守るべきモノ

神崎

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 礼二を待っている間、大和の携帯電話には着信があったようだが、少し離れて話をしてからまた戻ってくる。
「こういうときに限って、誰もつかまんねぇな。」
 どうやらセフレからは、断られたらしい。諦めてタクシーで帰ろうかと思ったときだった。黒いバンが泉の前に停まる。助手席側の窓が開くと、奥には礼二の姿がある。
「お疲れさん。乗りなよ。」
 そう言うが、大和の事も気になる。今日の宿はなかったようだ。
「いいよ。俺のことを気にするなって。」
「でも……。」
 ちらっと礼二の方をみる。すると礼二が気を使って大和に声をかけた。
「赤塚さんは家はどっち方面ですか?」
「俺、港の近くなんだよ。だから気にすんな。」
 タクシーで帰るつもりなのだろうか。泉は心配そうに礼二の方をみる。そうだ。泉はそういう人だ。急いで帰れば終電に間に合う時間だった。なのに倒れている人を見過ごせない。自分を犠牲にしても人を優先する。本当に人がいいのだ。
「送りましょうか。」
「いいの?でも、遠回りになるじゃん。」
「この時間なら仕方ないですよ。」
「明日寝過ごしたとかいわないでくれよ。」
「お互い様でしょう。」
 大和はそう言って後部座席のドアを開ける。するとそこには包みがあった。ピンク色の包装紙で、女性から貰ったように見える。
「何?コレ。」
 すると礼二は口をとがらせていう。
「気にしないでください。」
「バレンタインだから、客から貰ったのか?」
 その言葉に今度は泉が口をとがらせる。だが夜遅いのに無理を言って迎えに来てくれたのだ。文句は言えない。
「違いますよ。それは泉に……。」
 急に名前をいわれて泉は驚いたように礼二をみる。
「私?」
「泉から伊織君に渡しておいてって、言付かったんだよ。香川さんに。」
「あ……。」
 伊織は書店側では、王子の名で通っている。そして泉と同居していることや、元々彼氏だったことも知っている。今はフリーなので、こういう言付けを貰うこともあったのだ。
「香川ってあれか?あの色気が歩いてるような女。」
「前から伊織と合コンしたいとか言ってたから。」
 しかし伊織は泉と別れてから、女の影はいっさいない。そして香川のような女性らしい女性が苦手なのは知っている。
「伊織?女か?」
「男性です。同居してる一人。」
「あぁ、なんか男二人、女二人だっけ。良いなぁ。そう言うの。」
 大和はそう言って包みを手にする。思ったよりも軽いようだ。
「伊織君は彼女が出来たとか聞かないな。」
「仕事が忙しいみたい。ほら、今は高柳鈴音さんの店で出す限定スイーツのポスターを手がけてるわ。」
「へぇ……。高柳さんの所の?」
 その言葉に大和は首を傾げる。
「高柳鈴音ね……。」
「何ですか?」
「気に入られたんなら、ちょっと大変だろうなって思って。」
「どうしてですか?」
 不思議そうに泉が聞くと、大和は少し笑って言う。
「あの人、ゲイだし。」
「ゲイ?」
「そんな噂がありましたね。」
 夜の町へ出ていたとき、高柳鈴音が男と歩いているところを見たことがある。前からゲイの噂がある人だ。珍しくないだろう。
「男の職人が入らないのはそのせいだって言うしさ。」
「ゲイだからって何で?仕事に性趣向なんて関係ないでしょう?」
 不思議そうに泉が聞くと、礼二は首を振って言う。
「ゲイだから、男だったら誰でも良いってわけじゃないですよ。」
「え?そんなもんじゃないのか。」
「違いますよ。男でも女でも好みってあるでしょう?赤塚さんはどんなタイプが好きなんですか。」
「俺、あまり女を強調したの苦手でさ。」
 その言葉に礼二は少し不安になった。それは泉がストライクだと言われているようだったから。
「そんな感じですよ。ゲイだって、穴があれば突っ込みたいと思っているわけではないんです。ノンケよりも、大変ですよ。自分好みでもあっちはノンケだったり、ゲイ同士でも好みがあるのだから。」
「そんなもんか……ふーん。」
 そのとき泉の携帯電話がなった。泉はそれを見ると、倫子からメッセージが届いている。
「倫子達も今日、飲んでたのね。」
「あぁ。そうだったね。」
「田島先生や栄輝君もいるみたい。」
「政近か。それは騒がしい飲み会になっただろうな。」
 知らない名前がどんどん出てくる。二人が一緒に働いてもう六年が過ぎようとしている。知らない名前があっても当然なのだ。なのに、なぜか大和の胸にもやっとしたものが残った。

 最後に風呂に入って、春樹は居間にやってくる。すると倫子は政近とあぁでもない、こうでも無いとスケッチブックを広げて話し合いをしている。せっかくのバレンタインデーなのに、全く甘い空気にならない。
「だからさぁ、こういう格好のさ。」
「そんなにごてごてしたのを付けていたら重いわ。現実的じゃない。だいたい警察官なんだから、そんなに装飾品が認められていないわよ。」
「そこはフィクションだろ。このゲーム見て見ろよ。こんな検事がいるかよ。」
 そう言って携帯電話を取り出す。それを見て倫子はため息を付く。すると座っている栄輝が少し笑った。
「そのゲーム、月子が好きでさ。」
「ミーハーだな。」
 するとタブレットを当たっていた伊織が、栄輝に聞く。
「栄輝君。今日は帰らなくても良かったの?」
「何でですか?」
 さっき倫子が泉に連絡をして、栄輝は今日泉の部屋で寝るらしい。泉も男が寝たからと言ってあまり気にしていないようだ。
「その月子さんって、恋人なんだろう?バレンタインデーなのに。」
「いいんですよ。」
 すると倫子がちらっと栄輝の方をみる。
「別れたの?」
 病院を紹介したくらいなのに、あっさり別れたのだろうか。すこし苛ついているようだ。
「別れてないよ。今日は恋人の所に行くって言ってたし。」
「は?捨てられてんじゃん。」
 政近も手を止めて栄輝に聞く。すると栄輝は煙草に火を付けて少し笑う。
「男は俺だけ。女の所に行くって。」
「バイか?」
 亜美と一緒なのだ。それでも栄輝はいいのだろう。
「いいんです。俺もウリセンにいるし、条件は同じですから。」
 あっさりした関係なのだ。
「あれだけ大騒ぎしてつきあった割には、何だよお前ら。」
 政近だけが不機嫌そうだ。どれだけ騒ぎを起こしてつきあったのだろう。
「詳しい話が聞きたいわね。」
「お前、またネタにするつもりか。」
 焦った政近が栄輝を止める。だが栄輝は首を横に振った。
「言いたくないね。」
「……。」
「姉さんに話すと何でも作品にするじゃん。」
「生意気な子。」
 倫子は不機嫌そうに春樹を見上げた。すると春樹は倫子の隣に座ると、頭をなでる。
「無理に聞かないようにして。話したくなったら自然に話を聞けばいい。そうだろ?栄輝君。」
 段違いの大人だ。やはり倫子にはこんな男がちょうど良いと、栄輝は煙を吐き出した。
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