恋愛模様

神崎

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Boy's Style

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 1 入学式
 桜が咲く入学式の日。
 教室に入った僕は、一瞬で君のことを見つけた。君はとても綺麗だったから。アーモンドの形をした大きな目。潤んだ唇。癖のない髪は今時の高校生のように茶色くない。きちんと規定通りの制服を身につけているのに、ぜんぜん野暮ったく見えない。奇跡のようだった。
 そんな君に興味を示す男は多いものだ。
 その証拠に、クラス全員が集まったとき君が席を立ち、自己紹介をしたときだった。
「安西馨です。」
 その一言を言っただけ。しかし君が座ろうとしたら、クラスの片隅にいるような不良のようなヤンキーが高い口笛を吹いた。おそらく君の気を引きたいのだろう。
 しかし君はそちらを全く見ようともしなかった。ぜんぜん男に興味がないようだ。と言うことは僕にも興味がないのかもしれないが、そんなことは問題ない。
 僕が初めて君に一目惚れをしたのだ。君に惚れてもらおうなんておこがましいことを考えてはいけないのだ。
 君のために僕が出来ること。それは君とクラスが一緒な限り、君が今のその美しさを保てるように僕が協力することだった。

 安西馨はクラスでも浮いた存在だった。たとえば、トイレに行くにも大体クラスの女子は「トイレに行こう」と言って集団で行くものだが、君はそんなことをしない。そもそも誰とも話さない。
 君の声を聞けるのは、授業中に先生に当てられたときだけだった。聞き逃すわけにはいかないと、僕は授業中に寝ることを辞めた。君の声を聞ける貴重な時間に寝るなんてもったいない。
 ところで進学校のこの学校は学年ごとに順位を廊下に張り出される。そこで僕も順位を知ったわけだが、授業中に寝ていないお陰で無理して入った進学校でもそこそこの順位をとることが出来た。
 しかし君は僕のさらに上をいっていた。十番以内にいる。
 だけどそんなことは君は気にしていないようだった。群れているクラスの中で唯一一人で息を潜めるように、ブックカバーの付いた文庫本を読んでいた。
 どんな本を読んでいるのだろうと思ったけど、後ろから見るなんてと君に軽蔑されると思って見なかった。

 2 期末テスト
 やがて夏になる。君は夏服を着て学校に来るようになった。長袖が半袖になっただけだが、その白い二の腕がまぶしい。綺麗だ。それに柔らかそうで思わず触れてみたくなる。
 だがそんなことをしてはいけないのだ。君は僕の天使なのだから。天使はきっと触れたら消えてしまう。
 そんな僕を周りの友人は、気が付いていないだろう。僕は相変わらず冴えない男子高校生を演じているのだから。僕は君のように強くないのだから、周りに合わせるしかないのだ。興味のないネットゲームをしたり、音楽をダウンロードしている。
 君はきっとゲームより小説だし、音楽を聴くにしてもジャズかクラシックしか聴かないのだろう。

 夏になって悔やまれるのが、夏休みだ。一ヶ月ちょっとも君に会えないなんて気が狂いそうだ。何とか会える機会がないだろうか。僕は夏休みが近づくたびに気が重くなってくる。
 ところが僕は聞いてしまったのだ。
「安西。成績が良いのだから、夏休みの間、特進クラスの補習授業を受けないか。普通科でも上位十人は受けることが出来るんだ。」
 そう君に話している担任の教師の話を。特進クラスの補習授業は、夏休みの間、土日以外は授業があるのだ。普通だったらうんざりするだろう。しかし君が補習授業に出るというのだったら、僕も出たい。と言うより君に会いたい。
 付け焼き刃かもしれない。しかし期末テストまでの二週間。僕は寝る間も惜しんで勉強した。学年で十番以内。それを目指したのだ。
 だが努力して、前の日まで頑張ったけどこの模擬テストの点数では到底十番にも入れるかどうかわからない。
 夜中の三時。家の人は誰も起きていない。僕は、リビングにやってきて救急箱に手を伸ばした。そこには母が「便秘で困るわ」と常用している強力な下剤があるはずだ。それを持ち出し、僕は制服のポケットに入れた。

 学年で常にトップクラスの頭を持っている人だけがいける特進クラス。普通のクラスは四十人近くいるのに、特進クラスは二分の一の二十人ほどしかいない。それだけ目が届くようにしているのかもしれないが。
 その中でも一番頭のいい男がいた。しかもそいつは運動も出来て、背も高くて、同級生だけでなく上級生の女子生徒にも人気があった。おそらくそいつが今回も一番だろう。
 最初のテストの時、僕は早々にテストを解き終わり、後は見直しだけを残したときだった。
「先生。」
 試験を監視している教師にトイレに行くことを許してもらう。
 トイレには特進クラスの前を通らないといけないのだ。それを利用した。
 僕はあの男の水筒に例の薬を入れた。氷が入っているようで少し音がしてひやっとしたが、全く大丈夫なようだ。誰も廊下に出てこない。

 かくして、あの男は三限目のテストからトイレばかり行っていて、まともに試験を受けれていないようだった。一科目でも試験を受けれなければ、おそらく順位はガクンと落ちるはず。
 その分僕が入るスペースが出来るはずだ。
 全ては君と夏を過ごすため。ひいてはきっと君のせいなのだ。
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