247 / 384
血縁
247
しおりを挟む
病院を出た春樹と靖は、倫子に連絡を入れる。倫子は資料集めをしに少し離れたところにいたのだが、待ち合わせていると倫子はすぐにやってきた。
「お待たせ。」
朝にあったときはあこがれていた作家ということもあり、まじまじと見れなかったが普通にしていても美人だと思う。こんなタイプは田舎ではあまり見ない。
「あまり待っていないよ。資料はあった?」
「えぇ。あの図書館は、とても蔵書が多くて良かったわ。」
図書館と聞いて、少し気後れした。真矢がいるところなのだ。もしかしたら倫子と真矢はもう会っているのかもしれない。だが会ったところで何だというのだ。ただの高校の同級生と、今の恋人だ。春樹は考えを払拭させる。
「春樹さん。あとで相談したいことがあるの。」
「何かな。」
「んー。帰ってからで良いかな。」
おそらく連載中の作品のことだろう。資料を集めているうちに、変更したいとかそんなところだ。ただの読者である靖の前で言いたくないらしい。
「帰って部屋で聞くよ。とりあえず食事に行こうか。靖君。何が食べたい?」
「あー……。うん。何が良いかなぁ。」
「和食か洋食、中華も良いわね。」
「んー……。」
出来れば、こんな街に来たのだ。田舎にはないモノが食べてみたいと思うが、こんな事を言ったら恥ずかしいと思うだろうか。それがとても田舎者のようで嫌だ。
「何でも良いけど。」
「好き嫌いはないの?」
「別にないですね。母さんはうちでご飯を食べなさいっていつも言うけど……。」
「真理子は料理が出来るようになって良かったな。」
「え?」
「実家にいたときは皿一つ洗わなかったのに、今は何でもこなしているんだろう。変わるものだな。」
驚いたように靖はその会話を聞いていた。母親の真理子は、みんなを学校なり仕事なりに行かせたあと、パートで魚の加工会社にいる。おかげでどんな魚でもさばいて料理していると思っていたが、全くしていなかったとは思わなかった。
「春樹さん。俺、ファーストフード食べてみたい。」
「え?」
意外な言葉だった。そんな安いものでいいのだろうか。
「あの街にはないし、家族で街に出ればそんなところに行かないし。部活の遠征だって、色々栄養バランスが云々とか言われて食べれないし。」
「そっか……。わかった。じゃあ、そこで良い?」
駅のそばにあるファーストフードの店がある。そこはずっと気になっていたのだ。
「良いわね。たまには。あまり食べないのよね。私も。」
笑顔の倫子とは裏腹に、春樹は少し不満だった。靖が居るとはいえ、少しデートの気分を味わいたかったから定食屋とかではなく洋食の店などを考えていたのだ。
だが自分もそうだった。あの田舎にはそんな店はないので、春樹もファーストフードを口にしたのは大学になってからだったのだ。それを考えると靖の気持ちもわからなくもない。
倫子は靖の隣で少し笑顔になりながらヒールをならして歩いていく。すでに靖は倫子よりも背が高い。とても絵になるようだった。
ランチの時間は過ぎているので、あまり店内は混んでいない。窓側の席に座って、ハンバーガーとポテト、そしてドリンクを目の前にする。
「結構塩辛い。」
ポテトを口にして靖はそう口にする。
「ドリンクがすぐになくなるわね。」
倫子もそういってポテトに口を付ける。サラダという選択もあったが、「こんなところのサラダなんか」といって選ばなかったのだ。
「足はどうだったの?」
すると靖は少し笑っていった。
「紹介状を書いてもらえました。ここは少し離れているけれど、うちの街から電車で一時間くらいの所に病院があって、そこの先生にリハビリを受けたり徐々に慣らしていけば元のように走れるかもしれないって。」
「そう……手術まではしなくてもいいの?」
「した方が早いかもしれない。だけど、それで完治しますとも言えないらしいんだ。だったら徐々にリハビリをして長い期間をかけた方が、直る可能性が高いってことらしい。」
「選手にならなくてもいいの?」
するとドリンクを飲んで、靖は言った。
「選手とか気にしてないんです。走れればいいんで。俺、長距離なんですよ。」
「マラソン?」
「駅伝とか、そんな感じですけど……。走っていると無心になるから。」
「苦しくないの?」
「苦しいです。でも辞められないんです。病気ですかね。」
外の音なんか聞こえない。聞こえるのは自分の心音と、息づかい。風を感じて走っていく。その感覚を忘れられない。
「俺も泳いでいたときはそんな感じだったな。」
「水泳をしていたといっていたわね。」
「俺も長距離だったから。」
スポーツとは無縁だった。だが少し興味は出てきた。
「良いわね。」
倫子はそういってハンバーガーを包んでいる紙を取った。そのときだった。
「倫子。」
声をかけられて思わず見上げた。そこには田島政近の姿がある。
「政近。」
政近の手にもトレーが握られている。昼食をとろうと思っていたのだろう。
「珍しいな。こんなところで。ん?あぁ。藤枝さん。こんにちは。」
「お疲れさまです。」
「隣良い?」
倫子は向かいに座っている春樹を見る。そして春樹は靖をみた。靖はいきなり現れたピアスや入れ墨だらけの男に、少し気後れしているように見える。田舎にはいないタイプだ。
「何だよ。悪いのか。」
「良い?靖君。」
「小泉先生の知り合いだったら、別に……。」
「誰?藤枝さんの隠し子?」
すると春樹は驚いたようにドリンクを吹き出しそうになった。
「何を言っているの。バカじゃない。」
せき込んだあと、春樹は靖を紹介した。
「甥っ子。妹の子供ですよ。」
「ふーん。ま、いいや。座らせてもらうよ。」
図々しく政近は倫子の隣に座ると、ストローを出してドリンクの蓋に刺す。
「でけぇな。身長どれくらいあんの?」
「百八十です。」
「高校か?」
「中学生です。」
「もっとでかくなるな。スポーツしてんの?」
「陸上で、長距離をしていたんです。」
「してた?」
「怪我をして。」
「……ふーん。で、田舎からこっちの病院にきたのか。」
「はい。」
ポテトを口に入れて、納得したように靖を見ていた。だが違和感がある。
「十四か十五?」
「十四です。」
「だとしたら計算があわねぇな。藤枝さんの妹の子供だろ?」
その言葉に春樹の顔がひきつった。そして気にしたように靖を見る。だが靖は平然としていた。
「お待たせ。」
朝にあったときはあこがれていた作家ということもあり、まじまじと見れなかったが普通にしていても美人だと思う。こんなタイプは田舎ではあまり見ない。
「あまり待っていないよ。資料はあった?」
「えぇ。あの図書館は、とても蔵書が多くて良かったわ。」
図書館と聞いて、少し気後れした。真矢がいるところなのだ。もしかしたら倫子と真矢はもう会っているのかもしれない。だが会ったところで何だというのだ。ただの高校の同級生と、今の恋人だ。春樹は考えを払拭させる。
「春樹さん。あとで相談したいことがあるの。」
「何かな。」
「んー。帰ってからで良いかな。」
おそらく連載中の作品のことだろう。資料を集めているうちに、変更したいとかそんなところだ。ただの読者である靖の前で言いたくないらしい。
「帰って部屋で聞くよ。とりあえず食事に行こうか。靖君。何が食べたい?」
「あー……。うん。何が良いかなぁ。」
「和食か洋食、中華も良いわね。」
「んー……。」
出来れば、こんな街に来たのだ。田舎にはないモノが食べてみたいと思うが、こんな事を言ったら恥ずかしいと思うだろうか。それがとても田舎者のようで嫌だ。
「何でも良いけど。」
「好き嫌いはないの?」
「別にないですね。母さんはうちでご飯を食べなさいっていつも言うけど……。」
「真理子は料理が出来るようになって良かったな。」
「え?」
「実家にいたときは皿一つ洗わなかったのに、今は何でもこなしているんだろう。変わるものだな。」
驚いたように靖はその会話を聞いていた。母親の真理子は、みんなを学校なり仕事なりに行かせたあと、パートで魚の加工会社にいる。おかげでどんな魚でもさばいて料理していると思っていたが、全くしていなかったとは思わなかった。
「春樹さん。俺、ファーストフード食べてみたい。」
「え?」
意外な言葉だった。そんな安いものでいいのだろうか。
「あの街にはないし、家族で街に出ればそんなところに行かないし。部活の遠征だって、色々栄養バランスが云々とか言われて食べれないし。」
「そっか……。わかった。じゃあ、そこで良い?」
駅のそばにあるファーストフードの店がある。そこはずっと気になっていたのだ。
「良いわね。たまには。あまり食べないのよね。私も。」
笑顔の倫子とは裏腹に、春樹は少し不満だった。靖が居るとはいえ、少しデートの気分を味わいたかったから定食屋とかではなく洋食の店などを考えていたのだ。
だが自分もそうだった。あの田舎にはそんな店はないので、春樹もファーストフードを口にしたのは大学になってからだったのだ。それを考えると靖の気持ちもわからなくもない。
倫子は靖の隣で少し笑顔になりながらヒールをならして歩いていく。すでに靖は倫子よりも背が高い。とても絵になるようだった。
ランチの時間は過ぎているので、あまり店内は混んでいない。窓側の席に座って、ハンバーガーとポテト、そしてドリンクを目の前にする。
「結構塩辛い。」
ポテトを口にして靖はそう口にする。
「ドリンクがすぐになくなるわね。」
倫子もそういってポテトに口を付ける。サラダという選択もあったが、「こんなところのサラダなんか」といって選ばなかったのだ。
「足はどうだったの?」
すると靖は少し笑っていった。
「紹介状を書いてもらえました。ここは少し離れているけれど、うちの街から電車で一時間くらいの所に病院があって、そこの先生にリハビリを受けたり徐々に慣らしていけば元のように走れるかもしれないって。」
「そう……手術まではしなくてもいいの?」
「した方が早いかもしれない。だけど、それで完治しますとも言えないらしいんだ。だったら徐々にリハビリをして長い期間をかけた方が、直る可能性が高いってことらしい。」
「選手にならなくてもいいの?」
するとドリンクを飲んで、靖は言った。
「選手とか気にしてないんです。走れればいいんで。俺、長距離なんですよ。」
「マラソン?」
「駅伝とか、そんな感じですけど……。走っていると無心になるから。」
「苦しくないの?」
「苦しいです。でも辞められないんです。病気ですかね。」
外の音なんか聞こえない。聞こえるのは自分の心音と、息づかい。風を感じて走っていく。その感覚を忘れられない。
「俺も泳いでいたときはそんな感じだったな。」
「水泳をしていたといっていたわね。」
「俺も長距離だったから。」
スポーツとは無縁だった。だが少し興味は出てきた。
「良いわね。」
倫子はそういってハンバーガーを包んでいる紙を取った。そのときだった。
「倫子。」
声をかけられて思わず見上げた。そこには田島政近の姿がある。
「政近。」
政近の手にもトレーが握られている。昼食をとろうと思っていたのだろう。
「珍しいな。こんなところで。ん?あぁ。藤枝さん。こんにちは。」
「お疲れさまです。」
「隣良い?」
倫子は向かいに座っている春樹を見る。そして春樹は靖をみた。靖はいきなり現れたピアスや入れ墨だらけの男に、少し気後れしているように見える。田舎にはいないタイプだ。
「何だよ。悪いのか。」
「良い?靖君。」
「小泉先生の知り合いだったら、別に……。」
「誰?藤枝さんの隠し子?」
すると春樹は驚いたようにドリンクを吹き出しそうになった。
「何を言っているの。バカじゃない。」
せき込んだあと、春樹は靖を紹介した。
「甥っ子。妹の子供ですよ。」
「ふーん。ま、いいや。座らせてもらうよ。」
図々しく政近は倫子の隣に座ると、ストローを出してドリンクの蓋に刺す。
「でけぇな。身長どれくらいあんの?」
「百八十です。」
「高校か?」
「中学生です。」
「もっとでかくなるな。スポーツしてんの?」
「陸上で、長距離をしていたんです。」
「してた?」
「怪我をして。」
「……ふーん。で、田舎からこっちの病院にきたのか。」
「はい。」
ポテトを口に入れて、納得したように靖を見ていた。だが違和感がある。
「十四か十五?」
「十四です。」
「だとしたら計算があわねぇな。藤枝さんの妹の子供だろ?」
その言葉に春樹の顔がひきつった。そして気にしたように靖を見る。だが靖は平然としていた。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
清掃員と僕の密やかな情状
MisakiNonagase
恋愛
都心のオフィスビルで働く会社員の26歳・高城蓮(たかぎれん)。彼の無機質な日常に唯一の彩りを与えていたのは、夕方から現れる70歳の清掃員・山科和子だった。
青い作業服に身を包み、黙々と床を磨く彼女を、蓮は「気さくなおばあちゃん」だと思っていた。あの日、立ち飲み屋で私服姿の彼女と再会するまでは――。
肉じゃがの甘い湯気、溶けゆく氷の音、そして重ねた肌の温もり。
44歳の年齢差を超え、孤独を分かち合った二人が辿り着いた「愛の形」とは。これは、一人の青年が境界線の向こう側で教わった、残酷なまでに美しい人生の記録。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる