【完結】大人は恋で変われない〜35歳独身男。少女漫画で恋を学んだ結果〜

音無響一

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「やったやった、アイス!アイス!」

「洗濯物置いてから行こうか」

「そうしましょ!川村さんのおうちは何分くらいですか?」

「徒歩5分のところだよ」

「じゃあ私の家の方が近いかな?先に私の家でもいいですか?」

「もちろん構わないよ、そうしよう」

「ありがとうございます!こっちです!」


本当にアイスを食べに行く流れなのかこれは。
どうしたらいい。
もう逃げられないのか?
こんなとこ職場の人に見られたら終わりだ。


「も、桃香!」

「はい、どうしました?」

「えっとな、俺は大人だ。それも桃香よりも、ずっとだ」

「そうなんですか?20代後半とかですよね?」

「へ?いや、もう35だ」

「え、うそ」

「本当だ、桃香から見たらおじさんな部類になると思う」

「あー、なるほど、納得です。全然おじさんに見えませんよ!」

「な、何がだ?」

「いえいえ、こっちの話です!」

「だから、高校生の桃香と一緒にアイスとかお出かけはあんまり良くない……」

「ふふふ、だからかぁ。だからそんなに落ち着いているんですね。うんうん、いい感じ」

「き、聞いてる、か?何かあったら親御さんになんて説明すればいいんだ?」

「はい、聞いてます!アイス楽しみです~」


全然聞いてないなこれは……

これはもうどうしようもない。
ただアイスを買って食べるだけなんだ。
やましい事は何もない。
ただの近所の女の子と少し話した。
それだけのこと、そういうことだ。


「あ、ここが私の家です!」

「う、うん」

「洗濯物置いてくるから待っててくださいね」

「わかった、待ってるよ」


あぁ、なんて可愛い笑顔なんだろうか。
そうじゃないだろう。
何をしているんだ俺は。
付き合ってもいない女の子の家の前で待つなんて。
ご両親に会ったらなんて説明すればいいんだ。






それにしても遅いな。
何かあったんだろうか。
このまま来ないなら来ないでいいかもな。
安心……よりもガッカリしているのが嫌になる。


「お待たせしました!」

「おかえり」

「ただいまですっ!次は圭さんの家ですねっ」


ん?聞き間違い、ではないよな?
今、名前で呼ばれたような……


「言っちゃった、わー、恥ずかし……」


て、照れてらっしゃる……
確実に名前で呼ばれたなこれは。
ここは触れない方がいいかもしれない。
スルーだ、スルースキルを使うしかない。


「どこのコンビニいきますか?私のバ先にします?」

「そうだなあ、どこにしようか」

「あ、メッセージきてる、お母さんだ。どうしたんだろ────え?」


何かあったのか?
大事になってないならいいんだが。


「えっ、やだ、帰ってこいって。でも……」


不穏な雰囲気だな。
声をかけづらいぞ。

……なんでそんなに辛そうな顔に。


「圭さん、あの、帰らないと行けなくなりました……」

「え?」

「せっかく誘ってくれたのにすみません!私……帰ります!」

「ちょ、もも、え?」

「さようなら圭さん、また、バ先で待ってます!」


行ってしまった……
お母さんって言ってたな。
何かあったんだろうか。
助かったんだが、なんだろう。
ぽっかり穴が空いたみたいだ。

これでいい。
これで良かった、はずだ。

誰もいない隣を何度も見ながら俺は帰った。
やけにうるさい雨音を聞きながら。
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