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第一章 出会いと旅立ち
004 異世界のペンギンは肉が好き?
「疲れたよ~もう歩けないよ~ナッシュくん~」
「うるさい……」
元気になったらなったでうるさいし面倒だな。
やっぱり元気ない方がよかったか?
『ガサガサっ』
ん?この音はなんだ……
「ナッシュくん、なんかいる!」
「落ち着け、静かにするんだ」
『ガサガサっガサガサっ』
近い……来るか?
しかしなんだ、この気配は。
魔物、なのか?
「消え……た?」
「なに?なんだったのよナッシュくん」
「わからん。気配が消えたな」
「あれから変なの来なかったね」
「そうだな。弱い魔物はいたが、怪しいのとは違ったな」
結局今日も野宿しないとなんだ。
お風呂入りたい。
お腹空いたなぁ。
ココナッツしか飲んでないし。
「飯にするか。ひより、何か買ってくれ」
「ごはん!買う買う!魔石たくさんだね!」
何買おうかな~昨日は鶏肉だったから、お魚かな?それともまたお肉?
こんなに魔石あるんだもん、たくさん買っちゃうよ~
「楽しそうだな」
「だってこんなに魔石があるんだもん、おなかいっぱい食べられるじゃん!」
「買いすぎるなよ?保存できないんだ」
「そっか、冷蔵庫もないもんね」
ん?なんか引っかかるけど……
「ああああ!そうだよナッシュくん!保存!それだよそれ!」
「いきなりどうした。保存なんて出来ないだろう」
「ちっがうよ!無限収納ってスキルあるんだよ私に!」
「はぁ?そんな貴重なスキルをひよりが?」
「そうそう!魔石だって入れられちゃうよっ」
「本当か?」
「時間停止機能までついてるって!」
「……は?時間停止?そんなの聞いた事ないぞ」
「見てて、今やってみる!」
時間停止機能だと?
そんなスキルあったら革命じゃないか。
ひよりがいるだけで色んなことが解決してしまう。
それにねっとすーぱーであんなに美味い食材と塩が手に入るんだ。
もしかして、ひよりと一緒にいると得してるの俺か?
なんとしても他のやつに知られないようにせねばならんな。
この破格のスキル、知られたらどうなるか。
ギルドだって欲しがるだろう。
下手したら貴族に飼われるかもしれない。
そうなってしまったら、ひよりの人生が飼い殺しで終わりになる可能性だってある。
「わっ、なんか空中に黒い穴が……ブラックホール?ここに入れればいいのかな?」
なんだあれは。
あんなのにものを入れるのか?
「ではでは、魔石ちゃん、いってらっしゃい!」
んなっ、消えた!
収納系のスキルがあるのは知っていたが、こんな感じなのか。
なんか気になるな。
俺もやってみたい。
「ここに入れればいいのか?」
「ちょっと、ナッシュくん、何入れようとしてるの!」
「俺の手荷物も入るなら楽でいいじゃないか」
「もー、これは私のスキルだよ!勝手にやったらだめじゃん!」
「細かいことを気にするな、入れ⎯⎯」
穴にナッシュくんが入っちゃう!
「───な、ナッシュくん!」
「はぁ、はぁ、た、助かった」
「もー何してるのよ!勝手にやるからでしょ!次は助けないんだからねっ」
頼まれても二度とヤるもんか。
なんだあの空間は。
暗くて黒くて何も見えなかったぞ。
まとわりつく感触もおぞましい……
「さっき入れた魔石を、また取り出せたら完璧だね!」
あれに手を入れたら俺と同じことにならないか?
「待てひより!あぶな───」
「きゃっ!ちょ、ナッシュくんっ!えっち!ばか!すけべ!」
吸い込まれ……ない?
抱きついただけになっている?
「いた、いたた、やめろひより!わざとじゃないんだ!心配したからだろ!離すからやめてくれ!」
なんてことだ。
スキル保持者は無事ならそう言ってくれれば……いや、これは俺が悪いか。
普通そうだろ。
だって自分のスキルなんだからな。
「悪かったひより、これは俺が悪い。許してくれ」
「次やったら許さないんだから……でもちょっとはいい、じゃなくて、ダメだからね!」
「わかったよ、この通りだ。美味い飯を作るから、な?」
「それなら許してあげるっ」
早速買っちゃお~
魔石がたくさんあるから、まずは全部無限収納に入れてっと。
なになに~?入ってるものが一覧になるんじゃん、見やすくて便利~
「たくさん買っても保存の問題は解決したが、調理は器具がないから出来ないのを忘れるなよ。昨日と同じものにしておけ」
「そうだった……でもいいよ、昨日のお肉も最高だったもんね!今日はお肉とお魚、両方いっちゃうんだから!」
楽しそうに選んでいるな。
俺は火でも熾しておくか。
「じゃじゃん!牛肉のステーキとソーセージと鮎だよ!」
「ソーセージ?鮎?牛肉はわかるが……そのふたつはなんだ?」
「ええ、この世界にはソーセージないの!?鮎を知らない!?本気で言ってる?!」
この世界の食事ってどうなってるのよ。
私のスキルがネットスーパーじゃなかったら、即餓死してたかもしれないじゃない。
持つべきものは転移者特有のチートとナッシュくんね!
ナッシュくんがいなかったら料理する人いないもん。
「これは魚か。久しぶりに見たな。しかし小ぶりだな」
「鮎の大きさはそんなもんだよ?」
魔物の魚しか見たことはないが、海の魚も川の魚も凶暴でデカイんだが……
これもニホンという国の魚なのか?
魔物の魚は美味いと聞いたことはあるが、毒持ちが多い上にそもそも倒すのも困難だ。
捌いたこともないが、何とかなるだろ。
「今やってやるから待っていろ。それとあの塩を寄越せ」
「はいはーい、よろしくナッシュくんっ」
ふふふ、またこの塩で食べられるのか。
ふんだんに使うのはもったいないが、いつもより多めに使ってやろう。
くくく、美味すぎて泣くがいい。
今度はひよりが俺の料理で泣く番だ!
※注
ただ塩を塗って焼くだけです。
「あ、ナッシュくん!ソーセージとステーキにはこのソースかけるから、塩は塗らなくてもいいからね!」
「ソース?なんだそれは」
「まぁまぁ、焼き上がりを楽しみにしててよっ」
楽しみに、だと?
よもやこの塩より美味いソースがあるというのか?
そんなバカなことあるか。
まぁいい、どのみち泣くのはひより、お前だ!
「まだかなまだかな~」
「落ち着け、もう少し──」
『ガサガサっガサガサっ』
──なんだ、またあの気配が。
「ひっ!ナッシュくん、また……」
「落ち着けひより、何があっても守ってや──」
『キュッ』
「──ん?」
『キュキュ!』
「か……」
『キューーー』
「きゃわいいいいいっっっ!」
「おい待てひより!」
「ペンちゃん!ペンギンのペンちゃんじゃん!かわいい!なんで?なんで海でも南極でもないのにペンギンが?なんでなんで!なんでもいいけどきゃわいい!」
『キュキュッ!キュキュ!』
「わぁ、喜んでるの?いいこいいこ~よちよち、かわいいかわいいいいい!」
『キュキュッキューー!』
「なになに?何かあるの?」
「差してるのは……魚か?」
「え、首振ってる。魚じゃないの?」
『キュキュッ!』
「え?肉?こっち?ペンギンなのにお肉欲しいの?」
「やめておけひより!こいつは魔物かもしれないんだぞ!」
「こんなかわいい魔物がいるわけないじゃん。ね~?そうだよね~?」
『キューーー!』
かわいい!なんなの!
ペットにしちゃう?してもいいよね?
もうウチの子だよ~
「焼きあがったのあげちゃうね!」
「勝手にしろ」
「もー、冷たいんだから!こっちおいで~お肉だよ~」
『キューーー!』
土の上に置くのはやだよね。
どうしようお皿とかないし。
あっ、私が食べされてあげれば解決じゃん!
「はいどうぞ~」
『キューキュッ』
「え?持った?すご!木の棒持っちゃった!異世界のペンギンすご!」
『キューキュッキュッ、キュー!』
「これ?このソース?え、動物にソースとかあげていいのかな……異世界だから大丈夫ってことであげちゃお!欲しがってるしいいよね!」
ちょんちょんってつけてっと。
『キューーー!』
「そんなにこれが欲しかったの?どーぞ~召し上がれっ」
『…………キューーーー!』
嬉しそうに食べて~かわいいなぁ
「ナッシュくん、私たちも食べよっ」
「危険な魔物ではなさそうだ。そうしよう。どれから食べるんだ?魚か?」
「まずはソーセージだよ!じゃじゃん!これをつけてもいいし、つけなくても美味しいよっ」
塩もつけないで美味しい?
そんなバカな話あるもんか。
『パリッ!』
「うーん、この音と味、最高だよ~おいひ~」
なんだあの軽快な破裂音は。
肉を焼けば硬くなるのは当たり前だが、あんな音がするもんなのか?
それでいて美味しい、だと?
ええい、悩むな、行け!
『パリッ』
「…………う、まい。なんだ美味さは」
絶妙な塩味と柔らかさ。
そしてこの音。
何だこの肉は、肉なのか?
くそっ、美味いってことしか分からないぞ。
「やっぱり粒マスタードだよね~おいひ~!ナッシュくんもつけてみる?」
「それは……なんだ?」
もっと美味しいだと?
こんなに美味しいものが更にだと?
もう信じられん。
だが俺は料理人だ。
行かねばならん!
「そうそう、ちょんちょんってつけて食べてみてっ」
「…………う、美味すぎる!なんなんだこれは!」
「あーだめだめ!二度漬け禁止!ぶっぶー!」
「んなっ、もう、ダメなのか!」
「違うよ~かじったのをそのままディップしたらばっちいでしょ!街に行ったらスプーンとか買わないとだね」
まぁいい、そのままでも美味いからな。
まだまだあるが、次はステーキか?
「お肉の後にお肉じゃなんだかな~だから、次は鮎にしよっと!」
「匂いはとてもいい匂いだ、食べてもいいのか?」
「見ててね、こうやってガブっていくんだよっ」
ん~おいひ~
鮎の塩焼きは最高だね!
捌くの初めてって言ってたのに、ちゃんとできてるじゃん。
「かぶりといけばいいんだな」
「そーそー、美味しいからいっちゃって!」
「………………」
これが魚の味か。
濃厚な塩の味とマッチして美味すぎる。
ソーセージも美味すぎたが、この魚も勝るとも劣らない。
いや、味の種類が違うからな、甲乙つけがたい。
「美味いな……」
肉と違い圧倒的に食べやすい。
そしてあっさりしているのにこの旨味はなんだ。
塩のおかげなのか?
くっ、涙が、涙が溢れそうだ。
耐えろ、耐えるんだ。
人前で、それも女の前で泣くなど言語道断!
「美味しくてあっという間に1匹食べれちゃうねっ」
最後はステーキ~
お楽しみのステーキだよ~
このステーキソースをかけて食べるのか最高に美味しいんだからっ
「何匹でもこの魚は食べられそうだ。そのステーキはさらに美味しいのか?」
「ふふふ、このソースをかけたらもっと美味しくなるのよ!」
「もう信じるしかあるまい。早く食べさせてくれ!」
これでさらに驚かせちゃうんだから!
「もったいないけど、今日は仕方ないよね!何本でも買えるんだからケチケチせずにいっちゃおう!」
贅沢に滴るほどかけて~からの~
「んーーー!これこれ、おいし~」
やっぱりこのソースは最高のステーキソースだねっ!
「この香りは……なんだ、嗅いだことがないぞ」
「ほらほら~いいから食べちゃいなよ~」
嗅いだことはない。
だがまずいなんて絶対に思えない。
それほどの香りだ。
ソーセージと魚で程よく満たされた腹なのに、まだまだ食べれると言っているようだ。
怖い、食べたいのに怖い。
なんなんだこの感覚は。
いけ、いくんだ、食べるんだ────
「…………………………」
────泣いた。
「わぁ、やっぱり泣くほど美味しいんだねっこれが嫌いな人は絶対いないはずだもん~おいし~ペンちゃんも美味しいねっ」
噛めば噛むほどに広がる肉の味。
ソースの酸味がありさっぱりなのに濃厚な味わい。
それでいて繊細で濃縮された旨味が肉と絡み合う。
美味い。
美味すぎる。
美味すぎるのになぜだ。
なぜ俺はこんなにも敗北感を感じているんだ。
この消えない虚無感は────
「ソースと素材のおかげで、ただ焼くだけでこんなに美味しいんだもん。最高だよね~」
────そうか。
俺は料理なんて何もしていないのか。
ただ串に刺して焼いただけ。
塩を塗っただけ。
こんなの誰だってできる。
何ひとつ調理をしていないただの素材。
そしてひよりが購入したソース。
それだけで俺が作ってきた最高傑作の料理の味を何段階も飛ばしてくる。
腕によりをかけ、何度も研究し、美味い料理を作るために全力だったのに。
それなのに素材とソースに負けたんだ。
そりゃあ涙も出るってもんよ。
負けたぜひより。
だが今に見ていろ。
街について調理器具を購入した暁には、泣かす。
ひよりを絶対に、俺の料理で泣かしてやるんだ。
「うるさい……」
元気になったらなったでうるさいし面倒だな。
やっぱり元気ない方がよかったか?
『ガサガサっ』
ん?この音はなんだ……
「ナッシュくん、なんかいる!」
「落ち着け、静かにするんだ」
『ガサガサっガサガサっ』
近い……来るか?
しかしなんだ、この気配は。
魔物、なのか?
「消え……た?」
「なに?なんだったのよナッシュくん」
「わからん。気配が消えたな」
「あれから変なの来なかったね」
「そうだな。弱い魔物はいたが、怪しいのとは違ったな」
結局今日も野宿しないとなんだ。
お風呂入りたい。
お腹空いたなぁ。
ココナッツしか飲んでないし。
「飯にするか。ひより、何か買ってくれ」
「ごはん!買う買う!魔石たくさんだね!」
何買おうかな~昨日は鶏肉だったから、お魚かな?それともまたお肉?
こんなに魔石あるんだもん、たくさん買っちゃうよ~
「楽しそうだな」
「だってこんなに魔石があるんだもん、おなかいっぱい食べられるじゃん!」
「買いすぎるなよ?保存できないんだ」
「そっか、冷蔵庫もないもんね」
ん?なんか引っかかるけど……
「ああああ!そうだよナッシュくん!保存!それだよそれ!」
「いきなりどうした。保存なんて出来ないだろう」
「ちっがうよ!無限収納ってスキルあるんだよ私に!」
「はぁ?そんな貴重なスキルをひよりが?」
「そうそう!魔石だって入れられちゃうよっ」
「本当か?」
「時間停止機能までついてるって!」
「……は?時間停止?そんなの聞いた事ないぞ」
「見てて、今やってみる!」
時間停止機能だと?
そんなスキルあったら革命じゃないか。
ひよりがいるだけで色んなことが解決してしまう。
それにねっとすーぱーであんなに美味い食材と塩が手に入るんだ。
もしかして、ひよりと一緒にいると得してるの俺か?
なんとしても他のやつに知られないようにせねばならんな。
この破格のスキル、知られたらどうなるか。
ギルドだって欲しがるだろう。
下手したら貴族に飼われるかもしれない。
そうなってしまったら、ひよりの人生が飼い殺しで終わりになる可能性だってある。
「わっ、なんか空中に黒い穴が……ブラックホール?ここに入れればいいのかな?」
なんだあれは。
あんなのにものを入れるのか?
「ではでは、魔石ちゃん、いってらっしゃい!」
んなっ、消えた!
収納系のスキルがあるのは知っていたが、こんな感じなのか。
なんか気になるな。
俺もやってみたい。
「ここに入れればいいのか?」
「ちょっと、ナッシュくん、何入れようとしてるの!」
「俺の手荷物も入るなら楽でいいじゃないか」
「もー、これは私のスキルだよ!勝手にやったらだめじゃん!」
「細かいことを気にするな、入れ⎯⎯」
穴にナッシュくんが入っちゃう!
「───な、ナッシュくん!」
「はぁ、はぁ、た、助かった」
「もー何してるのよ!勝手にやるからでしょ!次は助けないんだからねっ」
頼まれても二度とヤるもんか。
なんだあの空間は。
暗くて黒くて何も見えなかったぞ。
まとわりつく感触もおぞましい……
「さっき入れた魔石を、また取り出せたら完璧だね!」
あれに手を入れたら俺と同じことにならないか?
「待てひより!あぶな───」
「きゃっ!ちょ、ナッシュくんっ!えっち!ばか!すけべ!」
吸い込まれ……ない?
抱きついただけになっている?
「いた、いたた、やめろひより!わざとじゃないんだ!心配したからだろ!離すからやめてくれ!」
なんてことだ。
スキル保持者は無事ならそう言ってくれれば……いや、これは俺が悪いか。
普通そうだろ。
だって自分のスキルなんだからな。
「悪かったひより、これは俺が悪い。許してくれ」
「次やったら許さないんだから……でもちょっとはいい、じゃなくて、ダメだからね!」
「わかったよ、この通りだ。美味い飯を作るから、な?」
「それなら許してあげるっ」
早速買っちゃお~
魔石がたくさんあるから、まずは全部無限収納に入れてっと。
なになに~?入ってるものが一覧になるんじゃん、見やすくて便利~
「たくさん買っても保存の問題は解決したが、調理は器具がないから出来ないのを忘れるなよ。昨日と同じものにしておけ」
「そうだった……でもいいよ、昨日のお肉も最高だったもんね!今日はお肉とお魚、両方いっちゃうんだから!」
楽しそうに選んでいるな。
俺は火でも熾しておくか。
「じゃじゃん!牛肉のステーキとソーセージと鮎だよ!」
「ソーセージ?鮎?牛肉はわかるが……そのふたつはなんだ?」
「ええ、この世界にはソーセージないの!?鮎を知らない!?本気で言ってる?!」
この世界の食事ってどうなってるのよ。
私のスキルがネットスーパーじゃなかったら、即餓死してたかもしれないじゃない。
持つべきものは転移者特有のチートとナッシュくんね!
ナッシュくんがいなかったら料理する人いないもん。
「これは魚か。久しぶりに見たな。しかし小ぶりだな」
「鮎の大きさはそんなもんだよ?」
魔物の魚しか見たことはないが、海の魚も川の魚も凶暴でデカイんだが……
これもニホンという国の魚なのか?
魔物の魚は美味いと聞いたことはあるが、毒持ちが多い上にそもそも倒すのも困難だ。
捌いたこともないが、何とかなるだろ。
「今やってやるから待っていろ。それとあの塩を寄越せ」
「はいはーい、よろしくナッシュくんっ」
ふふふ、またこの塩で食べられるのか。
ふんだんに使うのはもったいないが、いつもより多めに使ってやろう。
くくく、美味すぎて泣くがいい。
今度はひよりが俺の料理で泣く番だ!
※注
ただ塩を塗って焼くだけです。
「あ、ナッシュくん!ソーセージとステーキにはこのソースかけるから、塩は塗らなくてもいいからね!」
「ソース?なんだそれは」
「まぁまぁ、焼き上がりを楽しみにしててよっ」
楽しみに、だと?
よもやこの塩より美味いソースがあるというのか?
そんなバカなことあるか。
まぁいい、どのみち泣くのはひより、お前だ!
「まだかなまだかな~」
「落ち着け、もう少し──」
『ガサガサっガサガサっ』
──なんだ、またあの気配が。
「ひっ!ナッシュくん、また……」
「落ち着けひより、何があっても守ってや──」
『キュッ』
「──ん?」
『キュキュ!』
「か……」
『キューーー』
「きゃわいいいいいっっっ!」
「おい待てひより!」
「ペンちゃん!ペンギンのペンちゃんじゃん!かわいい!なんで?なんで海でも南極でもないのにペンギンが?なんでなんで!なんでもいいけどきゃわいい!」
『キュキュッ!キュキュ!』
「わぁ、喜んでるの?いいこいいこ~よちよち、かわいいかわいいいいい!」
『キュキュッキューー!』
「なになに?何かあるの?」
「差してるのは……魚か?」
「え、首振ってる。魚じゃないの?」
『キュキュッ!』
「え?肉?こっち?ペンギンなのにお肉欲しいの?」
「やめておけひより!こいつは魔物かもしれないんだぞ!」
「こんなかわいい魔物がいるわけないじゃん。ね~?そうだよね~?」
『キューーー!』
かわいい!なんなの!
ペットにしちゃう?してもいいよね?
もうウチの子だよ~
「焼きあがったのあげちゃうね!」
「勝手にしろ」
「もー、冷たいんだから!こっちおいで~お肉だよ~」
『キューーー!』
土の上に置くのはやだよね。
どうしようお皿とかないし。
あっ、私が食べされてあげれば解決じゃん!
「はいどうぞ~」
『キューキュッ』
「え?持った?すご!木の棒持っちゃった!異世界のペンギンすご!」
『キューキュッキュッ、キュー!』
「これ?このソース?え、動物にソースとかあげていいのかな……異世界だから大丈夫ってことであげちゃお!欲しがってるしいいよね!」
ちょんちょんってつけてっと。
『キューーー!』
「そんなにこれが欲しかったの?どーぞ~召し上がれっ」
『…………キューーーー!』
嬉しそうに食べて~かわいいなぁ
「ナッシュくん、私たちも食べよっ」
「危険な魔物ではなさそうだ。そうしよう。どれから食べるんだ?魚か?」
「まずはソーセージだよ!じゃじゃん!これをつけてもいいし、つけなくても美味しいよっ」
塩もつけないで美味しい?
そんなバカな話あるもんか。
『パリッ!』
「うーん、この音と味、最高だよ~おいひ~」
なんだあの軽快な破裂音は。
肉を焼けば硬くなるのは当たり前だが、あんな音がするもんなのか?
それでいて美味しい、だと?
ええい、悩むな、行け!
『パリッ』
「…………う、まい。なんだ美味さは」
絶妙な塩味と柔らかさ。
そしてこの音。
何だこの肉は、肉なのか?
くそっ、美味いってことしか分からないぞ。
「やっぱり粒マスタードだよね~おいひ~!ナッシュくんもつけてみる?」
「それは……なんだ?」
もっと美味しいだと?
こんなに美味しいものが更にだと?
もう信じられん。
だが俺は料理人だ。
行かねばならん!
「そうそう、ちょんちょんってつけて食べてみてっ」
「…………う、美味すぎる!なんなんだこれは!」
「あーだめだめ!二度漬け禁止!ぶっぶー!」
「んなっ、もう、ダメなのか!」
「違うよ~かじったのをそのままディップしたらばっちいでしょ!街に行ったらスプーンとか買わないとだね」
まぁいい、そのままでも美味いからな。
まだまだあるが、次はステーキか?
「お肉の後にお肉じゃなんだかな~だから、次は鮎にしよっと!」
「匂いはとてもいい匂いだ、食べてもいいのか?」
「見ててね、こうやってガブっていくんだよっ」
ん~おいひ~
鮎の塩焼きは最高だね!
捌くの初めてって言ってたのに、ちゃんとできてるじゃん。
「かぶりといけばいいんだな」
「そーそー、美味しいからいっちゃって!」
「………………」
これが魚の味か。
濃厚な塩の味とマッチして美味すぎる。
ソーセージも美味すぎたが、この魚も勝るとも劣らない。
いや、味の種類が違うからな、甲乙つけがたい。
「美味いな……」
肉と違い圧倒的に食べやすい。
そしてあっさりしているのにこの旨味はなんだ。
塩のおかげなのか?
くっ、涙が、涙が溢れそうだ。
耐えろ、耐えるんだ。
人前で、それも女の前で泣くなど言語道断!
「美味しくてあっという間に1匹食べれちゃうねっ」
最後はステーキ~
お楽しみのステーキだよ~
このステーキソースをかけて食べるのか最高に美味しいんだからっ
「何匹でもこの魚は食べられそうだ。そのステーキはさらに美味しいのか?」
「ふふふ、このソースをかけたらもっと美味しくなるのよ!」
「もう信じるしかあるまい。早く食べさせてくれ!」
これでさらに驚かせちゃうんだから!
「もったいないけど、今日は仕方ないよね!何本でも買えるんだからケチケチせずにいっちゃおう!」
贅沢に滴るほどかけて~からの~
「んーーー!これこれ、おいし~」
やっぱりこのソースは最高のステーキソースだねっ!
「この香りは……なんだ、嗅いだことがないぞ」
「ほらほら~いいから食べちゃいなよ~」
嗅いだことはない。
だがまずいなんて絶対に思えない。
それほどの香りだ。
ソーセージと魚で程よく満たされた腹なのに、まだまだ食べれると言っているようだ。
怖い、食べたいのに怖い。
なんなんだこの感覚は。
いけ、いくんだ、食べるんだ────
「…………………………」
────泣いた。
「わぁ、やっぱり泣くほど美味しいんだねっこれが嫌いな人は絶対いないはずだもん~おいし~ペンちゃんも美味しいねっ」
噛めば噛むほどに広がる肉の味。
ソースの酸味がありさっぱりなのに濃厚な味わい。
それでいて繊細で濃縮された旨味が肉と絡み合う。
美味い。
美味すぎる。
美味すぎるのになぜだ。
なぜ俺はこんなにも敗北感を感じているんだ。
この消えない虚無感は────
「ソースと素材のおかげで、ただ焼くだけでこんなに美味しいんだもん。最高だよね~」
────そうか。
俺は料理なんて何もしていないのか。
ただ串に刺して焼いただけ。
塩を塗っただけ。
こんなの誰だってできる。
何ひとつ調理をしていないただの素材。
そしてひよりが購入したソース。
それだけで俺が作ってきた最高傑作の料理の味を何段階も飛ばしてくる。
腕によりをかけ、何度も研究し、美味い料理を作るために全力だったのに。
それなのに素材とソースに負けたんだ。
そりゃあ涙も出るってもんよ。
負けたぜひより。
だが今に見ていろ。
街について調理器具を購入した暁には、泣かす。
ひよりを絶対に、俺の料理で泣かしてやるんだ。
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銀髪幼女のスローライフ旅 ~お料理バンバン魔法バンバン~
滝川 海老郎
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銀髪で生まれた主人公レナは辺境の村で育った。そこで出会ったのがボーパル・バニーのレクスだった。
レクスは村でなかなか受け入れられず、レナは二人で村を出ることに。
レナの料理が好きなレクス。二人はご飯を食べながら進んでいく。
近くの町について冒険者を始めたレナに、フィオが加わった。
レナとフィオは色々あってレッサー・ワイバーン退治に参加、見事討伐する。
カレーもどきを振舞って、仲間内では有名になっていく。
でも、目標はのんびり生活できるスローライフを目指すこと。旅をして安住の地を探すのだ。
【完結】うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。
かの
ファンタジー
孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。
ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈
畑の隣にダンジョンが生えたので、農家兼ダンチューバーになることにした件について〜隠れ最強の元エリート、今日も野菜を育てながら配信中〜
グリゴリ
ファンタジー
木嶋蒼、35歳。表向きは田舎で農業を始めて1年目の、どこにでもいる素朴な農家だ。しかし実態は、内閣直轄の超エリート組織・ダンジョン対策庁において「特総(特別総括官)」という非公開の最高職を務める、日本最高峰の実力者である。その事実を知る者は内閣総理大臣を含む極少数のみ。家族でさえ、蒼が対策庁を早々に退庁したと信じて疑わない。
SSSランクのテイムスキルと攻撃スキル、SSランクの支援スキルと農業スキルを18歳時に鑑定され、誰もが「化け物」と称えたその実力を、蒼は今日も畑仕事に注ぎ込んでいる。農作物の品質は驚異的に高く、毎日の収穫が静かな喜びだ。少し抜けているところはあるが、それもご愛嬌——と思っていた矢先、農業開始から1年が経ったある朝、異変が起きた。
祖父母の旧宅に隣接する納屋の床に、漆黒に金の縁取りをしたゲートリングが突如出現したのだ。通常の探索者には認識すらできないそれは、蒼だけが見えるシークレットプライベートダンジョン——後に「蒼天の根」と呼ばれることになる、全100階層の特異空間だった。
恐る恐る潜ったダンジョンの第1層で、蒼は虹色に輝くベビースライム「ソル」と出会い、即座に従魔として契約。さらに探索を進める中でベビードラゴンの「ルナ」、神狼種のベビーシルバーウルフ「クロ」を仲間に加えていく。そしてダンジョン初潜入の最中、蒼の体内に「究極進化システム」が覚醒する。ダンジョン内の素材をエボリューションポイント・ショップポイント・現金へと変換し、自身や従魔、親しい者を際限なく強化・進化させるこのシステムは、ガチャ機能・ショップ機能・タスク機能まで備えた、あまりにもチートじみた代物だった。
蒼は決める。「せっかくだから配信もしよう」と。農家兼ダンチューバーという前代未聞のスタイルで探索者ライセンスを取得し、「農家のダンジョン攻略配信」を開始した彼の動画はじわじわと注目を集め始める。
そんな中、隣のダンジョンの取材にやってきたのが、C級探索者ライセンスを持つ美人記者兼ダンチューバー・藤宮詩織だった。国際探索者協会の超エリート一家に生まれながら自らの道を切り開いてきた彼女は、蒼の「農家なのになぜかとても強い」という矛盾に鋭い鑑定眼を向ける。
隠れ最強の農家配信者と、本質を見抜く美人記者。チート級の従魔たちが賑やかに囲む日常の中で、二人の距離は少しずつ縮まっていく。ダンジョン攻略・農業・配信・ガチャ・そして予期せぬ大事件——波乱と笑いと感動が交錯する、最強農家の新米配信者ライフが、今幕を開ける。