25 / 49
夏
12
しおりを挟む
やがてタクシーがやってきて、私たちを連れていく。それは町の方にある一件のアパートだった。ファミリー向けのアパートらしく、階段を上がるところには小さな自転車や三輪車もあるようだ。
「こっちだ。」
律が私を案内してくれたところ。そのアパートの三階。302号室。鍵を開けて、扉を開けると薬品の独特のにおいがした。
「…ここは?」
「作業場。」
扉を閉めて、電気をつける。ファミリー向けのアパートの作りをしているようだが、水回りなどには生活臭は全くない。
床に転がっているのは、乱雑に詰め込まれたゴミ袋、薬品の空瓶。ペットボトルなど。
「向こうは暗室。」
向こうと言われたところは、開いているところにすべて目張りをしているようだった。光が少しでも入ったら写真がだめになるからかもしれない。
「あっちは機材室兼、写真置き場。」
「撮った写真を?」
「あぁ。」
見てみたい。でも今日は遅いから、無理だろうな。
「布団、一つしかない。お前が使え。」
「あなたは?」
「俺はいい。どうしてでも寝れる。」
彼はそう言ってその辺にあるゴミを片づけだした。
「でも…あなたの部屋なのに。」
「じゃあ、一緒に寝る?」
ドキリとする。しゃがんでいる彼が、私を見上げた。隠れている目が、私をじっとにらんでいるようだと思う。
「え…と…。」
なんと答えればいいのだろう。
「まじめに考えるな。」
急に立ち上がり、彼は頭をなでた。まるで小さな子供にするように。
生物はペットボトルくらいで、あとはすべて写真に関するゴミばかりだった。なので臭いもない。
そこへ律が機材を置いている部屋から布団を持ってきた。
「そこで寝ていい。」
「律。」
律はそう言って暗室に入ろうとした。それを止めようと、私は彼の腕の端を引く。すると律は困ったように私をみる。
「周。好きな女と一緒に部屋にいて手を出さないほど、俺は聖人でも何でもない。だから別の部屋に行こうとしたのに。」
「…出してもらえないの?」
「え?」
恥ずかしい。彼の目を見ることが出来ない。私は横を向いて、必死に恥ずかしさをこらえていた。
女の身から誘うなんてどう考えても破廉恥だ。それでも私は、彼に抱いて欲しい。そう思っていた。
「出していいんだったら出す。自分でリミッターかけていたのをはずすことなんか簡単だ。それでいいのか。お前は。」
恥ずかしい。それでも、私は彼の方を見ないでうなずいた。すると彼は私の唇に口づけをする。そして首元に、唇を寄せた。
自然に吐息と混じって声がでる。
まるで淫乱な女だ。
「周。」
名前を呼ばれる度に、愛おしくなる。このまま離れなければいいと思いながら。
吐息と、二人の声だけが響く室内で、やがて夏の早い朝が来る。
雨の予報は、どうやら当たりそうで、空には厚い雲がどんよりと懸かっていた。
布団には私と、そして隣には律がいる。律は眠るわけでもなく、ぼんやりと中を見ているようだった。
「夢みたいだ。」
「何が?」
「俺はお前がずっと好きだと思っていた。だけどこうなれると思っていなかった。」
「どうして?」
「お前みたいな女はずっと、楓のような男と一緒になるんだろうと思っていた。俺のようにふらふらした安定のない男には、惹かれないだろうとな。」
「…そうね。それは思ってたかもしれない。」
一介のカメラマンよりも安定のある社長を選ぶのは、普通の女ならそう思うかもしれない。
「でもそんな条件を考えられないほど、強烈にあなたのことが好きになったのよ。」
すると彼は、体を私に向けた。そして私の上に覆い被さった。
「え?」
「もう一度。」
「夕べ沢山したのに…。」
「若いから。」
彼はそれだけを言うと、また私の唇に口づけをした。
家に帰ってくると、楓も光もいなかった。少しほっとしながら、私たちはお互いの部屋に戻る。
部屋着のまま外にでていたのよね。私はその部屋着を含めた洗濯物をかごに入れて、1階にある洗濯機の中に入れた。
そしてキッチンに戻ると、そこには楓がいた。
「おはよう。周。」
いつもの彼だ。笑顔で、隙がない。
「おはよう。ねぇ。楓。夕べは…。」
「謝らなくてもいい。僕も暴走したところがあったから。」
コーヒーをカップに注ぐと、彼はそのカップを私に差し出した。
「ありがとう。」
「…でも君らと一緒にいるのは、耐えられない。」
「…。」
やっぱりクビになってしまうのだろうか。それでも仕方がない。新しい会社に…。
「でも律も君もこの会社にはなくてはならない存在だ。それは認める。だけどこの家は、出ていってくれないか。」
社長として、男として、出した結論だろう。
「…わかった。」
コーヒーが苦い。
泣きそうな自分をぐっとこらえ、楓の前をとおり自分の部屋に戻っていった。
そのとき、廊下で光が出てきた。でも光は私の方を少し見ただけで、一階に降りていってしまう。
これでいい。これでいいのかもしれない。私は自分の部屋に戻ると、コーヒーを一気に飲み干した。カップを机におくと、窓を開ける。
暑い風が吹き抜けていく。しかしもうすでに暑いだけじゃない。涼しさも混ざっているような気がした。
「こっちだ。」
律が私を案内してくれたところ。そのアパートの三階。302号室。鍵を開けて、扉を開けると薬品の独特のにおいがした。
「…ここは?」
「作業場。」
扉を閉めて、電気をつける。ファミリー向けのアパートの作りをしているようだが、水回りなどには生活臭は全くない。
床に転がっているのは、乱雑に詰め込まれたゴミ袋、薬品の空瓶。ペットボトルなど。
「向こうは暗室。」
向こうと言われたところは、開いているところにすべて目張りをしているようだった。光が少しでも入ったら写真がだめになるからかもしれない。
「あっちは機材室兼、写真置き場。」
「撮った写真を?」
「あぁ。」
見てみたい。でも今日は遅いから、無理だろうな。
「布団、一つしかない。お前が使え。」
「あなたは?」
「俺はいい。どうしてでも寝れる。」
彼はそう言ってその辺にあるゴミを片づけだした。
「でも…あなたの部屋なのに。」
「じゃあ、一緒に寝る?」
ドキリとする。しゃがんでいる彼が、私を見上げた。隠れている目が、私をじっとにらんでいるようだと思う。
「え…と…。」
なんと答えればいいのだろう。
「まじめに考えるな。」
急に立ち上がり、彼は頭をなでた。まるで小さな子供にするように。
生物はペットボトルくらいで、あとはすべて写真に関するゴミばかりだった。なので臭いもない。
そこへ律が機材を置いている部屋から布団を持ってきた。
「そこで寝ていい。」
「律。」
律はそう言って暗室に入ろうとした。それを止めようと、私は彼の腕の端を引く。すると律は困ったように私をみる。
「周。好きな女と一緒に部屋にいて手を出さないほど、俺は聖人でも何でもない。だから別の部屋に行こうとしたのに。」
「…出してもらえないの?」
「え?」
恥ずかしい。彼の目を見ることが出来ない。私は横を向いて、必死に恥ずかしさをこらえていた。
女の身から誘うなんてどう考えても破廉恥だ。それでも私は、彼に抱いて欲しい。そう思っていた。
「出していいんだったら出す。自分でリミッターかけていたのをはずすことなんか簡単だ。それでいいのか。お前は。」
恥ずかしい。それでも、私は彼の方を見ないでうなずいた。すると彼は私の唇に口づけをする。そして首元に、唇を寄せた。
自然に吐息と混じって声がでる。
まるで淫乱な女だ。
「周。」
名前を呼ばれる度に、愛おしくなる。このまま離れなければいいと思いながら。
吐息と、二人の声だけが響く室内で、やがて夏の早い朝が来る。
雨の予報は、どうやら当たりそうで、空には厚い雲がどんよりと懸かっていた。
布団には私と、そして隣には律がいる。律は眠るわけでもなく、ぼんやりと中を見ているようだった。
「夢みたいだ。」
「何が?」
「俺はお前がずっと好きだと思っていた。だけどこうなれると思っていなかった。」
「どうして?」
「お前みたいな女はずっと、楓のような男と一緒になるんだろうと思っていた。俺のようにふらふらした安定のない男には、惹かれないだろうとな。」
「…そうね。それは思ってたかもしれない。」
一介のカメラマンよりも安定のある社長を選ぶのは、普通の女ならそう思うかもしれない。
「でもそんな条件を考えられないほど、強烈にあなたのことが好きになったのよ。」
すると彼は、体を私に向けた。そして私の上に覆い被さった。
「え?」
「もう一度。」
「夕べ沢山したのに…。」
「若いから。」
彼はそれだけを言うと、また私の唇に口づけをした。
家に帰ってくると、楓も光もいなかった。少しほっとしながら、私たちはお互いの部屋に戻る。
部屋着のまま外にでていたのよね。私はその部屋着を含めた洗濯物をかごに入れて、1階にある洗濯機の中に入れた。
そしてキッチンに戻ると、そこには楓がいた。
「おはよう。周。」
いつもの彼だ。笑顔で、隙がない。
「おはよう。ねぇ。楓。夕べは…。」
「謝らなくてもいい。僕も暴走したところがあったから。」
コーヒーをカップに注ぐと、彼はそのカップを私に差し出した。
「ありがとう。」
「…でも君らと一緒にいるのは、耐えられない。」
「…。」
やっぱりクビになってしまうのだろうか。それでも仕方がない。新しい会社に…。
「でも律も君もこの会社にはなくてはならない存在だ。それは認める。だけどこの家は、出ていってくれないか。」
社長として、男として、出した結論だろう。
「…わかった。」
コーヒーが苦い。
泣きそうな自分をぐっとこらえ、楓の前をとおり自分の部屋に戻っていった。
そのとき、廊下で光が出てきた。でも光は私の方を少し見ただけで、一階に降りていってしまう。
これでいい。これでいいのかもしれない。私は自分の部屋に戻ると、コーヒーを一気に飲み干した。カップを机におくと、窓を開ける。
暑い風が吹き抜けていく。しかしもうすでに暑いだけじゃない。涼しさも混ざっているような気がした。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
冷徹社長は幼馴染の私にだけ甘い
森本イチカ
恋愛
妹じゃなくて、女として見て欲しい。
14歳年下の凛子は幼馴染の優にずっと片想いしていた。
やっと社会人になり、社長である優と少しでも近づけたと思っていた矢先、優がお見合いをしている事を知る凛子。
女としてみて欲しくて迫るが拒まれてーー
★短編ですが長編に変更可能です。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる