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本編
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「もう少し! こっちだよ、早く!」
近づいてくる人物の足元から、まるで真っ暗な闇が獲物を捕まえようと手を伸ばしているみたいに見えて、ゾッとする。
だけど、そのさらに奥。あれは、なんだろうか。とても小さくて丸い……窓(?)のような。
いや違う、あれは空。青い、空?
あまりに遠くてはっきり見えないけど、こちらを覗き込むような人影もある。僕の姿が映っているのかなと一瞬思ったけど、向こうの人影が複数見えて違うことが分かる。
なんとなくだけど、水の中の人に向かって言葉を発しているような心配しているみたいな。
小さな円の中の真っ青な空と、こちらを覗く人たち。
水中の人物が水面に近づくにつれ、その円はみるみる遠く小さくなっていく…………。
――ザバァッ
「あ、だ、大丈夫!?」
自力で水中から出てきた人物にハッとし、慌てて声をかける。
俯いたままハアハアと息を切らし、何か言ってるみたい。だけど、上手く聞き取ることができない。
えっと、でも多分すごく怒っている……のかな。
びっしょりと濡れた身体に、恐る恐る手を伸ばす。
え、と思う暇もなくその腕を掴まれ――次の瞬間、森の木々と真っ青な空が目に映った。そして背中には固い地面の感触。
押し倒されたことに気がついたのは、ポタポタと降り注ぐ冷たい水が服の上に染みをつくり始める頃だった。
「え、あ……何? 離してっ」
覆い被さる相手を一生懸命に押しやるけれど、重く濡れた身体はびくともしない。
さらには肩や脚を押さえ込まれ、逃げ出すことも許されなかった。
「っ!? だめ、やめて!」
『 』
「ぐッ……や、いやだぁ!」
僕にとって大事な服を破られそうになり、慌てて暴れると意味の分からない言葉を発する彼に顔を殴られた。
「ひっ、あ、やめ……た、助け……っ」
どうしてこんなことになったんだろう。
いつもと同じように、水汲みをしに来ただけなのに。
なんで、どうしてこの人は僕を殴るの。服を破ろうとするの。
村にいるサリドたちが大人たちに隠れて時々するみたいに、会ったばかりの人にまで僕は虐められるの?
僕が要らない人間だから。
「ひっ……ヒック……うう、いやだぁ……助けて、なんっで、僕……」
「!?」
頬の痛さと悲しみから、いつのまにか小さな子供みたいにしゃくり上げて泣き出していた。
また殴られるのが怖くて、やめてって頼んでもサリドと同じに無視され虐められるのだと信じ込んで。
だから気がつかなかった。
僕の上に跨がる相手が、息を呑み驚いた表情でこちらを見ていたことを。
「んっ……」
いきなり口を塞がれ、息苦しさに、わけが分からなくなる。涙で滲む視界一杯に、近すぎて焦点の合わない人の顔があって。
僕の口を塞いでるのは相手のそれ。
あ、もしかして噛みつかれた!?
まさか人型の魔物だったの?
じゃあ僕はこのまま噛み殺されて、魔物に食べられてしまうのだろうか。
生きたまま血も目玉も内臓も、全部こいつに食べられて僕が存在した証なんか何一つ残らず消されてしまう。
「……っ嫌、だぁあー!」
「――痛、てぇッ!? くっそ噛みついてんじゃねぇよ、お前」
へ?
「血ぃ出てんじゃねーか、ふざけんなコラ! 何、反抗してんだテメ。また殴られたいのか?」
「ひっ!」
殴られると思い身をすくめた、のに。なぜか衝撃が来ない。
恐る恐る、ギュッと閉じていた目をそーっと開けて……。
僕は頭が真っ白になってしまった。
(なんて綺麗な人、いや、魔物?)
生まれてから今まで一度も見たことがない、例えようもないほどに美しい男の人(魔物?)がこちらを見下ろしている。
濡れた髪からは水が滴り、ポタポタと僕の顔に落ちてくる。それを拭うように彼の指先がスッと頬を撫でる。
「ぁ……」
ゾクリ、と鳥肌が立つような感覚。
思わず相手の姿や仕種に見惚れ、ポーッとなってしまった。
それに気づいた“彼”がニヤリと笑う。
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近づいてくる人物の足元から、まるで真っ暗な闇が獲物を捕まえようと手を伸ばしているみたいに見えて、ゾッとする。
だけど、そのさらに奥。あれは、なんだろうか。とても小さくて丸い……窓(?)のような。
いや違う、あれは空。青い、空?
あまりに遠くてはっきり見えないけど、こちらを覗き込むような人影もある。僕の姿が映っているのかなと一瞬思ったけど、向こうの人影が複数見えて違うことが分かる。
なんとなくだけど、水の中の人に向かって言葉を発しているような心配しているみたいな。
小さな円の中の真っ青な空と、こちらを覗く人たち。
水中の人物が水面に近づくにつれ、その円はみるみる遠く小さくなっていく…………。
――ザバァッ
「あ、だ、大丈夫!?」
自力で水中から出てきた人物にハッとし、慌てて声をかける。
俯いたままハアハアと息を切らし、何か言ってるみたい。だけど、上手く聞き取ることができない。
えっと、でも多分すごく怒っている……のかな。
びっしょりと濡れた身体に、恐る恐る手を伸ばす。
え、と思う暇もなくその腕を掴まれ――次の瞬間、森の木々と真っ青な空が目に映った。そして背中には固い地面の感触。
押し倒されたことに気がついたのは、ポタポタと降り注ぐ冷たい水が服の上に染みをつくり始める頃だった。
「え、あ……何? 離してっ」
覆い被さる相手を一生懸命に押しやるけれど、重く濡れた身体はびくともしない。
さらには肩や脚を押さえ込まれ、逃げ出すことも許されなかった。
「っ!? だめ、やめて!」
『 』
「ぐッ……や、いやだぁ!」
僕にとって大事な服を破られそうになり、慌てて暴れると意味の分からない言葉を発する彼に顔を殴られた。
「ひっ、あ、やめ……た、助け……っ」
どうしてこんなことになったんだろう。
いつもと同じように、水汲みをしに来ただけなのに。
なんで、どうしてこの人は僕を殴るの。服を破ろうとするの。
村にいるサリドたちが大人たちに隠れて時々するみたいに、会ったばかりの人にまで僕は虐められるの?
僕が要らない人間だから。
「ひっ……ヒック……うう、いやだぁ……助けて、なんっで、僕……」
「!?」
頬の痛さと悲しみから、いつのまにか小さな子供みたいにしゃくり上げて泣き出していた。
また殴られるのが怖くて、やめてって頼んでもサリドと同じに無視され虐められるのだと信じ込んで。
だから気がつかなかった。
僕の上に跨がる相手が、息を呑み驚いた表情でこちらを見ていたことを。
「んっ……」
いきなり口を塞がれ、息苦しさに、わけが分からなくなる。涙で滲む視界一杯に、近すぎて焦点の合わない人の顔があって。
僕の口を塞いでるのは相手のそれ。
あ、もしかして噛みつかれた!?
まさか人型の魔物だったの?
じゃあ僕はこのまま噛み殺されて、魔物に食べられてしまうのだろうか。
生きたまま血も目玉も内臓も、全部こいつに食べられて僕が存在した証なんか何一つ残らず消されてしまう。
「……っ嫌、だぁあー!」
「――痛、てぇッ!? くっそ噛みついてんじゃねぇよ、お前」
へ?
「血ぃ出てんじゃねーか、ふざけんなコラ! 何、反抗してんだテメ。また殴られたいのか?」
「ひっ!」
殴られると思い身をすくめた、のに。なぜか衝撃が来ない。
恐る恐る、ギュッと閉じていた目をそーっと開けて……。
僕は頭が真っ白になってしまった。
(なんて綺麗な人、いや、魔物?)
生まれてから今まで一度も見たことがない、例えようもないほどに美しい男の人(魔物?)がこちらを見下ろしている。
濡れた髪からは水が滴り、ポタポタと僕の顔に落ちてくる。それを拭うように彼の指先がスッと頬を撫でる。
「ぁ……」
ゾクリ、と鳥肌が立つような感覚。
思わず相手の姿や仕種に見惚れ、ポーッとなってしまった。
それに気づいた“彼”がニヤリと笑う。
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