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Girl's Style
秋
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5 実行委員
夏休みが終わると、いつもの日常に戻る。兄さんはそのころからずいぶん忙しくなって、こちらの家には連絡をよこすこともなくなっていた。母さんの手前、寂しいと口には出さないけど、やはり寂しい。
夜電気を消して、そっと机の引き出しから取り出すのはあの花火の時にもらった銀色の指輪だった。そっと左手の薬指にはめて、兄さんを思いだしている。世間的には変なのかもしれない。だけどその手の温もりを時々そっと思い出すこともあった。
ある日の学校でのことだった。文化祭が今度あるということで、責任者を決める話し合いをしている。責任者はクラスの男子と女子一人ずつを選出するらしい。
当初は立候補を募っていたが、みんな塾や部活に忙しいらしい。当然だろう。そんな面倒なことをみんなしたくないのかもしれない。埒のあかない話し合いは永遠に続くように感じる。もういい。私はうんざりして手を挙げた。
「私、文化の部の責任者します。」
一気に私に注目が集まった。もうじゃんけんでいいじゃないかといっていた矢先のことだったから、みんなが驚いてこちらを見ている。目立つことはしたくなかったけど、じゃんけんで嫌々するよりはましだ。
私の名前が黒板に書かれ、後は男子だけだった。男子がみんなで集まり話し合いをしていた結果、一人の男子の名前が書かれた。
その人は顔立ちの整った浅黒い肌の男子だった。背が高く、色を白くしたら兄さんにどことなく似た人でおどろいた。こんな人がクラスにいたのかと。
「よろしく。安西さん。」
「よろしくお願いします。佐久間君。」
二人が決まると後は一気に決まる。大体そんなモノなのだ。
それから佐久間君は、良く私に話しかけてくるようになった。文化祭の実行委員会のことや、出し物の話し合い、予算、そんな打ち合わせが多いのだ。
そのたびに佐久間君は私の前の席に座り、話しかけてくる。その距離が近くて正直うんざりしていた。外国でもこんなに近くはないだろうに。
その日も実行委員会の集まりがあり、私はその前にトイレに行こうとしていた、そのときだった。二人組の女子が私の行く先を遮る。
「ちょっと安西さん。」
ずいぶん怒っているようだった。怒られるようなことをした覚えはないのだけど。
「佐久間君に近づかないでよ。佐久間君には樹理って彼女がいるんだから。」
隣の子が樹理という女子らしい。顔に見覚えはない。おそらく違うクラスなのだろう。
「じゃあ……代わってくれる?実行委員。」
「は?何であたしがそんな面倒くさいことを?」
少しため息を付いて私は、その二人に言った。
「面倒くさいわ。こんなこと。でも誰もしなかったからやっているだけ。やってくれるならありがたいんだけど。」
ムキになるつもりはなかったけど、売られた喧嘩は買っておくのが礼儀だって兄さんが言っていた。そういう国なんだろう。
トイレに足を伸ばした後、後ろで二人組の女子が何かギャーギャー言っていたみたいだけど無視した。もう関わらない方がいいかもしれない。あの女子にも佐久間君にも。
6 涙
次の日が文化祭という日。教室に暗室に使うカーテンを引き、机や椅子で固め、段ボールで覆った壁を迷路のようにした。後は、お化け役が明日スタンバイするだけだ。
お化け役はみんなでする。交代しながらするのだ。私も白い着物を着て、白い白粉をふるのだ。これが多分この国のお化けのイメージなのだろう。
タイムスケジュールを確認したあと、私と佐久間君は最後に教室を後にした。佐久間君はこの後部活にも顔を出さないといけないらしい。もう日も落ち掛けているのにご苦労なことだ。
そして家に帰り着く。するとそこには男物の靴と、母のモノではない女性用の白いヒールの靴があった。誰?いったい誰が来ているの?
リビングのドアを開けると、ソファに座っていたのは、母さん、そして私を背にしているのは兄さんと横にいたのは黒髪ショートカットの背の小さな女性だった。
「お帰り。」
女性は私を見て微笑み、一礼する。
「馨ちゃんね?初めまして。私は市ヶ谷文佳。」
「……。」
訳が分からないまま、私は兄さんの方を見上げた。すると兄さんは笑いながら、私に文佳さんと手を握らせる。
「姉さんになるんだからな。」
「……姉さん?」
兄さんは結婚する。この市ヶ谷文佳という人と。すでに一緒に住んでいて、お腹には三ヶ月になる子供がいるのだという。
「この歳でお婆さんなんてね。」
母さんは呆れたように見ていたが、まんざらでもなさそうだった。戸惑っていたのは私だけだった気がする。
なにを言っていいの?なにを言えば正解なの?どんな表情をすればいいの?頭の中がぐちゃぐちゃになりそうだった。それでもいい子の私が顔をのぞかせる。
「おめでとう。兄さん。」
口では言える。表情だけだった。頑張って。私。笑顔になるの。結婚式で他の女にキスをする兄さんをみないといけないのに。こんなことで耐えられなくてどうするの。
「本当におめでとう。」
だけど耐えられなかった。顔を上げた時私の目の端から一筋、涙が出ていたから。
どんなにショックなことがあっても明日は来る。文化祭なのだ。一ヶ月前からこつこつとやってきたことだし、実行委員なのだ。ショックなことがあったから休むって言うわけにもいかない。
「文化祭が明日なの?良いわね。外部の人は見に行けるの?」
文佳さんは屈託無く私にそう言ってきた。外部の人は見に来れるけれど、醜いお化けの格好をした私なんかを見てほしくなかった。
白い着物を着て、臭い化粧を施された私だったが、女子たちは似合う似合うと大騒ぎだった。お化けが似合うと言われても困るんだけどな。
その格好のまま、文化祭開演前私は教室の装置のチェックをしていた。積み重ねた机が崩れるようなことがあれば問題だからだ。
そのときだった。
「お前の血を吸ってやる!」
黒いバンパイヤの格好をした男子がいきなり、私の前を立ちふさがったのだ。
「きゃあ!」
思わず叫び、しゃがみ込んだ。その私の声をみんなが聞いて教室の明かりがパッとつく。
「どうしたんだ。あ、安西さん。大丈夫?」
「どうしたの?」
目立ちたくなかったのに、そんなことでみんなが寄ってくるのが嫌で、涙が出てきた。
でも何も知らないクラスの人たちは、わらわらとクラスの人が集まってきた。そのクラスの人たちの中にいる佐久間君が、私を外に連れだしてくれた。泣くほど強かったのだろうと、誤解していたようだった。脅かした本人は、驚いて立ち尽くしていただけだったけど。
驚かせてしまった秋本君には悪いことをしてしまった。
泣いたのは、あなたに驚いたわけではないのよ。ごめんなさい。
夏休みが終わると、いつもの日常に戻る。兄さんはそのころからずいぶん忙しくなって、こちらの家には連絡をよこすこともなくなっていた。母さんの手前、寂しいと口には出さないけど、やはり寂しい。
夜電気を消して、そっと机の引き出しから取り出すのはあの花火の時にもらった銀色の指輪だった。そっと左手の薬指にはめて、兄さんを思いだしている。世間的には変なのかもしれない。だけどその手の温もりを時々そっと思い出すこともあった。
ある日の学校でのことだった。文化祭が今度あるということで、責任者を決める話し合いをしている。責任者はクラスの男子と女子一人ずつを選出するらしい。
当初は立候補を募っていたが、みんな塾や部活に忙しいらしい。当然だろう。そんな面倒なことをみんなしたくないのかもしれない。埒のあかない話し合いは永遠に続くように感じる。もういい。私はうんざりして手を挙げた。
「私、文化の部の責任者します。」
一気に私に注目が集まった。もうじゃんけんでいいじゃないかといっていた矢先のことだったから、みんなが驚いてこちらを見ている。目立つことはしたくなかったけど、じゃんけんで嫌々するよりはましだ。
私の名前が黒板に書かれ、後は男子だけだった。男子がみんなで集まり話し合いをしていた結果、一人の男子の名前が書かれた。
その人は顔立ちの整った浅黒い肌の男子だった。背が高く、色を白くしたら兄さんにどことなく似た人でおどろいた。こんな人がクラスにいたのかと。
「よろしく。安西さん。」
「よろしくお願いします。佐久間君。」
二人が決まると後は一気に決まる。大体そんなモノなのだ。
それから佐久間君は、良く私に話しかけてくるようになった。文化祭の実行委員会のことや、出し物の話し合い、予算、そんな打ち合わせが多いのだ。
そのたびに佐久間君は私の前の席に座り、話しかけてくる。その距離が近くて正直うんざりしていた。外国でもこんなに近くはないだろうに。
その日も実行委員会の集まりがあり、私はその前にトイレに行こうとしていた、そのときだった。二人組の女子が私の行く先を遮る。
「ちょっと安西さん。」
ずいぶん怒っているようだった。怒られるようなことをした覚えはないのだけど。
「佐久間君に近づかないでよ。佐久間君には樹理って彼女がいるんだから。」
隣の子が樹理という女子らしい。顔に見覚えはない。おそらく違うクラスなのだろう。
「じゃあ……代わってくれる?実行委員。」
「は?何であたしがそんな面倒くさいことを?」
少しため息を付いて私は、その二人に言った。
「面倒くさいわ。こんなこと。でも誰もしなかったからやっているだけ。やってくれるならありがたいんだけど。」
ムキになるつもりはなかったけど、売られた喧嘩は買っておくのが礼儀だって兄さんが言っていた。そういう国なんだろう。
トイレに足を伸ばした後、後ろで二人組の女子が何かギャーギャー言っていたみたいだけど無視した。もう関わらない方がいいかもしれない。あの女子にも佐久間君にも。
6 涙
次の日が文化祭という日。教室に暗室に使うカーテンを引き、机や椅子で固め、段ボールで覆った壁を迷路のようにした。後は、お化け役が明日スタンバイするだけだ。
お化け役はみんなでする。交代しながらするのだ。私も白い着物を着て、白い白粉をふるのだ。これが多分この国のお化けのイメージなのだろう。
タイムスケジュールを確認したあと、私と佐久間君は最後に教室を後にした。佐久間君はこの後部活にも顔を出さないといけないらしい。もう日も落ち掛けているのにご苦労なことだ。
そして家に帰り着く。するとそこには男物の靴と、母のモノではない女性用の白いヒールの靴があった。誰?いったい誰が来ているの?
リビングのドアを開けると、ソファに座っていたのは、母さん、そして私を背にしているのは兄さんと横にいたのは黒髪ショートカットの背の小さな女性だった。
「お帰り。」
女性は私を見て微笑み、一礼する。
「馨ちゃんね?初めまして。私は市ヶ谷文佳。」
「……。」
訳が分からないまま、私は兄さんの方を見上げた。すると兄さんは笑いながら、私に文佳さんと手を握らせる。
「姉さんになるんだからな。」
「……姉さん?」
兄さんは結婚する。この市ヶ谷文佳という人と。すでに一緒に住んでいて、お腹には三ヶ月になる子供がいるのだという。
「この歳でお婆さんなんてね。」
母さんは呆れたように見ていたが、まんざらでもなさそうだった。戸惑っていたのは私だけだった気がする。
なにを言っていいの?なにを言えば正解なの?どんな表情をすればいいの?頭の中がぐちゃぐちゃになりそうだった。それでもいい子の私が顔をのぞかせる。
「おめでとう。兄さん。」
口では言える。表情だけだった。頑張って。私。笑顔になるの。結婚式で他の女にキスをする兄さんをみないといけないのに。こんなことで耐えられなくてどうするの。
「本当におめでとう。」
だけど耐えられなかった。顔を上げた時私の目の端から一筋、涙が出ていたから。
どんなにショックなことがあっても明日は来る。文化祭なのだ。一ヶ月前からこつこつとやってきたことだし、実行委員なのだ。ショックなことがあったから休むって言うわけにもいかない。
「文化祭が明日なの?良いわね。外部の人は見に行けるの?」
文佳さんは屈託無く私にそう言ってきた。外部の人は見に来れるけれど、醜いお化けの格好をした私なんかを見てほしくなかった。
白い着物を着て、臭い化粧を施された私だったが、女子たちは似合う似合うと大騒ぎだった。お化けが似合うと言われても困るんだけどな。
その格好のまま、文化祭開演前私は教室の装置のチェックをしていた。積み重ねた机が崩れるようなことがあれば問題だからだ。
そのときだった。
「お前の血を吸ってやる!」
黒いバンパイヤの格好をした男子がいきなり、私の前を立ちふさがったのだ。
「きゃあ!」
思わず叫び、しゃがみ込んだ。その私の声をみんなが聞いて教室の明かりがパッとつく。
「どうしたんだ。あ、安西さん。大丈夫?」
「どうしたの?」
目立ちたくなかったのに、そんなことでみんなが寄ってくるのが嫌で、涙が出てきた。
でも何も知らないクラスの人たちは、わらわらとクラスの人が集まってきた。そのクラスの人たちの中にいる佐久間君が、私を外に連れだしてくれた。泣くほど強かったのだろうと、誤解していたようだった。脅かした本人は、驚いて立ち尽くしていただけだったけど。
驚かせてしまった秋本君には悪いことをしてしまった。
泣いたのは、あなたに驚いたわけではないのよ。ごめんなさい。
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