恋愛模様

神崎

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Girl's Style

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 3 電話
 夏休みの前の期末試験の前のことだった。授業が終わると担任の教師に呼び出される。今日は早く帰らないといけないのに。兄さんが久し振りに家に帰ってくると言っていたから。
 担任の教師は私に、夏休みに特進クラスの人たちが受ける補習授業を受けないかと私に言ってきた。成績上位の人たちだけで受ける補習授業。確かに今の授業は、レベルが合っていないように思える。少し高いレベルの授業を受けるのは良いことなのかもしれない。
 それも順位次第だが。そういって担任は私を解放した。ため息を吐くと、通学鞄を持って学校を出る。そういうことを兄さんに言ったら、兄さんは喜ぶのだろうか。わからない。でも母さんは喜ぶだろう。あの人は「人より優れている」と言うことが好きなのだから。
「ただいま。」
 家に帰ると、玄関に男物の靴がある。それは兄さんのものだった。急いで靴を脱いでリビングへ向かう。そこには母さんの姿とその向かいに兄さんの姿があった。
「お帰り。」
 兄さんは笑顔で私を迎えてくれた。母さんは少し不機嫌そうに紅茶を飲んでいる。年の割に落ち着いていないと母さんはいつも兄さんの悪口を言っているのを、私はずっと聞いて育ったのだ。
 兄さんの隣に座ろうとすると、そのテーブルに一つの本があるのに気が付いた。それは兄さんの本の中でも一番有名な本で「陽炎」というタイトルが付いている。今更この本をどうしたのだというのだろうか。母さんは兄さんの本を毛嫌いして、一冊も読んでいないと言うのに。
「今度映画になるんだ。この本。」
「映画?すごいわね。」
 小説家としてどんどんと成功している兄さん。
 その小説家という道をずっと反対していた母さん。
 「小説家なんて人気商売だもの。いずれ泣きを見るわ。」そういっていたのに、泣きを見るどころか大成している。おそらくこれから兄さんはどんどん有名になっていくのだろう。
 それが母さんには面白くないのだ。
 しばらく談笑していると、母さんは仕事があるからと言ってリビングを出ていった。母さんの仕事は夜の仕事だ。今からシャワーを浴びて、派手なスーツに着替えるのだろう。
 兄さんは本を片手に、私の部屋にやってきた。私の部屋はとてもシンプルで物がない。理由はアメリカの家にまだ荷物が残っているから。それでも兄さんの本は持ってきた。洋書のその本は、母さんには理解ができないのだろう。毛嫌いしている兄さんの本を持っていることはわからないし知らないのだ。
「パソコン、使っていい?」
 兄さんはそういって私のパソコンを起動させる。どうしたのだろう。
 しばらくすると兄さんはインターネットの電話サービスを起動させた。それは私がアメリカの父さんと会話をするときに使っているもので、母さんには内緒にしていたものだ。
 父さんとすぐに繋がり、自分の小説のことを伝えると父さんは母さんとは対照的に大げさに喜んでいるように思える。父さんはそういう人だ。感情がすぐに表に出て、それが大げさに見える。そういう国民性なのかもしれないが。
 私はその明るさで何度も救われた。
 だから未だに母さんには内緒で父さんと連絡を取っているのかもしれない。父さんの明るさに何度も救われたから。そして父さんはいつもその電話を切った後、「いつでも帰ってきていいよ。君の部屋はまだそのままなのだから。」と言ってくれる。
 母さんとうまく言っていないことなどお見通しなのだ。でもごめんなさい父さん。心配してくれているのに。私はまだ、兄さんのそばを離れたくないから。
 兄さんの背中を見ながら、何度も私は父さんに謝っていた。そして母さんにも。

 4 花火大会
 夏休みにはいっても、毎日補習授業で学校へ通学していた。補習授業には、私の他に同じクラスの秋本君も参加していた。彼は元々補習授業が受けれるほどの学力がないはずだったが、期末テストではとてもいい順位に入っていて、補習授業を受けることになったらしい。
 案の定、補習授業とはいえレベルは高いものだ。彼は付いてくるのだけで必死だったに違いない。
 そしてお盆の時期になったら、補習授業は一時中断される。昼間は母さんが家にいるので、私は家をあけることが多くなった。行き先は兄さんの家。
 町中にある高層マンションの一角に兄さんの部屋がある。一人暮らしでは広すぎるようなマンションで、しかもそんなに部屋数がいるのだろうかと不思議に思うくらい、兄さんはずっと小説を書くため一つの部屋に引きこもっていた。
 私は兄さんの部屋で兄さんの本を読みふけるようになってしまった。サイコサスペンスというジャンルの兄さんの本は、とても面白い物だった。普通の表情をしている人が、一番怖い。そう言っているようだった。そしてそれが自分を投影しているように見える。
 私も普通の顔をして、母さんを殺したいと思っているのだから。
 学校と兄さんの家へ行く日々が続いたある日。普段部屋からほとんど出てこない兄さんが急に部屋を出てきた。そして私に言う。
「花火大会に行かないか。」
 突拍子もない誘いで戸惑った。どうして花火大会などへ行こうと言い出したのだろう。
 おそらく兄さんが誘ってくれているのは、地元の花火大会のことだろう。気が進まない。同級生とかがきっと沢山いるのだ。そしてあれこれ聞かれるのだろう。そんな想像は小説家ではなくても容易に想像がつく。
 でも私はせっかく兄さんが誘ってくれたのだ。遊びにも出て行かない私を心配してくれたのかもしれない。
「行くわ。」
 私はそういうと、兄さんはどこからか紺色の浴衣を仕事部屋から持ってきた。どうやら仕事の資料のために買っていた浴衣らしい。
 その浴衣を着ると、髪をアップにした。その一つ一つを、兄さんが手伝ってくれる。髪に触れるとき、私の頬が赤くなることを悟られないように気をつけていた。
「良く似合う。」
 少し笑い、兄さんは私の手を取って右手の薬指にハートのモチーフが付いた指輪をはめてくれた。まるで結婚式のように。
 ごめんなさい。
 妹で。
 私はやはりあなたが好きなのです。
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