24 / 49
夏
11
しおりを挟む
しばらく身を潜め、テトラポットの影に私たちはいた。そして足音が聞こえなくなったのを確認して、また海岸に出ていった。律が持っている時計を見ると、すでに日が変わりそうな時間になっている。
普段ならもうベッドの中だ。こんな時間まで外にいることはほとんどない。
繋いだ手を離すのが惜しい。だけど家の中にはいるのだから、それはやめた方がいいだろう。律もそれを感じていて、繋がれていた手を離した。
鍵を開けて、家の中にはいる。仕事場には光がないが、その奥の扉。そこからはわずかに光が漏れている。誰かいるのだろうか。
小さなガラスからそこを覗いた。ダイニングには光がいるようだった。
「…。」
向かいにはもう一人。それは楓だろう。
「何か話しているのか。」
耳を澄ましても聞こえない。何を話しているのかは気になるが、ここで立ち尽くしても仕方がない。
私たちは顔を見合わせて、その扉を開いた。
その音に気がついて、楓と光はこちらを見た。
「どこ行ってたの?部屋にも声かけたのに。」
光はそう言って、私たちを見た。
「仕事があって。」
「周は?」
どう答えようか言葉に詰まってしまった。律に誘われた。なんて言えないだろう。
「風呂上がりで暑かったから外を歩いていたところを、俺とさっき会った。」
律の言葉に光は納得しているのか、疑っているのかわからないけれど曖昧な返事をしてまたテーブルの上の、缶チューハイに口を付けた。
楓はにこにこと笑っていた。でもその笑いは本心からではない。何となく、そんな風にも見える。
そんな二人に挨拶をして、そのまま二階に上がろうとした。すると冷蔵庫が開く音がしたあと、私の後ろをついてくるように上がってくる人がいる。
これが律だったらどんなに嬉しいだろう。少し期待をしながら、二階に上がりその後ろを見る。そこには楓の姿があった。
視線を逸らし、私は自分の部屋に戻ろうとした。そのとき楓が私に声をかけた。
「本当に偶然会っただけ?」
「偶然よ。」
「…僕の気持ちを知っていて、男と二人きりになれるほど、君は無神経じゃないと信じていたいけどね。」
「答えていないわ。」
「答えていないかもしれないけれど、断ってもいない。」
「…あなたが勝手に私を離しただけよ。」
「泣いてたじゃないか。僕がそんなにイヤだったのか。」
「好きでない人に抱きしめられても、何も感じないのよ。」
「僕は…。」
「あなたは感じたかもしれないけれど、私は何も感じないのよ。」
言い過ぎた。はっと口を押さえ、楓の方をみる。しかし楓はいつものように笑顔だった。
「…ごめんなさい。言い過ぎたわ。」
そう言って自分の部屋のドアの鍵を開けた。そして自分の部屋に逃げようと部屋に入る。するとその背中をドン、と押された。
「何?」
その衝撃で私は前のめりになる。でも倒れ込むほどじゃなかった。ぐっとこらえて後ろを見る。するとそこには後ろ手で扉を閉める楓がいた。
「楓…?」
楓はさっと私に近づく。そして逃げようとする私の手を取った。
「離して。」
「抱かれているうちに感情が芽生えることもある。」
暗くてわからなかった。だけどわずかに見える楓の表情は、いつもの笑顔ではなかった。
「やだ。」
その表情が恐怖だった。手をふりほどこうと、力を入れてその手を離そうとした。しかしほどけない。
「やめて。楓。」
「大きな声を出しても無駄だよ。律は光といるんだから。」
「光と?」
「君が大事だと思っている律は、光の所にいるはずだ。」
そんなわけない。あの温かさが嘘だと思いたくない。
「違う。そんなことあるわけがない。」
「いい加減、現実を見ろよ。」
「…。」
両腕を捕まれて、近くにいる楓。でも私はその目を見れなかった。
「周。僕が君を幸せにする。」
そのまま楓は私の顔に顔を近づける。
だめだ。このまま流されてはいけない。
「だめって!」
手を力一杯ふりほどき、私は部屋を出ていった。廊下を走り、階段を下りる。
「周!」
声をかけられたのが誰だったのかわからない。だけど振り向くわけにはいかない。外に出て、とにかく駆け出した。
「周。」
息切れがする。どれだけ走っただろう。わからないけれど、私は足を止めた。息を整えて、後ろを振り返った。
「…。」
そこには律の姿があった。
「律…。」
該当で照らされた彼の顔にも、口紅がついていた。
「…お前もやられたんだろう。」
「…される前に出てきた。」
手を伸ばし、彼の顔についている口紅を拭う。
「…いられないのかもしれない。」
あの家にいることが出来ないのかもしれない。仕事場でもプライベートでも一緒だった四人だけど、やはり「男」と「女」の間に友情など生まれないのかもしれない。
現に私たちの間にも、友情ではなく愛情が生まれた。
「たぶん、今日は戻れないだろう。仕方ない。」
そう言って律はポケットから携帯電話を取り出し、電話を始めた。
私たちの行く先は不安しかない。そんな気がした。だけど、この背中について行こう。
普段ならもうベッドの中だ。こんな時間まで外にいることはほとんどない。
繋いだ手を離すのが惜しい。だけど家の中にはいるのだから、それはやめた方がいいだろう。律もそれを感じていて、繋がれていた手を離した。
鍵を開けて、家の中にはいる。仕事場には光がないが、その奥の扉。そこからはわずかに光が漏れている。誰かいるのだろうか。
小さなガラスからそこを覗いた。ダイニングには光がいるようだった。
「…。」
向かいにはもう一人。それは楓だろう。
「何か話しているのか。」
耳を澄ましても聞こえない。何を話しているのかは気になるが、ここで立ち尽くしても仕方がない。
私たちは顔を見合わせて、その扉を開いた。
その音に気がついて、楓と光はこちらを見た。
「どこ行ってたの?部屋にも声かけたのに。」
光はそう言って、私たちを見た。
「仕事があって。」
「周は?」
どう答えようか言葉に詰まってしまった。律に誘われた。なんて言えないだろう。
「風呂上がりで暑かったから外を歩いていたところを、俺とさっき会った。」
律の言葉に光は納得しているのか、疑っているのかわからないけれど曖昧な返事をしてまたテーブルの上の、缶チューハイに口を付けた。
楓はにこにこと笑っていた。でもその笑いは本心からではない。何となく、そんな風にも見える。
そんな二人に挨拶をして、そのまま二階に上がろうとした。すると冷蔵庫が開く音がしたあと、私の後ろをついてくるように上がってくる人がいる。
これが律だったらどんなに嬉しいだろう。少し期待をしながら、二階に上がりその後ろを見る。そこには楓の姿があった。
視線を逸らし、私は自分の部屋に戻ろうとした。そのとき楓が私に声をかけた。
「本当に偶然会っただけ?」
「偶然よ。」
「…僕の気持ちを知っていて、男と二人きりになれるほど、君は無神経じゃないと信じていたいけどね。」
「答えていないわ。」
「答えていないかもしれないけれど、断ってもいない。」
「…あなたが勝手に私を離しただけよ。」
「泣いてたじゃないか。僕がそんなにイヤだったのか。」
「好きでない人に抱きしめられても、何も感じないのよ。」
「僕は…。」
「あなたは感じたかもしれないけれど、私は何も感じないのよ。」
言い過ぎた。はっと口を押さえ、楓の方をみる。しかし楓はいつものように笑顔だった。
「…ごめんなさい。言い過ぎたわ。」
そう言って自分の部屋のドアの鍵を開けた。そして自分の部屋に逃げようと部屋に入る。するとその背中をドン、と押された。
「何?」
その衝撃で私は前のめりになる。でも倒れ込むほどじゃなかった。ぐっとこらえて後ろを見る。するとそこには後ろ手で扉を閉める楓がいた。
「楓…?」
楓はさっと私に近づく。そして逃げようとする私の手を取った。
「離して。」
「抱かれているうちに感情が芽生えることもある。」
暗くてわからなかった。だけどわずかに見える楓の表情は、いつもの笑顔ではなかった。
「やだ。」
その表情が恐怖だった。手をふりほどこうと、力を入れてその手を離そうとした。しかしほどけない。
「やめて。楓。」
「大きな声を出しても無駄だよ。律は光といるんだから。」
「光と?」
「君が大事だと思っている律は、光の所にいるはずだ。」
そんなわけない。あの温かさが嘘だと思いたくない。
「違う。そんなことあるわけがない。」
「いい加減、現実を見ろよ。」
「…。」
両腕を捕まれて、近くにいる楓。でも私はその目を見れなかった。
「周。僕が君を幸せにする。」
そのまま楓は私の顔に顔を近づける。
だめだ。このまま流されてはいけない。
「だめって!」
手を力一杯ふりほどき、私は部屋を出ていった。廊下を走り、階段を下りる。
「周!」
声をかけられたのが誰だったのかわからない。だけど振り向くわけにはいかない。外に出て、とにかく駆け出した。
「周。」
息切れがする。どれだけ走っただろう。わからないけれど、私は足を止めた。息を整えて、後ろを振り返った。
「…。」
そこには律の姿があった。
「律…。」
該当で照らされた彼の顔にも、口紅がついていた。
「…お前もやられたんだろう。」
「…される前に出てきた。」
手を伸ばし、彼の顔についている口紅を拭う。
「…いられないのかもしれない。」
あの家にいることが出来ないのかもしれない。仕事場でもプライベートでも一緒だった四人だけど、やはり「男」と「女」の間に友情など生まれないのかもしれない。
現に私たちの間にも、友情ではなく愛情が生まれた。
「たぶん、今日は戻れないだろう。仕方ない。」
そう言って律はポケットから携帯電話を取り出し、電話を始めた。
私たちの行く先は不安しかない。そんな気がした。だけど、この背中について行こう。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
冷徹社長は幼馴染の私にだけ甘い
森本イチカ
恋愛
妹じゃなくて、女として見て欲しい。
14歳年下の凛子は幼馴染の優にずっと片想いしていた。
やっと社会人になり、社長である優と少しでも近づけたと思っていた矢先、優がお見合いをしている事を知る凛子。
女としてみて欲しくて迫るが拒まれてーー
★短編ですが長編に変更可能です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる