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夏
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成人式の時に着物を着た以来だ。しかし動きにくい。がばっと足を広げて歩きたくなる。
「だめよ。周。そんなことしたら台無しよ。」
光に注意されて、渋々浴衣を着た。藍色の朝顔の花柄の着物。髪型もいつもハーフアップにしているのだけど、今日は上げた方がいいと髪まで綺麗にまとめてくれた。私の髪は長いので、それをまとめるのは大変だろう。
「いい感じ。」
すでに赤い色の牡丹柄の浴衣を着た光は、とても華やかに見えた。
「…。」
鏡の中で私は自分の姿を見る。
「どうしたの?」
櫛やブラシをしまいながら、光が聞いてきた。
「なんか、幽霊みたいだなって思って。」
「幽霊はそんなに綺麗じゃないわよ。」
「綺麗?」
「そう。その魅力で、楓を落とせばいいのよ。」
光の言葉に私は思わず吹き出した。
「楓?」
「え?気がつかないとでも思ってたの?」
イヤイヤ。勘違いしてるのはあなたの方ですよ。
「違うから。」
「隠さないでいいのよ。周と楓が一緒になってくれた方が、あたしも都合がいいから。」
「…そう…なのかしら。」
うまく答えられなかった。そうだった。光はまだ律が好きなんだろう。
「楓はあなたのことずっと好きじゃない?それに答えて上げればいいじゃない。誰も好きな人いないんでしょ?」
「え…。」
うまく答えられなかった。でも光のことを思うと、正直に答えきれない。
「つきあってみて、好きになることもあるのよ。あたしもそう言ってまた告白するわ。」
「律に?」
「えぇ。」
「今日?」
「もちろんよ。」
そっか。光は情熱的だ。そしてガッツがある。律も…それに答えてしまうのだろうか。
律はあんな容姿をしているけど、面倒見はいいし、優しいから女性にもてる。光はそれを取られたくないって思っているのかもしれない。
「頑張ってね。」
私はそれしか言えなかった。
蚊取り線香の煙、そしてキャンプ用のライトが照らすベランダ。下を見ると、海岸には多くの人が押し合いへし合いしている。
「大変ね。こんなに人が多くて。」
この人混みの中にはきっと江口君と阿川さんのカップルがいて、田宮さんの家族もいるのだろう。
「もう少しベランダが広ければ、みんな呼べたのに。」
「ぎゅうぎゅうになってしまうわ。」
もうすでに律はビールの缶を開けていた。揚げ物の量は大したことはなかったけれど、そのあとの炒め物で汗をかいてしまったのかもしれない。濃い灰色の甚平を着ている。
「わぁ。みんな綺麗だね。」
最後にやってきた楓は、私や光の姿を見て笑っていた。
「さすが楓ね。律なんて普通に「あぁ」っていっただけなのに。」
気合いを入れて浴衣を着ている光にとっては、それが不服だったのかもしれない。
「楓はジュース?」
「うん。さすがに炭酸がいいな。キッチン思ったよりも暑かったよ。」
「夏場は地獄ね。」
楓は赤みがかった甚平を着ていた。それが案外涼しいらしく、着心地もいいらしい。
「これで仕事をしたらいけないだろうか。」
と真面目な顔でつぶやいていたのを聞いてしまい、笑ってしまった。
「あ!始まった。」
隣に座っていた光が手すりに向かっていく。大きな音を立てて、夜空を赤、黄と彩りで染めていった。
「きれーい。」
その横には律がカメラを持って、写真を写していた。どうやらこの花火の写真も依頼があったようで、その目は真剣だった。
「揚げ出しが美味しいな。」
椅子に座りながらでも花火を楽しめると、楓と私はなすとシシトウの揚げ出しを食べていた。
「本当は大根下ろしを入れるとさらに美味しいんだけど、今季節じゃないし。」
「大根は冬だもんな。」
光の思い通りになっている。光は律の隣に、そして私の向かいには楓がいる。でもなんだろう。この胸のもやもやは。
「ちょっと下で撮ってくる。」
手すりの近くにいた律はそう言ってカメラを持ったまま、ベランダから離れていった。
「あ、律。」
おそらく律は写真だけが理由で下に行くんじゃない。わかっていたけれど、私はそこを離れなかった。
「あ!」
花火が止まった時、下を見ていた光はさっとその場から離れた。
「どうしたの?」
「佐原君がいたから。」
「何かあったの?」
「うーん。別に何があったってわけじゃないけど…。苦手なのよね。あの人。」
「どうして?」
「阿川さんを狙っているみたいで。」
「でも阿川さんは江口君がいるじゃないか。」
「わかっているみたいなんだけど…。」
すると光はビールを飲み干して、立ち上がった。
「あたし行ってくる。」
「どこに?」
私は焦って彼女に聞いた。
「手を出しちゃだめって、忠告してくるのよ。」
「だめよ。そんなこと。これは二人の問題なんだから。」
私は止めようとしたが、光は一目散にベランダから離れて一階に降りていった。
残ったのは、私と楓だけだった。そして花火が上がる。音を立ててきらきらと火花を散らしていく。
「だめよ。周。そんなことしたら台無しよ。」
光に注意されて、渋々浴衣を着た。藍色の朝顔の花柄の着物。髪型もいつもハーフアップにしているのだけど、今日は上げた方がいいと髪まで綺麗にまとめてくれた。私の髪は長いので、それをまとめるのは大変だろう。
「いい感じ。」
すでに赤い色の牡丹柄の浴衣を着た光は、とても華やかに見えた。
「…。」
鏡の中で私は自分の姿を見る。
「どうしたの?」
櫛やブラシをしまいながら、光が聞いてきた。
「なんか、幽霊みたいだなって思って。」
「幽霊はそんなに綺麗じゃないわよ。」
「綺麗?」
「そう。その魅力で、楓を落とせばいいのよ。」
光の言葉に私は思わず吹き出した。
「楓?」
「え?気がつかないとでも思ってたの?」
イヤイヤ。勘違いしてるのはあなたの方ですよ。
「違うから。」
「隠さないでいいのよ。周と楓が一緒になってくれた方が、あたしも都合がいいから。」
「…そう…なのかしら。」
うまく答えられなかった。そうだった。光はまだ律が好きなんだろう。
「楓はあなたのことずっと好きじゃない?それに答えて上げればいいじゃない。誰も好きな人いないんでしょ?」
「え…。」
うまく答えられなかった。でも光のことを思うと、正直に答えきれない。
「つきあってみて、好きになることもあるのよ。あたしもそう言ってまた告白するわ。」
「律に?」
「えぇ。」
「今日?」
「もちろんよ。」
そっか。光は情熱的だ。そしてガッツがある。律も…それに答えてしまうのだろうか。
律はあんな容姿をしているけど、面倒見はいいし、優しいから女性にもてる。光はそれを取られたくないって思っているのかもしれない。
「頑張ってね。」
私はそれしか言えなかった。
蚊取り線香の煙、そしてキャンプ用のライトが照らすベランダ。下を見ると、海岸には多くの人が押し合いへし合いしている。
「大変ね。こんなに人が多くて。」
この人混みの中にはきっと江口君と阿川さんのカップルがいて、田宮さんの家族もいるのだろう。
「もう少しベランダが広ければ、みんな呼べたのに。」
「ぎゅうぎゅうになってしまうわ。」
もうすでに律はビールの缶を開けていた。揚げ物の量は大したことはなかったけれど、そのあとの炒め物で汗をかいてしまったのかもしれない。濃い灰色の甚平を着ている。
「わぁ。みんな綺麗だね。」
最後にやってきた楓は、私や光の姿を見て笑っていた。
「さすが楓ね。律なんて普通に「あぁ」っていっただけなのに。」
気合いを入れて浴衣を着ている光にとっては、それが不服だったのかもしれない。
「楓はジュース?」
「うん。さすがに炭酸がいいな。キッチン思ったよりも暑かったよ。」
「夏場は地獄ね。」
楓は赤みがかった甚平を着ていた。それが案外涼しいらしく、着心地もいいらしい。
「これで仕事をしたらいけないだろうか。」
と真面目な顔でつぶやいていたのを聞いてしまい、笑ってしまった。
「あ!始まった。」
隣に座っていた光が手すりに向かっていく。大きな音を立てて、夜空を赤、黄と彩りで染めていった。
「きれーい。」
その横には律がカメラを持って、写真を写していた。どうやらこの花火の写真も依頼があったようで、その目は真剣だった。
「揚げ出しが美味しいな。」
椅子に座りながらでも花火を楽しめると、楓と私はなすとシシトウの揚げ出しを食べていた。
「本当は大根下ろしを入れるとさらに美味しいんだけど、今季節じゃないし。」
「大根は冬だもんな。」
光の思い通りになっている。光は律の隣に、そして私の向かいには楓がいる。でもなんだろう。この胸のもやもやは。
「ちょっと下で撮ってくる。」
手すりの近くにいた律はそう言ってカメラを持ったまま、ベランダから離れていった。
「あ、律。」
おそらく律は写真だけが理由で下に行くんじゃない。わかっていたけれど、私はそこを離れなかった。
「あ!」
花火が止まった時、下を見ていた光はさっとその場から離れた。
「どうしたの?」
「佐原君がいたから。」
「何かあったの?」
「うーん。別に何があったってわけじゃないけど…。苦手なのよね。あの人。」
「どうして?」
「阿川さんを狙っているみたいで。」
「でも阿川さんは江口君がいるじゃないか。」
「わかっているみたいなんだけど…。」
すると光はビールを飲み干して、立ち上がった。
「あたし行ってくる。」
「どこに?」
私は焦って彼女に聞いた。
「手を出しちゃだめって、忠告してくるのよ。」
「だめよ。そんなこと。これは二人の問題なんだから。」
私は止めようとしたが、光は一目散にベランダから離れて一階に降りていった。
残ったのは、私と楓だけだった。そして花火が上がる。音を立ててきらきらと火花を散らしていく。
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