夏から始まる

神崎

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解ける

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 世に出る前だというのに、梅子の写真はどこからか漏れているらしい。インターネットやデジタル配信などで、予告にでた梅子の写真は徐々に話題を呼んでいた。
 可愛らしい顔をしているのに、体は放漫な体の持ち主。つまりロリ巨乳。そんな言葉が飛び交っている。だからかもしれないが、中本は今度は正式に梅子に青年紙のグラビアに出ないかと言ってきたのだ。
 興味はある。またこういう仕事を見てみたいと思っていたのだ。鍛えていたり、食事に気を使っているとは言ってもここ数日だ。あまり効果はないだろう。
 だが写す人も、それを飾る人も、みんなプロだ。梅子がどう綺麗に写せるかということだけを考えている。
「……香織ちゃん。その顔、良いね。すごい可愛い。」
 透明度だけはある海だ。砂浜で、写すのには何も支障はない。だが他のモデルは文句があるらしい。
「何で海外じゃないんだろうね。」
「しかもこんな田舎の海でさ。ほら。あのサーファーさっきから見てる。やだ。パーカー羽織ろう。」
 梅子といえばそんなこと気にしちゃいられない。こっちは必死なのだ。プロではないのだからといいわけは出来ない。彼女らと肩を並べるのだから、同じようにしなければいけないだろう。
「前も言ったけど、カメラ写りが良いですね。初々しいし、若いし。」
 そういって美玲は、早速写した写真をパソコンに写していた。そのそばには中本がいる。
「だろ?」
「どこで見つけてきたんですか?」
 美玲はことあるごとに、中本に梅子の母親の正体を知ろうとしているようだ。だが口を割るわけにはいかない。
「だから知り合いの娘。それ以上のことは言わない。」
 一斉を風靡したAV女優、蝶子の娘だと言えるわけがない。そんなことをすれば、せっかくの金の卵が割れてしまうのだ。
「けち。」
 だが梅子の顔が割れてくれば、梅子は苦しい立場にもなるのだろう。
 蝶子の娘というのがばれるのは時間の問題だ。そうなれば嫉妬や妬みの嵐に遭う。それに潰れなければいいが、どうもそうでもない感じもする。
 不倫をしていたと言うし、それくらい愛情に飢えていたのだ。それを埋めるために、男に体を開いていたこともある。
 それが表沙汰にならないとは限らないのだ。
「香織ちゃん。化粧が崩れているわ。ちょっとこっちに来て。」
 そういって付いてきたアキミが声をかける。そして梅子の化粧を直した。それを見て他のモデルがひそひそと話しだした。
「化粧直しくらい自分でしろってのね。」
「素人さんだから仕方ないのかもしれないけどさ。素人に来て欲しくないよね。」
 その言葉にアキミは聞いて聞かないふりをしようとした。しかしそのあとの言葉が気になる。
「十八か十七であのおっぱい持ってんのよ。どんだけ男をくわえてるんだってことよ。」
「やだ。アレじゃガバガバだって。」
 下品に笑い合うモデルたちにあきれたようにパフを閉じて、アキミはモデルたちに言う。
「あんたたち、最近セックスしてないの?」
「え……?」
 その言葉にモデルたちは黙ってしまった。
「欲求不満だからそんな言葉が出るのかって聞いてんのよ。」
「そんなこと……。」
 アキミはそもそも厳しい言葉を投げかけることで有名だ。それでもでるが、アキミをいやがっているということもあるがそんなモデルはすぐに脱いだり、AVに出ても芽がでなくて引退することが多い。
 だからモデルたちは、なるだけ厳しい言葉を言われないように押さえていたはずだった。
 だがそんな言葉が出たのはぽっと出ただけの梅子に、油断と嫉妬をしていたのかもしれない。
「香織ちゃんも、自己努力しないといけないわね。それだけ大きな胸を持ってるんだから、垂れるのも早いわよ。胸ってね、垂れるといくら鍛えても元に戻らないのよ。」
「はい。だから最近、少しずつ鍛えています。」
「良い心がけね。」
 そういってアキミが笑った。
 梅子は皮肉だが、あの嵐の時に写真を撮られて以来、嫌っていた母がどうしてバスルームに大きな姿見の鏡を置いているのかわかった気がしていた。
 胸は垂れていないか、腹は出ていないか。お酒を毎日飲んでいるのだから、それをずっとチェックしていたのだ。特に子供を一人産んでいるのだ。垂れるのも早いだろう。
「次を撮るまで、まだ時間ありますかね。」
「えぇ。」
「トイレに行きたい。どこでしたっけ。」
「あら。あら。熱中症にならないように水分を取っていたのが悪かったのかしらね。そっちのシャワールームの所にあったわ。」
「ちょっと行ってきます。」
 梅子はパーカーを羽織り、シャワールームと同じ建物内にあるトイレへ向かった。その間にも、サーファーたちの視線が熱い。その見事な胸に触れたいと思っているのかもしれないが、今はそんな気になればい。
 撮影があって良かった。そして体づくりをしていて良かった。少しでもよけいなことを考えれば、啓介のことを思い出すからだ。
 啓介は今、学習塾のことで頭がいっぱいのはずで、梅子に関わっていられないはずだ。お互いに夢中になれることがあって良かったと思う。
 用を足して、梅子は外に出る。そして撮影しているテントに近づこうとしたときだった。
「梅子。」
 ここでは香織としか呼ばれないので、驚いてそちらをみる。するとそこには菊子がいた。そして後ろには武生や棗もいる。
「え?何でここにいるの?」
「んー。なんか連れてこられたって言うか……。」
「お前等のためだろ?」
 棗はそういって笑っていた。確かに見事なプロポーションだと思う。菊子もスタイルは悪くない方だが、ここまで女性らしくはない。男ならこの胸に触れたいとか、揉みたいとか、そう思うかもしれない。
 だが棗は菊子がいいし、武生は知加子が良い。結局、興味がなければただの肉なのだ。
「すごいね。なんかこう、芸能人みたいな。」
「やだ。作られているだけよ。ほら。この水着さ、谷間がわざと出来るように寄せてるのよ。」
「わぁ。そうなんだ。」
「菊子も今度つけて見ろよ。」
「イヤです。」
 棗の言葉に冷たく菊子はいった。つけたとしても蓮の前でしか見せたくない。
「梅子。」
 ずっと黙っていた武生が少し笑っていった。
「似合ってるよ。」
「そう?水着が似合うって言われてもね。」
 言葉がよく出てこない。梅子が本当に芸能人になったような気がしたから。知加子相手なら誉める言葉などすらすらと出てくるのに。
「お前、言葉下手だな。」
 棗はそういって呆れていた。
「なんか戸惑っちゃって。」
「わからねぇでも無いけど。確かに似合うよ。白い水着ってアレだな。」
「何ですか?」
「裸に見える。肌が白いからかな。」
「やーだ。」
 梅子はそういって手をたたいて笑った。そのとき中本の声が後ろから聞こえる。
「香織ちゃん。そろそろ良い?」
「はい。じゃあ、行くね。」
「うん。頑張ってね。」
 梅子はそういって三人に背を向けた。夏の前なら、こんな格好をしてるのを武生に見られたくはなかった。だが、今は何とも思わない。これでお金をもらっているのだし、写された写真は書店やコンビニで並ぶのだ。
 それにしても三人でどこに行くのだろう。こんな海に何の用事があるのかわからない。しかし今はそんなことを気にしていられないのだ。カメラの前で笑顔を作る。それしかないのだから。
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