん。力付くでもないと、こいつは言うことを聞かないだろう?」
「聞くわけがない。それに薬を使って言うことを聞かせるなんて言うのは、私が椿の時でもしたことはない。誰から習った?」
 倒れ込んでいる茅さんに葵さんは、しゃがみ込んで言う。
「茅。こいつはお前のモノにはならない。」
「……お前のモノにもならねぇよ。」
「今のところ柊だけのモノだ。」
「その柊はいねぇよ。何してんのかわかんねぇ。そんな怪しいことしてんのに、こいつは待つだけか?」
「だからこの人を襲った?薬を飲ませて?」
「……。」
「いいわけだ。茅。もう近づくな。」
 すると茅さんは立ち上がり、葵さんを見上げた。
「変な薬なんか飲ませてねぇよ。ただのビタミン剤だ。」
「……。」
「俺で反応していたのは事実だからな。」
 そういって茅さんは部屋を出ていった。と思う。玄関ドアが開いて閉まった音がしたから。
 葵さんはふっとため息をつくと、私の方を振り向いた。
「大丈夫ですか。」
「はい。ありがとうございます。」
 手をさしのべられたけれど、私はそれに捕まらずに自分でたちが上がった。
「すいません。ご迷惑かけて。」
「迷惑なんて思ってませんよ。悪いのは茅です。」
 私は乱れた服を身につける。変な薬だと思っていたのは、ビタミン剤だった。それを知ってか、私は妙に落ち着いている気がした。
「また、あなたが傷ついてしまいましたね。」
「……。」
「茅はいつもあんな感じですか。」
「……茅さんはどこか不安定な部分がありました。たまにこうして、私に近づいてくることもあって……でも今日みたいなのは、初めてです。」
「柊には言っていますか?」
 私は首を横に振る。
「言えません。」
「そうでしょうね。彼はまだきっと茅を、慕ってくる後輩だというくらいでしか思っていないでしょうし。」
 葵さんはいつもの笑顔を浮かべ、私の肩に手を置く。
「一度シャワーでも浴びましょう。落ち着いて。」
 バスルームへやってきて、シャワーを浴びる。あぁ。数時間前まであんなに幸せの中にいたのに。
 他の男の人の手でこんなに淫らになる。そんな自分がイヤだった。柊さんの手の中で、イヤらしい女になりたいのに。

 部屋着に着替えて、リビングにやってくると葵さんが私にカップを差し出す。
「落ち着きますよ。」
 カップにはホットミルクが注がれていた。甘い匂いがする。ただ単に牛乳を温めただけじゃないんだろう。
「ありがとうございます。」
「私もね、あなたを無理矢理モノにしようとしたことは何度もありますよ。でも、あなたがそれを望んでいなかった。望まれたのは一度だけですね。」
「後悔しています。」
 ソファに座り、ホットミルクに口を付けた。蜂蜜のにおいと甘さを少し感じた。
「私にとってはいい思い出ですがね。」
「……。」
「茅も……茅なりにあなたに好意を持っているのでしょうね。」
「私は望んでません。」
「えぇ。そうでしょうね。彼はきっとあなたに恋をしているわけではない。上っ面だけの好きという言葉です。」
 あなたもそうだろう。そういいかけて、やめた。いくら何でも今この状態でそれはあんまりだ。
「柊はそんな状態でもあなたの側にはいられない。少なくともあと半年は。」
「……。」
「桜さんに話があったんです。だから今日ここに訪れたんですけどね。」
「どうしましたか?」
「バイトを募集します。気を悪くしないでくださいね。」
 確かに私がやめれば、「窓」は今までやっていたテイクアウトが出来なくなるから。今から育てた方がいいと思っているのだろう。
「次は男性にしますよ。それから、あなたが焙煎を覚えたら、うちに戻ってくれればと思っています。」
「……柊さんはきっとこの町に戻ってくるのをいやがっていると思います。私もそれに習いたいと思っているので。」
「彼も戻ってきますよ。椿がある限りね。」
 その葵さんの微笑みは、いつもと違う。そんな気がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

アダルト漫画家とランジェリー娘

茜色
恋愛
21歳の音原珠里(おとはら・じゅり)は14歳年上のいとこでアダルト漫画家の音原誠也(おとはら・せいや)と二人暮らし。誠也は10年以上前、まだ子供だった珠里を引き取り養い続けてくれた「保護者」だ。 今や社会人となった珠里は、誠也への秘めた想いを胸に、いつまでこの平和な暮らしが許されるのか少し心配な日々を送っていて……。 ☆全22話です。職業等の設定・描写は非常に大雑把で緩いです。ご了承くださいませ。 ☆エピソードによって、ヒロイン視点とヒーロー視点が不定期に入れ替わります。 ☆「ムーンライトノベルズ」様にも投稿しております。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

処理中です...